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41、あがり症な私




 煌びやかな大ホール。


 絢爛豪華で見るものを圧倒するそこは橘家の別邸だ。



 ホール内には私たちクラスメイトだけではなく、見慣れない人が多数存在している。


 いや、よく見ればテレビなんかで見る様な顔もちらほらといるみたい。


 橘家の次期当主の誕生日パーティーという事で各界の著名人なんかもこぞって出席していると、そういう事らしい。



 つまりそこは、見た目も人も豪華すぎる庶民には縁遠い場所。


 橘千聖の誕生日パーティー会場なのだ。



 私と共にそこへやって来た汐莉さんや桜井さんたちは、そんなパーティー会場に入った瞬間に魂が抜けたような顔となった。


 私もなった。


 いやいや私はなってちゃダメじゃないって思うけど、実物の迫力は私の想像の域を超えていたのだ。


 昨年までのパーティーは祥子ちゃんの記憶の中にあるのだけど、やっぱり実際に見るのとでは大きく違う。


 これぞ橘家って感じよね。



「はわぁ~。凄い所だね、祥子さん」



 さっきから口が開きっぱなしの汐莉さんから感嘆の声が漏れた。


 それは桜井さんや雨宮さん、雲英さんに西園寺さんもどうやら同じ感想を抱いているようだった。



 特に桜井さんの興奮は一入なようで、私に詰め寄るようにして肉薄するとこう言った。



「如月さん、凄いね! なんだか絵本か漫画の世界みたいだよ!」



 うん、漫画の世界なんだよ。



 って言いたいけど、絶対信じないよね。


 やだこの人、何言っちゃってるの? ていうか逝っちゃってるの? とか言われたら嫌だから言わないけどね。



 あと桜井さん、アナタやっぱり距離が近いよ。



「さあ皆さん、パーティーが始まるまではまだ時間がありますからあちらでお飲み物でも頂きましょう」



 パーティーは千聖君の挨拶から始まる。


 その後、楽団の演奏からダンスタイムへと移行するという流れになっている。



 こっちに来てから色々あったけど、ようやく令嬢らしいイベントが始まった。


 汐莉さんたちはこの別世界な光景に只々驚き、口をぽかりと開けながら無邪気な表情を浮かべている。



 その無邪気な顔が……。



 無性に腹が立つじゃないか、こんちくしょー!


 こっちはもうすぐ皆の前で踊らなきゃいけないってのに、緊張しすぎて朝から何度もげぼ吐いてるってのにぃ!


 なんて呑気な連中なのかしらっ!



 うう……、祥子ちゃんは毎年こんな事やってたのか……。


 ごめんよ祥子ちゃん、私はあなたをゲロインにしちゃいそうよ……。



 ああ、考えてたらまた吐きそうになってきた……。





「祥子様、こんばんはですわぁ」


「今お着きですか、祥子様」



 私たちが飲み物を貰おうと移動すると、そこには晴香さんと薫子さんの姿があった。



「ええ、たった今ですわ。お二人とも早いですね」


「いえ、私たちも少し前に着いたばかりです」


「あらそうでしたか。皆さんの準備に少し時間を取られてしまいましたから遅れてしまったのかと思いましたわ」



 私がそう言うと薫子さんは桜井さんたちを一瞥する。


 彼女たちに何かを言うのかと思ったけど、何も言わずにまた私の方へと視線を戻した。



 どうやら薫子さんは私が桜井さんたちにドレスを貸した事をあまり良く思っていないみたいだ。


 たぶん汐莉さんまでは良かったんだろうけど、他の一般生徒は別だと思ってるんだろう。



 うーん、この辺の確執はどうやったら解けるんだろう……。


 できるなら仲良くしてほしいんだけどな。


 

