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悪魔達の歴史

 過去最上にして最高の美を誇った古帝国。その最後はひどく呆気ないものであった。


 皇帝アムスの独裁化により革命が勃発し、2000年の歴史はあっさりと幕を閉じ、戦乱の世に突入した。世界一と称されたきらびやかで巨大な帝宮も、全てが石クズと瓦礫、兵士と革命軍の屍で埋まってしまった。


 やがて帝国跡地は独裁に苦しんだ革命軍と暴君に振り回された兵士、そして狂気に走った皇帝の霊が住み着き、無数の高位のゴースト……死に魅入られ死を振りまく怨霊を多々排出した。戦乱の世でも近づける人間はおらず、勇敢で愚かな冒険者も次々餌食となっていった。


 やがて100年近い時を経て古帝国の跡地は最高位の魔物とゴースト、禍々しい怨霊が跋扈ばっこする、生きては帰れない危険地帯と相成った。


 そこに一人の異形の男が立っている。龍王ほどの巨躯を持ち、黄金の巻角を生やし手足は大熊のように豪気で爪は猛禽類のように鋭い人型の男だった。男はにやりと笑う。往き道で襲ってきた魔物たちは男による拳の一撃ですべて粉砕された。


「良い場所だ、この場所こそ私の城に相応しい。それに…骨のありそうなやつらもいる。」


 男…悪魔はそうつぶやいて、襲いかかる高位の魔物。金色龍王や高位のゴースト、キマイラやガルーダを次々と指の一振りや軽い手払いでなぎ倒していく。殺しはしない、力の差と格の違いをみせているのだ。戦意を失った魔物達は悪魔に向く、悪魔は笑顔でこう言った。


「中々骨のある奴らだ、気に入った!部下にならんか?」


 魔物達の恐れの目が尊敬の眼差しに変わった。そして悪魔は軍勢を次々と増していきあっという間に、高位の魔物を500近く部下とした。そして自身の住処を作るためにゴーストや龍王と協力して、自ら岩を削っては積み上げていき自身の膨大な魔力で強化して半年をかけて山にものぼるほどの立派な城を築きあげた。


 今だ石作りの王座の間、そこに〝冒険者〟〝トレジャーハンター〟を名乗る者達が襲ってきては統率された高位の魔物達に返り討ちに遭っていた。悪魔は、一人の冒険者に何故この城を襲うのか目的をただした、すると〝帝国〟という国の跡地であり財宝が眠っているというのであった。悪魔は地下を自慢の腕と爪で掘り進む、すると無数の金銀財宝・宝石宝剣・高位の魔石が発掘された。


 それを契機に城は輝きを増し、王室もかつての帝国にも劣らぬほど絢爛豪華なものとなった。しかし宝と同時に悪魔は厄介な代物まで発掘した。


古帝国最後の皇帝アムスの怨霊、まさに狂王の怨霊という言葉が相応しく、幾ら攻撃を加えても消滅せずキリがないので帝国の悪魔でさえ地下牢に閉じ込めるのがやっとだった。それでも狂王の怨霊は分散し世界各地に周り、なおも猛威を振るっている。


 そしてそれから300年後、帝国の悪魔は新たな問題に直面していた。それは〝暇〟である。自身の力を無敵であると信じ、自分の拳と魔力があればすべてを解決できる、そう信じていた悪魔に訪れた悲劇。


 九尾の狐という悪女に籠絡ろうらくされ、人間に助けられるという醜態。それは自分の力で世界すらも滅ぼし、全てを配下にできるとさえ思っていた帝国の悪魔のプライドを粉々にした。


 そして籠絡ろうらくされていたとき勇敢な7人の人間から感じた〝恐怖心〟悪魔が今まで抱いたことのない、ゾクゾクとする一種の快感だった。それをもう一度味わいたく、冒険者が赴いてきたら自ら立ちふさがるようにした。しかし自身の異形と膨大な魔力を見て尻尾をまいて逃げる腰抜けばかりだった。


「あの時の感覚は本当になんだったのだ…、魔物と人間の戦乱は起こさぬ約束。それは守る。ああ、あの勇敢なる7名と戦いたいと決闘状でも送ればさぞ楽しかろう。どんな反応をされることか…」


 生まれ落ちて数千年にして初めて味わった〝恐怖心〟の虜となった悪魔は、暇を持てあまして王座に座りつまらなそうに溜息を吐いた。




◇   ◇   ◇




 二階建ての綺麗な屋敷で美しい羽根を持つ跳鳥、美女のハーピー、鍛え抜かれた体躯のリザードマン、精悍な顔つきの白龍が、一室で眠る老齢の神に黙祷を捧げていた。そこには幼い少女もいたが「おかぁさん!」と連呼するだけで自体を飲み込めていないようだった。


 言霊の神、言葉に宿る力を強化させるかつては神殿まで建てられた神様。その神が信仰を失ったのは帝国という国が世界を征してからだった。各地で信仰されていた言霊は帝国の軍勢に立ち向かう勢力に味方して、帝国軍を撃退していった。


