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37、みんなの勘違い




 私がその声の方に振り向くと、そこには。



「お、お兄様…!」



 たぶん私の帰りを待ち侘びていたんだろうお兄様が、私を見つけて喜び勇んで声を掛けてきたのだ。



 お兄様ったら、恐らく窓の外なんかを眺めながら私の帰りを待っていたのね。


 そういう事なのね。


 いやそうに違いない。



「珍しいじゃないか、お前が友達を連れてくるなんて」


 

 気のせいか、いつもより輝きを増しているお兄様が私に近寄りつつそう言った。



 あらあらお兄様、私を見つけたからってそんなに光り輝かなくてもいいんだよ?


 なんなのその輝きは。


 犬の尻尾的なものなの? 嬉しいと輝きを増すみたいな?



「え、ええ、クラスメイトの皆さんです。……って、別に珍しくなんてないです!」



 まったく、私が友達いないみたいに言わないでよね。


 いないけど!


 いや、今はいるんだよ!



「そうかぁ? あまり覚えが無いような……」


「友達の前であまり失礼な事は言わないでください。…あ、皆さん、こちらは私の兄です」



 私が兄を紹介すると皆は全身を硬直させた。


 突然のイケメン登場で皆に緊張感を与えてしまったようだ。



 まあ、見た目だけは! 良いからね、お兄様は。



「兄の冬華です。いつも妹が世話になってるみたいだね」



 そう言いながら皆に微笑みかけるお兄様はさらに輝きを増した。…そう見えるだけで、実際に輝いてる訳じゃないけどね。



 そして皆はその輝きに圧倒され。



「い、いえ、あの、こちらこそ……」



 もじもじしながらその頬を赤くする。



 当然だ。


 お兄様はイケメンである事に加えて、如月家の次期当主としてのカリスマのようなものが溢れ出ている。


 常人にはまず近寄りがたい存在と言って良い。


 かく言う私も身内じゃなかったらこんな気軽に喋れなかっただろう。



 しかし――



「あ、あの、お兄さん。私、桜井と言いまして、如月さんにはいつもお世話になっています!」



 ここでぐいぐい来たのは桜井さんだった。



 この子凄いな…。


 あの光り輝くお兄様に話しかけていけるとは。


 何か末恐ろしいものを感じるわ……。



「そか、祥子の事よろしく頼むな」


「は、はい!」



 この時、お兄様の輝きはマックスに達した。


 まるで少女漫画から抜け出したような、バックにきらきらと花びらが咲き乱れるような、そんな誰をも魅了する笑顔がお兄様から皆に向けられたのだ。


 これには桜井さんも参ってしまったようで、漫画のようにハートの蕩けたような目になってしまった。



 …………。



 なるほどそう言う事か、このバカお兄ちゃんめ。


 どうもいつものお兄様と違うと思ったら、むぅ、妹の友達をその毒牙にかけようとしているとは!



「お、お兄様。そろそろご自分の部屋に戻られてはどうですか?」


「何だよ急に、今お前の事をよろしく頼んでるのに」


「そんなのいいですから、さあ早く部屋に戻ってください」



 私はお兄様の背中を押しながら、皆からお兄様を遠ざける。



「おい、押すなって。まだ話してる途中だろ?」


「もう話は終わりました。お兄様はこれ以上この子たちに近づいちゃいけません」



 さらにぐいぐいとお兄様の背中を押す。



「ちょっと挨拶してるだけだろ、まったく可笑しな奴だな…。あ、さてはお前、焼きもちだな? 俺が友達と話してて妬いたんだろ。しょうがない妹だなぁ、いつまでもお兄ちゃん子だからな祥子は」


「馬鹿な事を言ってないで本当にあっちに行っててください!」



 ふんっ、バカお兄ちゃんめ。


 何が焼きもちか。自惚れが過ぎるってもんよ。


 ほんと、しょうがないバカお兄だよ。



 そんな感情はね、半分くらいしか無いんだからね!



「はいはい、分かりましたよ。まったく、すぐに人を邪魔者扱いする」



 お兄様はぶつぶつと何かを呟いた後、皆に「じゃあまた今度の機会に」と言って去って行った。



 次の機会なんてありません! 


 そんなものは私が許しません!


