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魔軍の襲来 ②

「なんと…わたしの軍勢が、7人の人間に!?それに何故気がつかれた。この城に向かってくるか。よい屠り殺してくれる。済まぬな麗しの君、どうやら邪魔者だ。私の手で屠ってくれる。」


 巻角をもつ巨躯の悪魔は、王座に座りながら苦々しい顔でそうつぶやく。200近く向かわせた城の精鋭、それがたった7人の人間に全滅させられたのだ。今までこの城を制覇せんとやってきた冒険者たちでも精々5,6体。高位の者でも20~30を倒すのが限界だったはず。それを200の部下を叩きのめされ、7人ともケガ一つしていないというのだ。容量が量れない。巻角の悪魔は今まで感じたことのない恐怖心を抱いた。




 一方で悪魔の〝麗しの君〟九尾の狐も悪魔に気がつかれないよう頭の中で悪態を付いた。あの不気味な銀髪の女だ、またしても自分の邪魔をしようというのだ。そしてこの世界の人間では最強を誇るテグレクトの一族と正体不明な高位の魔導師、見知らぬ恐ろしい武器を持った傭兵までいる。


 目の前の籠絡ろうらくした悪魔は確かに恐ろしい力をもつが、あの銀髪の女と常闇の古城を制覇したテグレクト一族の末裔が2名。どっちか片方でも自分の力の全力を持ってしても勝てるかどうかだ、それに高位の魔導師と武装した傭兵のタッグはかなり恐ろしい、物理攻撃にも魔導攻撃にも適応できるだろう。特にあの銀髪の女の底知れない呪いの力は、目の前の己の豪気と魔力で登り詰めた正当派魔王とも言える悪魔には最悪の相性となる。



 自分でさえ籠絡ろうらくできるほど混乱や魅了にはうとい男だ、あの不気味な女の強力で禍々しい呪いなど一発でかかってしまうに違いない。九尾は冷や汗を流して長考する。あの力の弱いシオンとかいう少年を人質をとる?いやあの銀髪の女を怒らせるだけだ、それに目の前の悪魔は、悪魔のくせしてそういった卑怯なマネを好まない。


 己の力・己の拳・己の魔力で敵対する全てを粉砕することに特化し次々に高位の魔物を自身のカリスマ性で配下にして魔物を統率し、この古帝国の跡地で悪魔の城を築きあげた魔物の王者たる悪魔だ。それに自分を騙し利用されたと気がつかれたらこのプライドの高い男がどんな行動に移るかわからない。自分もこの男の膨大な力の餌食になるかもしれない。


 魔軍を送り込む前夜に話した、自分や目の前の悪魔が人間に討伐されるというデッチ上げ話が真実味を帯びてきた。とにかく目の前の男を騙し通して、自身も混乱や幻覚の呪いを駆使して対抗するしかない。城の魔物は半分以上が奇襲作戦に出て討伐された。もはや城の魔物は時間稼ぎにしかならない。九尾の狐は目の前の悪魔に抱き締められながら悪魔に見えないよう唇を噛みしめた。



◇   ◇   ◇



 まもなく朝日があがる時間、古帝国の跡地までのこり半刻もすればつくだろう。空中の激戦からすでに2刻、僕たちはマリーの睡眠処置で頭が冴えているが急に呼び出しをくらったユウキさんは「仕事が来たら起こせ」と言ってウィーサさんと背中合わせになり箒の上で器用に眠っている。レイチドが自身のメモ帳を開いてみんなに調査報告の説明をする。普段から絆の城や各地のダンジョンを地図から捜索・調査をしていたようだ。



「これから向かう悪魔の城…〝帝国の城〟ですが別名〝正当派の最難関〟とも呼ばれる悪魔の城です。先ほどの軍勢をみた通り、混乱や麻痺・毒といった状態異常は一切使わず、ただただ最高位の魔物がまるで統率された近衛兵士のように襲ってくるダンジョンとなります。もちろん制覇した人間はいませんが帰還した人間は結構と多く高位のトレジャーハンターや冒険者のパーティをして、二度と行きたくないと言わせるほどです。


 城に住む悪魔の正体を見た人物はいません、しかし悪魔の声を聞いた人間はいることからそれなりの知性を持つ悪魔と推測できます。声の内容は〝宝を置いて去れ〟〝見事であった。今帰るならば見逃してもいい〟など、とても悪魔とは思えない気風の持ち主です。おそらく九尾の狐に籠絡され、なんらかのデタラメを吹き込まれて魔物の軍勢を送った可能性が推測されます。」




