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39、モテモテ祥子ちゃん




 登校した私は一目散に自分の席に着く。


 何だか色々な人から朝の挨拶を受けたような気がするけども、今の私の目にはこの手に持ったピンクのバラしか目に入らないのだ。


 そう、この千聖君から貰ったピンクのバラしかね。



 んふ。



 んふふふ。



 むふふふふふふ。



 ダメだ、にやける。


 にやけてしまう。



 いやいや、そりゃにやけるでしょ。


 こんなの貰っちゃったらさぁ。



 むふふふ。



 はぁ…、このバラを。


 千聖君が…。


 私の耳に……。



 はうぅぅぅぅ!!!



 ダメだ~!


 これはダメだ~~!!



「祥子さん、おはよう~」



 もうダメだ~、頭がどうにかなってしまう~。



 どうするよ~? 


 頭がどうにかなったらどうするよ、千聖君よ~~。



 いやこれはあれだな、頭がどうにかなったら千聖君に責任を取ってもらう事にしよう。


 うん、それがいい。


 千聖君のせいなんだから当然よね。


 うむ。



「……祥子さん? どうしたの? 祥子さ~ん」



 あ、そうだ。今日はエプロンを買って帰ろうか。


 責任を取ってもらうんだからね、エプロンは必需品だわ。


 ふりふりのエプロンとか着けちゃってね、新妻コスで千聖君が帰ってくるのを待ってるのよ。『千聖君おかえり~、私にする? 私にする? それとも、私にする!?』みたいなね!!



 かぁぁ……、良いわ……。


 絶対買って帰ろっと。



「おーい、祥子さ~ん」


「おはようございます、葉月さん。どうかされたのですか?」



 むふふ、夢が広がるわ~~。



「あ、馬場園さん、おはよう。何だか祥子さんの様子が変だから、どうしたのかと思って」



 やっぱりこのピンクのバラに合わせてエプロンもピンクのが良いかしらね。


 ピンクでふりふりしたの、良いわぁ…。



 あっ、ちょっと待って。


 エ、エプロンするときは下は何も着ない方がいいんだろうか!?


 うわ~~~~~!!


 千聖君えろい~~~~!!



「あらあら、葉月さんは何もご存知ないのですわね。これが祥子様の通常運転なのですわよ」


「え、そうなの!? なんだか顔が赤いみたいなんだけど…。風邪とかじゃないのかな?」



 まあまあ、千聖君がして欲しいと言うのなら吝かではないんだけども。


 どうしよう、紐を解かれたりしてエプロンがはらりと落ちたら……。


 うわ~~~~~!! はずかち~~~~!!!



「間違いなく通常運転ですわ。こういう時の祥子様はあまり見てはいけないのですわよ」



 見ないで~~~~!!



「え、でも、さっきよりも顔が真っ赤になってるんだけど…。やっぱり体調が悪いんじゃ……」



 こ、このバラで大事な所を隠そうかしら。


 いやいや、そんな事したら余計に恥ずかしいような…。



「つ、通常運転ですわ。とにかく祥子様を見てはいけないんですぅ!」



 あ、そうだ、絆創膏を貼って……。



 いや待て、それは何だか変態っぽい!



「皆さん、おはようございます。何やら楽し気なようですが、どうかしたのですか?」


「あ、薫子さん、おはようございます。葉月さんが祥子様の通常運転をご存じないようでしたから、教えて差し上げていた所ですわ」



 これはもうあれね。


 開き直って全部をさらけ出す戦法をとるべきじゃないかしら。


 そしたら千聖君もその気になって……。


 え、その気になるって何!?


 うわ~~~~~!!! その気になるって何~~~~!!?



「あ、祥子さんが茹でだこみたいになってるよっ。これ絶対熱あるって!」



 落ち着け、落ち着くのよ私。


 その時のために落ち着く訓練をするのよ。


 多分、このバラはそういう事なんだよ。


 昔からバラを添えて売約済みの印にしたとか、しないとか。そんなのがあった気がする。



「ですから、通常運転だと申していますでしょ。それよりも、祥子様を見てはいけませんわよ。ねえ、薫子さん」



 つまりこういう事だ『お前は俺が予約したからな、ちゃんと心の準備をしとけよ』みたいなやつだこれーー!!


 どうしよう、どうしよう、どないしよーーー!!


 私、売約されちゃったーーー!!



「……違いますね。これは通常運転ではありません」



 わ、私は一体どうなるの!?


 食べられちゃうの!?


 私はペロリといかれちゃうの!?



「な、通常運転ではありませんの!? ではこの祥子様は、一体…!?」



 むふふ。


 そうかぁ、ペロリといかれちゃうのかぁ。



 にゃは~~~~。



「皆さんはまだ祥子様を分かってはいませんね、この状態が通常運転なわけがありませんよ」



 ふ~~~、ところで私はいつ食べられてしまうんだろうか。


 やっぱそれに合わせてこっちも色々準備があるじゃない?


 こっちも万全の態勢で臨まないといけないからね、その辺は言っておいてくれないと…。



「で、では薫子さんは今の祥子様がどういう状態かわかると言うのですか?」



 あ、そうか。


 パーティーね!



