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9、私の取り巻きがポンコツな件について

薫子さんと晴香さんの出番を増やしたいと思って書いてみました




 から……。



 からって……。



「……祥子様、……あの、昨日はあれから……、……祥子様? ……あの、祥子様?」



 今日『から』って……。



 今日からって言ったよね……。



 いや、確かに言った!!



「祥子様、……どうかされたのですか?」



 今日からって事は何? どういう意味なの? 何か暗号的なものなの?



 いや、ここは一度冷静になって考えてみようか。



 そもそも、からってどういう意味?


 空、殻、辛、と、からにも色々あるけども……、これでは文脈的におかしい。


 やはりここは、今日にかかる格助詞ではないかと推察するのだけどもどうだろう?



 つまり、今日を起点として、という意味で後の文章に掛かっていくと……。



 ということは、今日を始まりとして今後も続いていくという意味だから……。



「祥子様? もしもし、しょーこさまー」



 ……つまりは?



「どうかされたのですか、晴香さん?」



 ……私と千聖君が?



「あ、薫子さん、祥子様のご様子が変なのです。先程から何度も呼び掛けているのですが、お返事が無くて……」



 ……これから毎日?



「…………なるほど、大丈夫です。これは祥子様の平常運転ですから」



 一緒にお昼ご飯を食べるって……ことじゃないっ!?



 い、一緒に!?


 毎日、一緒にっ!?



「あ、薫子さん、祥子様のお顔が急に険しくなりましたけど……?」


「大丈夫、平常運転です」



 ふ、ふぁぁぁ……。


 あわわわわわわ……。



 あ、あの千聖君の方から、『今日から』って、『今日から』って……!!



 どどどど、どうなってるの!? 


 これ、夢!? 夢なの!? 



「大変です薫子さん! 祥子様が震えだしました!」


「平常運転です」



 いや、夢でも何でもいい!



 これは大いなる一歩よ!!



 なんせ、千聖君が言ったんだからね! 今日からって! 今日から毎日ってね!!



 これはもう、だいぶ脈ありって事なんじゃないかしら!?


 うん、そういえばそういう節があるような……。



 えっ、マジで!? 



 もしかして、もうすでに……とか!?


 あらやだ私ったら、自惚れすぎ?


 いやでも、もしかして……?



 うふふふ。


 うふふふふふふふ。



「か、薫子さん!! 祥子様が! 祥子様がお笑いになってますわ!!」


「落ち着いて晴香さん! これが平常運転なのです! 平常運転……ですが、今の祥子様を見てはいけません! さあ、目を逸らすのです!!」 



 ちょっと、何よ騒がしいじゃない?


 人がせっかく、幸せな心地に浸っていたというのにこの子たちときたら……。


 もっと令嬢らしくお淑やかにしてほしいものよね。



 気が付けば薫子さんと晴子さんが私の目の前で何やら楽し気に話をしていたのだ。



「あら、薫子さんに晴香さん、おはようございます」



 私が声を掛けると、二人は佇まいを整えて挨拶を返してくる。



「おはようございます、祥子様」


「おはようございます、今日はご機嫌が宜しいようですね。何かございましたか、祥子様?」



 薫子さんが鋭い事を言ってくる。



 あら、顔に出てたかしら?


 ちょっと、頬のお肉が緩んでいたのかもね。



 いけないいけない、気を付けないと華麗にして優雅な祥子様のイメージに傷がつく。



「何もありませんわ。お二人こそ、何やら楽し気でしたが何か良い事でもありましたか?」


「いえ、私達も特に何もありません。ねぇ、晴香さん」


「はい、少し他愛のない話で盛り上がっていただけですわ。それよりも祥子様、橘様のご機嫌はいかがでしたか?」



 千聖君のご機嫌……?


 なになに? 何か嗅ぎつけちゃった? 


 この子たちったら、勘だけは良いんだから。



 どうしよう、今朝の出来事を話しちゃおうか……。



 いや、だめだ!


 この子たち、昼食について来るとか言い出しかねない!



 ここは秘密にしておくのが得策、なんだろう……けど。



 言いたい! 


 この悦びを誰かに言いたい!


 誰かに喋って、この気持ちを共有したいぃぃ!!



「ご、ご機嫌は宜しいようでしたわね……。今日はよくお話になってましたし」



 よし、よく踏み止まったよ私!



「そうですか、……それで、その……、昨日の事などは何か仰られていませんでしたか?」



 薫子さんが、少しばつの悪そうな顔で訊いてくる。



 ああ、そうか、この二人は昨日の一件の当事者だったっけ。


 なるほど、それで私に探りを入れてきているのか。



 あらあら、薫子さんにしては可愛いところもあるのね。



「そうですね、これといって何も……」


「ほんとですかぁ? 私たち、橘様の心証を悪くしたんじゃないかと心配なのですよぉ」



 晴香さん、他にも心配するとこあるんじゃない?


 例えば、私に対してとかね!



