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50、家庭教師の先生




 千聖君の誕生日パーティーから二週間ほどが経ち、すっかりいつもの日常が戻ってきた。



 いつものように学校に行き。


 いつものように友達と話したり。


 いつものように勉学に勤しんで……。



 勉学に勤しんで……。



 いつもの、ように…?



 実は今…。


 その勤しんで無かったツケが私を苦しめている。




「祥子様。問題を解く手が止まっているようですよ」


「は、はい」



 この世界に来てからというもの、いや前世からかもしれないけど。


 私は殆ど勉強というものをしていなかった。というか、青華院のレベルが高くて付いていけなかったと言ってもいい…。



 そして、私はすっかり失念していたのだけど。


 パーティーの後、つまりつい先日の事。


 この時期お決まりの中間考査があったのだ。


 

 私はそのテストで惨憺たる結果を叩き出してしまった。


 祥子ちゃんはいつも二十番以内には入ってたらしいんだけども、私はなんとそこから百番も落っことしてしまったのだ。



 いやあ、お母さまに引くぐらい怒られたね…。


 あんなに怒らなくてもいいのにね…。


 いつもは温厚なお母さまなのに、あの時ばかりは鬼か魔王にしか見えなかったね……。



 まあ、そんなわけで。


 私には家庭教師が付けられる事となった。


 名前は九条みすずさんといって、女の先生だ。名門九条家のご息女にして現役の青華院大学生。見た目は素朴なのにどこか色気のある人だ。



「祥子様。公式の意味を理解すれば問題文がより解りやすくなります。例えばこの問題ですと――」



 色気はあるけと喋り口調は堅い。


 お仕事モードというやつかな? 普段の喋り方を知らないから分からないけど……。



「また手が止まっていますよ」


「は、はいっ!」



 けっこう厳しい先生なんだよね。


 一瞬でも気を抜くと指摘してくるし……。



 まあ、私にはそれくらいの方がいいのかもしれない。


 それくらい酷い成績だったし、お母さまに怒られるのももう嫌だし。


 これで成績が上がるんだったら、ちょっとくらい厳しくても我慢しないとね。



 我慢して頑張るぞっ…!



 と、それは良いんだけど…。



「ほら、また手が止まってるってぞ。あとこれ、また同じ間違いをしてじゃないか」



 なぜお兄様がここに居る!



「あ、あら、そうですか…? ぐぎぎ……」



 実はみすず先生を連れてきたのはお兄様なんだけど。


 何故かそれにかこつけて、さっきからみすず先生と一緒に私の後ろから間違いをずっと指摘し続けている。



 え、何? 何なの? この人は何なの? バカなの?


 何でここに居るの? 居る必要性が無いじゃない。バカなの?


 邪魔になるとか思わないの? 先生に迷惑だとか思わないの? バカなの?



 あ、バカなの?




「おい、また計算ミスしてるぞ。こんな間違いしてるようじゃ次も0点しかとれないぞ」


「ぐぬぬ……、0点なんてとってないし……」


「言い訳をする暇があったら一問でも多く問題を解け。お前に無駄口は許されていない」



 むきぃぃぃ!!!


 腹立つ! 腹立つ! 腹立つ! 腹立つぅぅぅ!!!



 私が黙ってたら言いたい放題言ってくれちゃって。


 このバカお兄ちゃんめぇぇ!!



 しかも、お兄様に指摘されるのが一番腹が立つ!


 もっとデリカシーのある言い方が出来ないのかね、このバカお兄ちゃんは!



「お、お兄様。私はみすず先生に教わっておりますので、お兄様は早く自分の部屋に戻られてはどうですか?」

 

「いいか、祥子。俺は今、忙しいぃぃ時間を割いてお前の勉強を見てやってるんだ。それに感謝してたら勉強の事以外は気にならないはずだぞ」



 頼んでないし!


 何よその恩着せがましい言い方は!



「いえそんなに、忙しいぃぃのでしたら私の事よりもご自分の用事を優先してくださいまし」


「祥子……はぁ……。お前は自分の置かれている状況が分かってないな」



 お兄様から深い溜息が洩れた。


 そして首を二三度振るとさらに続きを話す。



「俺はお前の成績を見た時、こう思ったよ。いくらなんでもこの成績はおかしい、誰かの陰謀によるものでなければ説明がつかない、え、ドミニオン?ってね。だが、事実はそうではなかった…。信じられないが、これが祥子の実力だったんだ。信じられない事だがな……。ああもう信じられない…」



 くっそーーー!!



