二人の試練
カイト達は不本意ながらも、シェイナを残して、エリーナに別な場所へと案内され、ネクロも後ろからひょこひょことついてくる。
先程の滝から少し離れた場所だが、誰も立ち入ることのなさそうな道であり、木も生い茂りツルやツタなどが増えてきた。
進めば進むほど薄気味悪い。そんな中、淡い黄色に白の水玉模様の入った花が咲き乱れている。
「わぁ。見てみてカイト! こんなところにお花が咲いてるわよ!」
ヒカリが小走りで近づき手を伸ばした瞬間――
「キシャアアァァア」
綺麗な黄色の花がパックリ二つに割れ、鋭利な歯を剥き出しにしてヒカリの腕に向かって噛み付いてきた。
ガキィン!
ヒカリの白い肌に噛みつく寸前のところで、カイトの短剣がそれを防ぐ。そして力任せにこじ開け、僅かな瞬間を見逃さず、短剣で真っ二つに切り裂いた。
「いきなり近づいちゃ危ないよ! とはいえ、ケガがなくて良かった」
「えへへ⋯⋯ごめんね。 助けてくれてありがと! さすがカイトだね」
そんなちょっとお調子者のヒカリも可愛く、カイトは顔を赤くして目を逸らしつつも微かな喜びを感じていた。
「ほんとに貴方達は仲が良いわね。その仲を引き裂いてあげたいくらいだわ」
「お師匠様こわーい。嫉妬ってやつですか?」
「ふふっ。貴方も試練に誘ってあげましょうか?」
「うう⋯⋯ご、ごめんなさい」
カイト達の恐怖心を煽るようなやり取りがあった後、更に奥へと進んでいく。
そして薄気味悪い場所を、木の枝やツルを掻き分けて入っていくと、そこにはポツンと洞窟があった。
暗闇の洞窟とは違い、見た目もシンプルで洞窟というよりは洞穴という方が近い。
「さあ、着いたわ。中は暗いから少し照らしてあげましょう」
エリーナは洞穴に入る前に、魔法を唱えると以前ヒカリ達を助けた時よりも、少し小さい光の玉が現れる。そのまま導くように洞穴の中へふわふわと入っていった。
「早く試練終わらせて、シェイナちゃんを助けに行きましょう!」
「うん! 絶対に強くなってみせる!」
「あれ程までの光景を見て、物怖じしないのね。頼もしいわ」
カイト達は光の玉の後ろを歩いていく。洞穴の中は人が二人すれ違うのがやっと、という大きさである。
そのまま光の玉に連れられ、しばらく歩くと小さな祭壇みたいなものが見えてきた。
祭壇の上を光がゆらゆらとしている。どうやらここで試練とやらを行うらしい。
「今度は誰が試練の番ですか?」
「貴方達二人とも同時に行うわ」
「えっ!?」
ヒカリが驚くのも無理はない。シェイナの試練を見た後では、一人ずつ行うのが通例かと思われた。しかし、二人は少し安心したのか緊張が解けたようにほっと吐息を漏らす。
「安心するにはまだ早すぎるわ。貴方達の方がもしかしたら辛いかもしれないのだから」
「大丈夫よ! 私はカイトと一緒に強くなって戻ってくるんだから」
「まあいいわ。それじゃ二人とも向かい合わせで、その祭壇の前に立ってくれるかしら」
カイトとヒカリは小さな祭壇の前で向かい合わせで立つ。⋯⋯が、二人はどこか照れ臭くて少し離れた距離で立つ。
「そんなんじゃダメよ。もっと近くで! 二人で互いの手を取り合って」
二人は向かい合いながら手を取り合った。気の弱いカイトの心臓は張り裂けそうになっていた。顔を上げるとすぐそこには、吸い込まれそうな青色の瞳、真っ白い肌、柔らかそうな唇がある。
目を合わせるとニコっと笑う純粋な笑顔のヒカリが果てしなく可愛い。
「カイトの手あたたかい⋯⋯。あ、ごめん。シェイナちゃんが大変な時に⋯⋯」
「ヒカリの手も柔らかくてあたたかい。なんか
凄く落ち着くよ。ヒカリが近くにいると不思議と安心するんだ」
「あーあ。お師匠様ぁ。二人の世界に入っちゃってますよぉ」
「いいのよ。これからの試練には必要なことでもあるし、ネクロはもう嫌というほど⋯⋯分かっているでしょ?」
ネクロは頭の後ろに手を組んで、何やら呆れ気味に答える。エリーナはネクロの過去を知っているためか、それ以上深くは話さなかった。
「二人の世界に入ってるところ悪いけど、これから試練に入るためには、熱いキスを交わすことが条件なのよ。さぁ」
「えっ!? キス⋯⋯!?」
カイトがふとヒカリの顔を見ると、ヒカリの顔が耳まで一気に赤く染まっている。カイトも焦りを隠せない。
「カイト⋯⋯。でも試練を受ける為には必要なら⋯⋯」
「ほら、早くしないと時間もなくなっちゃうわよ?」
「わ、分かった! 何があっても二人で必ず無事に戻ってこよう。ヒカリの事を信じてるよ」
「私も! 戻ってきたらまたお話ししましょう! まだまだ色んな所へ行って、旅もしたいなぁ。信じてるよカイト」
二人が試練から無事に戻ってくることを誓い、お互い初めてのキスなのか緊張しながらも目を閉じて、唇を重ねようとそっと顔を近づける。
「闇と光の裁きを求め、この世にとどまる者よ。今、全ての偽りの真意を求めよ」
唇が重なろうとするその瞬間に、二人の時が止まる。そして、そのまま眩い光によって意識を奪われていった。
「ほーんと。お師匠様⋯⋯いじわる」




