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魔軍の襲来 ①

 薄暗い宮殿にある絢爛豪華な寝室で、二人の男女が抱き合い接吻せっぷんをかわしてささやきあっていた。


「ああ、麗しの君。どうされた、何か悩みでもあるのかね。」


異形な巨躯の男はそう目の前の女性にささやきかける。


「いいえ、わたくし自身のことではありません。ただ私は心配なのです。この城を統治するあなた様が人間なる野蛮なものたちに討伐されてしまわないかと、そう考えると夜も眠れず…」


「心配はいらない。私の強さは知っているだろう。」


「もちろんです。しかしあなた様ほどの方でも、今は魔導やら武器で力をつけた人間たち…。そのもの達がいずれあなた様の部下も含めあだをなすのではないかと…」


「ふむ、そうか。確かに数名で私の部下達を討伐していく者も少なくない。…そうだな麗しの君よ。そなたは人間を好まないのか?」


「ええ、わたくしは幾度も人間に傷付けられて眠れぬ夜を過ごしてきました。あなた様に助けられるまでは幾度も幾度もとても恐ろしい思いをしてきたのです…。だからあなた様にもそのやいばが向けられるのではないか…。そのことがとても恐ろしいのです…」


「なんと!それは許せぬ。わたしの麗しの君に傷をつけるなど…。」


 場所は最高位にして最難関のダンジョン、悪魔の城とも絆の城とも言われる中でも〝最難関〟と異名を持つ山ほど大きな、最高位の魔物が群をなす大屋敷。そこを統治するのは魔王と形容するのがぴったりな巨躯に頭には金色の羊の様な巻角を生やし、手足は熊や猛禽類を思わせる鋭さと豪胆さを持ち合わせる姿をもつ最高位に近しい悪魔、膨大な魔力と巨躯、鋼や魔導銀でさえも指の一振りでねじ曲げるほどの力、そのすべてを兼ね備えた魔神。


 そしてその悪魔が〝麗しの君〟と呼ぶのは異国の着物衣装に妙齢の美女の姿、そして九本の金の尻尾を生やした魔物であった。早速と人間共の討伐を考える目の前の悪魔を見て九尾の狐は悪魔に抱き締められながらニヤリと笑った。



◇  ◇  ◇



『 … 』


「 ? 」


 僕は鍛錬も終わりレポートも書き終え後は寝るだけとなった時間、マリーの雰囲気が変わった。嫌気を発するわけでも、呪いをかけるでもなく銀髪が逆立つ。


『 凶兆 』


…マリーは一言それだけ言った。このマリーの凶兆という予言は外れたことがない。


「なにかあったの?どこかで騒動?」


『 不明 寒気がした それだけ 』


「…ちょっと問題が大きそうだね。」


 今の時間ならばまだみんな起きているだろう。根拠はないが、マリーが『 凶兆 』と言った。屋敷のみんなにはそれだけで十分危機である事が通じるはずだ。僕はアムちゃんを筆頭に出来事を相談をした。広間に僕とマリー、テグレクト兄弟とウィーサさんレイチドが集まる。




「ふむぅ。マリーの予言…外れたことがないだけに恐ろしい。それにマリーほどの者が寒気を感じるなどなにか事が大きそうだな。」


「しかし、どうしようか…。今は何も起きていない。我々は事が起きてから後手にまわる以外に選択肢はないんだ。せめてその凶兆とやらの原因が少しでも掴めればいいのだが。」


「いやー。マリーさんが恐れるほどの凶兆?隕石の雨でも降ってくるのかなー?」


「それならもう手はないわね。お手上げ、でも自然災害の可能性は低いわ。今までの経験では人災、または呪いじみた出来事…。魔物が現れるときや変異していた魔物の正体を見破ったときね。」


