ウィーサアタック
カリフを拠点とする高位の傭兵モリイ=ユウキとテグレクト邸を拠点とする魔女ウィーサが傭兵ユウキの家でおしゃべりをしていた。
「やっほー!!ユウキ!!ウィーサちゃんによる弾薬とワラ人形、あとその他一式の宅配サービスでーす♪」
「おお、一々町からテグレクト邸の山まで登るのも面倒だったから助かる。でもどうした、急に?」
「ん~、傭兵さんのお家ってどんなかなー?って気になって!!」
「あっそ、部屋は見ての通りだよ。」
家は2階建てで、壁は鋼鉄と魔法銀によって隔てられ、カモフラージュと飾りを兼ねて唐竹割りにした巨木を大胆に貼り付けている。部屋の中はだだっ広く壁にはドラゴンの首を切り落として加工した飾りと、異世界の文字で〝仁義〟とインクではない太い字で書かれた掛け物、部屋の中にはソファーとベッドと囲炉裏そして食材を入れる木箱や水瓶がある。
「へーこれが傭兵さんのお家か!すごい豪華だねーー!」
「まぁ金が入れば次々と改造してったからな。おかげで宝物庫だの宝箱はねぇ。金はある内に使いたいタイプだ、何時死ぬか判らん仕事だしな。」
「ふーん。それにしても〝あるまーにのすーつ〟はいつ見ても真っ白だね-!毎回泥臭い仕事してるのに汚れないのかい!?」
「ああ、懇意の魔導師がやってる服屋で修復してもらってるんだよ。1回で銀貨50枚だ」
「うわーーー!超金の無駄遣いじゃん!!それにしても部屋の飾り付けのセンスひどいね!あはははははははは!!」
「うっせ、こういう物騒な仕事は金払い良い方が好かれるんだよ。あと悪かったなセンス悪くて。」
「ドラゴンの首を部屋に飾るとか悪魔でもやらないよ!!それにあの字はなに!?なんて書いてるの!?」
「 仁義 って書いてるんだよ。意味は義理とか人情とか…、まぁそんな感じだ。」
「らしくねーーーー!!あははははははははは」
「…うっせ。」
ウィーサはその後もユウキの部屋のベッドやソファーで跳ねてみたり、壁に飾られているドラゴンの飾りをしげしげと見て目を輝かせ、手榴弾をあつかう訓練に鉄球を入れる訓練をしてると聞いて同じことをしてみたりと様々な事をして過ごした。またユウキから〝仁義〟以外にも〝任侠〟だのといった文字にしようか悩んだことを笑いながら聞いていた。
どこまでもハイテンションなウィーサに振り回されながら、ウィーサとユウキは2階へ移動する。2階は射撃と狙撃の練習ができる鋼鉄製で、刀を使う練習のため何十本もの束ねられた太いワラがあった。
「おおーーー!!!すごいねー!なんか心躍るねー!」
「相変わらず物騒なもん好きだなぁ…」
「ねぇねぇこのワラなに!?何に使うの?」
「これは刀の練習に切るんだよ、床に立ててそのままな。」
「へーーー!やってみたい!貸して貸して!」
「どれ、変な魔導で壊すなよ。」
ユウキは壁に飾っていた木の鞘に納められた刀をウィーサに渡す。ウィーサは鞘から刀を抜いて真っ直ぐに構えて斬りつける。ウィーサの一太刀は1/3ほど刺さってワラは横に倒れた。
「うわぁ難しいね、切れ味は普通の剣より凄いのに。」
「どれ、貸してみな。」
ユウキがウィーサから刀をとる。軸足をバネのように、支え足は猫足立ちになり腰ごと捻るように一刀をワラに浴びせると、そのままワラは刀の一閃の形にそってボトリと二つに分かれた。
「おおおお!すげーーー!」
ウィーサが拍手をしてそれを見る。そして目を輝かせて自分も新たにもう一つワラを置く。
「こりゃ負けてられないね!…心に炎を宿したもう。」
ウィーサの魔力が爆発的に上昇する。部屋中の空気が圧縮され旋風をおこし、かまいたちが発生する。床に置かれた太いワラはかまいたちにそって2つに分かれた。
「ああーー!ワラの切り口はそっちのほうが綺麗だ!!なんか悔しい!」
