溺れるギャンブラー ③
カリフに存在する日の出日没関係無く営業する違法カジノ、魔導と召喚術の町カリフでは珍しい〝普通のカジノ〟マフィアの絡む違法カジノは今、狂気のカジノに変貌していた。
トランプのバカラは引き分け8倍付けが延々続いている。ブラックジャックは、ディーラーがバーストをしてばかり。客はチップを倍々にしていき、どの客も金貨1枚を示す赤のチップが大きな籠からあふれ出ている。
ルーレットの卓では最高倍率36倍付けが連発している。既に27連続で〝6の黒〟のポケットにボールが入って行くのだ、卓の客みんなが6に賭けて見事に大当たり!ルーレットの卓はかつて無いほどにチップの山が積み上がっている。
サイコロの卓では客がサイコロを投げると出目は6・6・6、ディーラーが投げると出目は1・1・1。2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍、128倍、256倍、512倍………となっていくチップ。勝ったチップを客達は片っ端から全額賭けていき再び勝利を収める。
スロットルはジャックポットを頻発、すべての客が高額のチップで埋め尽くされている。10台あるスロットルの台が一斉に警報のような光りと音をあげて、はき出すようにチップをばらまいていく。こぼれ落ちたチップを巡って客が口論し、黒服も大忙しである。
客にもディーラーにも目に狂気が宿る。ここは既にイカれたカジノ、狂気の時間、赤のチップは店のストックがなくなり金貨そのものでのやりとりも始まっている。山のようにふくれあがっていく高額チップと金貨銀貨、鉄火場の喧騒。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
狂ったカジノで笑い声が木霊する。その笑い声に耳を傾けるものなど、この場にいるはずがない。
◇ ◇ ◇
魔女のほうきはテグレクト邸を出発して、3人を乗せ夜のカリフの町を飛び、スラムに近い強固な建物の近くに到着した。
「は~、ウィーサさんのほうき初めて乗ったよ。」
「あー!そういえばシオン君乗せたこと無かったね-!乗り心地はどう!?」
「操作と浮遊の魔導なら大岩でも動かせるのに、なんで箒なのかなって感じかな…」
「あはははは!魔女のこだわりさー!」
『 素敵な 気配 』
「この建物がそのカジノ?」
「そうそう!ヘンテコなリストバンド付けさせられる〝普通のカジノ〟だよ。」
「呪縛樹かぁ、一応食らった時の対策訓練はフィリノーゲンさんから聞いてるけど…」
「ちゃっちぃから大丈夫さー!それに魔力が全部消えても何故かマリーさんとの式の契約は消えないんでしょ?問題無い!さぁ行こう少年!」
ウィーサが強固な建物の扉を開ける。館に3人が入って行く。入るとまずは受付があった、いるのは相変わらず柔和な笑みの女性が一人だけだ。
「いらっしゃいませ。何か故障した商品はございましたか?」
女性がそう尋ねる。
「火を焚く魔導具が昨日故障したっさー!この二人は今日ね!」
「かしこまりました。では上の階段へどうぞ。」
受付の女性が、扉の魔導による施錠と物理的な施錠を解く、扉を開けると直ぐに階段があり3人は階段を登っていく。 階段を登った先でウィーサは扉をあけた。
先ずは黒服が出迎え、ウィーサは二人を紹介する。シオンとマリーはペンと羊皮紙を渡され、年齢と氏名、住所を記載させられた。二人とも事前に決めていた架空の住所を記入する。それが終わると更に奥の扉へ案内される。そこで見た光景は昨日と変わらず〝普通のカジノ〟だった。案内役の男が慣れた口調でカジノの説明をする。
「ではご新規のシオン=セレベックス様、マリー=セレベックス様。当カジノではゲームの際はチップでのやりとりを行わせていただいております。供託として金貨を最低3枚チップにしていただいてからのご遊技となります。」
「私5枚!」
「えっと…ぼくは3枚で」
『 3枚 』
「畏まりました。ではこちらが金貨5枚分のチップと金貨3枚分のチップです。場所代として最初に銀貨10枚分のチップをいただきます。当店は3刻を区切りに場代として銀貨10枚を頂戴しています。ではどうぞお楽しみ下さい。」
3人は魔力と魔導の呪文を封じる呪縛樹を手首にはめ、カジノをまわりはじまる。
「それにしても名前が〝マリー〟だけだと不自然だからって、僕と夫婦にしなくても…」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「いーじゃん!もうこの際くっついちゃえよー!」
