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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第一章 ヒカリと『闇』
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三つ編みは触れない

 三つ編みの女の子は不思議そうに首を傾げ、尋ねる。


 この世界について分からないことが多く、意識の外側からいきなり声をかけられたものでさらに頭の中の情報量が追いつかない。


「いや、あの⋯⋯実は僕にも何が何だか分からないんです。ここは一体どこなのでしょうか?」


「ここはね、出会いと別れの丘っていうのよ。綺麗なところでしょう?前はもっと美しく、鳥さんやお魚さん達もいっぱいいたの。海だって透き通ったようにキレイで⋯⋯」


 そう言うと三つ編みの女の子は俯き悲しそうな表情で海を見つめていた。

 良く見るとかわいらしい女の子である。身長はカイトより少し低いくらいで、左右キレイに編み込まれている三つ編みがとても印象的だ。


 海を見つめている瞳は澄んだ青色をしていて、白いローブに金の刺繍、大きな三つ編みに負けない可愛さと白い肌がより清楚な感じを出していた。

 


「何も思い出せないんです⋯⋯覚えているのは名前だけ。何故ここにいるのか、何が目的なのか。何者なのか自分でもわからないんです」


「君の名前は?」


「僕はカイトって言います。貴方の名前は?」


「私の名前はヒカリって言うの。そんなに気を使わなくてもいいよ?」


「ありがとう。正直どうしていいか分からないから助かるよ」


 かわいらしい見た目に優しそうな声。見知らぬ世界、記憶がない中でカイトは、初めてとは思えない様な安心感が芽生えた。


「この国バダイモーゼはもっと平和な世界だった。海の真ん中に闇の柱が見えるでしょ?あそこから魔物が産まれ、世界を絶望に陥れているの」


「正直僕にはいきなり何のことか分からないけど、腰についている短剣と大剣はそういうことなのか⋯⋯」


「ねぇ?カイトは救世主?」


 急な質問でカイトは戸惑ってしまった。自分が何者なのかも良く分からない上に救世主など考えられる訳もない。

 仮に救世主だとしても記憶をなくしても強さが無くなるわけではないだろう。もはやパラメーターに自分の強さが示されているので即答で違うと思える自信だけはあった。


「僕が救世主? そんなんじゃないよ。僕をみてよ。いかにも鈍臭そうで何もできなそうじゃないか」


「そうかなぁ⋯⋯私は毎日この出会いと別れの丘に来てるの。朝起きたら実は闇の柱とかも夢で実は何もなかったんじゃないかって」


「でも夢じゃなかった。毎日海の景色を妨げる闇があるの。でもそんな中、貴方が急に現れたの。これって奇跡じゃない?」


 振り向くと長くて存在感のある綺麗な三つ編みが揺れ、整った顔立ちに嬉しいような、悲しい表情でカイトを見つめた。


「正直僕には何ができるか分からない。でもとりあえず記憶を取り戻すためには歩き出さなきゃいけない」


「私、カイトの記憶を取り戻す手伝いをしてもいい⋯⋯?」


 急な申し出で少し戸惑いと安堵が混ざった様な感情に襲われる。しかし、こんな可愛らしい女の子を巻き添えにするわけにもいかない。


「えっと⋯⋯それはとても助かるんだけどお母さんや、お父さんが心配するんじゃないか?」


 咄嗟にでた言葉は月並みの心配をする安いものだったことをすぐに後悔した。


「私の両親はもうすでにいないのよ。私はずっと一人で過ごしているの。この三つ編みは昔からお母さんが髪の毛を編むのが好きで毎朝可愛くしてくれて⋯⋯」


「あっ、ごめん⋯⋯」


 カイトは自分のことを恥じた。己の不安のみを押し付けて、相手のことも考えずに話してしまったこと。不安のような胸のもやもやは解けたと同時に情け無さを感じた。


「いいの! 気にしないで。もう昔の話。今は前を向いて生きていこうって決めているわ。だからお願い! カイトの記憶を一緒に取り戻したいの」


 どこまでも明るい笑顔に救われた。前向きで、自分も不安なのにそれを出さずに⋯⋯


「分かった。でもどうして? いきなり剣を持って突然現れた記憶喪失の怪しい男の手伝いなんて⋯⋯」



「さっきも言ったでしょ! カイトがこの世界の救世主のような気がしてるの。それになんだかカイトを見ているとどこか放っておけない気がするの」


「そっかぁ⋯⋯。今の僕にとっては理由はどうあれ嬉しい限りだよ。ヒカリも悪い人には見えなそうだし」


「もちろんよ! 悪いことなんて産まれてこの方したことは⋯⋯ないんだから!」


 少し言葉に詰まりながらもえへんと胸を張ったヒカリに笑みが溢れる。


 カイトはヒカリの触れない綺麗な三つ編みを見ていた。どこか不思議で、見ていると吸い込まれる様な綺麗な三つ編みである。



 こうして記憶喪失の青年と三つ編みの少女(?)との旅が始まった。




 二人が出会ってはいけないことを知らずに



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