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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第一章 ヒカリと『闇』
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火と水とシェイナ

 白い部屋での戦闘が開始された。拳がぶつかり合い、二人のシェイナはくるっと宙返りして、再び間合いを取る。


 たら⋯⋯と一粒の冷や汗が頬をつたう。最初の一撃で相手との力量差は歴然。腕相撲をする時の最初の一瞬で勝てない、と悟る感覚に似ている。まさに絶望的な状況である。


 ただし、この部屋での敗北は現実世界のシェイナの死亡を意味する。絶対に負ける訳にはいかない。


「掌底波!!」


 掌にパワーを溜めて、拳大の強力な衝撃波に変えて相手に放つ技であり、シェイナが今までで一番多く放ってきた技だ。

 そして気を扱う武闘家にとっては精神が技の精度を左右する。


「舐めないでよ! そんな初歩的な技で!」


 大人シェイナは、左手で軽々しく弾いてしまう。弾かれた衝撃波は壁のない空間の彼方へと飛ばされていく。


「同じ技でも、レベルの差を教えてあげる! 掌底波!!」


 溜めが必要なシェイナに比べて、大人シェイナはほぼ、ノーモーションで衝撃波を放つ。 その大きさも、スピードも、威力も比較にならず、シェイナの顔程の衝撃波が放たれる。


「うわっ! ぐうぅぅう⋯⋯! はあっ!!」


 両手で何とか防ぎ、その威力を受け止めるより、ボールを弾く様な感覚で直撃を避けることに成功するが、同じ技とは思えない程の衝撃である。


「貴方の成長した姿なんだから当たり前でしょ? せっかくだから、未来の技を盗んでいったらいいよ! 生きては帰れないだろうけどさ」


「でも過去の私が死んだら、貴方も死ぬんじゃないの?」


「残念だけど、この世界の『闇』はもっと深いさ。私が此処にいる苦しみも知らないくせに」


「なら、此処をさっさと抜け出して世界の『闇』ごとぶっ壊してやる!」


 シェイナは構え、拳を振り下ろし、全身の力を溜めている。周りの熱を奪い取り、オーラの熱へと変換する。


「はあぁぁぁあ!!!」


 オーラが最大限に溜まり、爆発音と共に、シェイナは赤く光り輝く。黄色の瞳は緋色になり、オレンジの髪は赤く染め上げる。


「これならどうだあぁぁあ!」


 急にシェイナが目の前から消える。すると、一瞬で大人シェイナまで距離を詰め、下から渾身のアッパーカットを繰り出す。拳の風圧で少しでも掠めれば一発KOできるほどの威力だ。


 しかし、大人シェイナは既にそこにはいなかった。拳の風圧で、地面が果てしなく抉れている。

 

「いいねぇ! 強くなってるよ!」


 今のシェイナの全力である速度と威力をもってしても、あっさりと交わされてしまう。大人シェイナはすぐ後ろに立ち、小馬鹿にするように話しかける。


「でやぁ!!」


 すぐさま、後ろに立つ大人シェイナに裏拳を繰り出すが、軽々しく右手で拳を受け止めた。息切れしているシェイナと、汗一つかいていない大人シェイナ。

 まるで子供を遇らうかのように余裕があり、受けた拳をパッと離すと、シェイナは距離を取って素早く構える。


「貴方の使える技ということは、もちろん私も使えるわけ! スピードも技も力も劣る私に負ける訳がないのよ!」


「一体⋯⋯どうすれば」


「さあ、そろそろ本気で行くよ!」


 大人シェイナが両腕で円を描きながら構え、手を合わせて、腕を引き、波動の構えを取る。

 

「火龍翔炎波!!」


 手を突き出し、溜めた力を一気に解放する。離れた衝撃波は炎を纏い、まるで龍の形に見える。火の粉を撒き散らし、龍を模した口が開き、シェイナを丸ごと飲み込んでいく。


「うわあぁぁぁ!!」


 咄嗟に両手でガードするが、それを無視するかのように全身に炎の龍が喰らいつく。衝撃によるダメージと、全身を焼き尽くす様な熱で、シェイナの細胞を一つ一つ剥がす様に包み込む。

 

 勝てる道理がない。自分の成長した姿。レベルも経験値も違いすぎる⋯⋯。シェイナは再び絶望へと叩き落とされる。

 そして火龍は吠える様にシェイナを巻き込み、遥か上空へと昇っていく。花火の様に衝撃は弾け飛び、ボロボロになったシェイナが地面へと叩きつけられた。


「⋯⋯⋯⋯うぐっ⋯⋯負けられないのに。死にたくないのに」


 焦げた匂いに死が近づくことを覚悟する中、さらさらと柔らかい音が耳を掠める。うつ伏せに倒れたまま、音のする方へと首をやると――


「す、砂の落ちるスピードが⋯⋯早い⋯⋯?」


 大人シェイナと対峙した時には丸一日くらい猶予があると感じるほど、ゆっくり落ちる砂が今ではさらさらと流れていき、半分ほど落ちてしまっていた。

 