「しょ、祥子さんの状態って? 何、どういう事?」



 そうか、そうか。


 そう言う事だったのか。


 だからこのタイミングでこんなプレゼントを……。




「皆さん気を付けください。これは、あおり運転です」



「「あ、あおり運転!?」」

 



 千聖君、私は完全に読めたよ。


 誕生日だけにプレゼントで掛けていたのね。


 千聖君の考えている事は何でも分かるんだからね、ふふふ。



 ん? という事は何? 


 当日は、私と千聖君の部屋が用意されているという事?



「近づくと危険です。皆さん少し離れたところから祥子様を眺めるのです」



 うひゃ~~~~~!!


 パーティー終わった後、何があるの~~~!!?


 危険な夜になっちゃうの~~~!!?



「き、危険なの!? 祥子さんがあおってくるの!?」


「そうですわ葉月さん。貴女が一番あおられやすいんですからね!」


「何をしているのです、皆さん早く非難を!」



 もう、何?


 何だかうるさいんだけど?



 せっかく人が幸せな気分に浸っているというのに、まったくこの子たちったら騒々しいんだから。


 そんな事では立派な淑女にはなれないんだよ。



「あら皆さん、おはようございます……って。皆さんそんな遠い所でどうかなさいましたか?」



 気が付けば、汐莉さんたちが遠巻きに私を見ていた。



 また何か新しい遊びでも考えたのだろうか……?


 この子たちは時々何を考えてるか分からない所があるからね。


 多分そんな所でしょ。



「祥子様、おはようございます」


「おはようございますですわ、祥子様」


「祥子さん、おはよう」



 私が声を掛けると、三人はすぐさま近寄ってきて朝の挨拶をしてくる。


 うん、やっぱり何か遊んでいたのね。



「祥子様ぁ、何だか可愛らしい物をお持ちですわね」



 晴香さんは、私が手に持っているフラワーペンの事が気になるらしい。


 ふふふ、やっぱり気になるよね。



「これですか? これはちょっとした頂き物ですの」


「あら祥子様、お顔が真っ赤ですわ。さては、殿方からの贈り物ですわね」



 晴香さんが珍しく鋭い所をついてくる。



「内緒でございますわ。ほほほ」


「ええぇ、知りたいですわぁ」


「晴香さん、詮索は野暮というものですよ。それに、祥子様くらいになると言い寄る殿方も多いのでしょう。珍しい事ではないですよ」



 初めてですが、何か?


 前世から数えても男の人に何か貰うのは初めてですが、それが何か!?


 よくよく考えたら、私に話しかけてくる男の人なんて千聖君と怜史君以外いないし。


 言い寄られないし!



「祥子さん、モテモテなんだねぇ」


「え、いえ、そういう事では無いんですが…」



 しまった。


 変に内緒とか言ってしまったから誤解を生んでいる。



「橘君がヤキモチ焼いちゃうよ」


「えっ! そ、そうかしら!?」



 千聖君が私にヤキモチ!?


 何それ、超うれしい!



 いや、違う違う!


 これ千聖君から貰ったものだし。



 いや、そもそも千聖君はヤキモチなんて焼くんだろうか……?


 んん、想像できないな…。



「ふふふ」



 私の様子を見てくすくすと笑う汐莉さん。


 

 な、何? 私、何か変?


 人の顔見て笑うのは良くないんだよ。



「実を言いますと、これは千聖君からの頂き物でしてね」


「ああ、やっぱりそうだったんだ。何となくそんな気がしてたよ」



 なるほど、その顔はお見通しっていう顔だったのか。



 別に秘密にしたかったわけじゃないんだよね。


 独り占めにしたかったというかそんな感じだったんだけど、なんだか悔しいわね…。



 と、そこに。



「私も婚約者にそんな可愛い物を何気に頂きたいですわぁ、ねぇ薫子さんもそう思いますわよね」



 婚約者という言葉を入れて対抗意識を燃やしてくる晴香さん。



「そうですね。私の婚約者にもそれくらいの気遣いを持って欲しいものですね」



 いやあんた達、婚約者いないよね?



 しれっと嘘をついてるけど、全く平気な顔をしている。


 恐ろしい子たちだわ……。



「え、二人にも婚約者っているの? へぇ、やっぱ凄いなぁ。私とは住む世界が違うね」



 二人の嘘話に感心する汐莉さん。



「まあ、私たちくらいになると婚約者の一人や二人はいるものですよ。葉月さんももっと頑張らないと私たちのようにはなれませんよ」


「なれませんことよ」



 いやいや二人いちゃだめでしょ。


 婚約を何だと思ってるのあなた達は…。



「いやぁ、私にはちょっと難しいかなぁ」


「ふふふ、まだまだですね」


「まだまだですわね」



 汐莉さんに勝ち誇った顔を向ける二人。


 なぜそんな嘘話でそんなに勝ち誇れるんだろう…?


