聖なる十字架
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再び、暗い教会へと戻ってきた。時間にすると数分だが、カイトは地獄の様な時間を何日も何日も体感しているのである。
レイナの誘惑効果は絶大であり、感情の増幅にも効果があった。正常な状態であれば、幻想と現実の区別も容易につき、ダメージを受けることもないが、カイトの精神はすり減っていき、無限にも思われる時間にも終わりがやってくる。
「あ⋯⋯、う⋯⋯」
目は虚で、上を向いたまま、声にならない声を出し、自分の力で立つこともできない。
そこへゆっくりとレイナが歩いてきて、カイトの腑抜けた横っ面に強烈な蹴りをいれる。
まるでお手玉の様に吹っ飛ばされて、教会の壁に叩きつけられた。受け身を取ることすらできず、全身の骨が悲鳴を上げて砕け散ったのが分かった。
「ゴフッ!」
口からは闇に染まっている様な赤い血が大量に吐き出され、蝕まれた精神は痛みを忘れ、寧ろ気持ちよくすらある。
「アハハハハ! 無様ね、最高よ! 一番大好きな人が目の前で、他の男とイチャつく様はどう? 感度も最高にしといてあげたから、貴方にとっては忘れられないショーになったわね」
レイナは甲高い笑い声と共に、悪魔の笑みで語りかける。カイトの首には殺してほしい、死にたいと懇願するように掻き毟った後がある。
「そろそろ、飽きたから良いかしら。私から最後の命令よ。腰に付けてる短剣で自分の首を突き刺しなさい」
命令されると、震える手で短剣を鞘から抜き、両手で自分の首へと刃先を持ち直す。
言われるがままに、カイトは自分の首を思い切り突き刺した――
――キィィン――
自分の命を絶つには申し分ない威力で、短剣を首へと突き刺したが、短剣と首の間には見えない何かによって阻まれていた。
「何をしているの!? 洗脳が足りないのなら、また洗脳するまでよ! チャームウィング!」
レイナは再び無数の羽をカイトに向かって放つが、弾かれてしまう。良く見ると、薄い光がカイトを包む様に守っている。
チャームウィングが当たれば当たるほど、カイトを纏う光が強くなっていく。
「何故!? 何故当たらないの?」
カイトは短剣を落とし、包んでいる光は直視できない程眩い光を放つ。カイトの意識は虚なまま、フワッと宙へ浮き、背中には金の翼が生えている。
「貴方絶対に許さないわ! よくもカイトにあんなデタラメで恥ずかしいもの見せてくれたわね!」
どこからともなく声が聞こえる。いつもは優しいその声には、明らかに怒りの感情が混じっていた。
「許さないのはコッチだ! さっきから邪魔して、私の楽しみを奪いやがって! この世界もろとも死ねえぇ! ダークネスマインド!!」
薄暗い教会ごと、形が歪んでゆく。空間全てが闇に飲み込まれ、上下左右の感覚が徐々に失われる。
「命乞いするなら今のうちよ! 泣いて、喚いて、許しを乞うなら考えてあげるわ」
闇の中でレイナの声だけが木霊する。
(カイト⋯⋯聞いて。貴方が見ていたのは全て幻想よ。私、いつも迷惑をかけてばかりでごめんなさい)
「⋯⋯⋯⋯」
優しく語りかけるが、カイトはその声に反応出来ない程、心を消耗し切っていた。
三つ編みではないヒカリがカイトの前に現れ、今にも泣き出しそうな顔で手を握る。
(いつも私のせいで⋯⋯。ごめんね。でも少しだけ時間を貰ってきたから。カイトの温もりを感じられて良かった。今度はちゃんとお話ししようね)
「天使の施し」
「こ⋯⋯この力は!? 天使の施しを使える者等、この世界には存在しない!!」
「さあ、私のカイトを返して貰うわ。そして大切なカイトを傷つけて、あんな恥ずかしい姿を見せつけた罰はちゃんと受けてね!」
カイトに憑依していたヒカリの黄金の羽が開くと、漆黒の闇が消滅し、元の教会へと景色が戻る。カイトは天使の施しを受け、僅かではあるが意識が回復していく。
「私の闇が⋯⋯。消えた? そんな事あるわけが⋯⋯」
「咎人となる闇の住人よ、裁きの光を受けよ! ホーリージャッジメント!!」
レイナを光の輪が拘束し、突如現れた、聖なる十字架へと磔になる。
「くそっ⋯⋯! なんだ!? 身体が動かない」
――ドシュッ――
「ぎゃあぁぁぁあ」
聖なる光の矢がレイナの腕を貫通する。人間の様な赤い血ではなく、濃い緑色の血が流れ、ジュウウウゥと浄化される様な音を立て、血が蒸発していく。
「カイトの気持ちが少しは分かったかしら? 身動きも取れず、一方的に痛めつけられて、どれだけ辛かったことか⋯⋯」
――ドシュッ! ドシュッ!――
「グギイィィイイ⋯⋯もう、やめてくれ」
聖なる矢はレイナの足も貫通し、十字架の形に磔られる。叫びも、命乞いも虚しく、次々とレイナの身体を貫通していく。
――ドシュッ⋯⋯ドシュッ⋯⋯ドシュッ! ドシュッドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――
薄暗い大聖堂には緑色に染まる聖なる十字架だけが、残されていた。
(カイト! 優しい貴方が大好き。でもお願いだからこれ以上傷つけないで⋯⋯。そして思い出して! この世界は貴方の⋯⋯)
天使の施しを受けたカイトは薄い青色の光に包まれ、全身の傷が癒えていく。
精神も体力も少しずつ回復し、意識も戻るだろう。三つ編みが解けたヒカリはカイトを心配しつつも、優しくキスをしてゆっくりと消えていった。
「はっ! ここは!?」
「カイト!! 気付いたのね! 良かったぁ」
意識が突然浮上し、目の前には腰までの大きな三つ編みをしたヒカリが目の前にいた。
そこは、大聖堂でも教会でもなく、洞窟の祭壇にいた。
「レイナは!? レイナはどこに?」
「兄ちゃん、レイナって魔女のレイナかい?」
「そうだ! 教会でレイナに襲われて⋯⋯」
「あらぁ、それは予想外だわ。レイナにね⋯⋯」
試練を用意したエリーナにすら予想だにしなかったらしい。ならば一体レイナはどうやって試練の場にいたのだろうか。それは誰にも分からない。
「とにかくカイトが無事で良かったわ! 私が試練から戻ってきて、数時間経っても戻らないから心配したの」
「ヒカリは無事に試練を!?」
「あ、うん⋯⋯。私は何とかクリアしたみたい」
あまり嬉しそうではないヒカリが気にはなるが、とりあえず無事に試練を超えたようでカイトは安心した。
「とにかく二人とも無事乗り越えたみたいねぇ。あとはあの武闘家ちゃんだけね。 残念だわ⋯⋯」
エリーナは聞こえないようにボソッと呟くと、ヒカリとカイトは二人で顔を合わせ⋯⋯。
「シェイナ!」
「シェイナちゃん!」
と息を合わせ、積もる話は後にして、シェイナの様子を見に急いで洞窟を後にする事にした。
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