表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/135

白知の賢者 ②

 見渡す限り紫や濃黄色の霧の中、金髪の小さな少年が無表情で立っており手には木の棒が握られている。森の中は人食い花、寄生花、毒花粉を撒く冬育木や、木に擬態した魔物にキマイラ、ドラゴンと様々である。今魔物達は金色龍王のブレスで焼き払われ、炎・土・水・雷・風の魔導によってバラバラにされていった。少年はあくまでも無表情で機械のように襲いかかる魔物たちに魔導や召喚した式で攻撃する。


 あたりは混乱や麻痺の効果がある花粉に包まれているが、少年は混乱しない。少年には〝協調性〟や〝自意識〟というものが最初からないのだ、混乱のしようがない。流石に麻痺はするが、魔導と式を操る少年を止められる魔物はこの森の中にはいなかった。


 やがて幾多の冒険者やトレジャーハンターを食い物にしてきた〝人食いの森〟は、1人の11才の少年によって焼け野原と化した。少年はやることもなくなったので消し炭になったモンスター達の数を数えはじめた。すると紫のローブを羽織った女性と緑の髪をもつ少女が猛スピードで飛んで来た。


「ちょっとーー!!タダン君探したよ!!なにしてたのさー!」


「これ…この子が1人で!?人食いの森と言えばかなり高位のダンジョンよ。」


 ウィーサとレイチドは急に姿を消した少年タダンを探し、見つけた頃にはダンジョンの中に居た。急いで助けようとすると、タダンは驚異的な魔力を爆発させて森を一瞬で焼け野原にしたのだった。少年は無表情のままウィーサとレイチドに言った。


「1743」



◇  ◇  ◇



 エンサーへタダン君を送りに行ったウィーサさんとレイチドは、出発してから2刻もたたない内にテグレクト邸に戻ってきた。目を離した隙に転移の魔導でいなくなり、なんと人食いの森をタダン君が単身で焼け野原にしたというのだ。


「以上がエンサーへ行くまでの経緯です。タダン君の絵の才能からあの町ならば受け入れるとも思ったのですが、とても平和に町での生活を送れるとは思えません。不謹慎な発言ですが、両親が対応に困った理由も理解できます。」


「ふむぅ。一度見た高位の魔導や召喚術を即座に習得する才能か…。これで一般的な意思の疎通ができる人間ならば英雄にもなれるだろうが、精神年齢は3才だ。それに食事や着替え、湯浴みすら1人でできぬ。協調性もまるでない上に疎通もろくにとれん。」


「しかしジュニアの技すら一目見るだけで習得するとは…。5日の稽古の間にどれだけの技を身につけたのやら。」


「しかしこの少年をどうするか…。古帝国の賢者ですら不可能と言われた高位の魔導と高位の魔物を同時に操る存在だ。ただ、この知恵では傭兵や近衛にもなれないだろう。…マリーよ何か良い方法はあるか?」


『 先天性 治療不可 できることは一生眠らせることくらい 』


「それも可愛そうだ…、この才能を活かせる場所はないものか。」


アムちゃんは天井を無表情で眺める少年を見て苦々しい顔をした。


「78291」


 タダン君は僕らの話など興味がないように、テグレクト邸会議室の天井に飾られたシャンデリアの宝玉の数を数えていた。


「とにかく1人で人食いの森を焼け野原にするほどの実力者で、情緒も不安定な子だ。細心の注意を払って介助しよう。メイドや執事では無理だ、僕たちで交代で世話をしようか。」



 そしてテグレクト邸の客人となったタダン君は僕たち6人が交代で世話をした。着替えを手伝い、食事を介助で食べさせて、湯浴みを一緒にする。こだわりが以上に強く時々怒りだして強烈な魔導で攻撃をしてくるが、3日もすればタダン君のあつかいにみんな慣れてきた。



 今日は僕がタダン君の世話係だった。丁度湯浴みを一緒にしていると、タダン君のこだわりが始まった。


「お湯は肩から!お湯は肩から!お湯は肩から!お湯は肩から!お湯は肩から!お湯は肩から!お湯は肩から!お湯は肩から----!!!!」


 背中にお湯をかけて布でこすろうとすると急に怒り始めた。ぼくは謝って、お湯を肩にかけようとすると…、一瞬でタダン君が姿を消した。そしてタオルを巻いた姿のまま遥か遠くの庭先まで出ていた。…レイチドの秘術〝シーフの歩法〟だ、いつのまにかその技を見て習得したらしい。ぼくはタダン君をなだめて肩からお湯をかけて無事に湯浴みは終わった。


