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魔軍の襲来 ③ ラスト

 場所は古帝国跡地にあるダンジョン悪魔の城、難攻不落〝帝国の城〟その最上階王者の間で王座に座るのは、異国の着物衣装に妙齢の美女の姿、そして九本の金色の尻尾という姿をした高位の神に近しい魔物九尾の狐。


「あの銀髪女…やってくれた…!!!」


 麗しい容姿に似合わぬ悪態をつく、既にこの城の主である悪魔にかけた魅了の術は解けている。城の中には悪魔を骨抜きにしていたときにこっそりとしこんでおいた、道惑い・混乱・気絶・睡眠・転移・痺れ・毒の魔方陣をそこかしこに配置している。また城の魔物に対しても幻術で九尾が主であると錯覚させている。


 本来の城の主、帝国の悪魔の様に戦術・兵法を扱い最高位の魔物ですらも自身の配下として自在に操り、金色龍王やモンスタータンクの横隊おうたいと戦列をならべての一斉ブレス・一斉発射や奇襲のように最高位の魔物を襲わせるほどの戦術はとれないが状態異常と狂気の魔導をそこかしこに配置し、狂気によって魔物を決死の覚悟で突撃させるという本来の〝帝国の城〟とはまったく異なる恐ろしい悪魔の城に仕上がっている。


「あの男を混乱させてでも止めるべきだった…、本当に厄介な…」


 本来の館の主、帝国の悪魔が既に城門の前にきている。おそらく7人の誰かに説き伏せられて自身の城の中身を推理されたのだろう。入ってくる気配はない。悪魔の中でも指折りの膨大な魔力ゆえ討伐せんとくる人間程度の状態異常は効かない男だが、自身やあの銀髪女の強烈な呪いならばあっけなく掛かってしまう愚直とも言える悪魔。


 帝国の悪魔一人ならばまだ楽だったが銀髪女やテグレクト兄弟、見知らぬ高位の魔導師や傭兵を含めた8人がかりで攻め込まれれば自身とて敗れる。かといって逃げることも出来ない、難攻不落であると同時に脱出不可能な強固な城なのだ。窓一つありはしない。


 脱出には正門から突破するしかないのだ。しかし既に本来の主、帝国の悪魔が正門に来ている。自身にできることは、錯乱させその中で逃げ切ることくらい。流石の九尾の狐とて8人に対して正々堂々戦いを挑むほど愚かでない。冷や汗を流し悪態を付き、好機を逃さぬよう綿密に計画を立てる…。



◇  ◇  ◇


 僕たちは7人はガルーダ・風龍・箒に乗っておそらく帝国の悪魔が待っているであろう古帝国宮殿跡地へと向かう。半刻とせず到着して城の前では、龍王ほどの巨躯を持ち今まで感じたことのないほど膨大な魔力をもつ悪魔が腕を組んで苦々しい顔で立ちすくんでいた。


「来たか…、緑のガキの言った通りだ。禍々しい魔力に城が包まれている。わたしの城を…わたしの大事な部下を…」


 意識を失いそうなほどの怒気を発して帝国の悪魔は囁く。


「では、魔王様。わたくし共に準備の時間をいただいてもよろしいでしょうか。何分脆弱な人間…装備と準備がなければ九尾ほどの魔物に立ち向かえぬひ弱な我々をお許し下さい。」


レイチドが相変わらず丁寧に恭しく話しかける。


「いいだろう。それも戦法、責めはしない。」


「あっはー♪男前な悪魔だねー!!本当に悪魔なのかい!?」


「…種族は生まれつき変えようがないだろう。貴様らと一緒だ。ただ卑劣な真似は好かん、それだけだ」


 そしてウィーサさんは再び禁忌の魔導…生人形いきにんぎょうを作成し、僕たち7人に編み込んだ。


「さて、これで7人とも状態異常はこのワラちゃんが身代わりになってくれるよ!終わったら黙祷してお墓に埋めてあげてね!」


「おそらく九尾は錯乱の中逃走を図るだろう。いかに神に近しい魔物といえど8人がかりに正面からぶつかるほど愚かではないはず。混乱や狂気ならばこの式が有効だ。しかし王宮でおこしたあの霧の魔導…ハルシオンですらも平坦できず空間がねじ曲がったような未知の魔導、あれが厄介だな…」


