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VS物理鍛錬 特別講師

 場所はテグレクト邸の鍛錬場、今日は対夜盗や魔力を持たない魔物。弓矢やマスケットを持つ敵を想定した特別訓練を行うこととなった。今までは魔物の調伏や対魔物の特訓に強化していたが、先日の山賊狩りで僕が弓矢の一撃を受けてしまったことからこの訓練はおこなわれた。そしてこの鍛錬に際して特別講師が招かれている。


「なぁ、本当にいいのか?俺手加減だの、人に教えるだのしたこたねぇぞ?」


 僕とマリーの召喚で突然ニホンから王国入りし、今では傭兵家業で大分なお馳せているモリイ=ユウキさんだ。ウィーサさん特性のマスケット〝チャカ〟と〝ライフル〟の弾は、デンプンから作られた当たれば砕けるだけの摸擬弾が入れられている。


 僕とレイチドも目にだけは入らないように封印硝子製のゴーグルを着用して臨む。そしてあの異常に鋭利な〝ボントウ〟という剣のかわりには木で似たような形に彫られた木刀を懐にいれている。


「ええ、講義自体はわたくしが行います。モリイさんは全力でかまいません。でないと鍛錬になりませんから。」


「女子供に手をあげんのはあんまり趣味じゃねぇんだけどなぁ…」


 観客としてウィーサさんやマリーも見に来ている。マリーからは『 死なないでね 』と不吉なことを言われて送り出された。


「それじゃあ、モリイさんよろしくお願いします。…ではシオン武儀の準備だ。」


 僕は緊張しながら武儀の場面に立つ、改めてモリイさんを見る、服にかくれて全体の筋力などはみえないが細身でありながら首元や手元が非常に太く歴戦の鍛錬を感じる体躯だった。


「それではこれより武儀をはじめる。両者位置へ。ルールは相手への殺害及び後遺症の残る可能性のある攻撃は不可とする。以上、開…」


 フィリノーゲンさんが口上の述べ終わるかどうかの絶妙なタイミングでモリイさんは僕に向かって跳び蹴りを放ってきた。その蹴りは完全に油断していたぼくの腹部に直撃してしまう、胃からなにかが逆流するような痛みと吐き気が襲う。次の瞬間にはあごを押さえられて口元に〝チャカ〟を押し当てられた。


「…撃つか?負けでいいか?」


「し、終了!それまで!勝者はモリイ=ユウキ。これにて武儀を終了する。」


「おい、しっかりしろや!シオン、男だろ!」


 そういいながらモリイさんは僕の背中をバシバシと叩いてくれる。すこしづつ吐き気と痛みが治まってくる。…次はレイチドの番だが大丈夫だろうか。


 レイチドとユウキさんの戦い、先ほどと違いユウキさんは開始の合図から一切動かずにレイチドの様子をみている。レイチドは風の式レシーを召喚して風と一体になり剣をとり真っ直ぐに向かう。


「ほう、速えな」


 しかしレイチドの振るう剣はスカスカと避けられ、急に屈んでの強烈な足払いでレイチドはバランスを崩す。そのまま体ごと持ち上げらたかと思えば瞬時に床にたたき付けられ僕と同じように〝チャカ〟をひたいに押しつけられて敗北した。


「なぁ兄貴さんや、そういやここの屋敷中庭あったよな?対野盗だろ?そこでやろうぜ。ここじゃあ大した鍛錬にならないし武儀とかいう距離じゃ俺が有利すぎる。」


「ああ、確かに…。徒手でもここまでとは思っていませんでした。流石です。」


 僕たちの対物理鍛錬は中庭で再びおこなうことになった。身を隠す木々が何十本か生えており、広さも鍛錬場の3倍はある。僕たちは金色龍王の皮からつくられた鎧をまとい封印硝子製のゴーグルをして臨むことになった。そしてフィリノーゲンさんからの講義が最初にあった。


「さて、二人とも最初の武儀で感じたと思うが魔物でもなければ魔導師でも召喚術師でもない騎士・拳闘士・そして武器を持つ歴戦の野盗は魔力から攻撃を察知できない。僕たちにできることは防具を整えて臨むこと、そして相手にない魔力を駆使して翻弄することだ。


 だが弓やマスケットといった飛び道具は厄介だ、一斉掃射を食らえば例えドラゴンを召喚していようと敗れることはあるし既に聞いていると思うがモリイさんほどの腕前ならば急所に一撃を食らえばそれでお終いだ。〝魔物の力に溺れるべからず手足のように駆使する縦者たれ〟が本当の意味で試される。では健闘を祈る。」


「二人ともがんばれー♪」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


 ウィーサさんとマリーが楽しそうに応援している。鍛錬場より大分距離をおいて武儀はおこなわれた。僕はさっきの経験から開始の合図と共に即座にマッドブルを召喚する。これで翻弄できれば少しは勝機がある。…マッドブルの突進をヒラリとかわすようによけてユウキさんが再びぼくに向かって来る。


