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シオンの修業 同時召喚・新魔の調伏

 場所はテグレクト邸鍛錬場。今日も僕はフィリノーゲンさんの指導の下修業に勤しむ。今日は魔物の同時召喚…あくまで自身が調伏し、僕の一部となった式ではあるが、それでもかなりの高等技術となる。


「ふぅ!!はぁ!」


 僕の体から飛び出るようにプリーストンが召喚され、同時にマッドブルを呼び出す。


 そして、更に暴走しないよう気をつけて魔力を集中させる。…するとカラカラ鳴く鳥が召喚され、真上に一度上昇して鍛錬場の中を目にも止まらないスピードで飛び回る。


「3体…いやマリーさんを含めたら4体の同時召喚か!大分腕をあげたものだ。素晴らしい」


 フィリノーゲンさんは素直に僕を褒めてくれた


「これほどの式を自在に扱うものなど近衛召喚術者並の力だ。マリーさんという異質な式を考えればその力は、テグレクト一族すらも超えるかもしれない。」


「ありがとうございます!」


 僕は身に余る賛美をもらいフィリノーゲンさんに感謝を述べながら、式を還付する。


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


 そして僕の初の式である愛しの式マリーは僕を抱擁してきてあたまを撫でられる。思わずふんわりとした安らかな気持ちになり、フィリノーゲンの前であったことを思い出して急いで離れる。


「さて、君にいる3体の式だが、実力も上がってきた頃だ。そろそろ式を増やしてもいいかもしれない。どうだろう、そろそろ高位の魔物の式を調伏するのも手だと思う。マリーさんとの憑依で召喚して二人で戦えばそれも可能だろう。」


 新たな式…僕の望みでもあった。僕はアムちゃんやフィリノーゲンさんのように乗って移動する式を持たない。そのため移動は常に馬車だ、フィリノーゲンさんのお墨付きがでたのだから、ここはその試練をやってみようと思う。


「はい、是非お願いします。…マリーよろしくね!」


『 こちらこそ 』


 そして僕はマリーにひょいと抱きかかえられる。憑依の準備だ、マリーと同期するように、魔力を暴走覚悟で最大限まで高める。全身に、やすらぎが満ちる…成功だ。僕は瞑想したままあらゆる世界をみわたす。折角なら陰湿なものよりも、明るい魔物がいいと光りの強い方向へ意識を向ける。


 … 一匹の白馬が底が見えるほど透明で綺麗な蓮池で、水を飲んでいた。これにしようと僕は意識を、その白い馬に集中させる。もっと近くに、もっと迫るように、もっと具体的に。


 僕は目を開けた、そして同時にマリーが憑依を解く。僕は召喚したはずの馬がいないことに少し不安を覚えたが、それは直ぐにみつかった。白馬は羽根を持ち空を飛んでいた。


「て、天馬!?」


 フィリノーゲンさんも目玉が飛び出しそうなほど驚き絶句している。神話級の魔物ならぬ神話にでてくる正真正銘の神獣だ。


『 傾眠脱力けいみんだつりょく処置 及び 神経感覚変性しんけいかんかくへんせい処置 … 』


 早速、マリーが銀髪を逆立てる。ペガサスの羽根の動きが鈍り、すこしづつ地面に着地する。


『 …完了 』


 そしては天馬一度あくびをして眠ってしまった。


『 陶酔強化とうすいきょうか処置 及び 心因反応過剰しんいんはんのうかじょう処置 及び 同処置強化 … 』


 天馬が深い眠りに入り、呼吸が止まってビクンビクンと跳ね上がる、そして時折深い呼吸を繰り返す。そしてペガサスから目映い光りが発せられた。


『 主 出番 』


「え、ああ!うん!」


 僕は天馬に紋章をかける。そして還付するように自身の魔力に取り込もうとするが、その力は膨大で蹄は沈む頃には、すでに汗だくになってしまう。しかしマリーがここまでしてくれたのだ、ぼくは魔力が暴走しないよう丁寧に紋章から吸い取るやっと1/3…。


 すると突如感じたことのないほどの魔力が僕に宿り始める、おそらく天馬の1/3を吸収したためだろう。マリーに抱かれたような不思議な安堵感を伴う魔力。ぼくはその力をつかって紋章に力を注いでいく、半分以上が紋章に沈み暴走覚悟で最後の力を振り絞る…


 天馬を沈めた紋章は徐々に小さくなっていき、僕に吸収される。僕は成功のよろこびを伝えようとフィリノーゲンさんをみるといまだに、目玉が飛び出そうなほど驚き口をぽかんと開けていた。


「フィリノーゲンさん!できました!」


「天馬…ペガサスの調伏など、私でもできん。シオン君とマリーさんのコンビはどこまで高見にいくのやら…。そしてシオン君、天馬の聖の魔導を吸収している。魔力そのものが爆発的に上昇したと言っていいだろう。ちょっとジュニアも呼んでくるまっていてくれ。」



