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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第一章 ヒカリと『闇』
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二人のシェイナ

 シェイナの精神も体力も限界だった。意識を飛ばされ、魂の叫びとは相反してまた呼び戻される。 

 意識が戻ると無数の嫌悪感がシェイナを襲う。害虫が身体の中をひたすら撫でていく。その見た目、肌触り、匂い、全てにおいて受け付けない。

 

(タスケ⋯⋯テ。もう死んじゃう。殺して、殺して、コロシテ。魂ごとグシャってシテ。優しくしないで)


 口を開けば内臓まで嫌悪感に侵されてしまう。口を閉じていてもシェイナの心臓、否、魂を優しく愛撫するかのように、水の粒子がシェイナを抱擁する。

 永遠にも感じられる時間は、シェイナの心を高揚させ、精神を浮上させる。


(フワフワしていて、凄く気持ちいい⋯⋯。これが死ぬって事なのかな。私の人生短かったなぁ。もっと恋愛とかもしたかったし、美味しいご飯も食べたかった)


 シェイナは極限の状態に晒されて、今までの事が走馬灯の様に蘇り、自分の人生が大したことのないものだと悔やんでいた。

 そして精神と心の高揚が最高潮に達したとき、目の前は真っ暗になった――――






――――白い部屋にいた。天井もない、壁もない。あるのは無造作に置かれた大きな砂時計。

ピンクや青、淡い黄色等の様々な砂が、無数にさらさらと流れている。


「ん⋯⋯こ、ここは?」


 シェイナはうつ伏せに倒れている身体を起こした。周りを見渡しても、どこまでも真っ白な水平線。匂いも、風も、先程までの嫌悪感も全て感じない。

 ただ一つ、さらさらと流れる砂時計の音だけが聞こえている。


「やっと目覚めたか。チビッ子」


 突然の声に振り向くとそこには、オレンジ色のショートヘアー。手甲をつけて、スラリと背の高い女性が、腰に腕を当てて立っていた。


「え⋯⋯? 私、なの?」


「まあ、そうだな! 君から見ると未来の自分ってことになるかな」


「そっかぁ⋯⋯。私の胸はそこまで大きくならないのね」


「おい! そこはもっと違う感想あるだろ! やっぱり美人に成長したんだ! とか、背が伸びて良かったとか」


「だって⋯⋯ヒカリの胸はおっきいんだもん」


「なるほど。やっぱりソコに行き着くんだな」


 ガッカリという感じのシェイナに、大人シェイナは色々突っ込みたいところを抑え、どこか納得したような表情をしていた。


「貴方に何が分かるのよ!」


「分かるさっ! 君は私なんだから。未来の姿を先に見せてしまった事は申し訳なかった。納得いかない未来ならば、自分の手で変えてくれ」


「それで、何故未来の私がここに⋯⋯?」


「薄々感じてるだろ? 試練さ! 君を強くする為の。物理的でもあるし、精神を強くする意味合いもある」


「試練⋯⋯。私が強くなる為の⋯⋯」


「聞きたい事もあるだろうが、時間が限られている」


 大人シェイナは砂時計を指差した。虹色の様に輝く砂が、ゆっくりと下へと落ちている。

 その速度を見るからに、一日以上は持つのではないだろうかと思う。


「あの砂時計は、君の『命』を表している。じゃあ砂時計の砂が、落ち切ってしまった時、私がどうなるのかは分からない。難しいことは好きじゃないんだ」


「私の命があの砂時計⋯⋯」


「そう。君の精神状態が極限に達して、HPもMPもほぼゼロの状態によってこの世界に送り込まれたわけ」


「どうすれば試練をクリアしたことになるの?」


「簡単さ!! 私を倒せばいいのさ。君の完全体ともいえる未来の君を」


「⋯⋯⋯⋯!?」


 純粋にシェイナはそんな事が可能なのかと考えてしまった。目の前にいる自分は、話しを全て信じるとすれば自分が成長した姿。レベルも能力も全て上である事は間違いない。


「今、勝てるのか? って思ったでしょ。無理だよ! 今の君に負ける理由がないもん」


「そんなのっ! やってみなきゃ分からない」


「随分必死だね。やっぱりヒカリにカイトが取られるのが気にいらないんだね!」


「なっ⋯⋯」


「分かるよ? 私だもん。しかも大人になった⋯⋯ね。今の貴方には分からないかもしれないけど、此処は()()()()()()()()()しょうがないの。運命には逆らえないの!」


 正直、シェイナがカイトを好きかどうかなんて、考えてもなかった。ただ、ヒカリとカイトの姿を見ていて羨ましいし、心の中になんかモヤモヤするものがあった。


「とにかく! 私は強くなってカイト達の所へ戻るんだ」


「そうはさせないわ。君を倒せば私は私という存在が外へと解放される。ついに、運命から逃れられるチャンスなのだから」


「「はあぁぁぁっ!」」


 互いに構え、突進していく。そして砂時計の前で、ガントレットを付けた二人のシェイナの拳がぶつかった――


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