 …タダン君をテグレクト邸で世話すること7日すでにみんな疲れ切っている。アムちゃんでさえ賢者と称するほどの実力をもつ精神遅滞の子なのだ、怒りが爆発すればどんな反応をされるかわからない。魔導師・召喚術師・魔導剣士としても超一流の実力を持つ、精神機能が遅れた子供。レイチドの言葉ではないが親が対応に困った理由もわかる。僕たちは再び会議室でタダン君の今後を考えていた。


「この七日でわかったことは、力のアンバランスさだ。火を灯すという魔導の基礎の基礎すらできないのに炎の渦を巻き起こす魔導は起こせる、跳鳥一匹召喚できないのに金色龍王、キマイラ、阿修羅、麒麟やケロベロスといった高位の魔物を5体ほど同時召喚までできる。おそらく自分の気に入った技にしか興味をもたないのだろう。」


「聞くにシーフの歩法や僕たち一族の秘伝まで習得している。自身の身の回りの世話すらできない人間とは思えない。戦力として傭兵なり護衛なりになれればよいのだがあの性格では不可能だろう。」


「うーん!でも、ずっとこのままテグレクト邸に置いておくわけにはいかないよ!?」


「力は凄まじいですが傭兵団では手に余るでしょう。それにカリフや王都でも彼を適切に扱えるとは思えません。」


「んー。何かいい方法はないのかなぁ…」


 僕たちが会議をしていると、急にハープのような心地よい音色が響いた。タダン君が会議室に飾ってあった弓を弦代わりに弾いて音楽を奏でていた。その音色はなんともいえない、黄昏の光景が浮かぶ美しいものだった。


「あー!これエンサーで聞いた!たしか〝精霊と神々の祭礼〟って曲!」


「へぇ。家で覚えたのかしら?絵だけじゃなくて音楽の才能もあるのね、本当に万能な子…。」


「うむ。これで協調性に優れ、発達が遅れていなければ偉大な賢者として名を残したであろうに…」


 ぼくたちはタダン君が飽きてやめるまで、彼の美しい演奏を聴き続けた。結局会議の内容は進まず、タダン君をどうするべきか見当すらつかなかった。



◇ ◇ ◇



「ねぇマリー、タダン君って何者なの?食事も湯浴みも着替えもできないのにあれだけの凄い能力をもってるなんて。」


『 脳の欠陥 普通人間には 協調性や自意識の代償として 脳の力を発揮するストッパーがある 』


「代償?」


『 そう 彼はそれが外れてる 一目で全てを理解して 異常な計算・暗記・執行能力をもつ 』


「でも身の回りの世話も自分でできないんだよ?」


『 能力の代償 膨大な魔力と脳の外れたストッパーの性で 自分に興味を持たない 気まぐれに支配されている 』


「なんか難しいなぁ…。」


『 あくまで仮説 わたしでも不明 』


「あの力…、なにかの役に立てればいいんだけど。」


『 それは彼が決めること 』


「うーん。そっか。ごめんね変な事聞いて」


『 いい 彼はとても興味深い 私も初めて見る現象 』


「マリーでもなんだ、タダン君すごいなー!」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 どうなるか とても楽しみ 』



◇  ◇  ◇



翌朝、いつも通り鍛錬のため日の出前に起き出すとアムちゃんやフィリノーゲンさんが慌てていた。


「シオン!タダンが消えた!どこにいったかわからぬ。いままで部屋でぼーっとしていたのに何事があったのだ」


「今式を飛ばして偵察している、小さな金髪の少年…。」


「う、兄上!見つけた、だが手遅れだ!なんの気配を感じたのだあの子供は!!」


アムちゃんが冷や汗をかいて呼吸を荒くする、タダン君が単身向かった場所。そこは魂を抜き取るという静寂の悪魔が住む〝悪魔の城〟だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