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召喚した式が強すぎて僕のやることがない  作者: セパさん
死刑執行人は夢を見る。
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死刑執行人は夢を見る ②

 カリフに設置されている第一級王立罪人収容所。他の収容所と異なり〝有刺鉄線〟や〝高い壁〟なんて生やさしいモノは無い。建物全体が魔導銀によってドーム状におおわれており、入り口は厳重な警戒が敷かれた正門が一つあるばかり。


 ……そしてこの収容所に収監された罪人が再び歩いて出所することは絶対に無い。収監されるのは、王国・国民を恐怖のどん底におとしいれ、極刑が確定した重罪人のみ。


・身勝手な強盗殺人・連続殺人・保険金殺人犯


・自らの愉悦を満たすため罪を犯した連続放火殺人・強姦殺人犯


・井戸水を介した無差別毒殺犯


激発げきはつ物・激発魔導を使用し、多くの命を奪った革命家や爆弾魔


・疫病神や悪魔・死神の意図的な召喚


・洪水や毒ガスなど、無差別な死を呼ぶ魔導の実行犯


 ……etcetc


 そんな一級品の罪人のみが収容される収監施設。第一級収容所は五大都市と王都にのみ設置されており、職員も他の看守と異なり王族を護る近衆兵士並の実力を持ち、実力に見合うだけの給与・名誉が与えられている。


 そんなカリフの収容所に、法衣をまとった老齢の男性と医療魔導師、そして幾人かの看守が集まっている。本日は2名の〝処刑執行〟の日。法衣の男は2人に極刑を言い渡した裁判官であり、立ち会い人として選ばれた。


「シャルル・ドきょうは?」


「二階で待機しております。何分処刑方法に【火刑】を選択した者は70年ぶりとなりますので、入念な準備をしたいとのことで。」


「あの連続放火魔か……〝最期は自分が火に焼かれるなんて最高の贅沢だ〟とは、どこまでも狂ったやつだ。」


「狂ってなければ放火殺人など起こしますまい。……もう1人は普通に安楽死刑だったか。」


「ええ、あの食人鬼です。最期の晩餐献立表に〝よく焼いた人の肉〟なんて書いてましたよ。全くこっちの頭がおかしくなる。」


「まぁシャルル・ド卿がヤツらの狂った人生に終止符を打ってくれるさ。我々は見届けて終わりだ。」


 シャルル・ド卿……その敬称にあるよう貴族階級であり、王国唯一の〝処刑執行人〟。王国刑罰規定において、死刑囚の処刑執行を行えるのは〝シャルル・ド〟のみであり、他の人間が行えばそれは【殺人罪】となる。


 コン コン と ノックの音がして、赤い髪を腰まで伸ばした可憐な少女が、見た目に相応しくない妖刀を腰に携え現れる。


「大変お待たせ致しました。シャルル・ド=カリフです。これより2名の刑執行を行いますので、どうぞよろしくお願い致します。」


 少女はそのまま藁とまきを人の背程の山形に積み上げ、一本の長い木を立てた。


「……被処刑者をこの木に縛って下さい。」


 看守はシャルルの言葉に無言でうなずき、目隠しをされ手を後ろで縛られた男を連れてくる。罵詈雑言を発し、会話にならない様子だが、気にする者も居ない。そのまま男は立てられた木に縛り付けられる。


「最期に言い残す言葉は御座いますか?」


「あはは、あんたは司祭か?それとも噂に名高いシャルル様か?俺様が最期に火刑を選んだ理由を教えてやろうか、お前も俺と同じ放火殺人鬼にしたい為さ!!これから人を焼き殺す気分はどうだ?俺は楽しくて、嬉しくて、輝かしくて、人が炎に包まれる様は美しいとさえ思ったよ。これでお前は俺と同罪だ、俺は焼かれることで罪をつぐなうが、おまえは一生を十字架を背負っていきていくのさ!ざまぁ見晒せ!」


