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シオン・レイチドの猛特訓 特別講師達

 場所はテグレクト邸いつもの鍛錬場。ただし今日の講師はちょっと特別。僕は鍛錬場で式のペガサスを召喚しては還付してを繰り返していた。


「シオン!それでは天馬の無駄遣いだ!聖の力を宿す式など神獣でも希、わたしでも一体しか持たぬのだ。それではただの空飛ぶ馬になってしまう!宝の持ち腐れもいいところ!」


「う、うん。でもアムちゃん、聖の力を宿すってちょっと見当がつかないよ…」


「うむぅ、確かにいきなりの極上物だ。戸惑うのも仕方がない。むしろ完璧に使いこなせたら、それこそマリー無しで兄上に敵うだろうな。」


「フ、フィリノーゲンさんに!?」


「それほどの神獣だといっている。確かに兄上もハルシオンという神鳥を調伏しているが、天馬とは格が違う。既に宿した魔力は凄まじいものだ。シオンが目標としていた式3.4体の同時召喚やマッドブルすら自在に操れる術者となる事ももはや夢ではない、あと少しの鍛錬でいけるだろう。」


「う、うん。」


「あとは兄上から聞いたが我々と異なる式の憑依。あのカラカラドリのスピードに、天馬の力を宿す訓練を積めば、もはやシオン単身でも一級の魔導剣士となれる。…これは今まで以上の猛特訓がいるな。」


「が、頑張る!聖の力を宿す… ウィーサさんがよく使う心に炎を宿す魔導に似てるのかな?」


「あれは独自の進化を遂げた魔導だな、召喚獣を式として自身の魔力にするのとは違う。独特に変異させた魔導そのものを自身に憑依させている。…イリー=コロンも我々の憑依の技術から着想を得たのかもな。」


「でも、どう使えばいいのかさっぱりだよ…」


「私が手本を示す!よく見ていろ。」


 急にアムちゃんの魔力が爆発的に上がった。そして鍛錬場に全身が崩れて溶けるかのような光りが満ちる。


「こうやってやるんだ。アースという天馬に匹敵する式だ。少し加減したし、ゆっくりとやったがわかったか?」


「ごめんさっぱり…」


「うむぅ…」



 …僕の特別講師。ペガサスの扱いについてを5日の鍛錬中、2回午前か午後のどちらかでフィリノーゲンさんからではなくアムちゃんから教わることとなった。召喚術師として1000年にわたる繁栄をしたテグレクト一族でも神獣・神鳥は生涯に一度調伏できるかどうかの式らしい。アムちゃんは既に僕とマリーが憑依で呼び出してしまったモノも含めて神獣・神鳥を4体調伏している。その礼ということで第48代テグレクト=ウィリアム直々に教鞭を執ってくれるというのだ。



「しかし私一人ではなぁ…元々直感を頼りに召喚術や秘伝を覚えたので、教える向きではないのだ。兄上は無能だったが、異常な努力家で血反吐を吐きながら召喚術や秘伝を覚えた分教えるのが上手いのだろう。」


 確かに7才で同時召喚・調伏・憑依を行うなど、かなりの才能が無いとできないだろう。天才はその技術を人に教えることが出来ないと聞いたことがある。イヤミではなく本当に自分でも〝やったらできた〟としか言いようがないためだ、アムちゃんもそのパターンでフィリノーゲンさんから比べたら指導内容はかなり抽象的だった。


「とにかく!天馬の力をだだ漏れさせるだけなどもったいない使い方をするな。体からあふれ出る力を自分の力にしろ!」


「うん、頑張る!」


その後もアムちゃんの抽象的な指導は続いた。


◇  ◇  ◇


場所はテグレクト邸の外庭、そこに少女が2人に青年が一人特訓を積んでいた。


「…心に風を宿したもう。」


ウィーサがそう囁くと、全身がバネのようになり驚異的なスピードでテグレクト邸を一周してきた。


「はぁはぁー。魔女が体を使うものじゃないねー!元々運動は苦手だし!」


「そのような魔導まで使えたとは…ウィーサさんはどこまで魔導のストックがあるのやら。」


「炎・水・風・土・雷あたりはイリー=コロン様秘伝の宿し方があるのさー!炎以外は大体身体能力をあげる効果だから使ったこと無いけどね!イリー=コロン様も心に炎を宿す魔導のついでで開発した魔導だったらしいしー。」