 誰か! 誰か私に藁人形を!


 こやつに呪いの五寸釘を打ち付けてやる!


 そして毎夜、胸の痛みで眠れなくしてやる!



「ぐぎぎぎ…! で、ですが。みすず先生の授業のお邪魔じゃないかと…。で、ですよね、みすず先生!」



 みすず先生、どうかお兄様を邪魔だと言って!


 そしてこの男を私の部屋から追い出して!



「あら祥子様。冬華様は青華院の歴史の中でも群を抜いて優秀な方ですのよ。その方に教えて頂けるなんて光栄な事ではありませんか」


「み、みすず先生……」



 だ、ダメだ……。


 みすず先生のお兄様を見る目の中に、時折ハートが見え隠れしている…。



 お兄様が連れてきた段階で怪しいとは思っていたけど。


 バカお兄め、ひょっとしてみすず先生を口説くために連れてきたんじゃないでしょうね!?



 いや、さすがにバカお兄様でもそんな事は……。



 いや、この男ならやりかねない!




「そういうわけで、祥子の勉強は俺とみすず先生で見る事にした。さあ、脇目も振らず馬車馬のように勉強するんだ」


「ぐぬぅぅ……」



 くそう…、言いたい放題だよ……バカお兄め。


 見てなさいよ、いつか見返してやるから……。



 私はそう心に誓いながら、バカお兄とみすず先生の授業を受ける事となったのだった。






 真面目に授業を受けてみると、みすず先生の教え方は凄く解りやすかった。


 まるで私がどこを理解していないのか把握しているかのように、的確にポイントを付いて説明してくれる。


 お兄様が連れてきた人という事で少し疑っていたけど、どうやらこの人はかなり優秀な人みたいだ。


 

 てっきり不埒な目的で連れてきたのかと思ったけど、ちゃんとした人を選んでいたのね。


 バカお兄のくせに、そういう所だけはちゃんとしている……。



 バカお兄ちゃんめ……。




「みすず先生、ここはどう解くのですか?」


「これはこの公式に当てはめて……」


「…………」



 やっぱり優秀だ。


 数学は苦手だったのだけど、みすず先生に教えてもらうとスラスラ解けるよ。



「みすず先生、こうですか?」


「それでも構いませんが……、こうしたほうがスマートですね」


「あ、そうか……」


「…………」



 より最適な解法を導き出す。


 問題を理解する上でも重要な事だ。


 そして理解が深まれば数学も案外と楽しくなる……ような気がする。



「みすず先生、これでいいですか?」


「はい結構です。では次へ参りましょう」


「はい!」


「…………」



 よしよし、順調に問題を解いてるぞ。


 え、ひょっとして私、凄く頭良くなってる!?



「おい……」



 これも偏にみすず先生のお蔭だね。


 よし、このままの勢いで次々解いてくぞ。



「みすず先生、この問題はこれで良いですか!?」


「はい、そうですね。結構ですよ」


「やった!」



 良い調子!


 なんだ割と楽勝じゃない。


 この分だと数学の苦手意識も……。



「おいって…」



 …………。



「おい、さっきから呼んでるだろ」


「何ですかお兄様。私は勉強で忙しいのですが?」



 まったくもう、せっかく集中してきた所なのに気が散るでしょ。


 集中力を持続させるのは難しいんだからね。



「何でみすず先生にばかり質問するんだ。ちょっとは俺にも質問しろよ」


「あら、そうでしたか? それは気付きませんでしたわ。何せ勉強に集中していたものですから」


「……お前、消そうとしたな?」


「……? お兄様ったら何を仰ってるのかしら?」


「俺の存在を消そうとしただろ。集中という言葉で誤魔化して俺が居る事を忘れようとしただろ」



 ぬっ!


 お兄様のくせに鋭いじゃない。



「ち、違いますわよ。そのような事、あるわけないじゃありませんか。おほほほ」


「そうか? 何か悪意みたいなものを感じたぞ?」



 ぐぬ…、こういう時だけは察しが良いんだよね。


 その察しの良さを何でもっとデリカシー方面に注げないのかね、この人は!



「お兄様ったら、気のせいですわよ。ね、ねぇ、みすず先生?」


「祥子様、冬華様にも質問してください」



 ちくしょーー!