「今までマリーさんが凶兆と言った出来事か…そこから探る手もあるが。レイチド君、心当たりや推測はできないかな?」


「今まででしたらそうですね…。〝悪魔の絵本〟〝九尾の狐〟〝静寂の悪魔〟〝犯罪組織紫雲〟…どれも絆の城や悪魔の城の類に匹敵する神や悪魔が関連する大きな騒動です。」


「どれも神や悪魔の類ではないか!?そこまでの騒動を事が起こる前に寒気から感じ取るなど…想像するのも恐ろしいぞ!そんな話しを夜中に聞かされても眠れぬではないか!」


「未知の疫病神や悪魔がでるか、はたまた今レイチド君があげた者たちが復讐にくるか…。どちらを考えても恐ろしい。」


マリーの銀髪が逆立つ…



『 傾眠陶酔けいみんとうすい処置… 』



急に強烈な眠気が襲う、あらがうことのできない全身の力が抜けるような感覚…




パチン



「ふぁ!?なにをした?」


「ぁあ…ん?なんだ、急に眠気が襲ってきて…10分ほどたっているが。」


「ふぁ~。なんか久々の感覚だー!マリーさんの呪いだねー」


マリーは全員に睡眠の呪いをかけたようだった、そして10分もして僕たちを起こした。


『 これで 計算上 6刻は 脳が休まった 徹夜で平気 』


「ああ、たしかに頭がスッキリとする。…マリーよその凶兆とは今晩にでも起こるのか?」


「そうだとしたらかなり恐ろしい…。僕とジュニアで式を使って偵察させよう、場所はカリフと王都を中心にそして各地の絆の城周辺だ。」


「ああ、そうしよう。」


 アムちゃんとフィリノーゲンさんは無数のフェアリーや殺人蜂、ガルーダの幼鳥を召喚して偵察にまわる。二人とも瞑想状態で広間は長らく静寂に包まれる。3刻後アムちゃんが目を開く。





「兄上!それらしいものを見つけた。古帝国宮殿跡地にある悪魔の城だ。あそこはたしか…難攻不落、帝国の城だ。それ以外の形容がない。本来外にでない魔物達が金色龍王含め大量に群を成している。それにわたしですら見たこともない魔物さえいるぞ。…まるで戦争に向かう軍隊だ、列を並び攻撃にでる準備すらしている。」


 アムちゃんの言葉に一同がゾッとする。1000年に渡って魔物の調伏を続けたテグレクト一族、その奥義を継承するアムちゃんですら金色龍王以上の〝見たことすらない〟という魔物が群を成しているというのだ。


「どうする?もう夜もふけている頃だ、王都に式など飛ばせん。それにあの跡地は今はどの領主が管轄しているわけでもない魔物が跋扈ばっこする無法地帯だ。往き道だけで近衛兵など2/3は死ぬ。」


「僕達だけで行くか?しかし戦力が想像以上だ、未知の魔物すら含んでいるなら対応に困る。」


「では兄上は魔物の軍勢が王国に攻め込まれるのを指をくわえて見ていろと!?悪魔の城、帝国の城の軍勢だ古帝国時代のゴーストすらいる。戦火に巻き込まれ多くが死ぬぞ!それでも英雄の末裔か!」


「…それもそうだ、すまない。ただ遺書といったら縁起は悪いが王都への式を飛ばしておこう。レイチド君、今の話しを急いで僕たち名義でレポートにまとめてくれ!大至急だ!」


「かしこまりました!」


「正義の魔女ならここは私もいかないとねー!ちょっと…いや、かなりえげつない禁忌の魔導も解禁だ!」


そういってレイチドとウィーサさんはお互いに準備のため一端部屋にもどった。


「そうだ。6人で行くよりもすこしでも戦力がほしい、彼ならば信頼できる。きっと承諾してくれるだろう…」


そういってフィリノーゲンさんが式で通信を飛ばす。直ぐに式との連絡は繋がった。

 



  ◇   ◇   ◇




 ジュエルドラゴンの鎧・龍王の籠手・封印硝子のゴーグルにウィーサさん特性の物理・魔導耐性はおろか悪魔や疫病神の呪いすらも身代わりにするというワラで編まれた生人形いきにんぎょうを編み込んで決死の面持ちで僕たちは出発する。ガルーダ・風龍・箒にのった一同そして雇った傭兵が1名。


「軍勢が飛び始めた、目的地はおそらく王都だ。このスピードなら到着前に荒野で鉢合わせられる。空中戦になるが大丈夫か?」


「うむ。僕とジュニア、ウィーサさんにマリーさん、ユウキさんだ。なんとかしよう。」


「えれぇやべぇのに付き合わされたなぁ…。あの赤髪のガキでも遺書残したほどなんだろ?ウィーサちゃん、死ぬなよ!」


「あんたこそねー♪ウィーサちゃんの箒に乗って禁忌の魔導まで解禁したんだ!死ぬなんて許さないからたのむよー。」


 ガルーダに乗るのはアムちゃんとレイチド、風龍にはフィリノーゲンさんと僕とマリー、ウィーサさんの箒にはガスマスクを被ったモリイ=ユウキさんが乗っている。


「おそらくですが、これほどの戦乱…九尾の狐?」


「かもしれんな。平和を望む者ではない、王都で王の籠絡ろうらくに失敗したから魔物の軍勢を率いる魔王…悪魔を籠絡したのだろう。あいかわらず陰湿な女だ。」


「九尾の狐!?マジモノかー!厄介だねー!」


「おいおい、そんなモンまでいるのかよ!!」


「ふむ、あらゆる世界を駆け巡る神に近しい魔物だ。一度は逃げられたが、今度は魔物と人間の戦乱を考えたか。狡猾こうかつな…」





『 見えてきた 』


僕たちが荒野を飛んでいる頃、魔物の軍勢が夜闇の中を飛び空一面を覆っていた。


「ふむぅ金色龍王だけでも50~60はいるな。あとは古帝国時代のゴーストが70ほど、それに見たこともない飛行型の機械型モンスターが20に、モンスタータンクを背負ったガルーダが20、モンスタータンクには一級品のスティンガーが搭載されている。あんなもの真夜中奇襲に来たら王都などものの一刻で焼け野原だ。」


