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召喚した式が強すぎて僕のやることがない  作者: セパさん
死刑執行人は夢を見る。
96/135

死刑執行人は夢を見る ①

 ※  ※  ※


 王国法 刑罰規定 第22条 


 【死刑】 及び 【執行しっこうまでの過程かてい


 第一項だいいっこう:確定した被処刑者の移送 及び 収監しゅうかん


 死刑の確定された被処刑者は、判決の30日以内に 第一級王立罪人収容所 又は 第二級王立罪人収容所 の独房へ移監・収容するものとする。やむ得ない事情があり、上記が困難・不可能であった場合、被処刑者の収監しゅうかんされている管轄かんかつ区領主・収容施設長 両名の署名の元、90日まで他収容施設での仮収容を行えるものとする。


 第二項:処刑の種類


 刑の種類は 【専用魔道具による安楽死】 【絞首刑】 【電気椅子】 【火刑かけい】 の4つとし、被処刑者は、処刑方法を選ぶ権利を有する。被処刑者が心神 耗弱こうじゃく 又は 心神 喪失そうしつ状態にあり、処刑方の選択が難しいと判断された場合は、王立罪人収容所 所長が被処刑者の来歴らいれきを考察し、適切な刑を執行するものとする。


 第三項:処刑の執行


 刑の執行は、【法務大臣】【極刑を下した裁判官】【王立罪人収容所を管轄する領主】 三役さんやくの署名を、王立罪人収容所 所長が受け取ってから18日以内に執行しっこうするものとする。ただし、王都に設置されている収容所で処刑を執行をする場合には、【王下矯正局局長】が管轄領主の役目を代行する。


 又、トラブルや立ち会い人不在等により18日以内の執行が困難な場合は、王立罪人収容所 所長 が法務大臣へ連絡し、法務大臣は国王より【死刑執行停止命令書】への押印をたまわる責務を負う。


 第四項:処刑の日程


 刑の執行は原則、日の出から日没の間までに行う。六曜の大安又は友引・建国記念日・誕生の祝賀・国民の祭日には執行を行わない。被処刑者には、刑の執行2日前に告知を行い、自殺防止のため看守2名で日中夜絶えず観察を行うものとする。又、執行の前日には被処刑者が望む【最後の晩餐】を提供する。【最後の晩餐】の予算は、銀貨20枚以内とす。


 第五項:立会人 及び 執行人


 刑の執行に当たり、第三項で署名をした三役の内、最低一名が立会人となる責務を負うものとす。なお、立会人対象となる人物に【妊娠中の妻】【病気療養中の子】【重篤じゅうとくな闘病をしている親族】がいる場合はその限りではない。刑の執行は専属せんぞくの処刑人によって行う。その後、医師 又は 医療魔導師 が死亡を確認した地点で、刑の執行は完遂かんすいされたものとする。


 第六項:死後処置


 刑の執行後、遺体はすみやかに聖水に移し、最低三時間以上浸し汚穢おわいを清める。元死刑囚の遺体について、原則は遺族へ渡すものとするが、引き取り手が居ない場合では、王立罪人収容所内の集合墓地へ埋葬するものとする。


 ※  ※  ※


 

 テグレクト邸応接室。その机には反りの深い重厚な剣が一本置かれていた。


 余計なこしらえも装飾もなく、質素な柄と錆一つない鋼の刀身のみで構成されており、つばすらも排除されている。そこにあるのはただ〝斬り殺す〟に特化した機能美だけ。刀剣というよりも匕首あいぐちなたに似た類、〝人斬り包丁〟とでも称するべき代物。


「これが〝死刑執行人エグゼキューター呪いの剣〟……か。」


 【死刑執行人エグゼキューター呪いの剣】……〝堕天使のつるぎ〟や〝パンドラの鍵〟といった神具に数えられる武具・防具の中に位置するまがい物も多い代物。ひとたび斬りつければ傷口は永劫塞がらず、癒えることが無い。傷は徐々に開いていき、やがて病を呼び死に至らしめる呪いの剣。


 只のなまくらを騙し売る輩は枚挙に暇が無い。だが館の主である少女……のような少年、テグレクト=ウィリアム・ジュニアはこの剣が本物であると確信していた。それは識別眼もあるが、持ち出した依頼人が依頼人だ。


「ええ、我が一族に伝わる……宝剣です。」


 客人は一瞬なんと表現しようか迷い、一拍置いて〝宝剣〟と表した。


「第26代シャルル・ド……か、継承を祝うべきか悩ましいものじゃな。」


 シャルル・ド、それは王国がまだ西デラス王国だった頃より続く〝処刑執行人〟の名称。敬称でもあり、蔑称でもある。【良い子にしていないとシャルルがやってくる】という諺があり、既に廃れた刑罰だが【シャルルと踊る】という刑罰が昔あったほど。


 シャルル家の当主は代々姓のみで名を持ち合わせない。処刑執行のサインに処刑を行った地区……カリフならば〝シャルル・ド=カリフ〟。王都ならば〝シャルル・ド・デラス〟と表記され、書面上とはいえ王族の名を冠する事が出来る唯一の貴族階級だ。


 貴族は一般に長年の功績を認められた【職業貴族】、領地を治めまつりごとを行う【領主貴族】、建国・立国・王国の危機回避に多大な功績を残した【純貴族】に分類される、その中にあって、シャルル家は貴族階級の中でも一際特殊であり、領土も民も持ち合わせていない。


 そうなると【職業貴族】にも思えるが、役割は〝処刑執行の独占〟だけであり、他の職業貴族が私兵や商団をひきいた存在であることを加味すれば、代わりになる者が居ないという特殊性が目立つ。


 なにより大きな他貴族との違いは……。貴族でありながら、社交会や晩餐会の招待状が来ないこと。国はシャルル家の存在を秘匿しており、シャルル家もまた市営の民を偽り生活している。


 勿論貴族足るだけの財力は有しており、【処刑執行の独占】以外にも汚穢を清める聖水の利権・〝呪われた武具〟の売買で巨万の富を築き上げ、貴族階級の中でも財力だけで言えば上から数えた方が早い。


「先代である父が心臓の病で急死し、非才なる身では御座いますがわたくしが26代目シャルル・ドを継承致しました。既に継承し1年を経過しておりますが、御挨拶が遅れましたことお許し下さい。」


「それはよい、こちらもゴタゴタがあってわたしが当家を継承したのが最近なものでな。して……こんな仰々しいものを持ってきたあたり、〝仕事終わり〟のついでに寄ったという訳ではあるまい?」


「はい……。端的に申し上げます。わたくしをシャルル家の呪いから解いて頂きたいのです。」


 まだ若き処刑執行人、客人である少女はジュニアを見据えてそういった。

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