「うーん、私の式の憑依と似てるわね。似てるだけで全然効果は違うけど。」


「うむ、ウィーサさんありがとう。ではレイチド君、次は君の番だ。」


「はい、わかりました。」


 レイチドは自身の式、風の精霊レシーと憑依して同期する。レイチドの体中に風の力が宿る。そして、舞踏するかのような足取りで一度くるりと回った後、そのまま音もなく走りだした。


「うっひゃー相変わらず速いねー。身体能力じゃレイチドには敵わないかー」


 ウィーサがそんな独り言をつぶやき終わるかどうかの間に、テグレクト邸の屋敷を音もなく一周してきた。


「ふぅ。少しは速くなったかしら。」


 フィリノーゲンはウィーサ・レイチドから〝改善点があったら指摘してほしい〟と歩法の特訓に呼ばれていたが、ウィーサ・レイチドが行う目の前の未知の技法に驚くだけだった。


「いやぁ、二人とも素晴らしい。呼ばれておいてなんだけど、とても僕が口を出す世界ではないよ。召喚術師の僕が口を挟むレベルからとっくに脱している。レイチド君の成長もすばらしい。風の精霊を見事に憑依させている。並の努力ではなかっただろう。」


「はい!ありがとうございます。」


「ふむ、そういえばふと思ったのだがシオン君にレイチド君はリベンジをしてみないか?自身の成長が実感出来ると思う。シオン君には僕から伝える。彼も承諾してくれるだろう。」


そういってフィリノーゲンは通信の式を取り出した。



◇ ◇ ◇



 場所はテグレクト邸の中庭、今日は対野党や魔力を持たない魔物。弓矢やマスケットを持つ敵を想定した特別訓練を行うこととなった。そしてこの鍛錬に際して特別講師が招かれている。


「ほう、二人とも見違えたなぁ。半年前とは目つきも顔つきも違う。若いヤツはこれだから面白れぇよなぁ。」


 〝カリフを拠点とする高位の傭兵〟と問われれば真っ先に候補が浮かぶ一人となっている、モリイ=ユウキさんだ。前回僕たちは一太刀も浴びせられなかった相手…たしかに成長を確認するには丁度良い。


 前と変わらず〝チャカ〟と〝ライフル〟の弾は、デンプンから作られた当たれば砕けるだけの摸擬弾が入れられている。僕とレイチドも目にだけは入らないように封印硝子製のゴーグルを着用して臨む。そしてあの異常に鋭利な〝ボントウ〟という剣のかわりには木で似たような形に彫られた木刀を懐にいれている。


「ええ、私もおどろく成長ぶりです。それではよろしくお願いします。」


 そして僕とレイチドVSユウキさんの武儀が始まった。まずは僕の番から…マリーにはユウキさんと武儀をすると伝えたあと『 凶兆 』といって震えた僕に笑いながら『 冗談 』と伝え送り出した。…本当に心臓に悪い冗談はやめてほしい。


「シオン負けるな-!!」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


…例によってウィーサさんとマリー、アムちゃんが見学にきている。


「それではこれより武儀をはじめる。両者位置へ。ルールは相手への殺害及び後遺症の残る可能性のある攻撃は不可とする。以上、開始!」



 僕はフィリノーゲンさんの口上を述べている間にカラカラドリを憑依させ終えている。ユウキさんに向かって一直線に剣を振るう。…すると僕の一撃はユウキさんの木刀で止められた。ユウキさんは魔力がない、憑依も感知されてないはずだ、僕は冷や汗を流す。



「シオン、始まる前から一点を見すぎだ。そこまで速いのは予想外だったが、攻撃がおれの腹に向かって来るってばれちまうだろ。」


 始まる前の視線から読まれていた…。しかしまだあきらめるほどではない。僕はカラカラドリのスピードでユウキさんに剣を向けようとする。ユウキも転がりながら中庭の隅にある木まで移動して身を隠した。近づけば、あのチャカとライフルの餌食になる。僕は一度憑依を解いてマッドブルを召喚。ユウキさんが身をかくしている木に向かわせる。


