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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第一章 ヒカリと『闇』
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ヒカリと影

 目の前が真っ暗になったかと思えば、ハッと急に目が覚めたかの様に意識が覚醒する。

 同時に眩い光がカイトを刺激し、少しずつ視界がクリアになっていく。


 ――ゴーン、ゴーン、ゴーン――


 するといきなり大きな鐘の音が響き渡る。心地よい響きに、ふと上を見上げると大きな吹き抜けになっており、素敵なステンドグラスが一面に飾ってある。

 ステンドグラスには陽の光が当たり、幻想的な色を創り出している。


 大聖堂という表現が近いだろうか、高い天井に大空間。ステンドグラスに届くかのように伸びているパイプオルガン。正面には階段を登ったところに祭壇が置いてある。


(落ち着け⋯⋯さっきまで僕は一体何を⋯⋯)


 ここ数日で記憶を無くし、意識までも失いカイトはパニック状態に陥っていた。何が正しい情報で、どこが本当の世界なのか。


 頭を抱え、下を見ると御大層なレッドカーペットまで敷かれている。ずっと見ていると、目の感覚が狂ってしまいそうな真紅のレッドカーペットに白の革靴とスーツが似合う。


(ん⋯⋯? 白のスーツ?)


 気づけば、カイトは白のタキシードに身を包まれていた。腰につけている短剣や、大剣もない。


 すると、突然パイプオルガンの演奏が始まった。小さな椅子には、背中に小さな羽の生えた天使が座って演奏をしている。


――ゴーン、ゴーン⋯⋯


 鐘の音も止み、大きな空間にはパイプオルガンの神秘的な音だけが無作為に聞こえてくる。


「それでは、新婦のご入場です」



――ギイィィィ――


 カイトは後ろを振り向くと、3mほどもある木製の豪華な扉がゆっくりと開く。溢れんばかりの光が差し込み、扉が全て解放された時には、フロア全体が真っ白な光に包まれた。


「ヒカリ⋯⋯?」


 目の前には純白のウェディングドレスに包まれたヒカリがいる。白い肌に、白いヴェール、特徴的な大きな三つ編み。

 カイトは目を奪われるほどの美しさで言葉を失う。


 長いウェディングドレスの裾を二人の小さな天使が持ち上げている。

 ヴェールで表情が読み取れないが、ゆっくりとカイトの方へと近づく。


「良かった⋯⋯。間に合ったんだね! さすが私の王子様!」


 カイトの側でニコッとした笑顔は、どこか切なくもあり、嬉しそうでもあった。大きな三つ編みはどこ行ってたのよ! 心配したんだから。といわんばかりに動いている気がした。


「じゃあ行きましょう」


「う⋯⋯うん」


 カイトと腕を組み、ヒカリの柔らかくて綺麗な肌、優しい香り、ほのかな温もり、大きな胸、その一つ一つがカイトの細胞を刺激する。

 二人を祝福するかのように、レッドカーペットの周りに色とりどりの綺麗な花が咲き乱れる。


 そして二人はゆっくりと祭壇へと登っていくと、さっき見回した時にはいなかったはずの神父が立っていた。


「新郎カイト、あなたはここにいる新婦ヒカリを健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」


 いきなりの展開に戸惑うカイトはヒカリの方をチラッと見ると、ヒカリはゆっくりと頷いた。カイトの頭の中は軽い混乱状態であり、雰囲気に流され答える。


「はい⋯⋯誓います」

 

「新婦ヒカリ、あなたはここにいる新郎カイトを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」


「はい! 誓います」


 ヒカリは迷うことなく、返答する。青い瞳は強く輝き、組んでいる腕がギュッと力が入っていた。ずっとこの時を望んでいたかのように。


「それでは誓いのキスを⋯⋯」


 二人は向かい合うと、カイトの心拍数は急激に上がり、緊張で少し手が震えながらヒカリのヴェールをめくる。

 一枚の薄いヴェールを取り除くと、白くて柔らかそうな肌。吸い込まれそうな青い瞳、女性なら誰でも憧れる愛おしい唇。


 そしてカイトがヒカリと唇を重ねようとした瞬間――



「カイト! お願いだから目を覚まして」


 再び時が止まり、カイトはどこから声がしたのか、辺りを見回した。

 目の前のヒカリは、キスをされるのを待っていて、目を閉じたままである。よく見ると神父も瞬き一つせず、カイト以外の時が止まっているようだった。


「カイト! 私の声が聞こえる?」


 どうやら上の方から声が聞こえてくる。上を見上げると、腰の長さまである綺麗な髪をなびかせながら、青い瞳の女性がふわふわと降りてきた。


「え? ヒカリ⋯⋯なのか?」


「また貴方に会える日が来るなんて⋯⋯話したい事がいっぱいあるけど、今は時間がないの」


「僕には何がなんだかさっぱり分からないよ。一体何が起きているんだ?」


「そこにいる私はニセモノよ。この世界も偽りの世界。ここでキスをしてしまったら、カイトは永遠にこの世界から抜け出せないの」


「そう⋯⋯なのか?僕は何を信じればいいんだ⋯⋯。君もヒカリによく似ているけど、君の方がニセモノなんじゃないのか?」


 目の前の女性をヒカリと信じる事ができない理由がひとつだけある。




 ()()()()()()()()()()


 青い瞳も、柔らかそうな白い肌も、唇も、声も全てヒカリそのものであったが、一番魅力的で大切だとも言えるそれがないのだ。


「今の私は何も言えないの⋯⋯。お願い! 信じて!カイト⋯⋯私は、あなたの⋯⋯」


 女性は一粒の大きな涙を溢した。その涙が、カイトの手に落ちた。暖かく、冷たい、悲しい涙⋯⋯。



――ピキッ――


 世界にヒビが入った。カイトに微かに聞こえる様に音を立てて。その亀裂はやがて大きくなりガラスの様に一つ一つ崩れてゆく。


「な⋯⋯なんだ?目の前の景色が⋯⋯」


「カイト⋯⋯。必ず貴方を助ける。だからいつか本当に私を⋯⋯」


 そういって目の前の女性はすぅーっと消えていった。そして時は再び動き始める。世界の崩壊は更に激しさを増し、大聖堂だと思われていた場所が薄暗い教会へと変化する。


 天井のステンドグラスは無くなり、薄暗い闇と微かな月明かりが見える。

 神父は骸となり、目の前のヒカリは艶美な悪魔と変貌を遂げた。

 

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