間話 変幻自在 妖精プーカ
僕は自室で一人修行を行うこともなく、くつろいでいた。テグレクト一族には安息日というものが設定されている。過酷な修行を続けることは心身ともに壊れる恐れが有り、6日に一度はなにもせずに5日間の疲労を取り除き次の修行に赴くという目的で設定されたらしい。僕もそれに合わせてくつろがせていただいている。
コンコン とノックの音がした。ぼくは返事をして入ってきた人物に少しおどろいた。
「あれ?マリー書庫に行くんじゃなかったの?…というかノックして入るなんて珍しいね。」
ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフ
「 ? 」
なんだろうこの違和感、マリーのようでマリーじゃないような… そこで僕は、少し鎌をかけてみることにした。
「ねぇマリー、明日の予定だけどどうする?また憑依の練習にしよっかそれともぼくだけ?」
「 … 」
そして少しの沈黙のあと偽マリーは煙と共に姿を現した
「や~、やっぱりおにいちゃんはだませなかった~。」
なんと偽マリーの正体は幼児退行状態のアムちゃんだった。
「アムちゃん?どうしたのってかどうやってマリーに?」
「え~とねぇ。プーカっていう変異の妖精を召喚したから遊んでたの!ニヒヒ。」
妖精プーカ、他の妖精と違い何かを操ることはなく変異の術をつかうどちらかというと妖怪や魔物に近い存在であり、変異によって姿を変えるため誰も本当の姿を見たことがないという、ある意味伝説の妖精である。その妖精をたやすく召喚するあたり、いくら幼児代行モードでも48代テグレクト=ウィリアムなのだと実感する。
「おにいちゃんも遊ぶ~?おもしろいよ。」
僕は誘われるがままアムちゃんの部屋へ連れていかれた。アムちゃんの部屋で見たものは、マントにフードという妖精らしかぬ小人。その小人が魔導陣に上をふわふわと浮いていた。この怪しげな妖精がプーカなのだろう。
「じゃあプーカ、あのお兄ちゃんを変異させて!」
すると僕の体が光につつまれ、ぐにゃぐにゃと曲がり始めた。
「うわ、なんか体が緑色?それに牙や尻尾もついてるし。」
「おにいちゃんワイバーンになったー、かっこいいよ!」
魔物の姿にされてかっこいいと言われるのも…何とも複雑である。
「わたしは自在に操れるけどほかの人だと気まぐれなんだよね。でも村人とか冴えないのよりよかったじゃない!」
たしかに、変異するとその力も得るのかいままで感じたことのない能力を感じる。…かといってテグレクト邸の備品や壁を壊す気になれないので真相は不明だ。
「というかアムちゃん、マリーに変異したならマリーの能力使えなかったの?」
「ん~、ドラゴンに変異したときはブレスもはけたのにマリーに変異したら何もできなかったの。でもすごかったんだよ、いろんな物とか弱点が見えて!試しに鍛錬機器と戦ってみたらスーってやったらバーンって倒れたの!」
まったく説明の意図が読めないが、マリーには物の弱点を見る力があるらしい。というかあの精神操作能力がなくてもそんなに強いのかマリーは。
「なにごとか!?ワイバーン?何故…。いやわかった。シオン君すまない、弟の遊びに付き合ってもらっていたようだ。」
フィリノーゲンさんが入ってきてどうやら一瞬で状況を把握したようだ。
「えい!」
そんなアムちゃんのかけ声と共に、突如フィリノーゲンさんも変異をかけられた。
「ちょっと…これはないのではないか、ジュニア。」
フィリノーゲンさんが変異したのは栗色の髪をもち、貝で胸を隠し下半身に魚の尾ヒレがついた美しいマーメイドの姿だった。
「じゃあ私も!」
そしてアムちゃんは魔術士の上位交換の魔物魔女に変異した。
かくしてアムちゃんの部屋はワイバーン・マーメイド・魔女という混沌とした部屋になった。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「マリー!?」
『 楽しそう 』
マリーを置き去りにして始まった魔物仮装大会だ、許してほしい
『 どうせなら もっと 楽しくしましょう 』
そう言うとプーカの魔力が高まった。暴走に近い形で変異の魔法が部屋中に充満する。
僕たちは妖精の姿になっていた。魔女であるアムちゃんの率いるサバトが始まり皆踊り狂った。どこからか聞いたことのない太鼓の音がする。それに合わせてみんなさらに踊り狂う今は夜だ、魔女を崇拝する神聖にして不可侵の儀式。誰にも邪魔されない、誰にも邪魔させない。邪魔する物は首を刎ねる。僕たちは妖精だ、妖精はみんな勇敢で魔女が守ってくれる僕たちが魔女を守る。そしてみんな花に還って死んでいく。だがこの時間はじゃままままま…
パチン
「「あっれ?」」「なにごとだ?」
僕とアムちゃん、フィリノーゲンさんは声を揃える。全員元の姿に戻っていた。さっきまでプーカで遊んでいたのは覚えているそのあとマリーが来て、おそらく幻術をみせたのだろう。その証拠にプーカだけまだ精神操作が解かれていないのか一人踊り続けている。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
そしてマリーはアムちゃんにデコピンをしてこう言った。
『 火遊び は ダメ 』
マリーに叱られたアムちゃんは悲しげで不満そうにプーカを還付した。
◇ ◇ ◇
「マリーの精神操作には今更驚かないけど、アムちゃん叱ったのは意外だったね。どうしたの?」
『 プーカ は 危険な妖精 度が過ぎる と 本当の自分 が 判らなくなる』
思わずぞっとする。マリーが危険と言うほどだよほどの事なのだろう。
『 変異で 遊びたかったら 私 に 言って 』
「…ろくでもないことになりそうだから辞めておくよ。」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
『 残念 』
それだけ言ってマリーは読書に戻っていった。




