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36、距離を保とうね




 ――放課後。



 私は美化委員の作業に顔を出していた。



 医務室で取り決めた通り、今日は汐莉さんたち外部女子生徒が私の家に来ることになっているのだけど、その前に少しだけ美化委員の作業をするのと、そのついでに柊木君に訊きたい事があったのだ。


 美化委員の作業といっても、ゼラニウムの苗はもう既に植えてあるので今は殆どやる事もない。


 やる事といったら、毎日私か柊木君がただ水をやるだけの作業となっているのだ。



 まあ、柊木君が雑草とか取り除いたりしてるみたいだけど、その辺の細かい事は任せっきりなってしまっている。


 ちょっと申し訳ない……。



「え、パーティーですか?」



 柊木君に訊きたかった事、それはもちろん千聖君のパーティーの事だ。



「ええ、外部の男子の方達はどうされるのかと思いまして」



 女子たちには私のドレスを貸す事になったけれど、男子の衣装はさすがに誰かの協力が無いと私だけでは無理だ。


 柊木君たちが衣装を用意できないようなら、怜史君にでも頼もうかと思っているんだけども……。



「せっかくの機会ですからね、みんな出席するみたいですよ」


「せっかくの機会…?」


「ええ、珍しい物見たさというかですね。こんな事でもないとそんなパーティーに僕たちが参加する事なんて出来ないでしょ? 多少恥をかいても、出席しようって事になりまして」



 おお…。


 男子たちは意外と冒険心が旺盛なんだな。



 汐莉さんが言うには、女子たちは参加するか悩んでいる所だったらしい。


 多分私がドレスの事を言いださなかったら汐莉さん以外は不参加だったのではないかと思う。


 まあ前世の私でも、そんな引け目を感じる様な所には絶対行かないけどね……。



 でもそれだと困るのよ。


 全員参加してこそパーティーが成功したと言えるんだからね。



「そんなに気負わなくても気軽に参加して頂いたらいいんですよ」



 と、柊木君たちの緊張を解すような事を一応は言ってみる。



 言ったは良いんだけど、実は今度のパーティーには財界の大物とかも来るんだよね……。


 柊木君、多分そんな事は知らないだろうな。


 いや、知らない方が良いかもね…。


 うんこれは最後まで知らない方がいいやつだね。



「はい、僕たち結構楽しみにしてるんですよ。料理も美味しそうだし」


「お料理の味は私が保障しますわ。それにビュッフェ形式で堅苦しいマナーもございませんから、気兼ねなく楽しんで頂けると思いますわ」



 橘家の料理人も我が家の料理人に負けない一流シェフを雇っている。


 パーティは橘家の別宅で行われるので、そのシェフ達が腕を振るう事になるのだろう。


 たぶん柊木君たちが普段食べないような料理だろうから、当日は吃驚するんだろうな、ふふふ。



「ビュッフェですか、それは助かりますね。テーブルマナーとかうろ覚えですからね」



 そう言って頭を掻きながら笑う柊木君。



「ダンスタイムもありますからね、テーブルは邪魔にならない所に配置するんですよ。あ、ところで……」



 服をどうするか訊きたいんだけど…。


 んん、どう訊いたものだろうか……。


 着ていく服はあるのか、とか直球で訊いていいのかな?



 バカにするなってならない?



「どうかしましたか?」


「あ、いえ、皆さんその、お困りの事はないかと…、例えば服装の事とか…」



 一応、やんわりとは言ってみたけど…。大丈夫かな?