「あっはー!男前な悪魔もいるんだねー!!悪魔ってみんなゲスくてえげつないもんだと思ってたよ!」


「ふむぅ、狂王の怨霊本体を始めとする高位の怨霊や最高峰の魔物が跋扈ばっこする古帝国の跡地に城を築くなど並の神でもできぬからな。よほどの力の持ち主ではあろう。しかしまぁ胡散臭い女に籠絡ろうらくされるとはアホウな悪魔だな。」


「九尾に騙された悪魔か…なにやら複雑だな。しかし九尾の狐が絡んでいる可能性が高い以上油断もできないだろう。あれはマリーさんに近しい混乱と狂気を操る…ハルシオンを召喚して臨むのがいいかもしれないな。」


僕たち一同は決戦の舞台へと移動を続ける。



◇  ◇  ◇



「気配だ…麗しの君よ。君はこの王宮で待っていてくれ。わたし自ら赴こうではないか。」


「そんな!危険でございます!相手は正体不明のものまでいるのです。あなた様おひとりで向かわれてはわたくしは心労で帰りを待つ前に倒れてしまいます。」


 九尾の狐は焦って単身7人の討伐者に向かおうとする悪魔を止める。自身の混乱と状態異常で錯乱させてこの男に戦ってもらおうと思っているのだ。単身で向かわれたら銀髪の女にどんな呪いをかけられ帰ってくるかわからない。そうなれば自分でも解呪は難しいだろう。


「なに心配いらん。ではいってくる。」


 九尾の狐の演技も虚しく、そういって悪魔は麗しの君に接吻せっぷんをかわして飛び去っていってしまった。…姿が見えなくなった悪魔を確認して九尾の狐は接吻された口を手の甲でぬぐい、舌打ちをして血が流れるほど唇を噛みしめた。



◇   ◇   ◇



『 … 』


マリーの銀髪が逆立った、恐らく何かを感じ取っている。


『 ご登場 』


「うぇえ!おいユウキー!起きろぉ仕事だ!やばいぞー!」


「ああ、あいよ。…ってすげぇのがきてんぞ!」


「なんと!大ボス自らか!?あれほど膨大な魔力…並の悪魔でも神でもない。」


 僕たちに向かって恐ろしいスピードで飛んでくるのは龍王ほどの巨躯を持ち、黄金の巻角を生やし手足は大熊のように豪気で爪は猛禽類のように鋭い人型の男だった。


「とにかく着地だ!空中戦をする必要はない!」


 僕たち一同は荒野に着地する。同時に悪魔…帝国の城の主と思われる膨大な力をもつ男も荒野に降り立った。男の目は殺気に充ち満ちている。そして大降りに拳をかまえて…



「心に炎を宿したもう… 心に火を宿せ!!!!!」



 瞬時にウィーサさんが自身の魔力を上げつつ、〝心に火を宿せ〟という合図と共に僕の鼓動が急速に高まり心音が聞こえるほどとなった、全身に力がみなぎる。おそらくウィーサさんが僕たち6人の魔力を底上げしたのだろう。悪魔の放った大振りな拳の一撃は膨大な魔力を宿して凶悪なブレスの様に僕たち全員に襲いかかる。禁忌の秘術を編み込んだ生人形いきにんぎょうが一撃でボトリと落ちる。つまりこの人形とウィーサさんの魔力のドーピングがなければ一撃で死んでいたということだ…。



「ほぉ、わたしの一撃で無傷か。並の者達ではないな。何故邪魔をする。何故わたしの麗しの君を傷つけた!」



『 情動脱力じょうどうだつりょく 及び 認知機能改善にんちきのうかいぜん処置… 』


マリーは嫌気と安らぎという正反対の性質を器用に両立させ銀髪を逆立てる。



「ん?んんん…ぁあ?」



 悪魔の目から少しづつ殺気が消えていく、目に正気が戻るようだった。そこに割って入ったのはレイチドだった。丁寧に低姿勢でうやうやしく巨躯の悪魔に話しかける。



「突然の荒いご訪問失礼いたします。あなた様は帝国の城の主様とお見受けいたします。この度はあなた様の部下に対して無礼を働き大変失礼致しました。帝国の城の王者たる魔王様に対してまで攻撃…ましてや宝や麗しの君を奪う目的はございません。どうかお話しの機会を頂いてもよろしいでしょうか?」


「ん、ああ。部下はどうやら大半が荒野で気絶している程度らしいな。まぁ死者もでたが戦だ、しかたがあるまい。それで何を話すというのだ。」



 マリーが相変わらず銀髪を逆立て続ける。『 完了 』の一声がないあたり未だに膨大な呪いをかけ続けているのだろう。相手は悪魔なのだ当然だ。



「帝国の城からの軍勢、おそらくわたくしの稚拙な憶測ではございますがあなた様の〝麗しの君〟からは、こう言われたのではないでしょうか?〝過去わたしは人間にひどく傷つけられた。そしてその傷はあなたにも向かうだろう。それがわたしはとても心配なのです〟と」