 私に味方がいない!



「まあ、そんなどうでもいい事は置いておいて…。さっきから見てて、祥子の致命的な弱点が分かったぞ」



 どうでもいいって…、あなたが言いだしたんですが?



「じゃ、弱点ですか…? それは一体?」


「祥子、お前……」



 言いかけたかと思うと、お兄様は私が使っているノートを取り上げた。


 そしてそれを見て溜息をまた一つ吐く。



「公式や基礎がどうとか言う前に…、単純な計算ミスが多すぎる。これだといくら問題が解けても点は取れないぞ」


「うっ…。確かにミスは多いですが…」


「お前、九九は言えるよな?」


「バ、バカにしすぎです!」


「言えるのか……」



 え?


 言えないと思ってたの…?


 ちょっとちょっと、そこまでバカじゃないからね?



「お前、すぐ暗算で済まそうとするだろ。だからミスが多くなるんだよ。いいか、出来もしない事はせず、ちゃんと書いて計算しろ」



 出来もしないって、一言余計じゃないですかね?


 出来るかもしれないでしょ?


 いや、出来てないんだけど!


 お兄様のアホー!



「そ、そこは偶々書かなかっただけで……」



「……そうですね。では計算の特訓でもしますか?」



 ここでみすず先生がそう提案してきた。



「特訓というのは、どんな事をするんだ?」


「ルールは簡単です。計算式三十問を三人で競争して解きます。一問でも間違えればさらに十問追加。一番早く終わった人が優勝です」


「なるほど競争するのか。それは面白そうだな、やってみるか」



 面白い?


 何が?


 只々計算するのが、どこが面白いの?


 どこに爆笑ポイントがあるのよ?


 しかも…。



「あの…、それだと私二人に勝てる気がしないんですけど……」


「お、やる気だな祥子。じゃあ祥子はハンデとして問題数を半分にしてやろう」



 やる気があるなんて一言も言ってないんだけど?


 まあでも半分だったら勝てる気がしないでもないね。



「優勝賞品はどうする? 何かあったほうが張り合いが出るだろ」


「賞品って…、それは誰が――」


「では優勝者の言う事を何でも一つ聞くというのはどうでしょう?」



 みすず先生が私の言葉に食い気味に被せてきた。



「え…、それはリスクが大きすぎるのでは――」


「よし、それでいこう!」



 こんどはお兄様が私の言葉に被せてくる。



「決まりですね」



 ちょっとちょっと!


 何でもとか、絶対お兄様に言っちゃいけないやつだよ!


 みすず先生はこの男の本性を知らないからそんな事を……、あ、あれ、みすず先生?



 見るとみすず先生の口角は、涎が垂れそうなほど緩んでいた。



「みすず先生……?」


「何ですか祥子様?」



 あ、顔が戻った!



「い、いえ、何も……」



 その、一瞬でお仕事モードの顔に戻ったみすず先生に、私は一抹の不安を覚えるのだった。









  ☆








「それでは始めてください」



 みすず先生のその掛け声で、私たち三人は一斉に計算式を解き始めた。



 問題の出題は、みすず先生の持ってきたタブレットの中に入っているアプリによる。


 何でもみすず先生の知り合いが作ったアプリらしいんだけど、計算の特訓と暇つぶしに丁度良いらしい。


 そのアプリを私とお兄様のタブレットにもダウンロードしてもらって、私たちは問題を解いていく。



 問題は四則計算がランダムで一問ずつ主題され、正解するとそのまま次の問題が出題されて間違うとさらに十問が加算される。


 ちなみに私の場合だと、ハンデを貰ったので出題数が十五問で加算されるのが五問というわけだ。



 出題のレベルは様々で、桁数の小さい物から大きいものまで。


 出題レベルが一定じゃないから、たとえ十五問といえどノーミスというのは難しい。


 始めるまではちょっと甘く見ていたけど、これは気を引き締めてやらないと永久に終わらない可能性がある。



 と、開始から三問目でミスをした私は思うのだった。





 ぬぅ、頭の中が数字だらけでパニックになってきた……。


 お兄様たち、よくこんなの出来るな…。



 隣からは、スラスラと問題を解いている気配がずっと私にプレッシャーをかけている。


 何か不正でもしてるんじゃないでしょうね?


 そんな事を考えながら、ちらりと二人の方へと視線を向けた。



 ――ん!?



