二人の強さ
モルテプローヴァの山はこの小屋からもそこまで遠くはなくアージェルイス王国でも立入禁止区域となっている。
各国に一つはバツ印の付いた場所が存在し、そこには強い魔物が出ることや瘴気によって最悪死に至ることもある。
「モルテプローヴァの山⋯⋯おばあちゃんに昔から行ってはいけない場所って言われていたわ」
「貴方はヒーラーでそちらのお嬢様は武闘家なのね。まあパーティーとしては悪くないわね」
「え? 見ただけで私が武闘家って分かるのか?」
「私には何でも分かるわ。貴方達のステータスですら一瞬で読み取れるの。そもそも貴方の格好からしても武闘家って分かるじゃない」
確かにシェイナは両手に派手な手甲をつけ、あまり大きくない胸も邪魔にならないようにプロテクターがついている。これで武闘家じゃないと言われても説得力がない。
「でも流石にレベルは分かってもステータスまでは分からないでしょ! そんな人この世に存在しないよ」
通常自分でステータスは見れるが他人から覗かれることなんてありはしない。それこそステータスがバレたら戦争に繰り出されたり、能力が無いものは奴隷として扱われたりする為貴重な個人情報みたいなものだ。
するとエリーナはシェイナを見つめ呟き始めた。
:シェイナ「レベル23」
ちから 32
すばやさ 58
体力 70
HP 120
MP 87
「かしらね。火属性で槍や剣を持つ相手が苦手ということで宜しいかしら?」
「凄い! ほとんど当たってる⋯⋯。でもどうして?」
「長く生きてると分かってしまうのよ。筋肉の付き方や、貴方自身が気づいていない身体を纏うオーラの流れ、魔力の流れ方一つ一つが貴方を表しているの」
戦闘能力だけでなく経験値も圧倒的に違うと思い知らされた。寧ろそんな芸当は出来る人の方が稀なのだが‥
「次はそちらのヒーラーちゃんね。今のご時世ヒーラーという存在は貴重になりつつあるから精々死なないでね」
「私はカイトの意識を戻す為にこんな所で死ねないわ!」
エリーナはからかい半分のつもりが今のヒカリには通用しない。優しく自責の念が強い為ヒカリはグッと白い拳を握って誓う。
:ヒカリ「レベル20」
ちから 18
すばやさ 35
体力 30
魔力 58
HP 67
MP 130
エリーナはヒカリのステータスを特に興味も無さそうに読み上げていく。その強さ故に弱い者には興味すら湧いてこないのだろうか。
「なぁーんだ。お姉さん達弱っちいんだね」
ネクロも二人に興味を無くしたかの様に取ってきたキノコを器用な手先でトントンと切っている。
「ちなみにお師匠様のレベルはねぇ⋯⋯」
「ネクロ!!」
エリーナはいきなり声を荒げてネクロに怒号を浴びせた。先程まで悠々と話していた姿からは想像もできず、ネクロもビクッとなり思わず包丁を落としてしまった。
二人もその姿に呆気を取られ、エリーナへの恐怖が心の奥底に根付いた。
「失礼。取り乱しましたわ。いくらどんなに弱い相手でもレベルを知られる事はしてはいけないのよ。だから私のレベルは見る事はできないのよ」
確かに目を凝らせば相手のレベルを見ることが出来るのに不思議とエリーナのレベルは見ることは出来なかった。
ちなみにネクロのレベルも見ることができない。
「残念だけど、もちろんレベルを見れない様に対策済みなの。まぁ、よっぽど強い敵が現れた時でないと意味がないわ。だからと言って教える理由はないのだけれど」
「私達は弱っちくて相手にもならねぇってことか‥」
「カイトを助ける為に私強くなりたい! エリーナさん! 強くなる方法を教えて下さい」
ヒカリは立ち上がってペコっとお辞儀をしてエリーナにお願いした。三つ編みも跳ねるようにピョコっと動きヒカリの真剣さとは反して何やら可愛らしい動きになっていた。
「残念だけど今の貴方達には興味が湧かないわ。けれどもしモルテプローヴァに行って戻ってこれたら、そちらの坊やも合わせて鍛えてあげてもいいわよ」
「でもそれじゃ⋯⋯」
ヒカリはモルテプローヴァから戻りカイトを助ける為に強くなりたい。しかし、エリーナは戻ってからではないと教えてはくれないというジレンマにもどかしさを感じる。
「ちなみにモルテプローヴァの適性レベルは50よ。そこの頂上には魔力を吸いつづける花があるの。それを薬にすればきっとこの坊やは目がさめるわ」
「それだけ強いならしないで一緒に来てくれよ!エリーナがいれば心強いしさ」
「馬鹿ねぇ。私は運命に従うの。もしあの山に行って無事に戻れる強運の持ち主であればその運命に従うだけ。それに私は貴方達をこうして一度助けてるじゃない」
「うっ⋯⋯」
確かに一度助けて貰った挙げ句、カイトを治す方法を教えてもらい、強いからそこまで来てくれというのは何とも図々しい話である。
「分かりました! 必ずその山に行って戻ってきます! そしたら私達に強くなる方法を教えて下さい」
ヒカリはまたペコっと頭を下げた。また可愛らしく大きな三つ編みもまたピョコっと動く。
シェイナも是非お願いしますと頭を下げた。
「これも運命なのね。まああの坊やを見た時から感じていたのだけれど⋯⋯。いいわ! 貴女の王子様を目覚めさせる為にネクロをお供につけましょう」
「お師匠様!? 僕も行くのですか?」
「そしたらこの前私の大事にしていたお皿を割ってしまった事を許してあげましょう」
ネクロは先日お料理をしている最中にエリーナの大切にしているお皿をうっかり割ってしまった。バレる前に修行していたときに割ってしまったと上手く誤魔化そうと思っていたがエリーナは既に知っていた。
「わ⋯⋯わかりました。お供させていただきます」
その姿はまさに怒られた可愛い子供という感じであった。そしてネクロは二人のお供として命じられた。
「よろしくね! ネクロちゃん」
「だからちゃん付けで呼ぶなぁっ! 僕の方が強いんだぞー」
ヒカリはネクロの目線まで屈んでニコッと笑った。
「ネクロがいれば生存確率0%から大幅にアップね。良かったわ」
「私達で行ったら生存確率0%なのかよ⋯⋯なんて意地悪な⋯⋯」
全部エリーナの掌の上で転がされている様な気がするシェイナは納得いかないとぼそぼそ呟いたがどうやらエリーナには聞こえていないらしい。
「まあ僕が一緒に行くからにはよっぽどドジしない限り死なないから安心だね」
ネクロは両手を腰に当てていかにも偉そうなポーズを取る。
「カイトの為だもの、今は協力してくれる仲間がいるだけで心強いわ! ありがとうシェイナちゃん」
うわぁんと言いながらヒカリのことをポカポカ叩いている。なんか微笑ましい光景だ。
「今日はもう夜も遅いし『闇』の脅威も引いていないからゆっくり休むといいわ」
「「ありがとうございます!!」」
夕飯にはネクロが取ってきたキノコのスープが出され、魔力と疲れがほんの少しだけ和らいだ。