悪魔は目を見開いた。


「貴様は予言者か?いや、そんな魔力は感じない。…何奴?」


「そしてあなた様の麗しの君の特徴ですが…九本の金色の尻尾が生えていませんでしたか?姿形はわたくしでは推測しかねますが、奇抜な布の衣装をきていることも考えられます。」


「…まるで見たかのようにいうガキだ。それがわたしの麗しの君であるがそれがどうした。」



「いえ、今の話しはわたしの憶測でございましたが…。魔物を統治なさる偉大な帝国の城の主様、どうかその偉大なる豪胆さと寛容なる精神にてこの一件をお鎮め願えないでしょうか?」


「わたしの麗しの君を傷つけた人間を許すわけにはいかない…と考えていたのだが、どうしたことか?すまぬ。混乱してきている。ちとまて…」



悪魔は息をすべて吐ききる様に息吹いぶきを発して自身に魔力を集中させる。



うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 完了 』


 マリーの笑い声を久方ぶりに聞いた気がする。おそらく安堵したのは僕だけではないはずだ。



「偉大なる魔王様、わたくし共はあくまで王都への危機を察知して軍勢に立ち向かわせていただきました。これは魔王様がダンジョンに赴く冒険者を討伐することと同義とお考えいただければ幸いです。」


「うむ、道理はわかる。して息吹いぶきにて混乱を解いたが…。麗しの君は…麗しの君?違う、わたしは魅了の魔導に惑わされていたのだ。あの女…何奴?」



悪魔から九尾の呪いが解けた。マリーの呪い返し…解呪によるものだろう。



「魔王様!お目覚めにございますか。これより無礼を承知でお話し致します…」


 その後レイチドは九尾の狐の正体、特徴そして帝国の城の悪魔を利用して魔物と人間の戦乱を起こさせようと画策していたことを丁重に伝えた。あくまで魔王…帝国の悪魔のプライドを刺激しないよう丁寧にレイチドは伝えていき、それを神妙な面持ちでうなずきながら帝国の悪魔もレイチドの話しを聞いていた。



「つまり…わたしはコケに…道具にされたと、あの女狐に!」


「左様でございます。それによってわたくしたちも親愛なる魔王様の大切な部下の命まで奪ってしまったのです。大変申し訳ございませんでした。」


「よい、それよりもその話しを聞くまで貴様らが死なずによかった。わたしの全力の一撃を受け止めるなど天晴あっぱれだ!人間だが部下にしてもいい!!」



 帝国の悪魔は魅了されそうな笑顔でそういった。思わず はい! と言いそうになる。これが一代で古帝国跡地に城を築いた悪魔のカリスマ性…悪魔の微笑みというものなのだろう。



「では魔王様、帝国の城は今九尾の狐が住まう城となっています。魔王様の豪胆さと勇気、その叡智えいち・お力にて築かれた城が一人の魔物に支配されているのです。私たちはそれが許せません。相手は混乱と幻術を得意とする狡猾こうかつなる女狐、どうかわたくしども一同も城へお供させていただけないでしょうか。稚拙ではございますが、同じく九尾を追う者。わたくし共のお力を使わせて下さい。」


「ああ、よかろう。わたしは城へ戻る…」


「差し出がましい申し出ではございますが魔王様、今魔王様のお城の中は九尾の狐により道惑い・混乱・気絶・睡眠・転移・痺れ・毒の魔術がそこかしこに掛けられている恐れがございます。魔王様のお力を信じていないわけではございません。しかしながらわたくし共はそれらの魔導を解呪するプロフェッショナルでもございます。城の前で合流できませんでしょうか?」


「なんと!わたしの城にそこまで…。いや貴様の推理ならば信じよう。城の前で待つ、早く来い!」


 そういって帝国の悪魔は僕たちに攻撃を加えずに凄まじいスピードで立ち去っていった。レイチドが腰を抜かすように崩れ落ちる。


「あ~心臓にわるいわ。ワラ人形のストックもないしこれ以上攻撃食らったら7人仲良くあの世行きだったもの」


「いや、レイチド君見事な交渉だった。わたしも既に辞世の句を準備していたほどだ」


「ほう、レイチドちゃんもやるもんだ。おれはこういう掛け合いはケンカ腰になっちまうからな。」


「とにかく帝国の城だ、九尾の狐…次こそにがさん!」


僕たちは一触即発の危機を抜け出し帝国の城へと向かった。

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