 この子達は私が守るからね。



「皆さん兄が大変失礼いたしました。少し時間を取られてしまいましたね、さあ早く私の部屋へ参りましょう」



 兄が去っていく背中をぽーっとした目で眺めている皆に、私はそう声を掛けた。



「いやぁさすが祥子さんのお兄さん、凄い美形だったねぇ」



 呟くような声でそう言う汐莉さん。



 ぬ、汐莉さんまで。


 まずい、このままでは奴の被害者がまた増えてしまう。



「汐莉さん、あの見た目に騙されてはいけませんよ。あれは女の敵ですから」


「え~、凄く優しそうな良いお兄さんに見えたけど」


「優しくなんてありませんわ。お兄様はいつも私をからかって遊んでるような性格ですからね、優しさなんて微塵も無いんですよ」


「あら。ふふふ、祥子さんはお兄さんと仲良しなんだね」


「え、いえ、仲良しとかでは……」



 むむむ。


 おかしいな、全然話が通じないじゃない。


 どうやってお兄様の悪辣ぶりを伝えたら……。



「如月さん……」



 そこに桜井さんが。



「お兄様も今度のパーティーに出席なさるんですか?」



 未だ目をハートにしたままそう訊いてきた。



「え、ええ。お兄様も出席いたしますけど……。いえそれよりも、皆さんもお兄様にはあまり」



 って、絶対聞いてない目をしている。


 ダメだ、この子はもうお兄様の餌食に……。



 せめて他の子たちは守らないと!



 他の子たちを……。



 しかし、よく見れば他の子たちも同じような目をしていた。




 ……うん、だめだこりゃ。








  ☆








 ようやく私の部屋に到着した私たち。


 入った瞬間に今日はもう何度目だろうという皆から漏れる感嘆の吐息。



 まあ私も未だに馴染めない時があるくらいだからね、そんなリアクションになるのも仕方ないだろう。


 なんたって一人でこの部屋にいても殆どがベッドの上かソファーに座ってるかで、この広い部屋をかなり持て余している状態だからね。


 というかこんな広い部屋は必要ないのよね。


 人間は六畳くらいの広さとネット環境があれば他には何も要らないのよ。



「わあ、やっぱり祥子さんの部屋凄いねぇ」


「如月さん、ステキ!」


「さあさ皆さん、部屋の事よりも今日の目的はドレスですよ」



 普段ドレスは衣裳部屋に置いてあるのだけど、帰る前に連絡して適当に見繕って私の部屋に運んでおいてもらった。


 なので今、私の部屋にはハンガーラックと共にドレスたちがこれ見よがしに並んでいる。



 凄く見栄えよく並んでいる私のドレスたち。


 こういうのも見せ方みたいなのがあるんだろな…。

 

 うちのメイドさんたちは優秀だ。



「わぁ、綺麗だなぁ」


「なんだか大人っぽい感じだね」


「うん、凄い」


「さすが如月さん!」



 誰のものか分からない感想が聞こえてくる。いや、一人は確実に分かるけど…。


 皆の表情を見ていると、どうやらここにあるドレスを気に入ってくれたようだ。



「皆さん、好きなのを選んでくださいね。サイズは多少直せますので遠慮なく言ってください」



 私がそう言葉を掛けると、皆はゆっくりとドレスの所へと集まってくる。


 そして恐る恐るというように手を伸ばし、そっとドレスのデザインなどを確認していくのだった。



 うーん、なんか遠慮のようなものがあるなぁ。



「皆さんどうぞ手に取って見てみてくださいね。こちらにスタンドミラーがありますので合わせるのにお使いください」



 と、皆が遠慮している中でも桜井さんはそうでは無かった。



「如月さん、どれも素敵で迷いますね!」


「そうですか、お気に召されたようで何よりですわ」



 また近づいてきてる……。



 ここはちょっと回避を。



「汐莉さんはどうですか? 気に入ったものが有りましたか?」


「んー。私、こういうのよく分かんなくて……」



 そう言って、眺めているだけでずっと唸っている汐莉さん。


 

 まあ、汐莉さんたちはあまり着る機会も無いしね。


 仕方ないか。



「そうですね…、汐莉さんでしたらこのチュール生地をあしらったのとかどうですか? ふわふわしていて汐莉さんに似合うんじゃないかと思うのだけども」


「わあ、何だかカッコかわいいね!」



 私が適当に選んだドレスに汐莉さんは目を輝かせる。



「サイズなどの調整もありますし、良かったら着てみてください。なんでしたらウォークインクローゼットを試着室にして頂いて構いませんから」


「うん、ありがとう」



 汐莉さんは目を輝かせたままそのドレスを手に取り、鏡の前で自分の体に当てたりしながら嬉しそうにしていた。


 そして暫くの間そうしていた後、そのドレスを持ってクローゼットの中へと入っていった。



 気に入ったのかな?


 やっぱり少女漫画のヒロインは、ああいうふわふわなのが良いよね。


 私が着てもたぶん似合わないだろうけど…。



 祥子ちゃん、何であんなドレスを持ってたのかな……?