 しかし帝国の覇道は凄まじく、ついには自身を信仰する地方も制圧されて言霊の神には〝悪魔〟の名前がつけられた。それから信仰をなくした神は徐々に力を失って天に召されたのだ。白黒の服に身を包んだ少女は〝死〟というものの重さを初めて理解した。強がるように「この屋敷は私が守るから!お母さんの大切な部下ももう死なせないから!」と涙ながらに叫んだ。


 その瞬間に屋敷は禍々しい空気に包まれた。周りの部下…最後まで言霊の神に付き添って生き残った魔物達も驚いた。目の前の少女は敬愛すべき言霊の神の子供、父親は神殿に来ていた敬虔なる信徒の男。神と人間のハーフである次期言霊は先代以上の力を持っていた。


 〝言葉に宿る力を強化〟させるのではなく〝言葉がそのまま現実になる〟というデタラメな能力を持っていた、その後も言霊を悪魔として討伐に来た帝国の兵士達は全員消えるようにいなくなっていった。中に入るとそのもの達が不可思議な行動を取りやがて屍になるか煙のように消えていなくなるのだ。


 帝国の兵士たちは外部から弓矢での一斉発射も試みたがまるで見えない壁に防がれるように屋敷には一本の弓矢も入らなかった。結局帝国は言霊の屋敷に莫大な懸賞金をかけて冒険者たちを向かわせることになったが、一人の生存者も報告がなく悪魔の城とまで呼ばれるようになった。


 言霊が屋敷を母親から継いで〝魔王さま〟を自称するようになって3000年、屋敷は既に古びて鉄の門はさび付き煉瓦も崩れかけている。中庭の草はボウボウに生えており、かつて勇敢だった部下達も言霊の一言により死にこそしないものの……


 美しい羽根を持つ跳鳥はもさもさの羽根をもつやる気の無い目をした跳鳥に、美女のハーピーは化粧の崩れた醜女のハーピーへ、鍛え抜かれた体躯のリザードマンもただのコックになり体躯はもはや大きなトカゲといったところだった、精悍(せいかん)な顔つきの白龍も元が何の龍だったかわからないほど白い髭を生やした老龍となった。


 これは〝言霊の屋敷〟が絵本になる半年前、古帝国最後の皇帝アムスの軍勢が屋敷をおそった。


「あら今日はたくさんのお客さんね。」


お茶会をしていた言霊は呑気にそう言った。部下も特に慌てる様子なくお茶とお菓子を飲んでいる。


 屋敷に先陣を切って50近い騎馬隊が突入する。


「あら、ひよこに乗って何しにきたの?かわいいわね。ゆっくりしていって。」


 言霊は微笑みながら騎馬隊に話しかける。兵士達が乗っていた馬が突如黄色いひよこに変わったのだ、異常さを後ろで見ていた兵士達にも緊張が走る。


「ひよこさんもかわいいけど、手に持ってるお花も素敵よ♪」


突如、騎士の剣や槍が花束に変わる。勇気ある脱走兵が急いで鉄の門をくぐろうとする。


「この屋敷って入り口しかないの、ごめんね。」


 少女の笑顔の囁きと共に、鉄の門が開いているにもかかわらず、見えない壁でもあるかのように脱走兵は入り口だった場所にぶつかり気絶した。


「全部で…300人のお客さんだわ!なんて素敵なんでしょう!みんなおいで!ねぇ早く!」


 屋敷には既に100余名が侵入してしまっている。全員脱出不能、仲間を助けたい気持ちはあるが、下手に動けば自分たちもこの屋敷の餌食になる。勇みこんできた300人の兵士は一人の少女に恐怖していた。


「そうだわ!そっちが来れないならこっちから行けばいいのよ!屋敷ごとみんなの所に移動できたら素敵よね!」


 言霊がそう呟くと屋敷が移動して300人の兵士は全員、2階建ての古びた屋敷の中に入れられてしまった。


 手に持つのは花束と足下にいるヒヨコだけとなった帝国の精鋭たち。脱出は不可能、せめて素手で一太刀と思ったが…


「わたし達全員幽霊なの、素手では触れないわ。」


その一言で、少女はおろか跳鳥たちにすら触れることができなくなった。


「それにしてもかわいいヒヨコ、ねぇそういえば混乱するとヒヨコが頭の上をまわるんだって。みんな試しに見せてよ。」


 兵士達の頭上にヒヨコがクルクルと回り始めて狂気を呼び起こす。仲間同士が素手や花束で殴り合い半数以上が気絶した。残った者達も体力の限界で失神してしまった。


「もうおわり?つまんない。おもしろくない劇だったわね、終幕よ。役者は消えていいわ」


少女がつまらなそうにそうつぶやくと300人の兵士は一瞬で姿を消した。


「はぁ、もっとデタラメでめちゃくちゃな世界だったらどれほど素敵でしょう。」


言霊はそう呟いて、お茶を口にした。


〝そうだ!屋敷ごと絵本になってデタラメの素晴らしさをみんなに教えましょう!〟と囁き、悪魔の絵本という超一級品の呪いの品ができあがるのは半年後の話になる。

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