賢人の家探し ①
場所はカリフを拠点とする高位の傭兵、モリイ=ユウキの自宅。家は2階建てで、壁は鋼鉄と魔導銀によって隔てられ、カモフラージュと飾りをかねて唐竹割にされた巨木を大胆に貼り付けている。
部屋の中はだだっ広く壁にはドラゴンの首を切り落として加工した飾りと、異世界の文字で〝仁義〟とインクではない太い字で書かれた掛け物が飾られている。部屋の中にはソファーとベッドと囲炉裏、熊一頭の毛皮を丸ごと床に並べた大変迫力のある絨毯、そして食材を入れる木箱や水瓶が置かれている。2階は射撃場と刀技の鍛錬場となっている。
「あいよ、懐中時計の売り上げ金貨30枚、細工時計金貨10枚、知恵の輪の売り上げ金貨20枚。……そろそろ目標金額の金貨500枚に届いたんじゃねーか?」
ユウキは現在客人となっている、赤渕眼鏡を掛けた20代前半にみえる女性、古帝国の〝時の賢人〟アミー=ササヤへ、懇意の商会を通じて売買した売り上げ金を手渡す。
「細工時計が一番手間暇掛かっているのに、一番安いってのは複雑な気分ね。知恵の輪なんて余った金属で作っただけなのに。」
アミーが暇つぶしに作った古帝国算術師直伝の知恵の輪……一度失われた技術の結晶は、現在魔導と召喚術の街カリフで小さな流行を起こしていた。
知恵の輪を一目見た商会の宣伝……曰く【魔導能力が向上する】、曰く【魔力制御の修行になる】、挙げ句王都の魔導学者に〝解く・戻す行為が魔導錬成と酷似している〟という広告を出す売り出し方法も功を制し、今では魔導師が集まり、知恵の輪を手に触れず如何に早く解けるかの大会が開かれるほどまでとなっている。
「時計商人に言わせれば、絡繰時計として芸術の街エンサーへ売り出せるレベルだっていってたけどな。評判が広まればもっと高値も付くだろうよ、いきなり個展が開ける芸術家なんて早々居ねぇさ。」
「まぁ売れるのは良いことだわ。持ち金はこれで金貨487枚と銀貨13枚。頭金くらいにはなると思うけれど……。」
「おお上々、土建屋と不動産に掛け合ってみたが、ある程度治安も良くて行商人や観光客もよく通る一角が空いててな。そこに家を建てるのはどうかなと考えてる。」
「……いまいち王国の物価って解らないのよね、家を建てるなんて幾ら掛かるのかしら?」
「この家が土地代込みで大体金貨3000枚くらいだったから……。」
「まって!あんた何処からそんな金捻出したの!?」
「いやぁ、護衛の仕事なんて往復6日で金貨1枚くらいなんだが、途中魔物を撃ち倒したり斬り倒した金額がデカくてな。白狼50体、竜・火竜70体、金色竜王はまだ20体位だが、皮や牙や骨が鎧や武器・ブランド品の道具になるみてぇで良い金になるんだ。おめぇの時計に使ってる薇撥条だって竜の髭だ。」
「あんたそれ傭兵じゃなくて、冒険者になった方がいいんじゃない?」
「1人で冒険活劇か?それこそガラじゃねぇ。それに武器はほとんどウィーサちゃんの協力の賜物だ。」
「ああ、あの紫帽子にローブを着た如何にもな魔女っ子?食いっぱぐれたらヒモとして転がり込めそうね。流石元ヤの付く人は違うわ、立派な人でなしね。」
「……巻き藁代わりに試し切りしてやろうかマジで。」
「冗談よ、半分。……そして、どのくらい時間がかかるのかしら?」
「店の設計図は出来てるんだろ?なら半月もあれば出来る。」
「早くない!?」
「〝魔導と召喚術の街〟だ。土建屋じゃなかったから細かい事は解らんが、魔導具で地盤を固めて、専用のゴーレムが柱や壁を立てて、細かいところを術師がやる。あっと言う間さ。」
「まぁわたしも門外漢だからなんとも言えないけれど……。本当顔が広いわね。」
「何時死ぬか解らん仕事だし、金は持った先から使ってるからな。使った金は自分にも返ってくるってもんだ。……ただ良い土地なんだが、一個問題があってな。」
「だと思ったわ。幽霊でも出るの?この世界の幽霊は本気で呪い殺しに来るからご勘弁なのだけれど。」
「おお!ご名答!幽霊退治してくれれば安くしてくれるって話しなんでな、アミの近況報告も兼ねてテグレクト邸に顔貸してくれ。」
「ええ!?あなた1人で退治すればいいじゃない。」
「正直レイスは苦手だ。斬れねぇし撃てねぇ。……いや、倒せないことはないが、どの道刀に浄化魔導の付加と専用の弾薬をウィーサちゃんに幾つか用意してもらわないとならねぇからな。」
「……あの桃色女に会うの嫌だわぁ。」
「マリーと何があったか知らんが、賢人様が駄々こねてんじゃねぇ。行くぞ。」
そうしてアミーは渋々ユウキのバイク後部座席へ乗り、テグレクト邸へ出発した。