「武器ももってねぇのに、そんな真似されるほうが悔しいわ!あと家を壊すな!」
「ワラ切っただけだも~ん♪」
「本当に何しに来やがった…。」
その後ウィーサは拳銃やライフルの試射を行い笑いながら的を外して、ユウキが見事に当てるとその度拍手と感嘆の声をあげていた。ウィーサの楽しい時間はあっという間に過ぎてまもなく日没に近くなる。
「うわぁ、ユウキ顔に似合わず料理上手いんだねーー!もっとド下手くそな料理でてくると思ったよ!こりゃなんの肉かな?」
「名前はしらんが前の仕事で討伐した馬鹿でかい鳥だ、部屋住み時代に死ぬほどヤキ入れられて料理教わったからな。そこそこはできる。あと顔に似合わずは余計だ。」
「ヘヤズミ?」
「ああっと…何ていうんだ。まぁ雑用と奴隷の間のようなもんだ。」
「へーー!!そんな過酷なことするの!?ゴクドウとやらも大変だね!うん!麦粥もおいしいね!」
「米がねぇからな。色々試したけどそれが一番おれの口に合う。」
「ユウキと話してると未知の言葉が一杯でてくるねーー!もうこっちに来て一年近いけど慣れたのかい?」
「ん?まぁ慣れるしかねぇだろ。魔導だの魔物だのもある程度慣れてきたさ。」
「そっか、ニホンに帰りたいって思わない?」
「ん~、たまぁにな。ただ冴えないヤクザ者やってるよか、こっちの方が居心地がいいとも思う。」
「 … 」
「なんだ急に黙って。」
「いやーー!なにも!ただ私がいきなり冥界だのに連れていかれたらこんなに適応できるかなと思ってさ!!ほらレイチドとかシオン君とかアム君とかに会えなくなるじゃん?」
「ああ、確かにな。これでもそこそこに仲いいダチはいたからな。会えないのは少し寂しいさ。ただ来ちまったもんはしょうがない。諦めて第二の人生歩むしかねぇだろ。」
「ほーー!吹っ切れてるねーーー!私が言えたことじゃないけどさ!あはははは」
「おめぇこそいきなり11歳から15歳になって両親もいねぇし故郷もねぇんだろ?俺よか複雑だと思うぞ?」
「そんなことないさーー♪わたしには助けてくれた恩人と王国随一の師匠がいるからね!」
「なら俺も同じさ、ウィーサちゃんがいなけりゃこれほどの傭兵になって無かったろうな。ありがとよ。」
「 … 」
「 ? なした、急に黙って流石にハイテンションも晩まではもたねぇのか? 」
「そんなことないさー!!私も色々お世話になったからね!!いい勉強になるよ!」
「そうかい、そりゃあ何よりだ。」
ウィーサはユウキの手料理を笑顔で食べ終えて、帰宅の準備をする。朝から晩までテグレクト邸以外の他人の家で過ごしたのは初の経験だった。
「そいじゃ!今日はありがとねーー!楽しかったよ!」
「おう、こっちこそたまには客人もいいもんだ。たまに遊びに来い。」
「いいの!?オーケー!また遊びにくるねーー!」
「あいよ、じゃあ気をつけて帰れよ。」
「はいはーい!」
ウィーサはほうきに乗ってテグレクト邸に帰還した、鼻歌交じりの上機嫌でレイチドにからかわれるのは帰宅して直ぐのことだった。支離滅裂に言葉を紡いで顔を赤くし、それを見て集まったシオンやマリーテグレクト兄弟にまで色々と質問をされた。
ウィーサの楽しい一日の最後は愛すべき仲間達のからかいと天然シオンの核心を突いた一撃で終わりを告げた。もはや自分の気持ちにも周りの目にも誤魔化すことはできなくなり、いつもらしくないモジモジとした姿になった。
夜も深くなり、盛り上がった会話も一段落ついて自室に戻るウィーサ。三角帽子とローブを脱いでパジャマに着替え、壁に掛けた三角帽子を見る。帽子に差された赤と金の大きな宝石のような羽根はいまだに輝きが衰えず、何とも言えないムズムズとした心地よさを心に響かせる。
魔女の初恋の相手は、魔女以上に奇妙な傭兵さんだった。