 そういってフィリノーゲンさんは一度立ち去りアムちゃんをつれてやってきた。



「シオン!!兄上からきいたが天馬を調伏したのか!?天馬など、どこにいるのかさえ判らぬ幻の神獣だ。どこでみた!?」


「ええっと、光りが綺麗で、周りに木々があって…底が見えるほど透明で綺麗な蓮池で水を飲んでる白い馬を選んで召喚したんだけど…。」


「光り…綺麗な蓮池…そして天馬。間違えないシオンがマリーとの憑依で見た世界は天原だ。天界にある森で神話の生き物が生息するという、わたしでも書物でしかみたことのない場所だ。」


「シオン君、今式になった天馬をみせてくれないかな?」


「あ、はい!」


 僕は召喚紋を描き天馬ペガサスを召喚する。安らぐような膨大な魔力を感じる、純白の大きな体躯に純白の翼をもち、ひとつひとつの羽根が光りを宿して輝いている。


「天馬など生きている内に見ることができるとは…。シオンとマリーは本当に凄まじいな。」


「うむ、しかし天馬ほどの最高位の神獣。師匠として扱いを教えられるかどうか…。すまないジュニア今回はジュニアがシオンに教鞭をとってくれ。」


「ああ、無能な兄上では不可能だろう。承知した、少し準備もいる中庭で待っていてくれ。」


そういってアムちゃんはどこかへ走り去って行った。


 ◇  ◇  ◇


「さて、一応一級品の馬具ではあるが、天馬にかけるには少し物足りないな…。まぁしかたない。」


 僕のペガサスには、3人は乗れる白い鞍と龍王の皮から作られたあぶみ、顔には頭絡とうらくをまいて手綱を付けた。


「ではシオン、私とマリーを乗せて早速出発だ!」


「う、うん!」


 僕は中庭から式の念をペガサスに送って、ペガサスはそのまま空を走り始めた。あっという間に山をも越える高さまで飛んで、僕は思わず足に賭けているあぶみに力をいれる。


「式としているなら、念であやつってもいいが手綱で操ってもよい。あと少し高い、下ろせ!」


 僕はアムちゃんの助言にしたがって手綱で天馬を下に向ける。すると下にかけおりるように走り始めた。


「ふむ、私のガルーダを超えるかもしれん。少なくとも、こんな高さまではあがれないからな。速さも十分だ、まだ本気で走ってはいないだろう。よしシオン、右に操り王都まで飛ばさせてみよう。あと普通の馬にやるように手綱を払って加速させてみてくれ」


 僕はペガサスを右に向かせて手綱をはらった。すると空を凄まじいスピードで滑走し始めた。ペガサスはそのままスピードを落とすことなく、10分とせず王都に到着した。王都の側にペガサスを下ろして僕たち3人もペガサスから降りる。


「ふむ、初にしては上出来だ!空を飛び移動する式を扱うの少々コツがいるのだが、流石天馬なだけある。」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 楽しい 』


 アムちゃんとマリーはペガサスの鍛錬…もとい旅を楽しんでいるようだが、僕は未だに目のくらむ様な高所とスピードでふらふらだった。カラカラドリの視界を借りて味わうスピードと違い、実際に体にかかる負荷がかかるスピードでは大違いだ。


「では、変な騒動になる前に帰るとしよう。運転はたのんだ!」


 そういってアムちゃんが鞍の最後尾に飛び乗った、マリーもそれに続く。僕も意を決して再び天馬の運転に集中する。天馬は空を駈け、僕の合図と共に適度な高さで水平に走り始めた。


「よし!全力で飛ばせ!!!」


 アムちゃんが後ろで煽ってくる。ぼくは手綱をはらい、それに応じて天馬もスピードを増す。周りが点に見えるほどのスピードだ、そしてテグレクト邸が見えたあたりでスピードを緩めてテグレクト邸の中庭に着地する。みんな降りたのを確認して天馬を還付する。


 フィリノーゲンさんはその様子をみて、驚いているようだった。


「シオン、ただいまもどりました!」


「まだ半刻ほどだが…どこまでいってきたんだ?」


「王都まで、中々の速さだ。これは私のガルーダでも、調伏しているほかの神鳥・神獣でもできんな。」


「ジュニアをしてか…。それにしても高位の魔物をすっ飛ばしていきなり神獣…それも天馬とは。本当にシオン君とマリーさんには毎回驚かされるよ。」


「兄上もそのうちマリーを使わないシオンに負けるかもねー。ニヒヒ。」


「ううぅ、そうならないよう鍛錬を積むさ。そしてシオン君魔物の同時召喚、今この場でやってみてくれないか?」


「今ですか!?はい。」


 僕は魔力を高める、トップショットでプリーストンを召喚し……


「あれ?」


 トップショットでプリーストンのみを召喚するため、マッドブルやカラカラドリを召喚するよう魔力を調整していたのだが…、飛び出るように3体とも同時に召喚された。


「やはりな、天馬は君の今までの式とは格が別次元だ。すべて天馬の魔力で押し出されるように召喚できるだろう。さぁ、あとは天馬だけだ。」

 

