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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第一章 ヒカリと『闇』
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グランドマスターVSダークダガー

 木々の柔らかな香りを感じながら、小屋へと戻る一同。カイトは道中で先程の試練の内容を思い出そうとするが、上手くいかない。

 教会でヒカリに化けた魔女レイナと対峙した事は記憶にあるが、どうやって倒したのかは正直覚えていない。本当に強くなっているのかは、甚だ疑問であった。


(シェイナとヒカリのレベルは30近くまで上がっているのに、どうして僕だけレベル15なんだ⋯⋯?)


 それは明白な事実が突きつけられているほかなかった。シェイナとヒカリのレベルを見ると確実に上がっている。

 しかし、カイトのレベルは洞窟で上がったままでありパラメーターの変化も無かった。光属性の技を幾つか習得していたが、皆んなに置いていかれる焦りもある。


「ねぇねぇ。どうやったらこんなに胸おっきくなるのー?」


「ちょ、ちょっと! シェイナちゃんやめてよ。みんなのいる前で!」


「だってさぁ、不公平だよね! 同じ女に産まれたからには私だって胸が大きくなりたいもん」

 

 シェイナとヒカリは相変わらず胸が大きいだの、小さいだので盛り上がっていた。未来の姿を見て、ショックを受けたのだろうか、ヒカリの胸が羨ましいのかシェイナはやけに胸を気にしている。


「でもお姉ちゃんが大人になった時は、背は大きかったんでしょ? ならいいじゃない!」


 このままだと各々のコンプレックスの話しに、カイトはため息混じりで俯き、とぼとぼ歩いている。


「カイト? どうしたの?」


「うわぁ! いや、その、なんでもないよ」


 ヒカリは心配して、カイトの顔を覗き込む様に声を掛けるが、互いの顔が急接近したため咄嗟に照れた顔を背けた。


「何かあったらちゃんと話してね! 辛いことがあっても私はが受け止めてあげる」


 ヒカリがウインクする仕草を見て、カイトは余計に顔を赤くする。どこまでも優しくて、可愛いヒカリに救われる。

 記憶を無くし、自分が一体何者なのか分からない不安の中唯一の拠り所である。


「ありがとう。僕がほんとに強くなったのか不安で⋯⋯。レベルも上がってないみたいだし」


「そんなことないよ! カイトは強いし、とても頼りになるもん! 何より一緒にいるだけでも安心するの。だから心配しないで!」


「あらぁ、お熱いことで。お姉さんうらやましいわ」


「お師匠様はお姉さんではなく、おばさ⋯⋯」


「そういえば私最近、達磨が欲しかったのよねぇ。あら、ここに腕が一本失った子がいるわ。もう一本削ぎ落としてあげましょうか?」


「お師匠様冗談になってない!!」

 

 恐ろしい冗談が飛び出し、ネクロはこわいよぉ。お姉ちゃん助けてよぉ。と言わんばかりにブルブルと震えている。


「もう。今のはネクロちゃんがいけないのよ! 女の子は繊細なんだから」


 ちょっと天然なヒカリから繊細というワードが出たことに驚きつつ、シェイナとカイトはウンウンと頷いて話を合わせた。


「ごめんなさーい。お師匠様ゆるしてぇー」


「謝る気ゼロ!?」


 師弟の絆があってこそなのか、棒読みの謝罪にエリーナは、ハイハイと子供をあやす様に答えた。シェイナの突っ込みは森の木々によって吸い込まれていった。


 そうこうしている内に、元のいた古臭い小屋へと戻ってきた。

 早朝に出発したことと、全員の試練が予想より早くクリアされた為に時間はお昼を過ぎたあたり。まだ『闇』に包まれる時間ではなく、小屋の前にて修行の続きが再開される。


「さて、全員無事に戻ってこれて良かったわ。試練を突破したという事は、貴方達は苦手属性を克服したはずよ」

 

 小屋の外は踏み固められた土ぐらいで、足場もそこまで良くもない。そんな中エリーナは小屋の前にネクロを含めた4人を立たせて、話しを始める。


「確かに! 私は水属性の技を使えるようになったよ! 頭がおかしくなるかと思ったけどね」


「私は、一応闇属性の耐性がついたわ。闇対策魔法も覚えたし、ちょっとだけ闇の魔法も使えるようになったのよ」


 カイトはヒカリが闇属性の魔法を使えることにちょっぴり安心していた。カイトが闇属性だということも誤魔化せるし、何よりヒカリと同じ属性のスキルというのも嬉しかった。


「ぼ、僕も一応光と闇の攻撃スキルが使えるようになりました!」


「やっぱりカイトも光属性だったのね! 私と同じで良かった! うんうん」


 ヒカリは記憶の無くしたカイトに、あれこれ聞くことを遠慮している部分もあった。世界の事も覚えていないのに、カイトが何属性なのかを聞くことが失礼なんじゃないかと思っていた。

 

 そもそも戦闘に必要な知識でもあるのだから

、カイトの為にも属性を知るべきだったが、そのちょっとズレた天然さと純粋さこそがヒカリなのである。

 