 一瞬だけど私の視界に入ってきたその二人を見た私はある事に気が付いてしまった。



 な、何て事なの…。


 この二人、暗算で解いている……?



 私なんてタブレットには書きにくいから紙に書いて計算してるってのに。


 どうなってるの、この二人の頭は…!?



 そして――



「よし、終わった!」



 最初に全問解き終わったのはお兄様だった。



「は、はやっ…」


「私も終わりました」



 ええ、みすず先生も!?



「ちょ、ちょっと、私まだ全然……」


「何だよ、ハンデあげたのにまだ終わらないのか?」



 そう言いながらお兄様が私のタブレットを覗き込んでくる。



「お前……、なんで四十問以上残ってるんだよ……」


「う…、ちょっとミスが……」


「おいおい、六回も間違えてるじゃないか。この数分の間に六回も? 俺とみすず先生がノーミスなのに六回も? え、六回も!?」



 うるさいな、六回六回って! 



「み、見ないでください! 競争すると焦って間違えやすくなるんです!」


「だから良いんだろ? 試験中の緊張感を再現して、その中でも解けるようにするんだよ」



 うぐ…、そんな意味もあったの…?



「大丈夫です。祥子様はこのアプリを使うのが初めてですから、それほど気にする結果ではありませんよ」



 みすず先生!


 優しい、何て優しい言葉なの!?


 お兄ちゃん、これよ! 今すぐみすず先生を見習って私に優しくして!



「俺も初めてだけどな」



 こいつーー!!!


 言わなくていいでしょそれ!!


 嫌味っていうのよ、そういうのを!



「冬華様は特別ですから。それよりも、か、勝った冬華様からのごほ…いえ要求を……」


「ああ、何でも言う事を聞かせられるんだったな…」



 そう言いながら、お兄様は私の方に視線を向けてくる。



 うわぁ。


 あの顔は絶対ろくでもない事を考えている…。



「そうだなぁ…、じゃあ肩でも揉んでもらおうかな? 祥子たの――」


「分かりました、私がやります!」



 すかさずみすず先生が名乗りを上げた。


 何か私の名前が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。



 それにしても、お兄様にしてはまともな要求だ。


 何なの? 何を企んでいるの?


 まともではないお兄様からそんなまともな言葉が出てくる訳ないじゃない?



「みすず先生が? ああ、うん。じゃあ頼むよ」


「――はい」



 みすず先生はゆっくりとお兄様の後ろに回り込むと、徐に肩に手を添えた。


 優しく手を置いたみすず先生。


 ふっという気合いを入れるような声と共に、みすず先生の手に力が入る。



 だけど彼女は、そのままピクリとも動かなくなった。




 …………。




 静まり返る室内。




 何してるんだろう…?


 肩に手を当てて、じっとお兄様の後頭部を見つめてるけど……。


 お兄様の幸運を吸い取ってるとか?


 そういう事ならもっとやってほしい。



「あの、みすず先生…?」


「は、はいっ! な、何ですか、祥子様?」


「肩を揉むのでは…?」


「はい、ですから先程から肩を揉んでいましたが。何かやり方を間違えていましたか?」



 あれ…?


 手が動いてなかったよ?



「そ、そうだったんですか…」


「それにしても、肩を揉むというのは凄く力がいりますね。手が痛くなってしまいましたわ」



 え…、揉んでたの?


 そ、そうか。みすず先生もお嬢様だから箸より重いものを持った事が無いとか?



 あと、みすず先生…。


 顔がだらしないよ?



「冬華様、私の肩もみはどうですか? 少しは凝りがほぐれたでしょうか?」


「んん? うーん、いまいちだな」



 ちょっとは気を使え!

 

 ここはお世辞でも褒めるところでしょうが!



 そういうとこよ、そういうとこ。


 デリカシーが無いっていうのはそういう所よ。


 ほんと、どうしようもないな、お兄ちゃんは。



「そうですか…」



 ほら、シュンとしちゃったじゃない。


 みすず先生、可哀想に落ち込んじゃって……。



 ……。



 いや、顔緩んでない?


 みすず先生…?


 なんか喜んでない? みすず先生?




「よし、じゃあ二回戦目といくか?」



 お兄様、マイペースだな…。


 ちょっとは気にならないの?