 一度避けられると迂回させるのに時間がかかるマッドブル、急いで還付をおこない僕も剣を取る。木刀で体当たりするように向かって来るユウキさん、ぼくは剣をかまえて相打ち覚悟でその突進にそなえる。


 そんな僕の覚悟を察してかユウキさんが急に立ち止まり庭の土をブーツで蹴ってぼくのゴーグルごしに土が舞う、前が見えなくなった隙に…


「あがぁ!」


 龍王の鎧越しでも傷むほどの木刀の一撃が腹部に入る。そして僕のミスリルの剣をとりあげて、足関節を挟むように転ばされ剣を喉笛につきつけられた。


「…ちと格好悪いが決着でいいか?」


「終了!それまで!勝者はモリイ=ユウキ。これにて武儀を終了する。」




 レイチドは風を身に宿すのではなく周りに旋風を巻き起こす作戦にでたようだ。おそらく飛び道具である〝チャカ〟や〝ライフル〟を警戒してのことだろう。剣術では僕よりも上を行くレイチド、ユウキさんも距離をとって木に隠れる。


…訪れる静寂、レイチドも流石に身を隠す木に剣を持ち突進はできない。腹ばいに転がりモリイさんがライフルを持ち木から飛び出る。発射された弾丸がレイチドの風の軌道に乗ってゴーグルの左目に当たりデンプンが炸裂する。


「終了!それまで!勝者はモリイ=ユウキ。これにて武儀を終了する。」




 結局僕たちは5回ほど中庭で武儀に臨んだが、ユウキさんに一太刀も浴びせることはできなかった。



「いやぁ、最後の方は2人とも良い線してたぜ。特にレイチドちゃんの風と剣の一撃は少しヒヤリとしたよ。大人げねぇ戦い方ですまねぇな。そんな喧嘩技術しかもってなくてよ!」



 モリイさんは笑いながらそんなことをいう。最後のレイチドによる相打ち覚悟の一撃はモリイさんが普段羽織っている〝スーツ〟を脱がれ目隠しをするようにかぶされて、そのままレイチドは後ろからスーツで首を締められて終わった。…これが本当の傭兵の戦いというものなのだろう。悪く言えばえげつない戦法なのだが命のやりとりが日常なモリイさんにしたら当たり前の戦法なのだろう。



「いやー♪清々しいくらいえげつないね~。流石ヒットマンだね。よ!白狼殺し!」


「そのあだ名は止めろ…」



「さて、これで2人とも対無魔力の敵…騎士や拳闘士、傭兵や野盗との戦いがどういうものか肌で感じられたと思う。ユウキさんの実力は想像以上であったが、へこむことはない。普段私が召喚している武者の魔物などとはレベルが段違いだったからな。最後の風・魔物での翻弄では少しモリイさんも動揺していた。我々には魔力・召喚という強力な武器がある、それを惜しまずに使うことだ。」


 へこむ僕たちにフィリノーゲンさんはそうアドバイスする。既に鍛錬は終了して、レポートによる反省のみとなったときにその一言は放たれた。



「はーい!フィリノーゲンさん!ウィーサちゃんもモリイさんと武儀したいです!!!」


 …ウィーサさんがモリイさんとの武儀を提案したのだ、僕たちを応援しつつユウキさんのえげつない戦法に一々感嘆と拍手をしていたウィーサさんは目を輝かせていた。おそらく魔導師…魔女としての血が騒いだのだろうか。



「うぇ、ウィーサちゃんかい。どうだろうなぁ勝てる気がしねぇよ。そもそもこの武器全部おめぇさんから買い取ったものだしなぁ。」


「シオン君と親友の仇討ちさ!!突然魔女に襲われたと思ってかかっておいでよ!」


「…いいじゃねぇか。返り討ちにしてやらぁ!俺が勝ったら次の弾丸とワラ人形の料金はチャラにしてくれるってんならいいぞ」


「いいよー!そのかわり負けたら次から2倍の料金もらうからね!」


 そうして魔女ウィーサさんと今では高位の傭兵に数えられるモリイ=ユウキさんの武儀が始まった。ユウキさんは準備があるといって少し時間をおいてきた。また弾丸もデンプンではなく樹脂をつかった模擬弾に変更された。


 お互い位置につく、ウィーサさんはいつもの紫のつばの広い三角帽子にローブ ユウキさんは真っ白のスーツに紫の下着少し服がふくれている所を見ると中に何かを仕込んでいる様だ。


「それではこれより武儀をはじめる。両者位置へ。ルールは相手への殺害及び後遺症の残る可能性のある攻撃は不可とする。以上、開始!」




「心に炎を宿したもう…」


 ウィーサさんの魔力が爆発的に上がる。そして笑顔のまま煙幕を張る。混乱付加の煙幕だ、おそらく状態異常を起こさせる戦術だろう。魔力を持たない人間にこれは厳しい。煙幕の中悲鳴が響いた。


