帰り道
山道の帰りは何処か静かだった。主であるドラゴンが舞い降りた為魔物が怯えて隠れてしまったのだろうか。
ヒカリとシェイナの表情も暗く、登って来た時ほどの元気はない。魔力や体力が相変わらず吸われ続けているのも要因の一つだが、そうではない。
「ネクロちゃん⋯⋯ごめんね⋯⋯」
先頭を歩いてたネクロにヒカリが謝るとネクロは振り向くこともなく
「もう大丈夫だってば! それにほら、片腕を失っても強いキャラって何かカッコいいじゃん!」
強がっているのか本気なのかは表情が見えない為読み取れないが、ネクロはいつも通りちょっぴり生意気なトーンで返してきた。
「ただし! 今回お姉ちゃん達が力不足なのも事実だからお師匠様にたっぷりお仕置きしてもらってね」
「うん! もちろんよ! 私達のせいで傷付く人を見るのはもう耐えられないもの⋯⋯」
「そうだな! 絶対強くなってみせる! そしてさいきょうのひっさつわざを編み出すのだー」
シェイナはなにやら必殺技を欲している。目をキラキラさせているその姿は小さな子供にしか見えなかった。
そして今回のドラゴンに関しては生半可な強さでは太刀打ち出来なかっただろう。逆に中途半端に強くなっていたらネクロではなく、シェイナやヒカリがやられていただろう。
「お師匠様の修行がどれだけキツいか知らないからそんなこと言えるんだー」
「やっぱりエリーナさんはめちゃくちゃ強いのか?」
「そりゃもう! 僕なんか相手にならないよ! そんな僕の方がお姉ちゃん達より強いんだから⋯⋯わかるでしょ?」
「ネクロちゃんが相手にならないのなら本当に私達じゃ凄い力の差があるのね⋯⋯」
「お師匠様はあらゆる武器、魔法、スキルを使うことが出来るんだ。だから単体でも最強なんだよね」
「なるほど⋯⋯国一つ滅ぼすわけだ。私の読んだ文献ではグランドマスターの名前が何人か載っていたな。道化師のファッツ、最強の騎士リューゼ、漆黒の魔女レイナ‥他にも何人かいたけど忘れた」
「昨日も言おうと思ってたんだけどシェイナちゃん本とか読むんだね!」
「それはどういう意味かな? ヒカリさん」
ヒカリはシェイナを揶揄うつもりではなく、本心で言っていた。純粋過ぎる故の天然というものだろうか。三つ編みも悪気なくぴょこぴょこと動いているのを見てシェイナはため息をついた。
「一応私も本くらいは読むよ! もしかしたらお宝の話が出てくるかもしれないし!!」
「武闘家のお姉ちゃんはトレジャーハンターにでも転職した方がいいんじゃない?」
「トレジャーハンター!? そんな職業あるの?」
ヒカリが目をキラキラさせながらネクロを見つめる
「ヒカリ⋯⋯貴方は少しは人を疑うということを覚えなよ⋯⋯」
なぁんだ無いのかとヒカリはガッカリ‥と三つ編みと一緒にうな垂れた。ネクロはそのやり取りにクスッと笑った。
「お姉ちゃん達面白いね。僕もお姉ちゃん達と一緒に旅に出れたらいいのになぁ」
「ネクロちゃんも一緒に来る?強いし頼りになるし、お料理は上手だしシェイナちゃんも歓迎よ」
「え?私ついて行くなんて一言も⋯⋯昨日洞窟から抜け出すのに必死だっただけで」
「そうなの!? 私シェイナちゃんとも味方になると心強いと思って⋯⋯ごめんなさい」
「あ、いや⋯⋯でも特に目的もないし、ヒカリ達が良ければ一緒についていっても⋯⋯」
「ホント!? 良かったぁ! これからもよろしくねシェイナちゃん」
まるで計ったかの様な一連の流れにシェイナ
は呆れ気味だが、今まで一人で旅していたシェイナにとっては嬉しいことであった。
「それでネクロはどうなんだ?」
「僕も一緒に行きたいけど、やっぱり僕はお師匠様から離れられないや」
「あのボロ小屋で一生過ごすのか? まだ若いんだしこれからが楽しい時だよ?」
「でも僕はお師匠様に拾われて、育てられ、強くしてもらった。お師匠様は僕が勝手に弟子入りしたと言うけど、弟子はとらないし僕の為にそう言ってくれてるんだ」
「そうだったの⋯⋯エリーナさんは優しい人なのね」
「うん! でもあのボロ小屋に来たのはつい3日前のことだよ。僕達もあちこち旅はしてるんだ」
「え? ほんとに最近じゃないかやっぱり『闇』のことか?」
なんとあの古めかしい小屋に来たのはつい最近とのこと。それにしてはやけに生活感もあった様な気がしていたがそれにしても偶然が重なり過ぎているようにシェイナは感じていた。
「そうみたい。闇の力が強くなってきたから様子を見に行くからとアークディノ王国から海を渡ってきたのさ」
「アークディノ王国⋯⋯一度でいいから行ってみたいわ! 自然に溢れて海の綺麗な国なんでしょう?」
「確かに綺麗だけど、人間って欲深い生き物だから⋯⋯」
ネクロは何か言いかけたが首を横に振り、なんでもないよと誤魔化している。そうこう話しているうちに山の麓まで降りてきた。
日の沈み方からするともう夕暮れだ。あと少しで『闇』がやってくる。
「そうだな。世界は『闇』によって変わっちゃったな。人間も⋯⋯」
シェイナまで何やら意味深なことを呟いている。
「カイトの意識が戻ったら、カイトの記憶を探す為に色んな所へ行くわ! その時に私達の目で確かめてみる」
ヒカリは小さく頷き、早くカイトの元へと戻り、一緒に旅の続きをしたいと思った。カイトとは出会って間もないが不思議とヒカリの中に抑えられない気持ちがある。
しかし、それは本人にも気づかないようなものなのかもしれない。
「さて、花も無事ゲットしたことだし帰りはアレで帰りますか」
「げっ! やっぱりアレやるの?」
「時間がないからしょうがないけど‥シェイナちゃんお手柔らかにね」
と優しくしてねと言わんばかりのヒカリであった。流石に乗り物酔い改めシェイナ酔をしてしまうのを少し躊躇った。
それでもヒカリはカイトを少しでも早く目覚めさせる為に魔法を唱えた。
「フェムト!!」
シェイナが青白い光に包まれてゆく。スピードアップ重視の強化である。
そして来た時と同じようにヒョイっとヒカリとネクロを抱える。
「じゃあいっくよー! クイックステップ!!」
来た道を戻ったのかどうか分からないくらいのスピードで元の小屋へと驚異的なスピードで走っていった。
夕暮れのモンスターハリケーンの再来であった。
こうして三人はカイトの意識を戻す為、モルテプローヴァの山に残像を残し戻っていった。
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