「さあ皆さんも気に入ったのがあったら着てみてくださいね」



 一名を除いて未だ遠慮がちな他の子たちに声を掛ける。


 すると、一人が私の方におずおずと近づいてきて。



「あ、あの如月さん。私にはちょっと合う服が無いようで……」



 そう言ったのは、ええと確か西園寺さん? だった。



 西園寺さんは、ちょっとぽっちゃり体型で身長も低め。


 何と言うか、ゆるキャラみたいな雰囲気で凄く可愛いんだけど、ちょっと私の体型とは違い過ぎている。



 んー、西園寺さんのような体型でも着られるのはあるんだけど……。



「お気に召しませんでしたか? 色々なタイプのものがありますので西園寺さんに合うものもあると思うのですが」


「え…と、何と言うか。私がこういうの着ると、ゆるキャラみたいになっちゃうから」



 ごめん、それたった今思ってたよ!



 何と言うか、パッと見てやっぱ思っちうよね。


 愛玩動物みたいな感じで愛でたくなるというか…。



 ていうか、ゆるキャラって思われるの嫌だったのね。完全にその路線で考えちゃってたよ。


 そうかぁ、嫌なのか……。



 …残念。




「そうですか、可愛らしくて良いと思いますけど」


「別に言われるのは慣れてるから良いんだけど、からかわれても私上手い返しとか出来ないから…」



 西園寺さんの声音が徐々に暗くなっていく。



 からかわれたのか……。


 あれか、ちょっと男子ぃ! 的なやつか。

 

 こんな可愛い西園寺さんをからかうとは。おのれ男子め、令嬢パンチをお見舞いしてやろうか。



 まあ残念だけどしょうがない、あまりこういう傷口には触れないようにしよう。



「んー、それでは着物とかどうでしょうか? 和服で来られる方も沢山おられますよ」


「着物でも大丈夫なんですか?」


「ええ、和服が好きでいつも着られてる方もいますし、踊るのが苦手で和服を着る方もいますね」


「そっか…。じゃ、じゃあ私、着物にしようかな…」



 暗くなっていた西園寺さんの声が少し明るくなった。



「それが良いかもしれませんね。ではすぐに着物を用意させますわ」


「ごめんなさい、我儘言って…」


「いいんですのよ、ふふふ」



 と、そこにクローゼットに入って試着をしていた汐莉さんが声を掛けてくる。



「あの祥子さん…」


「あ、汐莉さん。どうです、着られましたか?」



 汐莉さんは持って行ったドレスを何とか着たようだけども…。



「やっぱりちょっとサイズが…、祥子さん細すぎだよ」


「大丈夫ですよ、お直し致しますので。どの辺りがきついですか? きつい所を採寸しましょう」


「お腹の辺りが特に…」



 ふふふ、こればかりは少し優越感よね。


 まあ、体質であまり食べられないから自然とこの体型になってるだけだけど…。


 これくらいの特典はあってもいいでしょ。



「あと、胸の方も少し…」



 な、何…?



「そ、そうですか…。で、では、そ…そちらも測りましょうかね……」



 い、いかん、動揺が……。



「あ、でも少しだけだから…」



 そんな気遣いはいらない。



「な、長い時間着ていると、苦しくなってきますので、…ちゃんと採寸はしておかないと…ですわ」



 いやいや、おかしくない?



 少女漫画の主人公がおっぱい大きいのはご法度じゃないの?


 どの漫画見ても皆すとーんってしてるじゃん。すとーんってさ。


 普通は悪役の方がおっぱい大きいってパターンが多いんじゃないの? ねぇ、どうなの!? その辺どうなってんの!? ちょっと責任者出てきなさいよ、令嬢パンチをお見舞いしてあげるから。



「祥子さんが測ってくれるの?」


「え、ええ、こういうのは慣れてますからね。まあ、いつもは測られる側ですが。さあ、ドレスを一旦脱いでください、正確なサイズを測りますので」



 ぬぅ、下着越しでもそのボリュームが。


 汐莉さんがこんな危険な武器を隠し持っていたとは…。



 そうか、原作ではこれで千聖君を悩殺してたんだな。


 何てことだ…、この小悪魔おっぱいめ。


 こんにゃろ。こいつめ、こいつめ!



