各自の選択 二分の一
とある場面で少女は二択を迫られていた。
場所はカリフの町にあるカジノ、別名〝魔導師の拳闘場〟偶然に支配される結果を己の魔導でねじ曲げ合い財産を賭ける場所。そこでウィーサは目の前にいる熟練のディーラー、おそらく長年カップ&ボールの操作・転移の魔導をしてきたのであろう。こと転移と操作の魔導に関しては凄まじい魔力を発揮する、オールバックに黒い髭を蓄えローブを羽織った男と戦っていた。
男の操作・転移魔導の力は凄まじくウィーサの力を持ってしても五分五分であった。他の客ももはやディーラーとウィーサのどっちが勝つかを賭けの対象にしている。
(ん~、まず真ん中はない!転移防止魔導をこれでもかと掛けてたからねー。でも最後の最後に私は右、このおっさんは左に転移魔導を掛けた…。レイチドなら相手の表情なり駆け引きなりでこういう場面抜け出すんだろうけど私はそういうのサッパリなんだよー)
ウィーサは長考する自身の魔導を信じて右に賭けるか、潔く負けを認めて左にかけるか…。手応えはあった…気がする。
「右にあるだけ!!」
ウィーサは大量のチップを右に賭ける、己のかけた魔導を信じずになにが魔女か。
「では、皆様スタンドにチップは置かれましたね?これよりカップを開けさせていただきます。まず…真ん中は空です。チップを回収されていただきます。失礼いたしました。」
「では次に右を開けさせていただきます…」
ウィーサは唾を飲み込む、ディーラーはあくまで無表情でカップを開く。…開いた瞬間思わず唇がつり上がり慌ててポーカーフェイスを取り戻す。
「右は空です、チップを回収させていただきます。結果はディーラーの総取りとなります、大変失礼いたしました。」
「わーーーーー!!!!!!くそーーー。そこの店員!この金貨を全部チップに!もう一回だ!」
「畏まりました。では、次のゲームに移らせていただきます。」
その日ウィーサは勝ち負けを繰り返し銀貨で数枚分だけ勝ちを納めたがスッキリしない表情でテグレクト邸に戻っていった。
◇ ◇ ◇
とある場面で少女は二択を迫られていた。
場所は下位ではあるがダンジョンともよばれる竹林の中、レイチドは最近新種で生息をし始めた緑色の鳥形のモンスターについての生態調査の依頼をされて、単身ダンジョンに赴いていた。緑の鳥はまだ若く羽根は尖端だけ赤色に染まっている、好戦的ではないが生命力はかなり強く、生殖力も盛んで今後ダンジョンはこの鳥のモンスターの住処となるだろう。木の上に一匹の雛がいる。もしこの雛を持ち帰れたら専門の生態調査をおこなう召喚術師なり魔導師なりに渡してより研究が進むだろう。
(今のところ襲ってくる気配はないけど、雛を持ち帰るなんてしたらどんな行動に移られるかわからないわ。それに今はわたし一人…ウィーサがいてくれれば助かったんだけどな。戦力についてもまだ不明だしこのままだと中途半端な調査報告書しかかけないわ)
緑の鳥からは魔力も感じる。もし敵意をもたれ一斉に攻撃されれば命はないかもしれない。どの程度のレベルのモンスターであるか不明なのだ、今は跳ね鳥程度しかいない下位のダンジョンだがこの鳥が住まうことによって難易度が格段に上がる可能性すらある。レイチドは好奇心と危険度を天秤にかける。
そして、竹林の笹につくられた巣から雛をかかえるように持つ。風の精霊レシーを召喚して風と一体になって颯爽と竹林を抜け出す準備をする。後ろからは緑鳥のモンスターが先ほどと違い羽根全体を真っ赤に染めながら襲いかかる。
(うげ、まずいことしたかな。変異型のモンスターか…)
一度雛を置いて剣を取る。周りの竹がみるみる槍のように変化してレイチドを襲う
(うわ!かなり高位のモンスターだわ。ごめんね、雛は置いていくからゆるして)
