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召喚した式が強すぎて僕のやることがない  作者: セパさん
狂気の式と伝説の系譜
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3期生最終実習 オリエンテーション

 陰湿な結末をむかえ、すっきりとしない気分で、僕とマリーは学校宿舎に戻った。扉を開くと笑顔のアムちゃんに迎えられた。


「おにいちゃんたちおかえり~!」


 まさか〝君のお兄さんと死闘をしてきたばかりだよ〟となどと言う訳にもいかず、有耶無耶に言葉を誤魔化した。そして馬車で仮眠も取れなかった僕は眠い目をこすって徹夜で授業に参加するはめになった。


 まもなく4期生の卒業シーズン。王立学校では騎士・魔導師・召喚術師の育成を目的としており、卒業の際には卒業記念祭典が開かれる。騎士であれば模擬試合やパレード・魔導師であれば魔導を用いた卒業アートや魔術 錬成れんせいの研究発表・召喚術師であれば召喚獣を用いた演舞などが人気だ。


 どれも王侯おうこう貴族や各都市の領主様も参加する盛大な式典であり、保護者は無料で参加できるが、市民の参加にはかなり高価なチケットが求められる。丁度先輩である4期生の皆も、演舞の練習に取り組んでいるころだ。仲の良い先輩からは「卒業試験と同時にやらないといけないから来年は覚悟しろよ」と言われている。


 3期生も残り僅か、実技試験や学科試験で100人の元いたクラスメイトは37人にまで減って、留年し下に降りた先輩もいれて今のクラスは58人になっている。そして今日の授業は10日後から始まる21日にわたる実習試験のオリエンテーションだった。


「それでは、10日後から始まります、初めての実習試験について説明します。教員と実際に王宮に勤めている王国召喚術師の指導の下、王国召喚術師の仕事を肌で体験して頂きます。模擬もぎではありますが、式の手なずけ・不法侵入や反逆者、魔物の襲来・警邏・負傷者への看護治癒・王侯貴族への接遇せつぐう… 


 …これら6項目を21日の日昼夜に渡って実力が試されます。先輩からも聞いているかもしれませんが、これは3期生で一番落第の出やすい試験です。安心して眠れる時間は21日間皆無と思って下さい、常に我々教員や指導者が目を光らせています。」


 生徒一同に緊張が走る。滅びの龍を召喚した天才児マレイン=ヒューマピットだけが、余裕そうに落第して3期に降りてきた先輩達を一瞥し鼻で笑っている。僕も今までの試験をギリギリで合格し続けてきた身だ、3期をまたやり直しなんて考えたくもない。…そもそも召喚獣の躾けって時点でマリーを躾けられる自信がない!


「それでは、実習のペアを決めますのでクジを引いて下さい。21日間の相棒となりますので心して引くように。」


 マレインとだけはペアになりませんように!そう願いながら僕は箱に入れられたクジを引いた。


「あ、シオン君私と一緒だね。21日間よろしく!」


 僕がペアになったのは風の妖精を式とするレイチドという女の子だった。


「あ、はい。シオン=セレベックスです、よろしくお願いします」


「堅苦しいよぉ、レイチドって呼び捨てでいいからね。」


 レイチドさんは元3期生、つまり去年のこの実習で一度落第した先輩なのだ。


「21日間本当に地獄だった~、またやるのは嫌だけどしょうがないよね。でもシオン君でよかった、大きな声で言えないけどマレイン君だったら絶対喧嘩になってた!間違いなく性格悪いよあの子。それにシオン君の召喚獣学園中で噂だよ、すごい神話の世界の召喚獣生き物だって。」


 ちらりとレイチドさんが、机に突っ伏して盛大に眠っているマリーを見る。


「たまたまです。それに失礼かもしれませんが実習の色々お話し聞かせて下さい…。」



「おい!クジ引きもう一回だ!なんでこんなガキとペアを組まないといけない!!」


 教員に抗議の声を飛ばしているのは噂のマレインだった。


「クジは公平です。やり直しは出来ません。どうしても嫌と言うならば来年また引いてください。いいですか?マレイン君。」


 その教師の言葉に軽く舌打ちをして席へ戻っていった。


「え~、このひとわたしももいや~!」


 なんと驚くなかれ、マレインとペアになったのは、おそらくマレイン以上の天才児、伝説の系譜テグレクト一族が末裔まつえい、テグレクト=ウィリアム・ジュニアことアムちゃんだった。



  ◇    ◇    ◇



 3期生最後にして最難関の実習試験前夜、僕とアムちゃんは明日王都へ遠征する準備と21日間生活できる分の着替えや保清品、金銭を準備していた。アムちゃんはやたらとお菓子や関係のない本を詰め込んで、まるで遠足の気分でいるようだ。


 といってもまだ声変わりもしていない年でマリーの手で幼児退行させられているのだ、仕方ない。マリーは変わらず僕の机で吸血鬼の生態についての本を読んでいる。


「わたしマレインきらい~ぜったいいや~。おにぃちゃんとがよかった!」


「まぁ、クジだから仕方がないよ。…くれぐれも喧嘩したらだめだよ?」


 マレインとアムちゃんの本気の喧嘩、すなわち〝滅びの龍VS伝説の神獣〟など王都でおっ始めようものならば、この学園そのものが廃校してしまう恐れすらある。幾ら幼児退行しているとは言え、模擬試合の授業で千を超えるフェアリーの群れや神鳥ガルーダ、はては古代の自律駆動兵器ジェノサイダーにスティンガーまで召喚しているのだ。


 滅びの龍など霞むほどのアムちゃんの能力に、マレインは大分嫉妬を募らせている様で、先行きがかなり不安である。


 実習の21日間は指導者の王宮召喚術師に付き添い、仕事を共に行う。その中で一挙一足動がみられ、突発的に模擬的な襲撃への対応試験や、負傷者への治癒看護などの試験が行われるらしい。常にペアとなった生徒と行動し、チームワークも採点基準となる。


 …マレインとアムちゃんは本当に大丈夫なのだろうか。


 そういえば、マリーを〝式〟として扱う学校行事は、この実習が初になる。マリーは僕の中で既に召喚獣や〝式〟というカテゴリーに入っていない。かといってどこに入っているか?なんて聞かれても反応に困る。マリーはマリー。テグレクト邸で本人が言っていたことではないが、僕も同じ考えだ。


「マリー、実習大変みたいだから頑張ろうね。」


『 死にはしない 安心 』


 マリーのそっけない本を読みながらの返答に、おもわず苦笑してしまう。確かにマリーと会ってから生き死にの狭間を漂い過ぎた…、その殺そうとした張本人が目の前で僕をお兄ちゃんと呼び、同じ実習に参加しているのも不思議だが。


「模擬試験だから変な幻術や呪いみたいなことしたらダメだよ。」


『 場合 に よる 』


「あとさ…。」


『 …? 』


「ペアの子がレイチドって女の子だからいつもみたいに抱きかかえたり、胸に埋めたりは…恥ずかしいからやめてね。」


『…ぷっ』


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


マリーは笑って僕の提案への返答をしなかった。

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