 薫子さんだったらもっとバシッと訊くんだろなぁ…。


 うらやましい……。



「ああ、最初はどうしようか悩みましたね。それで皆で相談した結果、父親のスーツを借りることになりましたよ」



 おお、そういう手があったか。


 なるほど、こういう時は男の子は楽でいいね。


 女の人は着るもので年齢が出ちゃうから、なかなかそうはいかないもんね。



「そうでしたか、それは良い案ですね。他にも何かお困りの事がありましたら何でも私に訊いてくださいね」


「それは心強いですね。如月さんにそう言ってもらえると他の連中も喜びますよ。ははは」



 なんだか意味ありげな事を言われた気がするけど…。


 まあ、あまり気にしないでおこう。



 それよりも男子の方は心配なさそうね。


 女子の方もなんとかなりそうだし、割と順調だね。よしよし。



「それでは柊木君、私はこの後用事がありますのでこれで失礼いたしますね」


「え、はい。わかりました」



 柊木君にそう言うと、私は颯爽とその場を後にした。



 汐莉さん達が家に来るという事で少し気持ちが高揚しているのか、その足取りは少し弾んでいる。


 たぶんもう待ち合わせの場所にみんな集まってるんじゃないかと思うと、自然と足早となるのだった。



 あれ、私美化委員の仕事とか何もやってない?



 ……。



 柊木君、後は任せたわよ!







  ☆






 待ち合わせの場所に着くとそこにはすでに汐莉さん達が私の到着を待っていた。


 待たせてしまった事を詫びようと皆の所に走り寄ると、一人の女の子が私に近寄ってきて。



「あの如月さん、今日は私たちの為にすみません!」



 開口一番でそう言ってきた。



「あ、祥子さん。この子は桜井さんで、こっちは雨宮さんに雲英(きら)さん、それから西園寺さんです」



 汐莉さんが順番に紹介した途端、その四人はばっと一斉に頭を下げ…。



「「「「今日はよろしくお願いします!!」」」」



 声を揃えてそう言ってきた。



 え、ええぇ。


 ちょ、ちょっと、大袈裟じゃない……?


 やっぱり同級生といえど、如月祥子と接するのは緊張するのだろうか…? そういや、合宿で話しかけてきた桜羽さんも何だか怖がってたしな……。



「み、皆さん、そんなに畏まらないでください。そもそも私の方から申し出た事ですので……」


「あはは、みんな祥子さんが気を使ってくれて恐縮しちゃってるんだよ」



 呆気らかんとそう話す汐莉さん。



「私の方こそ差し出がましい事を言ってしまったのではと心配していたのですよ」


「そんな、とんでもない! 私たち着ていく服も無いから辞退しようかと思ってた所だったので凄く助かります」



 四人を代表するようにそう言ってきたのは、最初に私に話しかけてきた、ええと…桜井さんだ。…い、一気に紹介されても名前覚えられない。



 とにかく、かなり緊張してるみたいだからここは笑顔よ。


 ただでさえ怖い顔してるからね、笑顔で彼女たちの警戒心を解くのよ。



「そうですか? そう言って頂けると安心いたしますわ」



 私はそう言ってとっておきの令嬢スマイルを浮かべた。



 ……のだけど、何故か彼女たちの顔が一瞬硬直した。



 どういう事よ!


 私だって初めて喋る人たちだから緊張してるんだからね。


 まったくもう。



「祥子さん皆ちょっと緊張してるけど、前から祥子さんとお話してみたいって言ってたんだよ」


「あら、そうでしたか。私も皆さんとお話できるのを楽しみにしていましたわ」


「本当ですか!?」



 桜井さんが声を張り上げて私との距離を詰めてくる。



「え、ええ、本当ですわよ」


 

 ち、近いよ?


 そんなに近寄らなくても会話って出来るんだよ?



「良かったぁ。私、如月さんは私たちなんて相手してくれないと思ってたから」



 そう言いながら桜井さんは顔を近づけてきて目を輝かせる。


 

 ず、随分と、ぐいぐい来る子だな……。



 それにちょっと近いんだって。


 距離感! パーソナルスペース! 


 これは人間関係における重要な二つなのよって……。


 ちょっと待って、顔がどんどん近づいて来てるからね。


 そのままいくとチューしちゃうからね!



