短閑話 魔女の散歩
ウィーサは魔導の研究が一段落ついたこともあり、気晴らしに月と星が照らす夜空をほうきで飛び散歩をしていた。見える風景は月光花の仄青い光、栄えた町が照らすぽつぽつとした夜景。ウィーサはほうきの柄に腰掛けるようにしてその幻想的な光景を見ていた。
ウィーサは研究に行き詰まった時や嫌なことが有ったときは、大抵夜空を散歩してストレスを発散していた。
そしてふと、ウィーサは一つのことを思い出した。自分を育ててくれ、一流とまでよばれる〝魔女〟にしてくれた大恩人。四英雄のひとりイリー=コロン、その終の棲家に2年前の事件以降一度も行っていないことを思いだしたのだ。今あの洞窟は魔導師達の聖地とも言われており、イリー=コロンへの献花に訪れる魔導師達であふれているという。
幸い今は真夜中、人混みの中行くよりも良いだろう。そう考え、ウィーサはカリフの町にほど近い前とは違う立派に整備された道のある洞窟へと向かった。ほうきから降りたウィーサは懐かしさに浸りながら一歩一歩洞窟を歩いていく、そして半刻ほど歩き最深部に到着した。
自分が発見したときにはこの洞窟の最深部は製本や魔導の研究が記された紙で溢れかえっていた。しかしそのすべてが燃えた今残るのは、自分がこの手で封印硝子の棺に収めた老婆のミイラ…ウィーサの恩人であり師匠イリー=コロンの亡骸だけだった。
周りには洞窟からあふれんばかりに花束が置かれて積み上げられている。ウィーサは紫の三角棒を脱いで黙祷を捧げる。自分が魔導師育成校に入らなければ、実習試験でこの洞窟を見つけなければ、そして今の仲間達に助けられなければ今の自分は居なかっただろう。
そんな諸々の感謝を込めて長い黙祷を終え、再び洞窟を歩いて帰る。仲間のいる、テグレクト邸に戻るため感傷に浸りながらも一歩づつ歩きウィーサは洞窟をでて…あるものを見つけて首をかしげた。
「ありゃ?洞窟の入り口に花束なんてあったっけ?」