 僕は再び、召喚紋を出しペガサスを召喚する。4体の同時召喚…初の高度な技に成功したことが素直に嬉しかった。


「やりました!フィリノーゲンさん!」


「ふむ、さすがだ。ではすべて還付せよ。今日の訓練はこれで終わりだ。…おつかれさま。」


僕は全ての式を還付して、アムちゃんとフィリノーゲンさんにお礼をいった。


そして自室でレポートも終わり、日没前には今日の鍛錬の全てが終わった。


「マリー、ありがとう。おかげですごいことできたみたい。」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 あなたの ちから わたしは補助 』


「それにしても神獣なんて、…はぁ、なんかにやけちゃうなぁ。夢の召喚術師に一歩近づいた!」


『 おめでとう 』


 そういってマリーは僕を抱き締めてくれた。思わずマリーの胸に埋もれる。


 その日の夕食は僕の神獣召喚で大盛り上がりだった。


「天馬!?わたし架空の生き物だと思ってたよ-!すごいねーー!今度かけっこしない!?魔女VS天馬のレース!そうだ!今夜にでもしようよー!」


「本当にシオンとマリーは合わさると凄まじいわね。神獣の調伏なんて今やってるのテグレクト一族くらいよ?つまり記念すべき3人目ね、おめでとう。」


「それにしても速い天馬だった。わたしも負けないようにせねばな。」


「いつまでシオン君の師匠でいられるか不安になるよ!もちろん、それは良いことだけどさ。」


 そうして夕食が終わりウィーサさんに引っ張られるように、僕の天馬とウィーサさんのほうきのスピード対決が始まった。ほかの4人も観客としてきている。ルールはマルボ山のてっぺんにある大きな木を一周して最初に戻ってきたら勝ち。みんなおもしろ半分に予想を立てている。


 僕は今日式になったばかりの天馬を召喚して、鞍に乗る。ウィーサさんも既に魔力を上げ終え準備は万端といったところ。


「それでは…開始!」


 アムちゃんの一声で早速ウィーサさんが弾丸のように飛び始める。僕も天馬を走らせて手綱をはらい加速させる。徐々にウィーサさんの姿が見えてきた。


「うえー!もう追いつかれてる。スタートダッシュで決めようと思ったのに。…心に炎を宿したもう。」


 更にスピードを上げるウィーサさん、僕とウィーサさんはほぼ同時にマルボ山の木を半周しゴールを目指す。ウィーサさんは風の抵抗を受けないようにいつもの三角帽子すらしまって、体を最低限にまで縮めほうきにまたがっている。僕のペガサスだって負けられない、全力でゴールを目指す。そして…


「勝者!シオン!」


なんとか後ろから迫るウィーサさんを征して、僕がゴールに立った。僕が到着してから数秒も経たずにウィーサさんも到着した。


「くそーーー!悔しい!スピードなら自信あったのにーーー!!」


「いや、天馬と争うほどのスピードを持っている時点で流石だ。」


「これは操作と浮遊の魔導にもう一個付加させる必要があるね!いやー、楽しかった!ありがとうねシオン君!新たな課題ができたよー!」


「いえ、こちらこそ天馬を式にするいい練習になりました。」


「なんもー!よーしじゃあ早速研究だ!」


 そしてウィーサさんは颯爽と部屋に戻っていった。


 アムちゃんやフィリノーゲンさん、レイチドも部屋にもどり僕とマリーが残された。


『 デート しない? 』


 突然の申し出で、心が跳ねあがった。


「で、デートって。この時間だし、町も日没でしまってるし……」


『 夜景 』


 マリーは僕とふたりで天馬に乗りたいようだった。僕もそれを承諾する。鍛錬やスピード勝負ばかりだったが、ゆっくりマリーと二人で空の旅もいいかもしれない。……白馬の王子様なんて柄ではないのは知っているが、たまにはこんな真似もいいだろう。


 僕とマリーは鞍に乗って、僕は天馬をゆっくりと走らせる。カリフから見える夜景、王都からの光り輝くような夜景、月光花の生い茂った森からの淡い光り、どれも素敵な景色だった。


 マリーが僕を後ろから抱き締める。


『 ありがとう 素敵 』


「ぼくも、すごい綺麗だね。」


 そして僕たちふたりはしばらく夜景を堪能して、幸せな気分でテグレクト邸に帰還した。

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