『 手つきが不自然 偽りの公平 』
「おお!流石マリーさん!一発で見破るか!?」
「でも機械もあるね、スロットスだっけ?それはどうしょうもないんじゃないかな?」
「ああ!それは私でもタネがわかった!」
『 遠隔操作 魔導の糸が別室にある それを押さないとジャックポットはでない 』
「おお!マリーさん魔力ないのに魔導は見えるんだねー!本当に謎多き女だねー!」
『 … 』
「どうしたのマリー?」
『 物足りない 』
「物足りない!?だーいぶ白熱していらっしゃるけど!?」
『 もっと楽しみましょう 』
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
マリーの銀髪が逆立つ、同時にトランプ・ルーレット・サイコロ・スロットル・数字当てをそっかしこで行っていた客やディーラーが殺気立ち始める、賭け額がドンドンと大きくなり鉄火場の喧騒を強め出す。
「おい!チップをおかわりだ!金貨で10枚分!」
「赤に黒チップ55枚を全部だ!!さっさと回せ!」
「17…ヒットだ。もう一枚カードを!」
「おい!こっちもおかわりだ!!チップを箱ごともってこい!!!!」
『 高次認知能力低下処置… 完了 』
「うわ、すごいみんな殺気立ってる。」
「あはー!怖いねーーー!何の呪い!?」
『 理性を 失わせた ギャンブルならこれくらい 熱くないと 』
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「でもほとんどの人が負けてばかりだね。やっぱりディーラーが勝ってる」
「ディーラーさんも理性を失って勝ちに走ってるんでしょーよー!!」
「このままだと、店が大もうけして終わりそうだけど…」
目に狂気を宿し、次々と金貨銀貨をチップに変えていく客達は大半がそのチップを失いかけている。
『 頃合い 』
マリーの銀髪が嫌気を帯びて逆立ち始める。
『 視覚神経感覚変性 及び 強迫性観念 及び 不安性侵入思考 完了 』
まず変化が起こったのはバカラとブラックジャック、サイコロ、ルーレットの卓だった。いままで客が負けて、回収されてばかりだったチップが山になり始めている。
「えっと、幻覚とこだわりの呪い!?」
シオンがマリーのかけた呪いを分析する。
「おおう!凄いねー!シオン君、何が起きてるか説明するんだ!!」
「多分ですけど…、トランプの卓…ブラックジャックでは客が勝つように20~21に見える呪いをかけたんです。バカラはルールはわかりませんが、あのチップの増え方からして多分一番倍率が高いカードがでるように。サイコロも同様です。そしてルーレットでは今で4回目…まちがいない黒の6のポケットにボールが入るようディーラーに呪いをかけた。」
『 正解 流石主 』
「ほーーー!!こりゃすごいね!!わたしたちには呪いを掛けてないからかな?明らかに負けてるのに客がチップもらってるね-!」
「この場で正常なのは僕とウィーサさんだけです。あとはみんなギャンブルの狂気とマリーの呪いで…」
「あとはスロットルと数字当てだね!どうしようか!?スロットルを操る魔導の行き先は上の階かな!?」
『 問題無い 確認済み スロットルの遠隔操作は一点 …屋敷を覆う 』
マリーの嫌気が更に強さを増して、禍々しい呪いの気配を充満させる。だが狂気に陥る客も店員も見向きはしない。
『 原始好機欲求強化処置 …完了 』
カジノの明かりがチカチカと付いたり消えたりを繰り返す、さらに警報が鳴りけたたましい音がカジノ中に鳴り響いていく、10台あるスロットルの台が一斉に警報のような光りと音をあげて、はき出すようにチップをばらまいていくのも同時のことだった。
「うわ!耳がおかしくなるー!!」
「これは…僕も初めてだ。マリー何をしたの!?」
『 好奇心 を 高めた 理性は既に失われている。 目の前にボタンがあれば 迷わず押す。 』
「え!?じゃあさー!警報とか緊急コードも押されてるってこと!?」
「それじゃあちょっとまずいんじゃ…。マフィアの巣窟だよ!?」
『 ご登場 』
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
急に全ての警報音や機械音が止んで、静寂が訪れる。聞こえるのはサイコロがグラスを回る音やカタカタとルーレットの盤面を銀球が踊る音だけ…
黒いローブに覆面で顔を隠した魔導師や召喚術師らしき人間、マスケットを持つ同じく覆面の男達50人ほどがカジノへ侵入し、天井に一発マスケットを撃ち込んで狂気に静寂を訪れさせた。




