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召喚した式が強すぎて僕のやることがない  作者: セパさん
狂気の式と伝説の系譜
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3期生最終実習 

おのれ!姿を現せええええ現現現ええええええええええええ」


「王都の騎士として!ここっこここここっここ王都都王都都都都っ都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都」


「東の残党か!召喚かあああ東東東東東東東東東東東東東東東じゃなあああああになもにもんにものだ」


 僕はマリーの胸に抱擁され前は見えない、しかし目は隠されようと耳から伝わるのは兵士達の奇っ怪な声、崩れ落ちる音、パチパチと燃える炎…すべてが異常なものだった。思わずその様子を見ようと後ろに目を向けようとするとマリーに強く止められた。


『 あなた が 壊れる 』


 何が起こったのだろう。最後に見た物はなんだったか、僕は混乱する頭で必死に思い返していた。



  ◇  ◇  ◇



 馬車にゆられること5刻、3期生58人は実習先である王都王宮へと通され、召喚術師の鍛錬場へ案内された。


「では、シオン=セレベックス。レイチド=キャンドネスト。前へ」


「「はい!!」」


「あなた達の式を説明しなさい。」


「私の式は 風の精霊 名前をレシーと言います。」


「僕の式は 名前はマリー えっと… 幻術とかが得意… みたいです。」


 僕とレイチドは、指導者である宮廷きゅうてい召喚術師の前で、自己紹介兼式の説明を求められた。指導者は女性で王国の象徴、繁栄の神と精霊の勲章が着いた制服の上から赤い縁取りの着いた黒いローブを羽織り、凛々(りり)しい顔つきをした目力の強い人であった。僕とレイチドはその目力に既にやられそうになっている。


「シオンさん、自分の式たるもの〝みたい〟などと曖昧な言葉は慎むように。それではこれから21日間あなたたちの指導を承ります。パラプラ申します。今後王国を担う召喚術師として相応しく無いと判断した場合、合格は出しませんのであしからず。」


うふふふふふふふふふふふふふふ


 マリー!空気読んで、笑うな!

 

 パラプラさんは、マリーの不気味な笑い声に顔をしかめつつ、お叱りの言葉は出なかった。


「では初日はオリエンテーションも兼ねて、王都における警邏、そして王宮召喚術師の大まかな役割について同時に説明をします。2人とも、まず馬車へ。」


「「はい!」」


 パラプラさんと周る王都は僕の故郷や学園のある田舎と違い、とても発展した絢爛豪華なものだった。すべてのスケールが僕のいた村と比べものにならないのは当然として、覚えのある栄えた町と比べても一回り二回りも違っていた。


「授業で習ったとは思いますが、召喚術師は元は錬金術師・陰陽師とよばれる有魔力者から派生した職となります。当時はまだ魔力が今ほど一般的でなく、古帝国の衰退すいたい・崩壊からおこった戦乱の時代に魔導師と召喚術師に分岐したと言われております。

 

 …ではシオンさん、王宮魔導師と召喚術師の役割の違いはなんですか?」


 突然の質問攻撃である。


「はい、王宮魔導師は魔導を用いた研究の他魔導による治癒・護衛により王都の発展に寄与する役割を持ち。召喚術師は式の使役によって負傷者の治癒から反逆者や犯罪者の取締・そして未知なる魔物の生態研究を主として活動するものです。」


「60点です。我々は召喚という専門技術により遠方から神界までを含むあらゆる世界へと通じることが可能です。その力で未知の厄災に対し、対応を任せられることもあります。」


「はい…。」とりあえずは乗り切れたようだ。


 そしてたびたび質問攻撃を受けながらも馬車は王都を一回りして、再び王宮に戻った。


「では、本日は門番の役割を私と共に行っていただきます。くれぐれも油断しないように!」


 どうやら話しには聞いていたが眠る時間はないようだ。一日目にして既に疲れた…、あと20日も続くのかと思うと心が折れそうになる。


 夜も深くなり、眠気がピークに達している。というかレイチドさんは何度か眠り掛け僕が起こしている状態だ。マリーは… ベール越しで顔が見えないことを良いことにぐっすりと寝ているようだ。


