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閑話 賢人の日記

 【愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ】


 ということわざがある。ならば【帝国の女賢者】などと持てはやされたわたしが〝経験上、歴史を先に学んだ方がいいだろう。〟と判断するのは、どちらとなるだろうか……なんて滑稽こっけいな事を考えながら筆を執る。


 この日記は以前と同じ……この王国では一人以外誰も読めない母国語で綴ろうと考えている。母国語は複雑な文字数と列を持った自然な暗号文章となっているらしく、これほどまで錬金術が発展した時代ですら解読出来ていないらしい。


 何よりも母国語で綴っていた日記は、わたしが何の変哲もない時計職人の小娘であった稚拙な証明でもあるのだ。


 さて二度にたびと飛ばされたこの国……【東西統一王国】、一般的に〝王国〟と呼ばれるこの国は、わたしが忠誠を誓った国である帝国が滅び、後の戦乱期に産まれた〝西デラス王国〟を母体とし、150年前に収束した東西戦争を経て隣国と合併し今日こんにちに至るらしい。


 わたしが献身し、皇帝陛下と共に歩んだ帝国はあっさりと滅んでいた。悪女に籠絡ろうらくされた最後の皇帝が、全権を掌握しょうあくし、法を越えた独裁者となった。そして革命が起き、狂王の首が刎ね飛んで、今や草木も生えない魔物が跋扈ばっこする荒野となっている。


 国破れて山河すら無いとは、諸行無常もいいところだ。国の黎明れいめい期から終末までを見た人間など、中々に希であろう。


 わたしはこれから〝王国民〟として生きていく。帝国で力を行使していたときは自由を欲したものだが、いざ自由になると寂しさが沸いてくるのだから人間とは勝手な生き物だ。


 まずは……このあからさまにヤーさんの事務所っぽい部屋から出て行きたいものだ。いや帝国よりも〝魔導工学〟なるものが発展しており、シャワーもあるし、このヤーさん顔に似合わず料理が異様に上手なので、不愉快ではないのだが、独立というのは国家にしろ個人にしろやはり夢見るものだ。


 街の一角にある時計屋さん……それがわたしの夢だ。賢人だの護国卿だのはもう御免被る。

 

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