 と、そこに。



「祥子様、見てくださいませ。新調した私のドレスどうですかぁ?」



 ふんわりとしたミモレ丈のドレスの裾をつまんで私へと見せつけてくる晴香さん。


 少し少女っぽさを感じさせるオレンジを基調とした淡い色のそのドレスが、なんとも晴香さんにマッチしていて可愛らしい。



「あら晴香さん、大変お似合いですわよ。可愛い晴香さんにぴったり」


「あら、祥子様お上手ですわぁ。おほほほ」



 晴香さんは満更でもない顔で笑みをこぼす。


 そんな遣り取りをしていると、そこに薫子さんも参加してくる。



「祥子様、私のドレスはどうですか?」



 薄紫のタイトなドレスを身に纏った薫子さんが対抗するように見せつけてきた。



「薫子さんも素敵ですわ。いつもよりも大人っぽくなった感じがいたします」


「ありがとうございます。祥子様のお召し物も大変素敵です」



 私の言葉にほんのり笑顔を浮かべる薫子さん。



 こういう所はやっぱり普通の女の子と変わらないよね。


 さっき桜井さんたちも綺麗なドレスを着て同じような顔をしていたし。


 ちょっと話せば仲良くできるような気もしないでもないんだけど。


 何かきっかけでもないかな……。



「あ、祥子様。神楽様が参りましたわ」



 晴香さんのその声で皆の視線がホールに入ってきた怜史君へと注がれる。



 それはよく見ると私たちだけじゃない。


 ホール中の女性がその爽やかな男の子に釘付けとなっているのだ。


 高等部に上がってぐっと大人っぽくなった上に、スーツ姿がまたなんとも言えない色気を醸し出している。


 恐らく彼は今日でまた女性ファンが増えた事だろう。


 いやはやまったく、罪な男だね彼も……。



 その怜史君は、入ってくるなり友人を見つけてそこに話しかけに行った。



「はぁ~、素敵ですわぁ」



 目をハートにしながらうっとりとする晴香さんや桜井さんたち。



 やっぱりスーツっていつもより格好良く見えるよね。


 同じクラスの男子たちもなんだか三割増しくらいで格好良く見えるもの。


 ……ま、中にはそうでないのもいるけど。



 それにしても、一緒になって男の子にぽーってなってると凄く仲が良さそうなんだよね。


 そのまま仲良くなってくれないものか……。



「あ、祥子様。神楽様がこちらに来ますわ」



 晴香さんの言う通り、怜史君はこちらに視線を向けると友人との話を切り上げてこちらに歩み寄ってきた。



「こんばんは、祥子ちゃん。それに皆さんも」



 たぶん軽い挨拶をしに来ただけなんだろうけど、爽やかな笑顔を振りまく怜史君に桜井さんたちは体を硬直させる。



「神楽様、ご友人の方はよろしかったのですか?」


「ああ、ちょっと世間話をしてただけだよ。それより祥子ちゃん、今年のドレスは随分と情熱的だね」



 怜史君が情熱的と言う今日の私のドレス。


 ワインレッドのロングドレスで背中の部分が少し開いている、しかもスカートがレース生地と二重になっているという恰好良さと可愛さを兼ね備えたドレスなのだ、ふふふ。


 少し派手じゃないかと思ったんだけど、皆の前で踊るなら派手にしないとダメだと言われてしまってこうなった。


 そういうものなのだろうか?



「やっぱり変でしょうか?」


「いや、凄く似合ってるよ。祥子ちゃんの綺麗さをより引き立ててるって感じで」



 急にそんな事を言われてドキッとする。



「そ、そうですか……。それは、ありがとう…ございます……」



 さらっとこういう事言うよね、この人。


 こんなの普通の女の子だったらころっといっちゃうよ? 


 いやこれ、私だから余裕で耐えてみせたけどね。他の女の子だったら、それはもうイチコロだったろうよ。


 私だったから平常心でいられるって事を忘れないで欲しいわ。



「どうしたの、顔が赤いよ?」


「そ、そんな事無いです!」



 怜史君は揶揄うような笑顔をこちらに向けてくる。



 うん、この男は危険だ。


 野に放ってはいけない類の人物だな。


 よし、いつか私が成敗してやる。



「あれ、葉月さんは一緒じゃなかったの?」



 怜史君は急にそんな事を訊いてきた。



「……? 汐莉さんならすぐ近くに……」



 怜史君に言われて私も見回すが汐莉さんの姿がない。


 私はこの時になって初めて汐莉さんがいない事に気が付いた。



 ど、どこいったんだあの子は…?