「そ、そんな事ありませんわよ。皆さん同じクラスメイトなんですから、もっと仲良くなりたいですわ」


「如月さん」


「ま、まあまあ、落ち着いてくださいな、桜井さん」



 桜井さんがもっと寄ってこようとするのを、私は彼女の肩に手を置いて制止した。



「あ、ご、ごめんなさいっ。私、ちょっと興奮してて…」



 危ない危ない……。


 あのままだと女の子と初チューをするところだったわ。



「さあ皆さん、そろそろ参りましょうか。あちらに迎えの車が来ていますので」



 唇の危機を脱した私は、皆に移動を促す。



 私を先頭に女六人で駐車場まで大移動だ。


 なんか、この位置取りだと私がこの集団を率いてるみたいで嫌なんだけど。


 まあ、うちの車まで連れていってる訳だからしょうがない。




「祥子さんの家の車ってどんなのか楽しみ」



 駐車場に入ると汐莉さんが目を輝かせてそう言ってきた。



 まあ、気持ちは解らなくもないけどね。


 私も前世だったら令嬢の乗る車とか一度乗って見たかったし。



 ただ、今日はいつもの車と違うんだよね。


 いつもの車だとこの人数は乗れないだろうから、事前に家に連絡して大きい車で迎えに来るように言っておいたのだ。


 ふふふ、用意周到な私。有能!



「うちの車といっても、そんな期待に応えられるかわかりませんが……」



 そう言いながら駐車場に目をやると、そこにはうちの運転手とその後ろに……。



「――!?」



 あ、あれは…。



 リムジンじゃん!!



 なんで!? なんでそんな大袈裟な車で来ちゃったの!?


 ちょ、ちょっと、友達連れて行くのにそんな車で来る?


 うちにもワゴン車とかあったよね? 何でそれで来ないの?


 え、これが常識なの…?



 私が若干引いてると、横から汐莉さんが感嘆の声を上げた。



「わ、凄い、あんな車テレビでしか見た事ないよ」



 私もだよ…。



「ちょ、ちょっと、大袈裟でしたかしらね……。普段はあんな車じゃないんですけど…」



 祥子ちゃんだったら、あのリムジンを自慢するのだろうか?


 分からない…、こういう時の正解って何?



「凄い…。如月さん、私ああいう車に一度乗ってみたかったんです!」



 またもや桜井さんがそう言って距離を縮めてくる。



「そ、そうですか? お気に召されたようで何よりです…」



 そんな桜井さんから少しずつ距離をとる。



 距離をね、一定の距離を保とうね。


 そういうの大事だと思うのよ私は。



「わあ、凄いね」


「うん、そうだね」



 桜井さん以外の子たちからも感嘆の声が漏れている。



 あれ、意外と好評?


 大袈裟すぎて恥ずかしがるかと思ってたけど、私の杞憂だった?



「さあ皆さん、乗ってください。早く移動しましょう」



 私がそう言うと運転手さんが車のドアを開け、そこに手を差し伸べて皆を中へと誘った。


 それに従うように車の中に乗り込む汐莉さん達。


 そしてその内装を見て、またもや感嘆の吐息を洩らすのだった。



「わあ、中はもっと凄いね」



 汐莉さんの言う通り、中はもっと凄かった。


 側面に配置したテーブル。


 それを囲むようなLの字に曲がったシート。


 シートに座ってゆったり見られるように設置された大画面スクリーン。


 それはまるで、何処ぞの高級クラブにでも足を踏み入れたかのような豪華さだった。



 な、何これ……。


 こんな車、うちにあったのね。


 初めて知ったよ……。



 そして、内装を見た桜井さんはさらに興奮して詰め寄ってくる。



「さすが如月さん! 如月さんにピッタリの車じゃないですか!」



 ……うん、どういう意味?


 この子は私にどんなイメージを持ってるんだ…?



 それに、なんで私にピッタリだとそんなに興奮するの?



「そ、そうですか? ありがとうございます。では皆さん座ってください、出発いたしますよ」



 私がそう言うと、皆が声を揃えて「はーい」と返事をしてシートに腰を下ろした。



 こうして私たちを乗せたそのリムジンは我が家へ向けて出発するのだった。






  ☆






 我が家へと向かう道中少し話していたのだけど、第一印象では皆良い子たちだった。……桜井さんはちょっと変わってるけど。


 雨宮さんと雲英さんと西園寺さんはちょっと引っ込み思案なのかな?