 フィリノーゲンさんはそういって神鳥ハルシオンを召喚した。青白い光りを放つ波風や精神の混乱を平坦させる力をもつ式だ。


「ではあとは毒・道惑い・気絶・転移の魔導か…。ウィーサ、感知できるか?」


「ん~多分大丈夫だよー。仮にかかっても解毒なら得意だし、道惑いならハルシオン君でも平坦できるんじゃないかなぁ?気絶は…マリーさんにビンタで起こしてもらおう!!!転移したら…戻ってこい!」


えらい雑な戦法に感じるが大丈夫だろうか…


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「では…わたしの城を乗っ取った愚かな女に鉄槌を下そう。付いてこい!」


帝国の悪魔を筆頭に九尾に乗っ取られた帝国の城へと僕たちは潜入した。



◇  ◇  ◇


「入ってきたか…」


 九尾が膨大な魔力を感知する。計画は立てた、狂気に陥る魔物たちを8人が討伐なり解呪なりをしている間に自身も魔物に変異して、自身の奥義ともいえる〝混射影の霧〟で錯乱させ正門を突破する。成功確率など気にしてもしかたがない、人型にも魔物にも変異できる九尾の狐は金色龍王へと変異して王者の間から去っていく。


◇ ◇ ◇


「あっはー♪状態異常のオンパレードだねー!!でも神様級の九尾の狐が掛けた割にはちゃっちいね。多分こっそりかけたからかな?」


 城に入るなりウィーサさんは僕たちには見えない各魔導陣の解析を終えていた。魔導を感知する修業は行ってきたがウィーサさんほど完璧ではない。それはテグレクト兄弟も同じのようだ。


「うむぅ、流石魔導師…いや魔女。魔導の解析は専門外でな、助かる。で?帝国の悪魔よ、どうするのだ?貴殿の部下だが倒すのも夢見が悪い。時間はかかるが解呪していくか?」


「狂気に陥った部下の責任はわたしにある。貴様らはかまうな、死なぬ程度に目を覚まさせる。それよりも女狐を逃がすな。」


「そりゃあ頼もしいね。」


 その後帝国の悪魔は襲いかかる狂気に陥った金色龍王やモンスタータンク、ガルーダやゴースト、キマイラ達を次々と魔力を宿した拳の一撃で倒しのける。その間ウィーサさんは各地にかけられた魔導陣を次々と解除していく。あるものは焼き払いあるものはワラ人形を落として、あるものはウィーサさん自ら魔導をかけることで城の1階にあった魔方陣はだんだんとなくなっていく。


『 偽物 』


マリーの銀髪が逆立った。一体の龍王が帝国の悪魔を恐れ、逃げようとしている。


『 見つけた 心因過剰発作しんいんかじょう処置… 』


 龍王が痙攣をおこしビクリとはねる…。マリーの波長を狂わせる呪いを1回はねのけるだけで弾き返した。ただの龍王じゃない。龍王は変異を解く、異国の着物衣装に妙齢の美女の姿、そして九本の金色の尻尾…


 九尾の狐だ!龍王に変異して脱出を試みたのだ。姿を現した九尾は殺気を宿した目でマリーに怒鳴りつける。


「ああ!!忌々しい!どこまでもわたしの邪魔を!」



 瞬間周りは霧に包まれた。王宮で使われた九尾への攻撃がデタラメに飛んでいく霧の魔導だ。



「これだ!宮殿で使われていた技は、皆や魔導や攻撃を止めろ!あらぬ方向へ飛んでいく!」

 

 フィリノーゲンの叫びの後、霧の中一陣の風が吹き荒れる。同時に気絶しそうなほどの怒気と魔力を感じる。…帝国の悪魔の息吹いぶきだ。徐々に霧が晴れていく。


「城の構造に助かったな。扉がもうひとつあれば危なかった。さて、やっと捕まえたな。」


 身を隠す柱も少ないただただ広い空間が広がる中、唯一の出入り口である正門には紫の呪縛樹ががんじがらめに絡まり、九本の金色の尻尾を生やした大きな狐の魔物はアムちゃんの神をも拘束する冥界の紫の呪縛樹で拘束されていた。九尾の狐は幾度も変異を繰り返そうとするが、魔力を高めることさえ困難な様子だった。そして観念したのか異国の着物衣装に妙齢の美女の姿へと戻っていった…。