「それでは各員戦闘準備。レイチド君とシオン君は流れ弾に注意していてくれ。」


「了解ー♪…心に炎を宿したもう。」


「さぁてと、仕事仕事。」


「ではゆくぞ!」


『 傾眠陶酔けいみんとうすい処置 及び 情動脱力じょうどうだつりょく 及び 心因過剰しんいんかじょう性発作処置… 』


 マリーの銀髪が嫌気と共に勢い良く逆立ち、ウィーサさんも魔力をあげる。アムちゃんは無数のスティンガーと雷神を召喚して、ユウキさんもライフルを構える。各自臨戦態勢…そしてぼくたち7人と魔物の軍勢がぶつかり合う。


「マリー!ドラゴンやゴーストは任せた!機械類はわたし達でやる!見知らぬ魔物だが雷撃をあたえれば機械ならば効果的なはずだ」


「僕も空中戦なら…エビルコアだな!」


「しびれろ!!!!」


「あのミサイルの搭載装置は雷管ごと打ち抜くか…。ウィーサちゃん少し左上にたのむ!あと少しあのモンスタータンクとかいうのから離れろ!!」


「はいはいー♪」




 龍王・ゴーストの炎や剣の一撃を避けながら各自飛び回り攻撃を起こっている。マリーの呪いで龍王や高位のゴーストは痙攣をおこし、眠りに入りフィリノーゲンさんのエビルコアの一斉掃射で次々落下していった。また謎の飛行型の機械は凄まじいスピードで突進を行ってくるが、アムちゃんの雷神の稲妻やウィーサさんの雷の魔導で次々爆破して鉄屑になっていく。


 僕たちはウィーサさんによる禁忌の秘伝を編み込んだ特性ワラ人形のおかげか龍王の攻撃を浴びても髪の毛すら焼け焦げなかった。編み込んだ人形からはプスプスと焼ける臭いがする。龍王の牙や爪による攻撃や高位のゴーストによる剣の一撃でも精々軽い切り傷が付く程度だ。


「よーし良い位置だ。ウィーサちゃん、そのまま止まっていてくれぃ」


 モリイさんがスティンガーの搭載されたモンスタータンクに標準を合わせてライフルの弾丸を撃ち込む、搭載されていたスティンガーごと誘爆して、大爆発を起こしそれに伴って背負っていたガルーダを含め周りのモンスターも爆風に巻き込まれ更に誘爆を繰り返して落下していく。


「やるねー!さすがだねー!よ!ミサイル落とし!」


 モリイさんはウィーサさんの茶化しにも気にせず次を狙う。マリーの呪いすらも今だに弾き続けていたアムちゃんが普段召喚する以上に巨大な金色龍王が、限界とばかりに欠伸あくびをした瞬間に口元に向かいライフルを発射して龍王は自身のブレスの元となる巨大な胃石に着火、炎に焼かれながら断末魔をあげて落下していった。


「私のエビルコアでも通じなかった龍王を…流石頼もしい。」


…あれほどいた魔物の軍勢はすべて荒野に落下した。僕たち自身の傷は軽症程度だがプスプスとワラの焼ける臭いがする。


「アム君かフィリノーゲンさん!このワラ人形生きてるから治癒の魔物で治療を!大至急!」


「わかった!」


 そういってアムちゃんは神につかえる魔物ビショップを召喚して全員に治癒の魔導を掛ける。ワラの焦げる臭いが収まり、僕たちの僅かな傷も回復していく。200近くいた高位の魔物の軍勢は一匹残らず荒野に落下して動かなくなった。




「さて、まだ仕事はおわりじゃねぇんだろ?」


「うむ、これから絆の城…悪魔の城に潜入する。それも最難関と呼ばれる最高位のダンジョンだ。九尾に籠絡されたアホウな悪魔を討伐して初めて終了となる。」


「さて、どんな悪魔がでてくるか…九尾一人でも厄介だというのに。」


「弱音は死んでから吐けばいいさー!じゃあ奇襲返し大作戦決行だ-!!」


僕たちはかつて無い緊張の元、古帝国の宮殿跡地へと向かっていく。

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