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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第一章 ヒカリと『闇』
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花の代償

今回は若干グロい描写があります

 三人は辺りを見回すが誰もいない。確かに声が聞こえたのだが‥すると空気の薄い山頂に突然風が吹き荒れる。

 強風で目を開けることも出来ず、風に吹かれ飛んでくる石つぶてが地味に痛い⋯⋯。


「くっ⋯⋯一体なんだ?」


「何か凄い力がこっちに向かってくるよ!」


「シェイナちゃん、ネクロちゃん大丈夫?」


 あまりの強風で三つ編みも荒ぶる様に動いている。風の力が段々強くなってくるのと同時にバサァッ、バサァッと羽音が聞こえてくる。


「私の花にサワルナ。愚かな人間共よ」


 山頂より更に上からその山の色には似つかない深紅のドラゴンが舞い降りてきた。その巨体からは計り知れないオーラがあり、以前戦ったゴーレムより遥かに大きい。


「ド、ドラゴン!? 噂には聞いた事があるけどまさかこんな所にいるなんて」


 ネクロが珍しく驚いている。相手の強さが分かるネクロは怯えるようにも見えた。


「お願いドラゴンさん。一つでもいいからこの花を分けて欲しいの⋯⋯」


 その言葉にドラゴンは怒りを露わにして大地を揺るがす程の咆哮で答える


「できぬ!! オマエラ人間の頼みなどお断りだ。勝手に山を荒らし、この様な姿にしたのはオマエラ人間だ!」


「私達がしてきたことでドラゴンさんに迷惑をかけてしまってごめんなさい。でもその花がないと私の大切な人の意識が戻らないんです‥」


 しゅんとしたヒカリと三つ編みはそれでも諦めることが出来なかった。この花がなければカイトの意識を戻す事ができない。


「ここでカイトが目覚めなかったら一生⋯⋯」


「ヒカリ!? どうしたの? 大丈夫か?」


 いきなりヒカリは膝から崩れ落ち、手で顔を覆う様にして泣いてしまった。

 シェイナには確かにカイトが目覚めなかったら悲しいが、正直カイトと出会った日数的にはヒカリもシェイナもほとんど変わりはない。


 何故こんなにもカイトを想い、何故こんなに悲しい顔をして、何故泣いているのだろうか。何故何故何故⋯⋯


「他の人間がした事は関係ないだろ! 少しくらい分けてくれてもいいだろ!」


 シェイナは悲しむヒカリの姿を見て居た堪れなくなったのか、ドラゴンに突っかかる。


「このフラウノハナは私の子供達の餌なのだ。魔力を少しずつ溜め込み、子供タチへと渡すのだ」


「フラウの花!? カイトがくれた指輪も⋯⋯きっと人間達がドラゴンさんの所から取ってきたのね。ごめんなさい! 私達が子供達のご飯を取ってしまって」


 ヒカリは涙目のままゆっくりと立ち上がり、またドラゴンにペコっと謝る。三つ編みもつられてお辞儀するが元気がない。


「ニンゲンヨ。お前達は他のニンゲンとは違うみたいダナ。いつもならば話す間もなく攻撃されていたトコロダ」


「分かってくれたのか! じゃあ花を⋯⋯」


「ズニノルナ! お前達にこの花を渡す条件がある」


「もしかしてお前と戦って勝てとでも言うのか?そりゃ無理だね。僕達には不利すぎる」


 ネクロは自分の強さをもってしても足元にも及ばないことは分かっていた。ならばと先に真正面からの戦いを避けるべくして吐いた言葉だった。


「ナニ……そうムズカシイことではナイ。ただ子供達に与える魔力をこの花のかわりになるようモラエレバいい」


「私達の⋯⋯」


「魔力?」


「魔力をあげるっていってもどうすればいいんだい? 吸い取る能力でもあるのかな?」


 恐らく戦えば全滅必至の場面から逃れられて安心したネクロはいつもの調子でドラゴンをからかってみせた。


「ナルホド。お前達の中では魔力が一番多いのはオマエだな。ではオマエからいただくとしよう」


 深紅のドラゴンは淡々と話しを進め、どうやら三人の中で魔力が圧倒的に多いネクロを選んだ。


  ーその瞬間全員の背筋が凍りついたー



 ドラゴンは恐怖の笑みを浮かべ、少しだけ羽ばたきをする仕草を見せた。そしてネクロの横をヒュッと風が通り抜け――⋯⋯



 






 ブチッ










 ネクロの右腕がその筋肉の繊維ごと無造作に捻じ切られた。一瞬の出来事でネクロは理解するまでに時間がかかった。

 あるはずのものが、いやそこにあって当たり前のものが無くなっているのだ。肩から先は形を失い筋肉が剥き出しとなり、血が吹き出している。



「ギャアアァァァア」



 理解が追いついた時には脳が焼けつく様な痛みがあり、悲鳴を上げることしかできない。


「ネクロ!!」


「キャアア!!」


 腕を無くし、のたうちまわるネクロを見て二人は驚愕した。そして恐怖した。あのネクロでさえ腕を奪われるまで何も出来なかったのだから。


「オカシナ生き物だ……。()()()()()で痛みを感じるのか」


「ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング!」


 ヒカリがネクロに回復魔法をかけるが体力は回復しても欠損部分は元には戻らない。


「ぐっ⋯⋯この⋯⋯」


 回復魔法で止血もされたが、右腕を失ったネクロは動揺を隠せない。だが、一番強いネクロがこの状態では今戦いを挑んでも返り討ちにあうだけである。

 ネクロはお師匠様から「どんな状況でも冷静であれ」と教えられた。今がその時である。


 ネクロは怒り、痛み、恐怖、混ざり合う負の感情を全て抑え込み考え、ドラゴンに告げた。


「でも⋯⋯これで花はくれるんだよね?」


「モチロンダ。本来であれば身体ごと貰うつもりだったが、まあいいだろう」


「この借りは必ず返すよ。今の僕じゃないかもしれないけど⋯⋯お前は必ず『闇』に落とす」


「フフフ⋯⋯楽しみにしてイルゾ」


 ドラゴンは大きく羽ばたいてまた空へと姿を消すとその後にはフラウの花が一輪だけ置いてあった。その他の花はドラゴンが子供達へと運んだのだろうか‥


「ネクロちゃん⋯⋯大丈夫、じゃないよね」


 右腕を失ったネクロを見てヒカリはまた自分の無力さで人を傷つけてしまったと落ち込む。


「まぁ⋯⋯正直不便だけど、死んだわけじゃないし平気さ!」


 ネクロは右腕だけで済んで良かったと言わんばかりに明るく振る舞っている。ヒカリやシェイナも幾ら強いとはいえ、自分達よりも年下であろうネクロに気を遣わせてしまっているのが嫌だった。


「私が頼りないばかりにごめんなさい⋯⋯」


「お姉ちゃん達の実力を知っててついてきたのは僕だし、お姉ちゃん達が殺されたら僕もお師匠様に殺されてしまう。これで済んだなら本当にラッキーさ」


「私の知らない強敵ばかりだな。もっと鍛えなくちゃ」


 今回の件で自分達の力不足を痛感した二人は更なる強さを手に入れる為、エリーナへと修行をお願いすることになる。

 

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