「ツ、すばしっこいなぁ畜生。」


 マッドブルはユウキさんへと向かっていく。木から乗り出してライフルを構えている、僕はペガサスを召喚して飛び乗る。2体の高位の式を操作…半年前では考えられないほどだ。


「ぐ…」


 僕のマッドブルが膝立ちでライフルを構えていたユウキさんに当たった。ワラ人形がぼとりと落ちる。

そして転げ回りながら僕の式を避けて…


「うわぁ!!」


 僕のコメカミにデンプンが炸裂した。


「終了!それまで!勝者はモリイ=ユウキ。これにて武儀を終了する。」


「ふぅ、最初の一撃といい焦るぜ。すごい成長だ。」


 僕は負けたとはいえ前回まで一太刀も浴びせられなかった相手にマッドブルの強烈な一撃を与えたのだ、負けた悔しさはなくむしろ自信が付くほどだった。



「さて、次はわたしね。」


 レイチドが剣を取る。



「それではこれより武儀をはじめる。両者位置へ。ルールは相手への殺害及び後遺症の残る可能性のある攻撃は不可とする。以上、開始!」


 開始の合図と共にレイチドが音もなく姿を消した。ウィーサさんと特訓していたシーフの秘技だ。ユウキさんも剣の一撃をくらってワラ人形がぼとりと落ちる。


「ほぅ…」


 しかし焦る様子もなく転がるように見えない攻撃を避けながらユウキさんは、〝スーツ〟から丸いピンのついた球体をとりだし、ピンを抜いて空中へ投げた。すると…


「「キャ!」」


「うわぁあ!」


「「う…」」


目を開けていられないほど強烈な光りと耳がおかしくなりそうな爆音が響いた。


キーーーーンと耳鳴りがする。


 チカチカする視界が収まる頃には、レイチドはユウキさんに押さえ込まれ頭にチャカを押しつけられていた。


「気配も薄いし見事だったよ!」


「ユウキー!!!それ使う時は事前に言わないと!!みんなして耳と目がおかしくなる!」


「事前に言ったら意味ねぇだろ。死ぬもんでもねぇしな。」


「もーーー!耳塞いでてもキーンってするーーー!!」


どうやらあの武器はウィーサさんから買い取ったものだったらしい。しばらく僕同様呆然としていたフィリノーゲンさんも我に返ったようだ。


「終了!それまで!勝者はモリイ=ユウキ。これにて武儀を終了する。」



「いやぁ、二人とも怖いなー。半年後やったら今度こそ俺が負けるかもな。」


 笑顔で僕たちとの武儀をそう総評するユウキさん、僕たちも負けたとはいえ成長を感じられる武儀だった。僕たちは改めて手合わせしてくれたことの礼を言う。


「ユウキ殿改めてありがとうございました。二人も少し自信がついたようです。」


「おう、こいつらはまだまだ成長するな。次は本物の弾丸で挑まないといけないかもな。」


「うむ、それにしてもユウキ殿も無魔力の者とは思えないな。シオンの初弾は通じると思って見ておったが…、それにレイチドの見えない攻撃も急所を見事に避けていた。」


「ははは、まぁその辺は傭兵の感ってやつよ。毎日死んでもおかしくない目に合ってればそんな変な力の一つや二つも身につくってものさ。」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 楽しかった 』


「いやー!前回はボロ負けだったけど二人ともすごいねー♪」


「わたしはウィーサのおかげ、ありがとうね。」


「僕は…みんなのおかげかな。」


そうしてユウキさんを交えた夕食会も終わり、レポートによる鍛錬の反省。


『 強くなった とてもとても 』


「ありがとう、でも天馬も元々マリーがいなかったら見ることすらできなかったんだもん。やっぱりマリーのおかげだよ。」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 わたしの 主 』


 そういってマリーは僕をうしろから抱き締めた。相変わらずなんともいえない良い香りがする。ぼくも一端レポートの手を止めてマリーに甘えてしまう。ここ数日の猛特訓によるつかれがマリーの抱擁によって癒えていく、僕はマリーの胸の中で頭を撫でられる。とてもとても幸せな時間…


 そのまま僕は眠りについてしまい、翌朝大急ぎでレポートを仕上げることになってしまった。

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