山頂の花
ネクロは次々と敵を倒していく。一応ネクロにもフェムトをかけてあるものの、それでは到底説明出来ないような力量の差が確かにあった。
ロックタイガーや、やはり岩の皮膚で身体が覆われており防御力が高そうなアルマジロック。小型恐竜のラプトルなど様々な敵が出現するが、ネクロは物怖じせずに突き進んでいく。
「あははっ! もっと手応えのあるやつ出ておいでよー」
ネクロから戦闘狂の匂いを感じる。もともと発言からSっ気があったネクロであるが、戦闘となるとより一層激しくなる。
ネクロの戦闘スタイルはカイトに似て短剣を用いている。短剣というよりはナイフの方が表現が近いだろうか。但し両手に持っているナイフは小さいネクロにピッタリの武器であった。
素早い身のこなしから軽々とナイフで切り裂いていく。敵の攻撃もナイフをクロスさせて受け止めたり、弾いたりなどいとも簡単にやってのける。
「スキルを使うまでもないね!」
魔物もあらゆる攻撃や魔法を駆使してくるがネクロには一向に当たる気配がない。
ラプトルとロックタイガーが同時に出現したときは、ロックタイガーの体当たりの力を利用してその小さなナイフで真っ二つにし、それと同時にラプトルが口から火球を吐き出し周りを灼熱で覆いながらネクロへと襲いかかる。
その勢いですら、振り向き様にナイフをヒュッとふるだけで掻き消してしまう程であった。
そしてそのままナイフを投げつけて見事心臓を突き刺しラプトルを仕留める。
「ふぅー。疲れた疲れた。そろそろ交代しない?」
ネクロは汗一つかいていないが、手で顔を煽ぎながら疲れた仕草をしている。
「随分と勝手だな! それにほとんど一撃で仕留めてたじゃないか」
「ほら、お散歩する時にいちいちスライムを振り払うのも疲れるでしょ?」
「でもネクロちゃんにかなり助けて貰ったから私達も頑張らないとだよ? あともう少しで頂上に着きそうだし」
ネクロのおかげでパーティー御一行はあと少しで山頂というところまで来ている。
まだお昼といったところで、このままのペースでいけば帰り道を合わせても『闇』が来る前に帰ることができる。
残りの道は先頭をシェイナに戻し、元の戦闘隊形で登っていく。山頂に近づくにつれ気温も下がり所々岩が白くなっているのが分かる。
魔力も山のふもとに比べて奪われる量が多くなった気がする。シェイナとヒカリは息切れをおこし、山を登ることもしんどくなってきた。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯結構辛いな」
「シェイナちゃん⋯⋯もう少しで山頂だから頑張ろう」
「あまり敵が強くないのに適性レベルが高いのはこの魔力を奪われることもあるのかな?」
決してヒカリ達にとっては弱い敵ではなかったが、ネクロとしては適性レベルにしては敵が弱く感じていた。
感覚的には1分間にMPが1ずつ吸われ、シェイナのMPだと一時間持つかどうかである。途中で手に入れたマジックポーションなどを口にしながら山頂を目指すが、早く山頂に行き目的を達成しなければ危険だ。
「ぷはぁ! 薬草はめちゃくちゃマズイけどマジックポーションの味は格別なんだよなぁ」
薬草の使い方は様々で、ちょっと苦いが飲めば体力やHPの回復に役立ち、傷口に塗れば出血を止めたり痛みを止める即効性も高い。
マジックポーションはお洒落な小瓶に真っ赤な液体が入っていて、エナジードリンクの様な味が近い。
「ヒカリは飲まなくていいのか?」
「うん! 私は大丈夫! カイトがくれたこの指輪があるから」
ヒカリは嬉しそうに指輪を見ている。カイトが買ってくれた指輪が少しずつヒカリのMPを回復してくれている。吸い取られる量より回復する量の方が若干多いため、シェイナよりは枯渇する心配が少ない。
「へぇ! お姉ちゃん達らぶらぶなんだね」
「ち、違うよ! これは道具屋でたまたま見つけて魔力も少しずつ回復するっていうからカイトが買ってくれたの!」
「もういいじゃん! ヒカリはカイトの事が好きなんだよねー」
「シェイナちゃんまで!! もう早く行きましょ!」
「ヒカリ待って! 先に行ったら危ないよー」
顔を真っ赤にしたヒカリは先にスタスタと歩いて行ってしまった。
「ヒーラーのお姉ちゃん素直じゃないね」
「まぁカイトが元に戻ったら分かるさ」
ヒカリの後を追いかけながらシェイナとネクロがひそひそと話している。そうこうしているうちに山頂へとやって来た。
「ふぅー。やっと着いたね!」
「さぁサクッとお花取って帰ろう!」
山頂は意外と殺風景であり、山道を登り切ったところで平たい丘みたいになっている。
相変わらずほとんど岩で構成されていて、真ん中にある大きな岩の周りに花が幾つか咲いている。魔力を吸い取っているからかキラキラとした風が花へと入り込む。
そして三人が花を取ろうと岩に近づいたその時どこからか声が聞こえた。
「その花に触るな!!」
「そのフラウの花はダレニモワタサナイ」