 少女は殺人鬼の罵声をモノともせず、淡々と作業を進める。薪と藁、そして男に誘火の魔導を施し、準備を万全に済ませた。


「それでは刑を執行します。……次生では神の祝福が有らんことを。」


 少女は着火の魔導を宿し、一瞬で炎が男を包み込み、火の粉と旋風を巻き上げる。炎は男の皮膚を黒く染め上げボロボロと落下し、体液は火の中に落ち、ジュウと生々しい音を挙げた。火が気道に差し掛かった辺りでヒューと断末魔とも付かない最期の声を残し、火が消えた頃には人の形をした黒い炭だけが残った。


 医療魔導師が男の心拍を確認する。生きているとはとても思えないが、法で定められている行為なので仕方がない。


「11:24 死亡を確認致しました。」


「では聖水に浸し、汚穢おわいを清めて下さい。」


 かつて男性だった炭の塊はそのまま聖水に満たされた柩へ移される。聖水は一瞬で真っ黒く穢れ、瘴気が波打つようにただよい始めた。少女は腰に携えていた妖刀を取り出し、祓うようにバツを斬る。すると瘴気がはらわれ、聖水も青を取り戻す。少女は三時間もの間、同じ行動を20回ほど繰り返し、聖水から穢れが出なくなったのを確認する。


汚穢おわいは清まりました。アンデッドとなることは無いでしょう。」


「……集合墓地へ埋葬しろ。そして277番を待機室へ!」


 看守長が部下に命令を下し、聖水から引き上げられた炭はそのまま別の柩に入れられ王立罪人収容所管轄の集合墓地へ埋葬の準備をされる。


「次は安楽死刑でしたね?機器の点検は万全に済んでおります。」


 シャルル・ドは別に用意していた卵型のカプセルを見る。中に人を入れると麻酔ガスが噴出し、その後に致死性の毒ガスが噴出する機器だ。


「277番を連れて参りました!」


 看守は敬礼をし、目隠しと後ろに手を縛られ……そして口枷をしている男を連れて来た。


「これでは最期に言い残す言葉も聞けませんね。仕方がありません。……あなた様に、次生では神の祝福が有らんことを。」


 そうして男は、カプセルの中に消えていった。



 ◇   ◇   ◇


 刑の執行はとどこおりなく終わり、最後に処刑執行の日時と死亡時間を医療魔導師が記載、立ち会い人の署名と……シャルル・ド=カリフの署名を持って処刑は全課程を終了した。



「シャルル・ド卿、本日は誠にありがとうございました。」


 第一級王立罪人収容所カリフ地区所長は片膝をついた最敬礼を取り、シャルルに礼を述べる。そして金色竜王の皮で作られた革封筒を差し出す。シャルルはそれを受け取り懐に仕舞った。中身は金よりも稀少な金属である純白金プラチナ徽章エンブレムが5つ入っており、1枚で金貨150~200枚の価値がある。


 勿論これは処刑の執行をしてくれたシャルル・ドへの謝礼もあるが、シャルル家が光の浴びる貴族階級に居ないため、遠回しに王宮から渡される貴族に対する報償の意味合いが強い。


「こちらこそ、この世から大罪人が居なくなることを祈っております。」


 シャルル・ド……少女は一礼をして、収容所の正面玄関から出る。そして一つため息を漏らし、腰の妖刀に手をやった。少女は産まれながら一人娘の〝貴族令嬢〟であった。勿論貴族令嬢と言っても華やかな社交界や晩餐会とは無縁の生活を送り……、父を心臓の病で失い、16歳で第26代シャルル・ドを継承した。


 そんなシャルル・ドもまだ少女、処刑執行人以外に夢はある。叶わないと解っているからこそ夢は燦然と煌めき、輝きは絶望を与える。……そして少女は意を決し、カリフの外れにある小高い山。テグレクト邸へ足を運んだ。


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