槍のように襲いかかる竹を避けながら、なんとか竹林を抜け出した。外までは追いかけてこなかったためレイチドは胸をなで下ろす。その後調査報告の依頼を完遂させて新たに〝紅孔雀の巣〟とよばれる高位のダンジョンが誕生した。
◇ ◇ ◇
とある場面で少年達と青年は二択を迫られていた。
「ふむぅ、相変わらずシオンとマリーは不気味な魔導具ばかり召喚して持ってくる。…禍々しい魔力は感じないがどうするのだこれ?」
「金属の箱にボタンが一つだけ…。それにわたし達では判らない言語でなにかが書いているが…」
「すみません、マリーが〝面白そう〟って言ったもので…」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「前回の能力の測定器と違い本当にこのボタンだけだ、何が起こるかサッパリ検討がつかん。宝物庫にしまっておくか?」
「うむ、押してなにかが起きても大変だ…。ただ二人の憑依で召喚したものだ、そのままお蔵入りというのも残念な話しになるな。」
「じゃあ兄上が押すか?」
「いや…、それは…」
「わたしだって興味ないわけではない、ただなぁ…」
みんな好奇心と恐怖心を天秤にかけていた。
『 じゃあ わたしが 』
そういってマリーはボタンを押した。すると緑色の巨大な人型が姿を現した。
「召喚のボタンか!どれ!シオンとマリー下がっていろ!」
さっそくウィリアムは多重に紋章をだして縄のようにかける。
「逃げるなよ!!」
魔神らしき人型はそのままウィリアムによって調伏された。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
…願いを一つだけ叶える幻の魔神は〝逃げない〟という願いを叶えそのままウィリアムの式となり、何の変哲もないボタンの付いた箱だけが残された。
◇ ◇ ◇
とある場面で傭兵は二択を迫られていた。
「あれってあの女みたいなガキが出してたドラゴンだよな…ちとヤベェな」
モリイ=ユウキは傭兵としてドラゴンの討伐を依頼され、最近できたドラゴンの巣に単身訪れていた。緑ドラゴンや火龍の脳天や急所を次々ライフルや拳銃で貫いていき、最深部近くまでくる。
すると金色に輝く他の竜よりも二回りは大きく、巨大で凶悪なブレスを吐く最高位の魔物……燻り狂う金色龍王と鉢合わせた。
残りの弾丸は2発、ウィーサから買い取った魔導や物理攻撃を身代わりにするというワラ人形は龍王のブレスの一撃ですべて空になった。
白いスーツと紫のYシャツに身を包む傭兵は岩陰に身を隠し、どこを狙えばいいかを考えていた。普通の緑色のドラゴンであれば脳天や口元を、火龍であれば腹部の胃に弾丸を当てると自らの炎で焼かれ消える。
しかし金色龍王ほどの相手はまだ未経験なのだ、噂では最高位に等しい魔物とも聞いている。このまま逃げていくのもいいが、傭兵としての矜持がそれを許さなかった。
岩陰にブレスが走る。熱風で髪が焼け焦げる。ユウキは岩陰から身を乗り出してドラゴンの目を狙う、一発で打ち抜いたが、雄叫びをあげ怒り狂いユウキに鋭利な牙で噛み付こうとする。
「痛ってーーなぁ畜生!」
足を牙で貫通させられ足から血が流れる、金色龍王の口を止めているのは片刃の鋭利な刃物と拳銃、刀を龍王の上口に刺し自身の左足を犠牲にすることで致命傷を避けた。そしてブレスを吐かれる前に口元から直接ライフルを発射する。爆音と共に口から脳髄にかけて弾丸が貫通して龍王は動かなくなった。
「ざまぁ見晒せ!!」
ユウキは牙を刀で切り折って、左足に貫通した龍王の牙を引っこ抜く。息を切らせながら左足を引きずり、依頼主である領主の元へ行く。
まさか火龍はおろか金色龍王までいるとは知らなかった領主はかなり驚き、モリイは金色龍王や火龍の皮や胃石、牙や骨の料金と討伐の料金もろもろあわせて金貨で300枚相当の報酬をもらい受け、最上級のもてなしと治療を受けることとなった。




