殺人童貞坊や
総合ポイント100超えました!
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「カイト凄い! カッコイイ」
「はぁ⋯⋯。ほんとヒカリはカイトが好きだね」
ヒカリはレベル1の時からカイトを見ている為、その成長ぶりは明らかだった。慣れない剣捌きでスライムも戦っていた頃に比べ攻撃のスピードも違い、動きに緩急もついている。
エリーナはとても戦闘するような格好には見えず、相変わらず白くて綺麗な太ももが露出するドレスで戦っている。その仕草も妖艶な雰囲気を醸し出し、華麗な剣捌きを見せる。
「隠れても無駄よ? こちらから攻撃してもいいかしら」
エリーナの問いかけにも反応しない。そしてエリーナが動く瞬間――。
カマイタチの様な鋭い剣筋が首にフッと触れていき、真っ白な肌には似合わない、黒みのかかった赤い血が鎖骨まで伝っていく。
「あらあら。油断したわ。もう少し避けるのが遅かったら首ごと斬られていたわね」
「すげぇ。お師匠様が傷つくとこ初めて見た⋯⋯」
「エリーナさんどんだけ強いんだ!?」
数少ない観客が二人の戦いに見惚れていた。カイトの姿は誰にも見えなかった。エリーナにさえも――。
静観は続く。エリーナを焦らしているようにも見えるが⋯⋯
「ふふ⋯⋯。楽しいわ。初めての手合いはいつでも胸が躍るのよね。でもいつまでも遊んでいられないわ。後が待ちくたびれてしまうから⋯⋯こちらから行くわよ」
ゆら⋯⋯とエリーナが攻撃に転じようとした時――
――ブシュウウウウウ――
静かな森に勢いよく吹き出す、血の雨。エリーナの首をとらえ、動脈を切りつけた為その勢いは止まらない。
「キャアァァア」
「エ、エリーナさん!?」
ヒカリは顔を手で覆い、その残酷な姿から目を背ける。ネクロとシェイナは血飛沫をあげる様子に呆気を取られていた。
「え⋯⋯? エリーナさん⋯⋯。そんな」
エリーナの背後には姿を消し、短剣で首を切り裂き、血に染まったカイトの姿があった。
確かに殺す気でかかってこいとは言われたが、まさか本当に殺してしまうとは思わなかった。
殺人の経験など、もちろんないカイトは次第に恐ろしくなり涙目となる。口元からガクガクと震え、両膝をつき、カランと短剣を落とす。
誰もが予想しなかったその惨劇に場が静まり返る。そしてその直後に乾いた打撃音が森に木霊した。
「ぐはっ⋯⋯」
カイトは背後から強烈な一撃を喰らった。それは蹴りでもなく、斬撃でもなく、掌底で背中を思い切り突き出されたような感覚だった。
決して軽いとは言えないカイトが、弾丸のような速度で森にふきとばされた。
「あらぁ。ちょっと力入れすぎちゃったかしら?」
「エリーナさん!! 生きてた!?」
「あんな攻撃で死ぬわけないじゃない。増幅された幻影よ。敢えてあの一撃を掠らせたことで貴方達にそれを誇張させて、私が致命傷を負うような幻影を見せていたの」
「さすがお師匠さまー!」
「そんなことより、カイトは? カイトは大丈夫なの?」
勢いに任せて木の枝をへし折りながら、森の奥へと吹き飛ばされ、カイトはくの字に折れ曲がった状態で、大木の枝に引っかかっていた。
「流石にちょっと痛かったかしら。久しぶりに血を見たわ」
よく見ると首にあった傷はいつの間にか塞がれていた。切り傷すら見当たらず、最初から何事も無かったかのように白くて綺麗な首である。
ヒカリとシェイナはカイトのところへ走っていき、ぐったりしているカイトを降ろし、ヒーリングをかける。
意識を失いかけていたカイトだが、頭を左右に振り、フワフワした意識を戻していく。
「二人ともありがとう。助かったよ。まだ手が震えてる⋯⋯」
エリーナが無事だったとはいえ、カイトには人を殺した感覚がまだ残っていた。
ヒカリはカイトの手を両手で優しく包み込んだ。