「え、まだやるんですか?」

 

「何言ってんだ祥子、当たり前だろ。こういうのは継続してやらないと意味が無いんだぞ」


「うう…、だって二人に勝てる気がしないんですもの」



 少し甘えた声を出す私にお兄様はやれやれと嘆息する。



「しょうがないな、じゃあ俺とみすず先生は十問プラスしてやるよ」



 ほう。


 お兄様ったら、さらにハンデを増やすと仰いますか。


 あらあら、随分と私を甘く見てくれるじゃない。


 後で吠え面をかいても知りませんよ?



「二十問でお願いします」


「おい、これはお前の特訓なんだぞ。これ以上のハンデはやらん」


「はう…」



 だめだったか…。



「ほら、無駄口たたいてないで始めるぞ」


「は、はい…」


 


 そうして始まった第二回戦。


 勝者は――



「はい終わり!」



 お兄様だった。


 そして――



「私も終わりました」



 そのすぐ後にみすず先生が終わりを告げた。



「うぐ…、二人とも早すぎる……」



 ダメだ、この二人早すぎる!


 いくらハンデを貰っても結果は一緒だよこれ。


 だって、どんどん問題数が増えていくんだもん…。




「祥子、まだ終わらないのか? ハンデ増やしてるんだからそろそろ…」



 ちょっと、すぐに私のタブレットを覗き込んでくるのやめてくれる?


 失礼ですよ、そういうの。まったく、しょうがないお兄様だこと。



「お兄様、レディーのタブレットをそんなに簡単に覗いては――」


「お前…、五十問になってんじゃねぇか……」


「いやぁ、見ないでください!」


「おい、さっきより酷くなってるってどういう事だ?」


「お兄様がプレッシャーをかけるからいけないんです! 私はもっと落ち着いた環境で力を発揮するタイプですから」


「だから試験対策だって言ってるだろ!」


「うっ…。そ、そういうのは試験前だけでいいんですよ!」


「普段から慣れとく方が大事なんだよ!」



 ぬぅぅ、ああ言えばこう言う!


 腹立つお兄ちゃんだね!



「と、とにかく、全面的にお兄様が悪いんです!」


「なにおう!」


「まあまあ、お二人とも。出題の難易度はランダムですので、悪くなるときもありますわ。そんなに言っては祥子様が可哀そうですよ冬華様」



 みすず先生!!


 うう、優しいよぉ。


 もう、みすず先生だけに教わりたいよぉ。



「ったく、しょうがねぇな」


「そんな事よりも。冬華様が勝ちましたので、次の命令を、お、お願いします」



 あう、そんな事よりって…。


 もっと優しさが欲しい…。



「うーん、そうだな。じゃあ、お茶でも煎れてもらおうかな?」



 お兄様は水でも飲んでなさい!



「では私が煎れますわ」



 みすず先生はそう言うと、いそいそとテーブルの上に置いてあるティーセットへと手を伸ばす。



 慣れない手つきでお茶を用意するみすず先生。


 手が震えて危なっかしいけど、何だかその相好は崩れかけて見える。



 みすず先生はクールな人なのかと思っていたけど、見た目と違って尽くすタイプなのかな…?


 でもうちのお兄様はあまりお薦めできないよ?




「お茶のお味はどうですか?」



 お兄様の下にお茶を運んだみすず先生はそう訊いた。



「んー、普通かな」



 おい!


 だからちょっとは気を使いなさいってのよ!



 ほんとデリカシーないなぁ、このお兄ちゃんは。


 思った事を何でも口にしていいわけじゃ無いんだからね。


 まったくもう……。




 その後――



 勝負は三回戦目に突入し、三回戦目はみすず先生が勝利した。



 そして、勝者となったみすず先生が要求した事は、お兄様に頭を撫でてもらうというものだった。


 恥ずかしそうにそう要求したみすず先生だったけど、撫でられている時のみすず先生は凄く幸せそうな顔をしていた。



 最初は厳しい先生なのかと思っていたけど、そんな姿を見たらとても可愛い人なんだろうなと思うのだった。






 そんなみすず先生を、私がじっと見ていると。



 何を思ったのかお兄様が私の方にも寄ってきて、私の頭も撫でてきた。





 …………。





 バカお兄ちゃんめ……。


 


 



いつもお読みいただきありがとうございます(/・ω・)/


明けましておめでとうございます。今年初投稿でございます_(._.)_

今年も祥子ちゃん共々宜しくお願い致します。


少しでも気に入って頂けたらブクマ評価をお願い致します(゜д゜)/

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