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悪魔達の日常

 場所は古帝国跡地〝帝国の城〟そこに5人のトレジャーハンターたちが赴いていました。往き道だけでもキマイラや龍王、ゴーストなど高位の魔物がこれでもかと襲ってきて既に満身創痍、魔導師の癒しの魔導で回復をしてなんとか正門にたどり着きました。


 正門から突入し、再び魔物の討伐をせんと意を決します。その覚悟は入って10秒もたたずに折れました。100を超える金色龍王や、馬鹿でかいスティンガーの搭載されたモンスタータンクが横隊おうたいをならべ軍列を成し、自分たちに向いているのです。勝てるはずがありません。


 慌てて入場した門にとんぼ返りすると、正門に龍王ほどの巨躯を持ち、黄金の巻角を生やし手足は大熊のように豪気で爪は猛禽類のように鋭い人型の男が腕を組んでたたずんでいました。


「なんだ、折角来たのにもう帰るのか。つまらんな」


 異形の男は本当につまらなそうに言いました。この古帝国の跡地までくるだけでもかなりの実力者です、少しは骨のあるところを見せてくれると思っただけに拍子抜けでした。5人は後ろの魔物の軍列と正面の異形な悪魔に恐れを成しています、既に戦闘の意思はありません。


…異形の悪魔自ら正門をあけます、城の中に光りが満ちました。


「もういい、帰れ…」


 悪魔は溜息をついて5人を逃がしました。そして城の最上階王者の間に戻って王座へ座り、勇敢な7人を思い出してつまらなそうに深いため息をつきました。あのワクワクゾクゾクするような感じたことのない恐怖心はもう味わえないのかと、少し残念な気持ちになりました。


「もう少し骨のある人間はいないものか…。あの7人がまた襲ってきたらさぞ楽しいだろうに。」


王座で魔王…帝国の悪魔は再びつまらなそうに溜息を吐きました。




◇  ◇  ◇



 場所はかつて古帝国の領地で今は誰も管轄していない不法地帯。その荒野にそびえ立つ2階建ての古びた屋敷〝言霊の住む屋敷〟に3人の高位の冒険者が赴いていました。


 城の中庭にいたリザードマン・ハーピー・跳鳥・老龍をあっという間に討伐して、あとは城に住む悪魔を討伐するだけです。〝悪魔の城〟〝絆の城〟と名の付くわりには高位の魔物もおらず3人の騎士・魔導師・拳闘士は少し拍子抜けしていました。


 屋敷の中から現れたのは1人の白黒の衣装に身を包んだ少女でした。あたりを見渡して 「あれ?なんで皆寝てるの?起きて!」 と囁きました。


 すると倒したはずのリザードマン・ハーピー・跳鳥・老龍がのそのそと起き上がり始めます。確実に息の根を止めたはずでした。3人に緊張が走ります。


「あら、こんにちわ!当屋敷の魔王さまです。冒険者さん?お宝目当ての野蛮な人?」


 リーダーの騎士は唾を飲み込み、知性のある悪魔と推測して交渉をはじめます。知性がある悪魔や神ならば協定ができれば一番ですし、なにより生還者のいない屋敷なので少しでも情報がほしかったのです。


「この屋敷の主とお見受けする。悪魔の城と聞いて討伐にきた、この城に来た人間で生きて戻った人がいないというのでな。宝目当てではない。」


「あら、そうだったかしら。お客さんなら一杯きたけど、みんなどこにいったのかしらね?わたしもわかんないわ。」


「しらばっくれるな!マーカインの集い・獣人のパーティ・7人の魔導師と王国でも指折りの冒険者たちが、ここを最後に姿を消している。…わたしの兄もその中に含まれている。」


「ふ~ん。気のせいじゃない?あなたにお兄さんなんていなかったのよ。」


言霊がそう囁くとリーダーの騎士はいきなり混乱し始めました。


「…ん、あ?んん?」


「マベル!どうした、汗がひどい。」


「兄?いや、私は…」


 一瞬で兄の記憶が消えたのです、どう思い出しても幼少期から今まで生活したのは両親と自分と妹だけ…。兄なんて元々いませんでした。


「へ~、マベルさんっていうんだ。私の部下を倒すなんてやるのね!私が魔王よ!3人ともかかってきなさい!」


 マベルの〝協定〟という考えも虚しく、悪魔は戦闘態勢に入ります。混乱しながらも剣を取って悪魔を倒そうと気を改めます。魔導師も強力な魔導を、拳闘士も鍛え上げた拳と足で魔王を討伐しにいきます。