 やっぱりこの二人、恐ろしい子たちだわ…。



「葉月さんもパーティーで良い人に声を掛けられるかもしれませんからね、しっかりと淑女の嗜みというものを身に付けておくと良いですよ」


「いやいや、私にはそんなの来ないと思うよ。そういうのは祥子さんの所に集中するんじゃないかな?」



 汐莉さんは何故かここで私に話を振ってくる。



「え、わ、私ですかっ? わ、私はそういうのとは縁遠くて……」



 だから来ないっつうの!


 祥子ちゃんの記憶の中にもパーティーで誰かに言い寄られているような記憶は無いし、もちろん原作にもそんなシーンは出てこない。


 だから多分、私はモテないのだ……。



「ええ、そうなんだ。それは意外だなぁ」


「確かに祥子様でしたら声を掛けたがる男性も星の数ほどいるでしょう。しかし並の男性では祥子様の魅力の前に尻込みしてしまうのです。高嶺の花に手を伸ばせる男性というのは、世の中には意外と少ないものなのですよ」


「おお、なるほどぉ」



 薫子さんの謎のフォローに汐莉さんが納得している。


 本当にそういう事なんだろうか……?


 単に怖くて近寄れないとかじゃないの? ねぇ、どうなの?



「そんな大袈裟なものではないと思いますけど……」


「さすが祥子様ですわ。やっぱり私に言い寄ってくる殿方とは違うんですのね」



 …は?


 いやいや…、えっ…??


 ちょっと晴香さん? 一体あなたは何を言ってるの?


 言い寄られないでしょ? 声なんて掛けられないでしょ!?


 あなたはこっち側の人間でしょ!?



「当然です。私や晴香さんに声をかけてくるような凡百の男性などは祥子様の相手にはならないのです」



 だから、あんたもこっち側でしょうが!


 何でさり気なく自分はモテます的なのを挟んでくるの!


 何なの!? あんた達、祥子ちゃんの知らない所でナンパされて遊んでるの!?


 許しませんよそんな事!


 

「何だかよく分からないけど、とにかく祥子さん凄いんだね!」



 その適当な感想をやめなさい!



 ダメだ、このままでは汐莉さんがどんどんこの二人に毒されていく。


 ここは一番まともな私がちゃんと正しておかないと。



「二人が大袈裟に言ってるだけですわ。実際には私たちみたいな子供は相手にされませんのよ」


「ええ、そうなんだぁ。でも祥子さんだったらありそうだけど」



 私だったら…?


 あら、そう?



「当然です。いつもパーティーには祥子様に声を掛けたそうにしている男性で溢れていますからね」



 え?


 ……ほんとに?


 ていうか、そういう事はその場で教えなさいよ。


 そういうのって絶対あとから言うよね。


 わざとでしょ?


 ねぇ、わざとなんでしょ!?



「そうですわ。私に声を掛けてくる殿方も祥子様の話をよくなさるもの」



 いやいや、ほんとに?


 私はそんな簡単には騙されないよ?


 いや違う! だからそういうのはその時に言いなさいって話よ。


 いやその前に、自分はモテるアピールをやめなさいって!


 いやいや待って、汐莉さんがこの二人に毒されないように守らなきゃいけないんだった!



 ああもう、何だか混乱してきた!



「そ、そうでしたか。でも、すぐに声を掛けてくる方よりも、そうした方のほうが好感は持てますわね」



 いや、違う違う。こんな事を言いたかったんじゃなかったはず…。


 もっと何かこう、汐莉さんが毒されないような言葉は無いものか……。



「これですよ葉月さん。どんな男性にも分け隔ての無いお気持ちを持たれる。これぞ淑女の鏡というものです」


「淑女の鏡ですわ」



 いや、そんなつもりは無かったんだけど…。


 ていうか、淑女の鏡って何……?



「おお、さすが祥子さんだね!」


「当然です。祥子様ですからね」


「当然ですわ。祥子様ですもの」



 何だかよく分からないけど三人が意気投合している。



 なぜ私の事でそんなに盛り上がっているのか分からないけど、三人はとても楽しそうだった。



 こういう盛り上がっている状況になると、私はどうしてもその流れに逆らえなくなる。


 この空気を壊す事も怖いし、このノリを壊したくないみたいなよく分からない重圧が圧し掛かってくる。



 その同調圧力のようなものの前に私は。



「ま、まあ、それくらいは当然の事、かもしれませんわね……」



 と、そんな調子に乗った事を言ってしまったのだった。



 たぶん、これ言った事を後で何日も後悔するんだろな……。




 この後も三人は私アゲで盛り上がるのだけど。



 私は勝手に一人で天国から突き落とされたような気持ちとなっていた。


 


 はぁ…、こんな自分を変えたい。







いつもお読みいただきありがとうございます(/・ω・)/


だいぶ遅くなって申し訳ないです( TДT) あっちもこっちも書くのは大変でして……。

そんなこんなで39話ですが。まだ39話なんですねぇ…。何百話と書いてる人が神様に見えてきます。凄いです。


ブクマ・評価ありがとうございます。頂けると励みになります。

そんな訳でまた次回にお会いしましょう(*'ω'*)ノ

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