 言葉数はまだ少ないけど、打ち解けたら多分もっと色々話してくれるのではないかと思う。


 感覚は合うと思うんだよね、私も元庶民だし。



 ふふふ、何だか友達が増えそうでちょっと嬉しい。



 そんな事を考えているうちに我が家へと到着する。



「「「「おかえりなさいませお嬢様」」」」



 車のドアが開くなり飛び込んでくる使用人たちの声。



 ああ、そうだった、これがあったんだ。


 今日はやめて欲しい言っておくべきだった……。



「わわわわ、しょ、祥子さん。皆すごいお辞儀してるよ」



 うん、びっくりするよね。


 私も最初驚いたからね。



「ふわ~~」



 雨宮さんたち三人もびっくりして言葉を失っている。



「如月さん……、素敵」



 桜井さんだけ何か違う方向に行ってるみたいだけど……。



 まあ桜井さんの事は置いておいて。


 今日は色々やる事があるからね、こんな所で油を売ってる場合じゃないのよ。



「ただいま戻りました。今日はお友達が来ておりますので、ここで結構ですよ」


「「「かしこまりました」」」



 何も言わなかったら付いてきそうだからね。


 釘を刺しておかないと。



「さあ皆さん、私の部屋へ参りましょうか」



 一人を除いてすっかり委縮しちゃった皆に声を掛けると、その声に皆はっとなり私の言葉に素直に従ってくる。



 私はそんな皆を連れてさっさと屋敷の中へと入った。





 私の部屋へと行く道すがら。



「わぁ、凄いお屋敷だなぁ……。やっぱり祥子さんはお嬢様なんだねぇ」


「何ですか汐莉さん、急に改まって」


「いやぁ、祥子さんはいつも気さくだからつい忘れちゃうんだよね」



 気さくというか、私もお嬢様という事を偶に忘れてる事があるからね。


 多分そのせいよ。


 決して私の性格が貧乏性だからでは無いはずだ。



 と、そこに桜井さんが口を挟んでくる。



「それは如月さんが優しいから私たちに合わせてくれてるのよ。やっぱり如月さんくらいになると私たちに対しても慈悲の心に溢れてるんだわ」



 え、いや違うけど……?


 慈悲の心って、何…?


 お願いだから勝手な設定を作らないで…。



「そんな事ありませんわ桜井さん。私は皆さんが仲良くしてくれて本当に嬉しいのですから」


「如月さん……、マジ天使」



 だから違うってば。



 桜井さんは何か変に誤解してるみたいだなぁ。


 たぶん、漫画の中のお姫様みたいなのを想像してて、それを私に被せてるとかなんじゃないかと思う。


 でも実際の私の中身はあなた達と同じ庶民。


 残念ながら桜井さんの期待には応えられないんだな。



「あ、あの、如月さん……」



 と、ここで口を開いたのは雲英さんだった。



「どうしました、雲英さん」


「せっかくドレスを貸してくれるって言ってくれてる所であれなんだけど……。私たちがパーティーとかって、その、やっぱり場違いなんじゃ……」



 雲英さんは恐る恐るといった様子でそう訊いてくる。



 さっきの使用人とかこの家を見て気後れしちゃったかな…?


 んー、不味いな。


 出来れば全員参加してほしいんだけど。



 これに口を挟んできたのは、またもや桜井さん。



「またそんな事言って、皆で行こうって約束したでしょ。約束を破る気なの?」


「いや、そういう訳じゃ……」



 んん?



 なんか雲行きが怪しいよ……?



 待って待って、仲良くしようよ。



 こんな事で揉めたりしないでね、お願いだから…。




 桜井さんと雲英さんのやり取りに少しハラハラしていると、そこによく知った声が聞こえてきた。




「なんだ祥子、友達を連れてきたのか?」




 その声の主は……。








いつもお読みいただきありがとうございます(-ω-)/


もう少し早く更新するはずだったのですが、ちょっと体調を崩して遅くなってしまいました。

さて、なかなかパーティーは始まりませんが、まだもう少し先の予定です。それまで暫しのお付き合いを

何と言うか、……全然話が進まないな(;´・ω・)


ではまた次回にお会いしましょう

ブクマ評価等、頂けると有難いです。よろしくお願い致します_(._.)_

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