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魔女の夜会

 月も照らさない冷たい夜。場所は東西戦争時の最前線跡地であり、現在は記銘の無い墓地が乱立している。アンデッドが住まうダンジョンとしても有名であるこの場所に、紫の三角帽子とローブをまとった黒い瞳と黒髪の少女が佇んでいた。


「ふぅ……。」


 周りに人がいないことを確認し、ウィーサは早速魔導の準備を始める。今行おうとしているのは、24日に1度だけ鍛錬をすることを決めている禁忌の魔導、〝魔女の夜会〟の日。


 その術式はあまりにも非倫理的であり、まさに〝魔女の魔法〟という言葉がぴったりな魔導であるため、誰にも見られるわけにいかない。


 かといって自身をここまでの高見に連れてきてくれた師匠・恩人、イリー=コロンの秘術を頭の中に仕舞い込んでいるだけでは魔導の腕は錆付いてしまう。


「心に炎を宿したもう……。」


 ウィーサがそうつぶやくと禍々しい魔力がじわりじわりと体を包んでいく。まず目の前の石の上に金貨を置いて、魔力を集中させる。本来溶けも錆びもしない金は水に落とした焼き菓子の様に少しずつ溶けてやがて消滅した。


 純金のゴーレムでも敵にならない限り使い道は思い浮かばない魔導だが、王国の法で金貨の改造や改変は重罪にあたるため禁忌の魔導にカテゴライズしている。


 次にウィーサは犬の屍に魔導を掛けた。本来土に還る屍は再び動きを取り戻し、くぐもった雄叫びをあげる。それを見てウィーサは即座に魔導を解く。犬は再び物を言わぬ屍へと戻った。死体を高位のアンデッドに変え、自らの式にする魔導であり、とてもウィーサの目指す〝正義の魔女〟が使う魔導ではない。


「ふぅ、やっぱり疲れるねー。心が痛むってやつだね。」


 最後の仕上げに最大の禁忌であり、自身もこのときですら封印したいとさえ思う魔導。無機物に生命を宿す魔導に着手する。普段は魔導耐性や物理耐性の秘術を編み込むための藁人形に麦と自身の爪・髪の毛を詰め、血の一滴を垂らし、ありったけの魔力を注ぎ込む。すると藁人形はウィーサの手を離れて、自律し動き始めた。


 操作の魔導を使っているわけではなく、藁人形が自意識を持って自分の考えのもとに行動を始めるのである。それは無から一つの命を生み出す魔導であり、召喚術などとは根本から異なる。その生命力は膨大で、身体に括り付ければ疫病神や悪魔の呪いですらも身代わりにできる逸品だ。


「ごめんねワラちゃん、バイバイ」


 ウィーサがそうつぶやき、新たな魔導を掛ける。先ほどと逆の生命を吸い取る魔導。人間にかければ生きた屍にすることすらできる魔導。動き回っていたワラ人形は、糸が切れたようにポトリと倒れた。


 ウィーサは三角棒を脱ぎ胸に手を当て目をつぶり黙祷を捧げる。王国の英雄イリー=コロンが晩年にまで及び様々な葛藤と自己嫌悪の中生み出した禁忌の魔導。魔女の糾弾阻止を後生にたくすという記述と共に記された数々の魔導の中でも一番記述に葛藤が見られた魔導。


 魔女を継ぐ者はその思いを胸に黙祷を終えて、ほうきにのって月明かりの中を飛び去っていった。

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