「大丈夫! カイトは凄く優しいのよね。私もエリーナさんの姿を見た時ビックリして動けなかった⋯⋯。でもこれから色んな事に耐えなきゃいけない。強くなって乗り越えていこう」
「う⋯⋯うん。頼りないところばかり見せちゃってるけど、頑張ってみるよ」
「なんだか暑くなってきたなぁ。もう夏かぁ。暑すぎて火傷しちゃうね。あ、でも火属性だから慣れっこかー」
二人のイチャイチャムードに耐えられず、近くにいたシェイナは口を尖らせながら嫌味を垂らす。ハッとなった二人は顔を真っ赤にして、手を離した。
「と、とにかく戻ろう! まだ修行の途中だし」
「そ、そうだね! まだ戦えるよね。うん」
急いで三人は小屋の前へと戻り、エリーナはその間の時間、隻腕となったネクロと打ち合っていた。
ネクロも短剣を持ち、目にも止まらぬ速さで突きを連発しているが、エリーナを捉えることはできない。突きを捌かずに敢えて避け切っている。
短剣が空を切る音が凄まじい――
「あら、無事だったのね。私とした事が勢い余って殺してしまったのかと思ったわ。中々頑丈なのね。残念だけど、ネクロはまた今度ね」
あれほどの攻撃を全て避けながら、会話をする余裕。そして話し終えたと思うと、ネクロの攻撃をキン、と弾き、短剣がクルクルと宙を舞い地面に刺さる。
「ちぇっ。お師匠さまと久しぶりに稽古できると思ったのにー」
膨れっ面で小さな子供のように拗ねるネクロは、最近ずっと雑用ばかりで中々稽古をつけて貰えなかったのだという。
カイトが吹き飛ばされたのをいい事に、暇を弄んでいるエリーナに突然斬りかかったのだ。
「まだ、戦えます! もう一度お願いします」
頭を下げ、もう一度稽古をつけてほしいと頼む。エリーナは嘲笑うかのような笑みを向けた。
「もちろん、いいわよ。ただ、相手を殺す覚悟がない殺人童貞坊やには、負けるわけがないのだけれど」
「さ⋯⋯殺人童貞とはまた凄いネーミングだ」
「シェイナちゃん! どうていってどういう意味?」
「っ!! ヒカリはそんな事知らなくていいの!」
ヒカリの天然が炸裂して、たじたじするシェイナ。ヒカリの方が明らかにお姉さんだという野暮なことは言わないでおこう。
「そもそも短剣の使い方がなってないわ! ネクロもそうだけど、何故そんなリーチの短いもので戦おうとするの? 今は私が合わせて短剣だから良いのだけれど、相手が槍や剣だとしたら明らかに不利よね」
「まぁ⋯⋯確かにそうなんですが、短剣しか持っていないのと、職業的に無理なのかなぁって⋯⋯」
「相変わらず凡夫な発想ね。貴方絶対に物語の主人公とかになれないタイプだわ」
「はぁ⋯⋯。確かに主人公タイプではないと、自分でも思います」
「まぁそれはさておき、まず貴方のスナイプダガーの使い方も間違っているわ」
「え? そうなんですか? 相手の急所目掛けて最短で斬りかかるというイメージだったんですけど」
「お手本を見せてあげるわ」
そういうとエリーナはカイトと数m間合いをとり、短剣では確実に届かない距離であった。
「スナイプダガー」
エリーナが優しく呟くと、青白い短剣が手元を離れ、カイトの持っている短剣を弾き飛ばした。
そして、呆気に取られている隙にエリーナは距離を詰め、宙にまう短剣を回収しカイトの喉元へと突き付けた。
「す⋯⋯凄い⋯⋯」
「短剣は投げても使えるのよ。ましてや坊やのスキルは急所を目掛けるのではなく、自分で好きな物をターゲットにできるの。だから坊やの剣をスキルで弾いた⋯⋯分かるかしら?」
確かに、今までカイトはリーチの短い分、危険を犯してまで相手の懐にいかなければならなかった。
そしてエリーナは戦う中で、カイトの秘密に気づいていた⋯⋯。
「坊やのレベルが上がらない訳が何となく分かったわ⋯⋯。これも運命ね⋯⋯」
誰にも聞こえないような小声でそう呟いた。
エリーナとの修行は後に繋がる予定(?)ですので覚えておいてくださいね♫笑