「い、いたた、痛いよ祥子さん?」



 おっと、気付かないうちにメジャーを持つ手に力が入り過ぎてしまったようね。



「あ、あら、ごめんなさい。ちょっと加減が分からなくて、おほほほ」


「……?」



 いけない、いけない。ついつい我を忘れていたわ。


 私としたことが、おほほ。



 と、私が一人で対抗心を燃やしていたときだった。



「もういい加減にしてよ」



 私の耳に飛び込んできたその声は桜井さんのものだった。



「皆で決めた事なんだからあきらめなよ」


「皆って言っても桜井さんが一人で決めたようなものだったし…」



 その桜井さんの声は雲英さんに向けられたもの。


 どうやら二人がちょっとした言い争いのようになっているみたいだった。



「ええ何? 私が皆を巻き込んだみたいに言わないでよ」



 んんん?


 ちょ、ちょっと、揉め事は無しよ。



「ふ、二人ともやめようよ」



 そんな二人を雨宮さんが止めに入っている。



 さっきも桜井さんと雲英さんで変な感じになってたな…。


 こういうのやめて、ドキドキするから。



「あ、あの、どうかされたのですか?」



 私は恐る恐る雨宮さんに近寄り、そっと訊いてみた。



「あ、如月さん。ええと、ちょっと二人の意見が合わないというか…」


「それは、どういう事ですの…?」


「今回のパーティーに行くかどうか話してたとき、桜井さんは乗り気だったんだけど雲英さんはあまり気乗りしてなくて…」


「そうだったんですか……」



 なるほど…、それで二人の間にわだかまりがあると。



「あの、雨宮さんと西園寺さんは…?」


「あ、私たちは皆が行くなら行くってスタンスで、正直どっちでも良かったんだ。そこに如月さんがドレス貸してくれるって言い出してくれたので、桜井さん側に傾いた…みたいな?」


「そうでしたか…」



 これは、えと、……どうしたらいいの?


 全員出席してほしいけど、来たくない人を無理やりって訳にもいかないし…。


 桜井さんは皆で行きたい感じなのかな……。



「雲英さんはいつもそうやって後からグチグチ言うでしょ。言いたい事はその時に言ってよ」


「桜井さんがいつも一人で喋って口を挟ませないようにするんじゃん」



 ま、まずい、争いが激化し始めている……。



 うーん。


 どっちかに付いても角が立つし……。


 でも放っておいたらこの二人どんどん仲が悪くなりそうだし……。



 んー、これはどうしたら良いんだろう?


 教えて千聖君…。



「如月さん。私はパーティー行きたいです。着物着たいです!」


「西園寺さん…」



 西園寺さんは丸っこい手をぎゅっと握りしめて力強くそう言ってきた。



 何この可愛い子。


 ちょっと頬っぺたぷにぷにしたい。


 暫くこの子の生態を眺めていたい。



「雲英さん、そうやってすぐに人のせいにするの良くないよ」



 おっと、今はそんな事言ってる場合じゃなかったね。


 この二人を止めないとなんだけど、うう、この間に入りたくないなぁ…。



「桜井さんこそ自分が行きたいからって皆を巻き込んで――」


「ま、まあまあ、お二人とも落ち着いてくださいな」



 私は何とか勇気を振り絞って二人の間に割って入った。



 多分これ以上放置したら確実にこの二人は喧嘩になる。


 そしたらその険悪なムードが全員に波及して、楽しいはずのドレス選びが台無しよ。


 我ながら絶妙なタイミングで止めたわね……。



 ……止めたは良いけど、この後どうしよう。



「如月さん、ごめんなさい。私パーティーが嫌とかじゃないんだけど…。何と言うか、そんな場違いな所が苦手というか……」



 雲英さんは俯きながら申し訳なさそうに言う。



「雲英さん、そんな顔なさらないで。別に無理強いしようという訳ではありませんから」


「如月さん……」


「それに、雲英さんは場違いなんかではありませんよ。今度のパーティーはクラスの親睦を深めるという目的もあるので、雲英さんがいて当たり前なんです。このパーティーにクラスメイトが出席する事に誰かにとやかく言われる事なんて無いんですのよ」


「それは、本当ですか…?」



 いや、知らないけど。


 ごめんなさい、適当に言いました。



「さすが如月さん……、素敵です」



 桜井さん、あんまり褒めないで。良心が痛むから…。



「如月さん、私頑張って出席してみようかな……」


「雲英さん…、それは私も嬉しいですわ」



 お、おお、説得成功…?


 い、意外とチョロかったじゃない……?



 ど、どうよ、私にかかればこれくらいのネゴシエイトは朝飯前の――



「如月さん、私分かりました!」



 ここで急に桜井さんが声を張って私に距離を詰めてきた。



「な、何がでしょう、桜井さん」


「ずっと考えていたんです。如月さんがどうして私たちにこんなに優しくしてくれるんだろうって。その真意が今ようやく分かりました」



 えっ!?


 ちょ、ちょっと待って! 