「あら、学生さん。お疲れ様です。大変ですね♪」


 そう声を掛けてきたのは黒髪にメイド服という可愛らしい少女であった。


「はい、ありがとうございます。」


「ふふふ、私もここに来たばかりですので毎日大変ですが、頑張って下さいね!」


そう言って、ウインクをして去っていった。少し癒しがあるだけで嬉しいものだ。


『 不穏 』


「うぉあ!」 


いつのまにかマリーが起きていて僕に不吉なことを話す。


『 あの女 危険 なにもの 』


 マリーが何時に無く真面目だ。こういう時のマリーの感はあなどれない。


「すみません。パラプラさん、さっきのメイドさんっていつ頃来たのですか?」


「ん?ああ、彼女か。60日前はだったろうか?よく働いてくれる。たしか…ヨウコとかいったかな?」


『 … 』


 マリーは何を考えているのかわからない。ただマリーの沈黙が、僕には不吉に思えて仕方がなかった。


 朝日が登り始め、初日の実習は問題なく終了しそうであった。門番と言っても夜中に王宮を襲う賊も現れず。来客もない。とにかく眠らせず、体力の限界を見定めている様だった。


「お疲れ様です。それでは2日目の実習に入ります。」


 パラプラさんは同じように徹夜で門番をしたとは思えない、相変わらずの目力で僕らを馬車に乗せた。


 マリーは昨日のメイドが気になるらしく、かなり不穏な空気を発している。…マリーがここまで気になるあのメイドは何者なのだろう。


「本日は、1日私の付き添いの元、警邏を行い王都の様子をレポートで提出していただきます。よく王都の様子を観察しておくように。」

 

 そういって馬車に乗り警邏が行われた。何事も有りませんようにと願ったのだが…、僕の願いは瞬時に裏切られた。


「ひったくりだ!!誰かあいつを捕まえろ!!」


 叫んでいるのは裕福な身なりをした中年男性だった。そして逃げているのはローブで身を隠した魔導師のような格好の女性だ。


プレパラさんは召喚の呪文を詠唱する。そしてメデューサを召喚し、賊に向けたところ。


「あばばばばばばばばばばばっばっばっばあばっばばばばばばばばば……」


 ロープ姿の女性は痙攣けいせんを起こし倒れ込んだ。


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「んな!私の術よりも早く…。」


「あ、すみません多分の僕の式です。」 


 こんな芸当ができるのは、僕の知る限りマリーしかいない。生命の波長を狂わせる呪いなどマリー以外できるものはいないだろう。


「とにかく治療をしましょう!捕まえるのはそれからに。」


「ああ、しかし恐れ入った。学生とは思えぬ手腕だ。」


 プレパラさんはメデューサを還付し、いやしの精霊を召喚して盗賊の女をひとまず治療。その後お縄に付けた。


「おそらく魔導士の成れの果てだろう。盗賊に身をやつすとは…。ひとまずシオン殿ご苦労であった。加点項目としておく。」


「はい、ありがとうございます。」


 その後夜まで警邏を行い、その晩はレポートを書く時間に充てられた。僕はおよそ2刻ほどで終わったのだがレイチドさんは式を使った場面の記述に苦戦しているらしくアドバイスをおこなった。