「とにかくこの少女の言葉に惑わされるな!真っ直ぐと向かえ!」


 マベルは仲間にそう叫びます。悪魔との交渉で得た情報は、この少女が囁く不気味な一言は混乱や自滅を呼ぶ恐れがあるということです。…そんなちゃちな能力なんかではないとも知らずに3人は悪魔へ向かっていきます。


「ねぇ!わたしどんな魔王様だと思う?色々いるわよね~。魔導が凄かったり、力が凄かったり…。」


 3人はリーダーの騎士に従って、惑わされないように無言を貫いて攻撃します。魔導師の炎が言霊を焼きます。


「あちち、そうだ!魔法使いなのよ私!そこの拳闘士さんはわたしの炎で焼かれちゃうのよ。」


 言霊がそう囁くと、拳闘士は一瞬で火達磨ひだるまになりました。悲鳴と断末魔をあげて焼け焦げ、やがて炭になって倒れます。マベルと魔導師はその姿をみて恐れながらも攻撃の手を止めません。マベルの剣の一閃で言霊の左腕が切り落とされました。


「いった~い。まぁ、腕なんてすぐ戻るからいいんだけどさ。」


 言霊がそう囁くと、たしかに切断した左腕がなんの痕跡も無く戻っていきます。魔導でもなんでもありません。マベルはもうこの少女の声すら聞きたくありませんでした。喉元に剣を突き立てに行きます。


「わたしの喉って世界で一番堅いのよ?剣じゃ無理よ。」


 言霊は微笑みながらそう囁きました、マベルのブレのない剣の一突きは言霊の喉笛に直撃しますが逆に剣が折れてしまいました。。…もはや疑いようがありません、この悪魔の能力は〝囁きが現実になる〟というデタラメで理不尽な能力です。高位の冒険者たちが1人残らず帰ってこなかったのも納得できます。マベルと魔導師はガタガタと震えます。


「あれ終わりなの?マベルさん、お兄さんの仇討ちはどうしたの?」


 突如マベルに兄の記憶が戻りました。マベルは怒りにまかせて折れた剣を捨てて、懐にしまっていたタガーで突撃します。


「あら!まだ戦ってくれるなんて素敵!…でもあなたの兄を殺したのは横の魔導師さんなのに。」


 マベルの怒りの一撃、タガーの一刺しは方向を変えて仲間の魔導師の心臓を貫きます。息を切らせて炭になった仲間と、たった今自身の手で殺した仲間を見ます。マベルの頬に涙が流れました。


「ああ、素敵でデタラメな劇だったわ!楽しかった。3人とも終幕よ!起き上がって!」


 消し炭は人の形にもどり拳闘士は困惑しています、心臓を貫かれた魔導師も傷が癒えて2人は起き上がりました。マベルも正気を取り戻します。


「は~、楽しかった。これからお茶会だからもういいわ、消えるか逃げるか好きにして♪」


 3人は一目散に逃げ出します。今を逃したら間違いなく自分たちは消えていなくなるでしょう。無事に3人は錆びた鉄の門から屋敷を脱出しました。息を切らせながらマベルは2人に謝罪します、自分の仇討ちに付き合ってくれて一度は2人とも死んだのです。


 3人は錆びた鉄の門ごしに魔物に混じってお茶会をする少女を見て、満身創痍で荒野から立ち去りました。いままで生還者すらいなかった〝言霊の住む屋敷〟はマベル達によって詳細が判明、挑む人間は激減しました。


 魔王さまはお茶会を開きながら 「最近お客さん来ないわねぇ」 と囁きます。部下達の眉間にシワが寄ります、間違えなくろくでもないことを言い出すに違いないと長年の経験から知っているからです。


「そうだ!屋敷ごとお宝になったら一杯お客さんが来ると思うの!全部が黄金になったら素敵じゃない!?」


 荒野にそびえ立つ2階建ての古びた屋敷。その屋敷の錆びた鉄の門も、崩れかけた煉瓦れんがも、ボロボロだった屋敷もボサボサになっている中庭も、一瞬で黄金の塊になりました。そしてリザードマンのコックは、いつものように黄金になってしまった食材をどう調理すればいいのか頭を悩ませました。

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