「大丈夫ですよ、千聖君はお心の広いかたですからね。お二人の事もご理解してくださるんじゃないかしら」



 あ、ちょっと待って。


 

 ひょっとしたら、これは使えるかも……。



「そうですか、それは良かったです」



 安堵の表情を浮かべる薫子さんだけども……。


 ふふふ、ちょっと二人には踊ってもらおうかしら。



 あらやだ、ブラック祥子ちゃんが出てきましたよ。



「なんなら、私から二人の事を宜しく言っておきましょうか?」



「いえそんな、祥子様のお手を煩わせては……」



 さすが薫子さん、なかなか慎重な返答ね。



 だけど、これを交換条件にしてしまったら……どうするかしら?



「そういえば、次の授業は委員を決めるホームルームでしたね……」



 私がこう言うと、薫子さんは直ぐに何かを察したように此方に視線を向けてくる。



「……解りました、それ以上は仰らないでください。全て、この私にお任せください」



 さすが薫子さん! 


 あれだけで全てを理解したのね!!


 しかも、あくまでも自分の裁量で行ったことにするために、あえて私に全てを話させない!



 切れる! なんて頭の切れる女なの薫子さん!!



「なんですかぁ? ホームルームがどうかされましたか?」


「晴香さん、少し打ち合わせをしましょう……」



 

 そう言って薫子さんは、よく理解していない晴香さんを連れて自席に戻っていった。


 どうやら薫子さんには何か作戦があるみたいね。

 



 これは、いけるかもしれない……?




 よし、昨日の失敗を挽回するのよ!



 大丈夫、今日の私はついている! 




 …………はず。







   ☆







 クラスの委員を決めるホームルーム。



 原作だとここは三コマで終わるシーンなのだけど、これが後々に重要な影響を与えることになる。


 担任の指名によりクラス委員に決められてしまった千聖君と葉月汐莉が、その後二人で一緒に放課後とか残ってイチャコラしてしまうという恐ろしい展開が待っているのだ。



 これは阻止したい!!



 なんなら、その役を変わってほしい!!



 そして、私と千聖君で一緒に委員の仕事をこなしたい!!



 二人で日誌書いたりとか、その書いてる指が触れてドキドキしたりとか、二人で委員会に出席して熱々っぷりを見せびらかしたりとか、先生に頼まれて資料室に資料を運んだら二人で資料室に閉じ込められたりとか、その密室で千聖君が『……なあ祥子、俺もう我慢できねぇわ』って迫ってきて『ああっ、ダメよ千聖君、こんな所で……』みたいな、満更でもない感じの事がしたいいぃぃぃ!!



 たはぁぁ、何これっ!? 


 委員一つでこんな未来が待っているっていうの!?



 だめだ、想像したら幸せ過ぎて鼻血が出てくる……。




 いや、落ち着け、落ち着くのよ祥子。


 どこの世界に鼻血出してる令嬢がいるっていうの、とにかく落ち着くのよ。



 全ては薫子ちゃん次第だからね。


 大丈夫、薫子ちゃんは出来る子よ。



 頼むからね、薫子ちゃん!!








 さて、担任教師が教室に入ってきてから、クラス中が固唾を呑んでいる訳だけども。



 ホームルームはまずクラス委員を決め、その決められたクラス委員と副委員が進行してそれぞれ他の委員会を決めていく。


 今まさにそのクラス委員が誰になるのかを、教師の口から告げられようとしているのだ。



 このクラスにいるのは坊ちゃん嬢ちゃんばっかりなので、一番面倒くさいクラス委員みたいなのは正直言って誰もやりたくないのだろう。


 恐らく成績優秀者か、家柄から選ばれるだろうと予想はしているのだろうけど、皆の心の中に一抹の不安がよぎっているのだ。


 


「えー、クラス委員ですが、まだお互いの事も解らない人もいると思いますので、こちらで勝手に決めさせてもらいました――」



 きたっ!



 大丈夫なの薫子ちゃん!?



 心配になって薫子さんに視線を送ると、薫子さんは此方に向かって親指を立て、ニヤリと笑ってみせる。



 おお、なんか頼もしいぞ。


 これは期待できるかもっ!



「えー、まずはクラス委員ですが、成績トップの橘君にお願いしようと思いますが、橘君よろしいですか?」



「はい、わかりました」



 これに一瞬クラスの空気が変わった。


 恐らく、女子たちの目の色が変わったのだろう、しかしそれも束の間、担任教師の次の言葉に空気は殺伐としたものに変わる。



「では、副委員は女子成績トップの葉月さん、頼めますか?」



 "特待生が橘様と二人でクラス委員だと!?" 


 何故か、女子たちのそんな声が聞こえた気がした……。



「え、私ですか!? いや、そんな無理です」



 戸惑いを見せて拒否する葉月汐莉だが、そういう所がまた女子たちの反感を買っている。



「お願いします葉月さん。外部生徒や特待生がこの学園に早く馴染むためには葉月さんが適任だと思うんです。橘君はどう思いますか? 私は葉月さんが一番良いと思うのですが……」



「まあ、いいんじゃないですか……?」



 ぶっきら棒に答える千聖君。



 ちょっと、そんな適当に返事しないで! 大事な所よそこ。


 しかも、その千聖君の一言で女子たちが怒りのやり場を失っちゃったじゃない!