「あの攻撃で生きてるなんて流石私だね! そう。その砂時計は君の命をあらわすのだからダメージを受ければ、落ちるのが早いのは当然だろ?」


 当たり前の様に告げる大人シェイナに怒りすら覚えるが、身体が思うように動かない。体力も精神も底をつき、勝てる道筋が見えない。


「これでようやく外の世界に出れる⋯⋯。全てはこの世界が悪い。許せない! ここに閉じ込めたアイツも⋯⋯」


「私を⋯⋯閉じ込めた⋯⋯?」


「あぁ。あの憎たらしい魔女さ。絶対に許さない。ここから出られたら、アイツだけは必ず倒すと決めたんだ」


 大人シェイナは悔しそうに拳を握る。きっと理解できない程の苦しみと絶望を味わされたのだと⋯⋯。


「ごめんよ。だからここで死んでくれ」


 うつ伏せのシェイナにトドメを刺す為に、再び気を練り始める。再び腕は弧を描き、オーラが増幅していく。


「くっ⋯⋯そおぉぉぉ!」


 シェイナは何とか避ける為に、身体を起こすが四つん這いになるのが精一杯だった。

 怒りと自分の弱さという悔しさに涙を流し、拳を地面へと叩きつけた。






⋯⋯ピチャっ⋯⋯





「これで最後だ! 火龍翔炎波ぁー!!」


 一撃目より巨大な龍となりシェイナを襲う。その火は全てを焼き尽くし、灰へと変える。その衝撃は全てを砕き、抗う気力も打ち砕く。

 




――シュウゥゥゥゥ――




 火龍が通った後は、黒い焦げ跡が残っていた。白い部屋の地平線の向こうまで、ずっと黒いレールが敷かれていた。

 シェイナのいた所からは煙が立ち込み、やがて少しずつ煙が晴れていく。


「ふぅ⋯⋯。ごめんよ。許してくれ! 私にもやらなきゃいけないことがあるんだ」










「嫌だ⋯⋯」








 煙の中から声が聞こえる。聞こえるはずのない声が。そして晴れた煙には()()()()()()()()()()シェイナが、しっかりと構えを取って立っていた。









「あの一撃で耐えられるわけがない! どういうこと!?」


「私は気づいたの! 自分の可能性に! そして賭けに勝った。大人の私に勝つにはコレしかない」


「今のはマグレよ! もう一撃喰らえば君は確実に死ぬ」


「やってみれば分かるさ! はあぁぁぁあ!!!」


 シェイナは思い切り踏み出し、大人シェイナとの距離を一瞬にして詰める。そして下から抉りこむようなアッパーを打ち上げる。


「さっきも見たわ! 何の意味があるの?」


 大人シェイナはまた後ろへと回り込み、先程と同じように、余裕を見せつける。


「そこだあぁぁぁあ!」


 シェイナはきっと同じ攻撃を繰り出し、舐めてかかってくると見越していた。だからこそ、すかさず一度目と同じ様に裏拳を叩き込んだ。


「ぐわあぁぁあっ⋯⋯!!」


 受け止められると思っていた拳は、大人シェイナの意思に反して右拳を破壊していた。

 

「な、なんで!? どうして!!」


「良かった⋯⋯。やっぱり習得できてなかったんだ」


「私は火属性なの。水にはとても弱い。だからこそ滝に打たれて、精神も体力も瀕死の状態だった」


「だ⋯⋯だったら何よ!」


「さっき絶望に打ちひしがれて、拳を叩きつけた時、涙が溢れたと思ってた。でも涙にしてはあまりにも冷たくて、もしかしたらと思って私は賭けに出た」


「ま⋯⋯まさか⋯⋯!?」


「そう! 私は水属性のスキルも使える様になったの」


 シェイナは火龍翔炎波を喰らう直前に、水のオーラで身体を覆い、凌ぐ事に成功した。そして水の力には癒しの力もあり、少しずつ体力を回復させていった。


「そ、それぐらいで私が負けるわけないじゃない!」


「ありがとう⋯⋯。私を強くしてくれて。必ず貴方の、いや、私の仇をとってあげるわ」


 シェイナは両腕で弧を描き、手を合わせて引き、波動の構えをとる。

 徐々に身体の青いオーラは両手に集まり、力が増幅していく。


 大人シェイナも同時に弧を描き、片手にオーラを増幅させていく。




「火龍翔炎波!!!」


「水龍翔蓮波!!!」


 




 赤と青の巨大な龍は二人のシェイナの間でぶつかり合う。万全の状態であれば、火龍の方が力も強く、飲み込む程の力があったが、右手が使えない状態であることと、さすがに3撃目ともなると威力が半減していた。


「くっ⋯⋯くそっ! くそおぉぉぉお!」


 均衡だった力が、徐々に水龍に押し負ける。


「これで⋯⋯。最後だあぁぁぁぁぁあ!」


 火龍を全て水龍が飲み込み、大人シェイナごと包み込んでいく。水龍は力の制御を失ったかの様に暴れ回り、シェイナを叩きつける。

 

 最後は滝登りするかの様に遥か上空へと舞い上がり、消えていった⋯⋯。



「勝った⋯⋯⋯⋯」


 ドサっとその場に仰向けで倒れてシェイナは意識を失った。


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