 わ、私の真意とかって、そそそんなの、下心しかないじゃない!


 やめて、こんな所でそんな事ぶっちゃけないで!



「さ、桜井さん、ちょっと待って――」


「如月さんは平等なクラスを作ろうとしているんですね!」



 へ……?


 何それ…?



「桜井さん、平等なクラスって……?」



 雨宮さんが桜井さんに訊き返す。



「私たち外部生徒はいつも肩身の狭い想いをしてるでしょ、それに心優しい如月さんはいつも胸を痛めていたのよ。だから如月さんは内部生徒と外部生徒の壁を取っ払って格差のない平等なクラスを作ろうとしているの」


「そ、そうだったの!?」



 そ、そうだったの!?


 いや知らない知らない! 私そんな事一度も考えたこと無いよ!



「桜井さんの言う通りだよ」



 と、そこに汐莉さんが……。



 下着姿で現れた。



 ちょ、ちょっと、何で服着てないの!?


 さっき採寸で脱いでもらったけど、何でそのままなのよ!?


 女子同士だから良いって思ってるとか?



「私なんて入学してから何度祥子さんに助けられた事か。たぶん私、祥子さんがいなかったらこの学園が辛くてしょうがなかったと思う。だから桜井さんの言う事当たってると思うよ。祥子さんならそれくらい崇高な事を考えていても不思議じゃないもの」



 あなたの半裸のせいで、何言ってるんだか頭に入ってこないわ。


 いいから早く服を着てくれないかな。



「葉月さん…、やっぱりそうだったんだ」


「そうか…。そんな事も知らずに私ったら、自分の都合だけで嫌がったりして……」



 いやいや雲英さん。


 私も自分の都合しか考えてないから。


 今回も千聖君の為に何か出来ないかと思っただけだからね。



「ちょ、ちょっと皆さん――」


「如月さん、私たちのために……。良い人すぎるよ!」



 雨宮さんまで……。



「い、いえ、私は別にそのような事は…」


「いいえ、如月さん。謙虚な如月さんは自分からそんな事言えないですよね。大丈夫です、私たちは分かってますから」



 桜井さん、あなたちょっと黙ろうか?


 あなたが喋るとどんどん変な方に行くんだけど。



「如月さん…、ゆるキャラって揶揄われないクラスになりますか?」



 西園寺さんが子犬のような目をして私に問いかける。



「そ、そうですね。…なるような、気がしなくもないですわね……」



 ちくしょー、可愛すぎる!


 多分みんな可愛くて弄ってるだけなんじゃないかな?


 何かそんな気がしてきたよ。




「ねえ、私たちで何か協力できる事は無いかな?」



 汐莉さんがまたおかしな事を言いだした。


 あなたは早く服を着ろ。



「ちょ、ちょっと汐莉さ――」



「え、でも私たちに出来る事なんて……」


「私たちが何かすれば逆に如月さんに迷惑なのでは…?」


「そうだよ、如月さんの足手纏いになっちゃうよ」



 ねぇ、その話もうやめない?



「何でも良いんだよ。祥子さんは私に教えてくれた、何もしなきゃ物事は変わらないって。それは、たった一言発するだけでも良いんだって」



 いや、言ったけど。


 何か恥ずかしいからやめてくれない?


 それに何か若干ニュアンスが違う気がするし。



「さすが如月さん……」


「やばい、私涙が出てきた…」


「わ、私も……」


「如月さん……」



 何だか凄くまずい流れになってきているような……。


 そろそろ止めないと何かとんでもない事になりそうだよ。



「み、皆さん、どうか落ち着いて――」


「じゃあ各人で何か考えて行動しなきゃだね」


「だね。一言発するだけでも良いんだもんね」


「私も、何かするよ! 一言発するよ!」


「私も発する!」



 ねぇ、何でさっきから私を無視するの?


 あと、何か私のセリフをディスってない?


 気のせい?



「祥子さん、私も祥子さんを手伝わせてね!」


「私も!」


「私も私も!!」



 何か妙な盛り上がりを見せながら五人は私に詰め寄ってくる。



 その瞳は生き生きとした輝きに満ち。


 まるで迷いの無い子供のように真っ直ぐだった。




 私はその迫力に圧倒されて。



「あ、ありがとうございます……」




 そう答える事しかできなかった。






 ……何これ?







いつもお読みいただきありがとうございます(/・ω・)/


何でこんな話になってしまったのかよく分からない37話目です

次こそは真面目な話を……、と毎回思ってたりします(*'ω'*)


それではまた次回にお会いしましょう('ω')ノ


ブクマ、評価等いただけたら大変嬉しいです。

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