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閑話 傭兵と賢人の談話

「ようアミ、おめぇの作った時計だが結構な値段で売れたぞ。〝これほど精巧せいこうな非魔導依存の時計は初めて見た〟だってよ。とりあえず30個分で金貨10枚、買っておいた金庫にでも入れておけ。」


 傭兵モリイ=ユウキは現在客人となっている〝時の賢人〟アミー=ササヤへ吉報を告げ、金貨入りの麻袋を手渡した。アミーの格好は以前と異なり、赤渕眼鏡はそのままだが、飾り気のない王国では一般的な庶民の服をまとっている。


「あら、魔導で動く時計が一般的と聞いた時はどれだけ作ればいいのか途方に暮れたものだけれども、物好きっているのね。」


 アミーも予想外の値段がついた自作の時計に、素直な喜びを覚える。


「何でも高位の冒険者に需要があるんだとよ。秘境や高位のダンジョンってのは、魔導が混沌をきたすから、魔導で動く時計よりも原始的な時計が重宝されるらしい。あとレトロ好きの好事家な、どの世界にもいるもんだ。……さて、メシでも作るが食うか?」


「そうね、この5日間乾パンと缶詰ばかりだったから、温かい食事が恋しいわ。」


「キッチン好きに使っていいと言ったんだがなぁ。合い鍵も渡しただろう。」


「わたし料理は苦手なの。それと宿代がやっと払えるわ、はい。」


 アミーは麻袋から金貨1枚を取り出して指で弾き、ユウキは目前でキャッチする。


「別にいいのによ。ま、ありがたく貰っとくぞ。」


 ユウキは金貨を無造作に木箱へ投げ、キッチンへと向かう。数分もしない内に食欲をさそる香ばしい匂いが漂い、油のぜる音が響いた。


「あいよ、チーズチキンカツ、副菜は根菜とキノコのソテー、付け合わせはパンとポタージュだ。」


「……相変わらず顔に似合わず料理が上手ね。〝俺にはヘンテコな能力がない羨ましい〟なんて言ってたけれど、十二分にヘンテコな能力だと思うのよね。」


「顔に似合わずは余計だ。」


 その後二人は他愛もない話しをしながら食卓を囲む。


「うん、冗談抜きでおいしいわ。帝国の料理に慣れた舌だけれども、宮中料理よりいいわね。」


「コックを目指してる訳じゃねぇが、賢人様様に言われると嬉しいもんだな。なんだかんだ俺もお前も産まれた世界の料理が舌に合うってこった。……思いっきり洋食だけどな。」


 談笑しながら食を進めると、皿はあっと言う間に空となる。ユウキは更に提案をした。


「もし腹に余裕があるならデザートでも作ろうか?」


「甘味?作れるの?」


「結構得意だぞ、前の世界じゃよく作ってた。てか作らされてた。俺もこの世界に来てから、好きになったな。食べられないとなると作りたくなるもんだ。」


 アミーは改めてユウキの家を見る。ドラゴンの首を切り落として加工した飾りと、母国語で〝仁義じんぎ〟と書かれた掛け物、熊一頭の毛皮を丸ごと床に並べた大変迫力のある絨毯じゅうたん……。


 前の世界でどんな仕事をしていたか、一目で解る趣味の悪い部屋。おそらく同じ転移者でなければ、接点は無かった人種だろう。


「全く想像出来ないんだけれど……。」


「簡単さ、俺は長期をやったこと無いが、刑務所にいると砂糖が貴重品……。シャバ出てくると、どんな強面でも一級品の甘党が出来上がる。」

 

「甘味はわたしも久しぶりね。帝国では蜂蜜か果物くらいしか甘い物なんてなかったから。」


「んじゃ、ちょいと待っててくれ。」


 そう言ってユウキは再びキッチンへ立つ。そしてしばし……釜から取り出しふっくらと香ばしく焼けた表面に砂糖をまぶし、カットした果物を添え付ける。


「あいよ、リコッタパンケーキと紅茶のセット。蜂蜜・砂糖・ミルクはお好みで。」


「やっぱあなた傭兵より料理人になった方がいいんじゃない?ただその顔だと怖がられるから、あなたはキッチンに隠れてイケメンを店員に雇うことをオススメするけれど。」


「明日の朝食てめぇと時計の煮込み鍋にしてやろうか……。」


「う~ん!まともな甘いお菓子なんて何時ぶりかしら、身体に染みるわぁ……。」


「……ちょっと野暮な話しをしてもいいか?」


「お菓子に免じて少しなら。」


「おめぇ〝自分の能力は万能じゃない〟って言ってたが、どう考えても今まで見てきた中で最強に数えられる部類だ。その気になればマリーだって手足も出ないだろうよ。」


「あの桃色女は無理ね、能力を発動する前に発狂させられるわ。」


「時を止めて、穴掘って、運んで埋めてしまえばいい。」


「発想がヤーさんのそれね。いやだわ、怖い怖い。……人間相手ならその手法は有効かもしれないけれど、あの女は無理ね。運ぼうとわたしが手を伸ばせば、きっと目覚める。」


「……根拠は?」


「感よ。あの女、文字通り人間じゃない。」


「しかし帝国の賢人なんていわれる位だ、戦でも十分活躍しただろうよ。」


「そんな華麗なものじゃないわよ。500人くらいの敵兵を時が止まってる間、手動で別陣地に運ぶだとか、奇襲部隊を何日も掛けて見つけるだとか……。見る者にとっては一瞬のイリュージョンかもしれないけれど、当事者からすれば泥臭い仕事ばかり。」


「あと……。おめぇの能力〝時を止める〟だけじゃねぇな。」


「それこそ根拠は?」


「服屋の採寸をするとき悪いがちょっと実験させてもらった。裾上げで仮止めする時、店員が間違って針を足首に軽く刺しちまったろ?あれ俺が仕組んだんだ。あの針には墨が塗ってあってな。よく見ないとわからない、ほくろ位の入れ墨を刺した。それが見あたらねぇ。」


「悪い傭兵さんね。毒を塗られてたら死んでたじゃない。」


「自分の肉体を逆行ってところか?」


「ご明察。不老不死なんて大層な能力じゃないわ、一撃で死ぬ……又は意識を失う攻撃ならあの世行きよ。それ以外ならば肉体を逆行させて、この位の若さを保てる。傷も意識さえあれば肉体を逆行させ回復できるわ。」


「やっぱ羨ましいなぁ。俺なんか着の身着のままで、拳銃と刀だけで飛ばされたぞ。」


「拳銃と刀を常備して歩いているのを、着の身着のままとは言わないと思うんだけれど……。」


「いつも持ち歩いてた訳じゃねぇ、たまたまだ。」


「召喚された先が警察署じゃなくて良かったわね。」


「他に隠した能力も一杯ありそうだな。」


「ケーキが無くなったわ。話しはお終い。まぁ紅茶のついでに面白いもの見せてあげる。」


 そういってアミーは銀時計を開いた。すると氷が熱で溶けるかのようにみるみると小さくなり……。だぼだぼの服をまとい、赤渕眼鏡のズレた幼年の少女がソファーに座っていた。


「そのきになれば、こんなまねもできるのよ。」


 舌っ足らずにしゃべる少女を呆然と眺めるユウキに苦笑いしながら、少女はそのまま紅茶を口にした。







 





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