「あら学生さん、今日は門番じゃないのね?」


 ヨウコというメイドが再び僕たちの元へやってきた。マリーの言葉があったばかりなので少し身構えてしまう。


「今日はレポート?大変ねぇ。頑張ってね。」


 そういって去っていく姿を見送ろうとしたとき…ヨウコは先ほどの笑顔を消し、再び僕たちに振り向いた。


「ねぇ、あなたの召喚獣から殺気を感じるの。どうしたのかしらぁ?」


 さっきまでの陽気な振る舞いとは違う、笑顔ではあるが、あきらかに敵意を含んだ、突き刺すような言葉だった。僕もレイチドさんも思わず口をつぐむ。


『 あなた 何者 ?』


 沈黙を破ったのはマリーだった。


「私はただのメイドよ?それがどうかしたのかしら?」


『 何を たくらむ ? 』


「…あなたの式ちょっとおかしいのかしら?」


 ヨウコさんはそう言って頭の横で指をくるくると回した。


『 あなたの 本を 読んだ 3度目 』


「…」


『 九尾の狐 戦乱と混乱と動乱をつかさどる……神又は悪魔に最も近い神獣 』


その瞬間、僕はマリーの豊満な胸に抱き寄せられた。


柔らかな感触と張り付くようなマリーの胸で前が見えない。


「3度目ってことは、東王国の事も察しがついてるのね。誤魔化してもしかたないかなぁ」


「そう、それは不覚だったわ。私平和って嫌いなの。つまんないじゃない、それだけじゃだめ?」


「あなたの主?ちょっとからかっただけじゃないの」


 ヨウコというメイドはケタケタと笑いながらマリーと話しをしているようだ。


 どうやらマリーはヨウコというメイドと会話しているようだが、マリーはメイドにしか神経伝達を送っていないらしく、抱きかかえられた僕にはマリーが何を伝えているのかわからない。マリーのドレスが光を放つ。徹夜で疲れたからか、急に眠気と心地よいだるさが襲ってくる。そしてマリーはやっと僕に話しかけた。


『 あれ が 正体 』


 僕は恐る恐るマリーに抱えられながら後ろを振り向く。ヨウコと名乗った少女のいた場所には、妖艶な見たこともない衣装を着た妙齢の美女がいた。その姿はどこか艶めかしく怪しげな魅力をもっていて…頭の位置を超えるほど大きな金色の尻尾が9本生えていた。


『 幻術 私も 気づかなかったほど 』


「あら、それでお怒り?なら見逃してくれない?謝るから。」


『 いづれ 主に 仇なすだろう 』


「古帝国 東王国 あとはこの西王国さえ籠絡できれば、面白いことになりそうと思ったんだけど。なんだか面倒になっちゃったわね。私力づくって嫌いだけど…苦手じゃないのよ?」


 そういうとヨウコ…九尾の狐は城全体にわたるほどの、渦の様な紅蓮の炎を巻き上げた。


「あ、これ幻術じゃないから♪死なないでねぇ。」


「なんだ?…火事だ!緊急出動を!」


 城から一斉に騎士団、近衛魔導師、近衛召喚術師が現れる。ボヤの予兆もなく現れた突然の業火に戸惑っている様子だ。


「あー、鬱陶しいわぁ。」


ヨウコが何かを口ずさもうとすると…


 ポフっ


再びマリーは僕を抱きかかえて僕の目を塞いだ。


「おのれ!姿を現せええええ現現現ええええええええええええ」


「王都の騎士として!ここっこここここっここ王都都王都都都都っ都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都都」


「東の残党か!召喚かあああ東東東東東東東東東東東東東東東じゃなあああああになもにもんにものだ」


 幻術だ、マリーに匹敵するほどの。僕はマリーの加護で正気を保っているのだろう。だが、マリーが仕掛けた喧嘩だ。勝算はあるはず。ぼくはマリーを信じるしかなかった。



 マリーの胸の中で僕は不安…、は不思議と感じていなかったが違和感はあった。


 マリーは今まで身にかかる火の粉を振り払うようなことはしていたが、自分から戦いを仕掛けるのは初めてだったからだ。もしあの九尾の狐が本物ならば王国の危機であることは間違いない。しかしそれをマリーがわざわざ救う理由もない。


「マリー、なんだかあの魔物ヤバイよ!勝てそう?」


『 私だけなら 五分 五分 』


嘘でしょ… そんな勝算もないのに戦いに望むなんて。


うふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 ここには 誰がいる ? 』


 マリーが僕に質問をしてきた。ここにいるのは王侯貴族・王宮の騎士・魔導師・召喚術師そして僕とレイチドさん、そして他のクラスメイト56人だ。


『 あのブラコンが 黙ってると思う? 』


 …僕はしばらく長考して


「アムちゃん!?」


 そうだ、マレインとペアを組んで今王都にはアムちゃんも一緒にきている。そして、その兄フィリノーゲンさんは現在47代テグレクト=ウィリアムを継承中の身だ。来てくれればこれほど頼もしいものはない。ただ…。