 ただでさえトラブル体質なんだから、不用意にウロチョロしないで欲しいんだけど。



「ああ、いたいた。こっちに向って来てるみたいだね」



 怜史君の言葉を聞いてそちらを見ると、確かに汐莉さんは私たちの所へと戻ってこようとしていた。



 手にお皿を持って。




「神楽君…もぐもぐ。今日は、もぐもぐ…スーツで…もぐ、かっこいいね……もぐもぐ」



 汐莉さんの手に持つ皿には料理がこぼれそうなほど一杯盛られていて、それをひょいっとフォークに刺して口へと運んでいく。


 もぐもぐと口いっぱいに料理を頬張り、その味に舌鼓を打っているのだ。



 それはそれは幸せそうな顔をして。



 呑気に一人だけ食事を摂っている。




 私はこの時、一番緊張していない奴を発見した。




 ぬぅ…、人がこんなに緊張しているというのに……。


 緊張しすぎて朝から何も食べられずに吐きまくってるというのに……。



 そうだ、この子に歌を歌わせよう。


 もちろんアカペラでね。


 そして私のダンスが霞むくらいのインパクトを全員に見せつけるのよ。


 うん、それがいい! そうしよう!



「はは、葉月さんもう食べてるんだね。相変わらずだなぁ」


「え、まだ食べちゃダメだった!?」


「ははは、別に良いんじゃないかな? 特に決まりがあるわけじゃないしね」



 怜史君に笑われて、汐莉さんは頬を赤くして恥ずかしそうにしている。



 しかし、食べる手を止める事は無かった。




 この子は本当にブレないな……。







  ☆







 その後も私たちは暫くの間談笑していた。


 そうこうしている間に、ホールの中はどんどんと来客の数が増えていく。


 その客数もかなりの人数になっているような気がするけど、この大きなホールにはまだまだそのスペースに余裕があるのだ。



 怜史君はあの後、友人知人に挨拶回りをするべく私たちの下を去っていった。


 薫子さんたちは残念そうな顔をしていたけど、私は揶揄われるのから解放されてほっとした。


 なんか私ばっかり揶揄われてる気がするんだよね。


 私はそんなに弄りやすいキャラなんだろうか……?



 さて、そんな事よりも重要なのはここからだ。


 原作通りならもうすぐ千聖君の挨拶が始まる。


 まず、その挨拶の後にダンスをするのが第一の関門。


 そして問題なのがその後。


 原作では、自作のドレスに身を包んだ汐莉さんがその事を皆にバカにされ、ショックを受けてこっそり会場を抜け出し、薄暗いテラスで一人落ち込む。


 そこに千聖君がやってきて、薄闇の中でロマンチックに二人でダンスを踊る。


 と、そんなベタな流れだ。


 

 読んでるときはそうは思わなかったけど、考えてみたらベタな展開ばっかりだなこの漫画……。


 ま、まあ、面白ければそんなのは別にいいのよ。



 とにかく、ここは重要な局面よ。


 私は既に自作ドレスの目は潰している。


 このままいけば原作通りにはならないはずだけど、こればかりは蓋を開いてみないと分からない。


 とりあえず汐莉さんから離れないように気を付けて、私が踊っている間は汐莉さんの事は薫子さんに任せる。



 とまぁ、作戦はこんな感じだ…。



 こんな事くらいしか思い付かなかったけど、大丈夫かな…。


 またよく分からない力が働いて物語を元に戻そうと修正されるんじゃないだろうか……。



 考えても仕方のない事だけど、不安だわ……。




 私がそんな心配に頭を抱えていると、急に会場内の照明が落とされ辺りは薄暗くなった。



 それと同時に先程まで喧噪に包まれていた会場内はしんと静まり返り、皆がパーティーの始まりを意識する。




 そして。




 会場内にある一段高くなったステージ上にライトが当たると。


 



 フォーマルなスーツを身に纏った千聖君が姿を現した。 






いつもお読みいただきありがとうございます(/・ω・)/


祥子ちゃんもあがり症ですが、私も負けずにあがり症です(`・ω・´)b 小動物のような存在です(`・ω・´)b 触れる時は優しくソフトにお願いいたします(*'ω'*)


そんなわけで、また次回にお会いしましょう。


ブクマ、評価いただき有難うございます。大変感激しております。今後ともよろしくお願いいたします。

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