◇  ◇  ◇


「さてと、とっつかまえたがどうするか。悪魔を籠絡ろうらくして魔物と人間の戦乱を起こさせる…。神に近しいとはいえ王国では処刑に値するが。」


 九尾によって狂気に陥っていた帝国の悪魔の部下、最高位の魔物達も正気に戻り人間である僕たちに攻撃するでもなく横隊を並べて列をなしている。城全体にそこかしこに仕掛けられた状態異常の魔方陣もウィーサさんのアドバイスの元テグレクト兄弟も協力して3人ですべてを解呪した。


「わたしを侮辱しコケにして道具にした…挙げ句わたしの城と部下を乗っ取るなど。はりつけにして魔物の餌にしてくれようか…」


九尾の狐はお縄につき、帝国の悪魔とアムちゃんの物騒な話しにも恐れず一点をにらみ付けている。


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


 にらみ付ける先はマリー、おそらく自身のかけた帝国の悪魔への解呪・そして自身の正体を見破り計画を邪魔をされたのが気にくわないのだろう。


「それにしても人間とは思えない天晴あっぱれな仕事だった。褒美がいるな、なにがほしい?金銀財宝か?宝石・宝剣か?魔石か?なんでもくれてやる。」


「いらん、宝目当てで来たわけでない。そうだな…もう魔物を使って王国を攻めることさえしなければそれでいい。この城に討伐にくるアホウに関しては別だがな」


「ふははは、そうか。ではそうしよう。おもしろい奴らだ部下にならんか?」


「気持ちだけ受け取る。ならん。」


「それは残念だ!ふははははは!!」


何処までもサッパリとした気風の豪気な悪魔はアムちゃんと笑って話す。


「しかし、最終の責任はわたしにある。この女狐に籠絡ろうらくされるなど…まだまだ未熟だった。」


「ふむぅ、まぁ責めはしない。相手は仮にも神に数えられる魔物だ、しかたない。」


「そうか、ではこの狐は地下牢にでも放り込んで置こう。狂王の怨霊本体を入れている場所だ、わたしでも手が付けられない魔物を入れるにはもってこいだ。」


「ほう、この城にはそんなものまであるのか。では女狐を頼んだ。」


「ああ、また来ると良い。勇敢な7人よ。」


 そういって帝国の悪魔は僕たちを正門から出した。難攻不落〝帝国の城〟が元の姿を取り戻したのだった。僕たちは7名とも命を落とすことなくテグレクト邸に帰還できることになった。再びガルーダ・風龍・箒で空を飛んで帰宅する。


「しっかし宝くれるってのに断るとはもったいねぇなぁ」


「わたしも魔石はほしかったなー!!」


ウィーサさんとユウキさんのコンビがそう話す。


「王国の危機を救う目的だ、我々は冒険者でもトレジャーハンターでもないのだ。…にしてもマリーの予言がなかったらと思うとゾッとするな。」


アムちゃんは僕と一緒にフィリノーゲンさんの風龍に乗るマリーを見る。


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「また凶兆なんて起こらないことを祈ろう。にして遺書じみた式を王都に送ったがどうしようか。九尾の狐によって悪魔が籠絡され捕らえられたことを伝えるか…。」


「まぁ生きて帰れるんだからなによりさー♪ワラちゃんのお墓頼んだよ-!」


「俺の報酬もな。」


「ふむ、両名とても勇敢に戦い役だってくれたありがとう。ユウキさんへも相応の報酬をお渡ししましょう。」


 その後僕たちは無事王都の危機を回避して王から感謝と莫大なる報酬をもらい受ける事になった。そして〝帝国の城〟では挑んだ討伐者達が生きて帰ってくる率が上がり皆魔王…直々に悪魔の姿をみて戦意を失い敗走することになるのは少し後の話となる。

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