「どうでしょう葉月さん、橘君もこう言ってますが?」


 

「あ、はい、……じゃあ、わかりました」 



 葉月汐莉がとったその渋々といった態度が、更に女子たちのフラストレーションを高めていく。



 "なに? じゃあって何なの? 橘様と一緒に委員するのが何か不満なの!? 調子に乗ってんじゃないわよ!!"



 聞こえる! 聞こえてくるっ!! なんか怖い声が聞こえてくるよー!!




 教室内を渦巻いている心の声に、何故か私が押し潰されるそうになる。



 ちょ、ちょっとこれ、凄く怖いんだけど……。


 私も千聖君と委員やりたかったけど、この恐怖にずっと耐えなきゃいけないの?



 うう、段々と自信が無くなってきた……。



 ――と、そこへ。



「先生、少しよろしいでしょうか?」


「はい何でしょう、浅野さん」



 薫子さんが手を上げて、担任教師に発言の許可を求める。



 きたっ、薫子さんが仕掛けてきたっ。



 しかし、この空気の中よく発言できるなぁ……。


 恐るべし、薫子さん。



「クラス委員の補佐が一人では少々橘様の負担が大きいかと思います。副委員はもう一人必要なのではございませんか?」



 おお、なるほど上手い言い方だ。


 これなら自然な形で私を委員に捻じ込める。



 まあ、葉月汐莉が一緒なのが少し気になるけども、この際贅沢は言ってられないよね。



「それは、……確かに、そうですね……」



 いけるっ! 


 担任教師が納得して、委員を増やす方向に傾いている。



 そうよ、担任教師とて人の子、橘家の御曹司が負担になっている状態を見過ごす訳がない!



 いや、これは薫子さんがそう考えるように仕向けたのね。


 千聖君が負担になっていると言われてしまえば、その要求を呑まざるを得ない。


 担任教師が拒否できない選択肢をあえて用意して、自分の望む答えを引き出させる。



 なんてっ!


 なんて、狡猾な女なの薫子さん!!




 そして、タイミングよく別の所から声が上がる。



「はいっ、それでしたら推薦したい方がいます」



 晴香さんである。



 さすが薫子さん、連携プレイにすることによって自然と私を副委員のポストに付けるという作戦ね。



 やっぱりあの子は出来る!


 超クレバー!!



「えーと、馬場園さん、その推薦したい人というのは?」



 さあ、言ってやりなさい晴香さん!



 私の名前を!



 皆がよく知る令嬢の名……。



 如月祥子と!!





「はい、神楽怜史様ですわ」




 なんでやねんっ!!!!





 ちょっ、えっ!? 嘘でしょっ!?



 いやいやいや違う違う!


 そうじゃないでしょ!!



 ここは私の名前が出て、満を持して祥子様登場の場面でしょうがよ!!


 立ち上がって挨拶するとこまで考えてたのに、どうなってんのよこれは!?



 これじゃ私は、……私はどうなるの!?



 そもそも、これは薫子さんの計画通りなの?


 晴香さんが何か間違えたとかじゃ……。



 何かの手違いではと二人の方を見ると、薫子さんと晴香さんがお互い見合わせて親指を立てている。



 計画通りかい!!



 何がしたいんだ、あんた達は!


 これじゃ、葉月汐莉を逆ハーレム状態にしてるだけじゃない!




 ああ、ダメだ、頭痛くなってきた……。





 突然の神楽怜史を推薦する声に、教室内は微妙な空気に包まれている。


 それは誰も文句の言えない人選であり、むりやり納得させられてしまうものだからだ。


 

 しかし、女生徒たちの憤りはここで違う方向へとシフトした。



「ということですが、どうですか神楽君?」



 それは、橘千聖と神楽怜史が協力して委員をしている姿……。

 


「えぇ、しょうがないなぁ。まあ、千聖も一緒だし、分かりました、いいですよ」




 女生徒たちの頭の中で何かが成立した瞬間だったのだ。






 一方、現実を受け入れきれない私はというと。




 怜史君、……断らない……のね……。





 うう、ダメだったか……。





 これは、人に頼った罰なの……?





 ああ、私の資料室が……遠のいていく……。





 そして……。



 

 クラス委員が決まり、各自の委員決めへと議会は進行し。

 




 私は、柊木君という原作にも出てこない男の子と美化委員をやる事に決まった。


 




いつもお読みいただき有難うございます(∩´∀`)∩


悪役といえばポンコツ三人組というイメージがありますが、皆さんはどうでしょう?( ´д)(´д`)(д` )<え、ない?


というわけで、また次回にお会いしましょう(´∀`*)ノ


ブクマ、評価有難うございます!! 大変感激しております(*ノωノ)


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