「キャア!!!」


 ボトボトとワラ人形が落ちる音がする。煙幕で見えないがモリイさんは混乱していない、弾丸がウィーサさんに当たったようだ。煙幕がすこしづつ薄れる、モリイさんは顔になにやらマスクのようなものを被っている。



「ウィーサちゃんにばかり魔導具とやら買ってねぇのよ!〝ガスマスク〟っちゅう防具だ、金貨30枚の特注品さ!」



「ほわぁやるぅ♪…ん~毒と混乱・麻痺の防止魔導を付加させたものだねー!かなり高位の魔導師に作らせたね。魔導の特徴的にコトボかな?私もそれ作ってみようかな~」



ウィーサさんは一目みて未知の魔導具の解析を終えたようだ。



 早速モリイさんは木に身を隠す。そこから時折最低限だけ身を乗り出してチャカでの連射を行う、ウィーサさんは風の軌道でそれを防いで炎や雷の追跡魔導で木に身を隠すモリイさんを攻撃する。腹ばいに転がるように避けながらライフルで丁寧に狙って弾丸を発射していく。モリイさんからもウィーサさんからもボトボトと魔導・物理耐性のワラ人形が落ちていく。


「ひぃ!」


 突然ライフルから樹脂の弾丸に混じって赤の呪縛樹を網のように発射する弾丸が発射された。ウィーサさんは急いでかまいたちで切り裂こうとするがその隙にもチャカによる連射がおこなわれ宙を浮いていたウィーサさんが地面に緩やかに落下する。


 その隙をみてモリイさんは木刀を持ちウィーサさんの着地地点に駆け出す、ウィーサさんも右肩にからまる呪縛樹にかまわず魔導のつえから強烈な炎の魔導を発射する…そして




 お互いのワラ人形がボトボトとおちて中庭はワラ人形まみれになった。ウィーサさんの喉元には木刀が、モリイさんの喉元にはウィーサさんの魔導の杖が差し込まれている。お互い本身の武器ならばお互い命はないだろう。ウィーサさんはあの異常に鋭利な剣で喉笛を切り裂かれ、モリイさんはウィーサさんの強烈な魔導の餌食となるだろう。


「…もうおめぇさんから買ったワラ人形のストックはない。ウィーサちゃんは?」


「わたしもだーーーーーー魔導のストックしかない!!!くそーーーーー!せめて物理耐性がもう一個あれば!」


「えっと…では終了だ!それまで!勝者敗者ともに無しこの武儀は引き分けとする。これにて武儀を終了する。」


 モリイさんは息苦しそうにガスマスクを脱いで汗だくのウィーサさんと向かい合う。


「やっぱ強ええやウィーサちゃん。敵わん」


「いやー仇討ち失敗だー!!呪縛樹の弾丸なんて何時つくったんだよー」


「はははは、〝突然魔女に襲われた時〟のためさ」


「いやー、私の作った武器にやられるなんて!」


「ヤクザ者なんて反則技つかってナンボなのさ、強かった流石だ!」


「こっちこそ傭兵さんにここまでやられるとは思わなかったさ!流石だよ」


そう言って2人は笑いあいお互いを讃えた。


「ウィーサさんを相手にあそこまでやるとは…恐ろしいな。敵には回したくないものだ」


 フィリノーゲンさんもそうユウキさんを称する。ウィーサさんであそこまで手こずるのだ僕やレイチドで敵うはずがない。マリーは2人の戦いに拍手までしている。…マリーまで戦いたいなんて言わないことを祈る。



その晩の夕食はモリイさんも混ぜての盛大なものとなった。


「いやぁ金と武器の一式までもらってメシまでおごってくれるとは気前いいな。うん、うめぇ。ここでのメシにも大分慣れてきたけどこの屋敷のコックは一級だな。」


「いえ、こちらこそ良い鍛錬と学びになりました。…私も含めて」


「しかし兄上よ、私は武儀を途中からしか見ていなかったが兄上は戦わないのか?対無魔力者の手本を見せるのにいいではないか」


「兄貴さんが相手なら本物の弾丸使わせてもらわないとやらねぇぞ?」


「止めよう。おそらく中庭が…下手すれば屋敷の一部が壊れる。私もかなり本気で挑まないといけないだろう。」


「ふむぅそれは困るな。」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 楽しかった 見てて 楽しいのは久々 』


「しかし見事に傭兵として名をあげているな。異例のスピードではないか?」


「ウィーサちゃん達のおかげさ、武器もなんも俺一人じゃ作れないゴロツキだからな」


「ふむ、しかし新種のモンスターの討伐といい見事であるな。私もまだ式にしていない、次は私が教授を願うかもしれんな」


「あいよ、いつでもどうぞ。ああ、おかわりくれ!」


 モリイさんのスーツの胸に刺された新たな飾り、紅孔雀の真っ赤に輝く宝石のような羽根をみてアムちゃんはそう話した。

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