「次は実戦をしながらの修行よ。主にレベルが強さに干渉するのだけれど、レベルを上げるにはどうすればいいと思う?」


「魔物を倒すことですか?」


「そうよ。魔物を倒すと経験値を貰えるのは知っているわね? 但しその名の通り、経験にならなければ強くならない仕組みなのよ」


「なるほど⋯⋯。強い魔物と戦わなきゃいけないんですね」


「そこが凡人の考え方ということね。普通の人は命懸けで魔物と戦い、経験値を得る。一人で戦うリスクが高いからパーティーを組んで挑む。そうするとリスクの割にレベルがそこまで上がらないの」


「ぼ⋯⋯凡人ですか」


「まあ確かにカイトは頭が良いようにも見えないもんな!」


「姉ちゃん⋯⋯それ全く説得力ない⋯⋯」


「なんだとぉ! どういう意味だーー!」


 ネクロとシェイナがポカポカと戯れ合っている内に話を進める。


「効率よくレベルを上げるには、それ相応の経験を積むことよ。それこそさっきの試練みたいに命懸けの場合は、その人にとっての経験になるということ」


「ふはい、おひひょうはまほ、はははえばいいんはー」


 シェイナにほっぺたをつねられながら、必死に話している姿が滑稽だ。(つまり、お師匠様と戦えばいいんだー!)と言っていたらしい。


「なるほど! エリーナさんに稽古をつけてもらえばいいのね」


(あ、ヒカリは聞き取れたんだ⋯⋯。こういう所はしっかりしているような)


「そういうこと。但し、並大抵の経験じゃ強くなれないから、本気でいくわよ。間違って殺してしまったらごめんなさい」


「えっと⋯⋯。はは⋯⋯」


「だからみんな、私を殺すつもりで闘いなさい」


「でも⋯⋯」


「貴方達の攻撃ぐらいで死ぬことはあり得ないから平気よ。それより自分の心配をしなさい」


 カイトは苦笑いで答える。きっといつもの冗談だろうと思うが、やはり笑えない。


「じゃあ、せっかくだから坊やから鍛えてあげるわ。早くしないと日も暮れてしまうから。さぁ、構えなさい」


 カイトを残し、ヒカリ、シェイナ、ネクロの三人は巻き添えをくらわないように離れて見ることにした。


 カイトは左手で腰から短剣を抜き、戦闘体制をとる。鋭い短剣の剣先はエリーナの胸に向いている。

 エリーナも左手で剣を持つ仕草をすると、何もない手から先に青白いオーラを纏い始め、みるみる内に短剣の形へと作り上げていく。


「こんなものかしら? 私はあまり短剣は得意じゃないのだけれど」


「凄い⋯⋯。エリーナさんの魔力だけで短剣を創り出しているなんて」


「さすがグランドマスター⋯⋯。実際に戦ってるのを見るのは初めてだ」


 その人間離れした技をだけでも、充分に強いことが伺える。グランドマスターの名は伊達じゃない。


「さぁ、いつでもかかってきなさい」


「じゃあ⋯⋯行きます! てりゃあ!!」


 カイトはエリーナに短剣が届く距離まで詰めていき、気の抜けた掛け声でエリーナの腕目掛けて右から左へと薙ぎ払う。


――キィン――


 甲高い金属音と、僅かな火花が散りカイトの剣は、容易く受け止められていた。

 短剣の良さは一撃で相手を倒すことではない。手数を多くして相手にダメージを蓄積させることだ。


 カイトはそれを理解した上で、エリーナが受け止めた力をそのまま利用し第二撃、三撃と連続で斬りつけるが、見事に全て受け止められている。


「弱いわ。剣筋も丸見え。武器を払う力もない。それなら頭を使いなさい」


「ぐっ⋯⋯」


 鍔迫り合いをしているところに、ふっと力が抜け、カイトがバランスを崩したところに蹴りが炸裂した。

 その勢いで数m吹き飛ばされて、受け身も取れず倒れ込む。しかしダメージは少なく、すぐに立ち上がった――その瞬間にカイトが消えた。


「!!」


「スナイプダガー!」




――――カキィィン――――




 先程よりも激しい金属音が森に響いた。カイトのスピードが一撃目から明らかに上がっていたことに加え、気配を消すスキルを発動させていた。

 その為、エリーナにはカイトが目の前から一瞬で消えたように思えた。

 しかし、首元目掛けて放ったスナイプダガーは青白いオーラを纏う短剣にしっかりと遮られていた。


「いいわねぇ。そういうことよ。貴方の持てる最大限の力でかかってきなさい」


 一度バックステップし、短剣を構え直す。距離を置いて作戦を頭の中で張り巡らせるが、良い方法も思いつかない。

 余裕のエリーナは攻めてくることはせず、短剣をクルクルと回している。


 スーッ⋯⋯


 再びカイトは気配を消した。次は気配を消してから飛び込むのではなく、機を伺っていた。

 場は静まり返り、緊張した空気が張り込める。

 次の瞬間――


――キィン、キィン、キキキキキキキキィィィィイイン――


 大量の斬撃が、衝撃波となり木の間より放たれた。その数は、30は超えている。様々な角度で放たれたその斬撃は、一歩も動かず凄まじい剣捌きで弾かれていく。


「さぁ、坊やはどうでるかしら? 並大抵の攻撃は効かないわよ」


 

 不気味なほど静かな森は、返事をくれなかった。

 

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