「でも来てくれる保証なんて…。」


『 ご登場 流石はブラコン お早いこと 』


「はい!?」


 そこに現れたのは青白い神鳥を引き連れた、精悍な顔つきの現テグレクト=ウィリアム継承者。青髪の青年テグレクト=フィリノーゲンさんその人であった。


「式を通じて弟を見ていたら、大変な事態に巻き込まれているようだったからね。ハルシオンを飛ばしてきたよ。」



「あらぁ?また邪魔者?…ってあれぇ?」


「賊め!何を企む!」「東王国の残党か!」「姿を現したか…、少女の姿に油断した。王に申し訳がない…。」


 フィリノーゲンさんの登場によって、幻術で狂気に陥っていた王宮の兵士たちが正気を取り戻した。そうだ神鳥ハルシオンは元々九尾の狐対策にフィリノーゲンさんが選んだ式だ。


「九尾の狐は貴様だったか。マリーよ疑って済まなかった。そして女狐、貴様の狂気は魔導によるもののようだな。残念ながらこのハルシオン、魔導による混乱・狂気を平坦させる能力を持つ。」


 九尾の狐は苦い顔をして、フィリノーゲンをにらみつける。炎の渦には既に王宮魔導師・召喚術師によって鎮火させられており、王宮の精鋭によって囲まれている。あとはお縄に付くだけに思えた。


 騎士は剣・ランスを用い九尾に挑みかかり、魔導師は炎・氷・雷・風の魔術で、召喚術師は様々な式を用いて九尾に挑む。そんな中九尾を中心として辺り一面に真っ白い霧が包み込んだ。


「雷!!?やめろ私は味方だぞ!」「痛!ちょっと、なにしてんのよなんで私に剣を。」「誰かジェノサイダーを止めろ!こっちに死人がでるぞ!」


 九尾の狐に与えたはずの攻撃がなぜか王宮の兵士たちの自滅に繋がっていた。周りにはまっ白い霧が立ち籠めている。


そして、攻撃をやめた頃には。


「な!?どこにいった…。」


 九尾の狐は完全に姿を消していた。…あれほどの兵士や王都の精鋭が囲む中を逃げ切った、やられた、逃げられてしまったのだ。


「フィリノーゲンさん!九尾は?」


「わからん。いや未熟ですまない。気が付けば霧に紛れて見失っていた…。」


 フィリノーゲンさんは誰よりも悲痛な面持ちでそう答えた。


 前代未聞の出来事に僕たち学生は、実習試験所では無くなっていた。まず第一発見者である僕とレイチドさんが、近衛兵士より調書をとられた。


 幸い死者はいなかったが、負傷者27名という惨事、それに九尾の炎によって王宮の一部が崩壊している。この事件は王都の象徴、王宮で起こったのだ。学生の実習どころでないのは当然だ、王宮魔導師が総出で王宮に幻術に対抗する魔導を展開し、近衛兵士の数も物々しいほど増えている。


 緊急事態のため学生を受け入れる余裕が無いということで、クラス58人は学園への帰還を余儀なくされた。補習としての追加実習は追って説明があると教員から説明された上だが見通しがまるで立たないと教師の一人がボソリと嘆いていた。


 帰りの馬車で僕は未だに納得できない疑問をマリーにぶつけてみた。


「ねぇ、あの九尾の狐…なんでマリーから戦闘を仕向けるようなことしたの?」


『 あなたを壊そうとした 』


「?」


 まるで検討がつかない。僕がされたのは軽い挨拶だけだ。


『 あなた は 知らなくてもいい 』


 そういってマリーは沈黙し、ハルシオンに乗せられて喜んでいるアムちゃんを一瞥した。



「それでねお兄ちゃん!私学校で一番だったんだよ!!」


「そうか、さすがテグレクトの系譜だな…。」


 フィリノーゲンはハルシオンの上で複雑な顔をしながら、見た目通り子供のようにはしゃぐ弟と会話していた。

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