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落ち延びた山賊

 僕は大分扱いに慣れてきた式のカラカラドリを飛ばして借眼を行いカラカラドリの視界からダンジョンなどを見渡す。すると冒険者の一団がダンジョンに入って行く姿が見えた。しばらくカラカラドリを木に止まらせて見ていたが一向に出て来る気配はない。ダンジョンは一階建ての屋敷でありすぐに戻れそうなほどだった。不思議に思った僕はフィリノーゲンさんに相談した。


「絆の城、静寂の屋敷とも無音の城とも呼ばれている場所だな。その名の通り音や気配が一切遮断されるんだ。そこから高位の魔物が音もなく近づいてくる。おそらくそのトレジャーハンター達は餌食になったのだろう…かわいそうに」


「こんな近くに絆の城があったのですか!?」


「ああ、各所に点在しているが特にこのカリフの町の周りは絆の城を含めた高位のダンジョンが多い。気をつけることだな。知らずに屋敷に入った物取りが実はダンジョンだったなんてこともある。」


「はい、気をつけます!」


「さて、今回の修業だが…前回はウィーサさんの騒動で大変だったが、また実践を兼ねて仕事を行ってもらおうか。斡旋所で仕事を見つけて見事に成功報酬をもらい受けてみろ。それが修業だ。」


「は、はいわかりました!」



僕は部屋に戻りマリーに相談する。前回は護衛の仕事だったが折角なら別の仕事をしたい。


『 宝樹でも 取りに行く ? 』


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


 宝樹、つまり冬の神がいるブリドーの山だ。前回は気まぐれで帰してくれたけど本当に宝を目当てに行ったならば命はないだろう。


『 冗談 』


 僕が否定する前にマリーはそう言った。心臓に悪い冗談はやめてほしい…


「でもどうしようか、また斡旋所に行くかなぁ」


『 まかせる 』



場所はカリフの町の職業斡旋状、前回も僕を査定してくれた老人が笑顔でむかえてくれた。


「おう坊主、前回はよくやったみたいだな。大変な目に合ったんだって?それで報酬が銀貨18枚たぁ紹介した俺もさすがに反省したよ。又仕事か?…随分力をつけたみたいだな。式も増えてるな?たいしたもんだ。」


何も説明していないのに一目で僕の能力を見定めたらしい。この老人も只者ではないのかもしれない。


「それでだ、まぁ依頼の仕事というよりもカリフの領主直々の手配があってな。大仕事だがやってみるか?マルボ山ってのがあるんだが…地図のここだ。このマルボ山を札付きの山賊が最近根城にしたらしくてな。冒険者や傭兵、近衛も討伐に行ったんだが返り討ちにあったみたいだ。懸賞金は生け捕りなら金貨50枚、死体なら金貨で20枚だ。どうだ、やってみるか?」


前回とスケールが桁違いの仕事に内心驚いた銀貨で16枚の仕事から金貨で50枚の仕事になったのだ。


「はい、是非お願いします!」


「この山賊だが元々は王立騎士学園の元卒業生がリーダーをやってるらしくてな。魔導師や召喚術師もいる厄介な山賊なんだ。そこいらの野党とは比べものにならない。精々気をつけるんだな。」



 そして僕とマリーは山賊に身をやつした騎士・魔導師・召喚術師を退治しにマルボ山へ向かった。マルボ山そのものは馬車で3刻もすれば到着する距離にあり、冬の山道はブリドーの山ほどではないがやはり険しく注意しながら進んだ。…山全体から禍々しい魔力を感じる。


「マリー、ちょっとカラカラドリを飛ばしてみるね。」


『 りょうかい 』


 僕はカラカラドリを召喚し、山の中を借眼で見渡す。山賊らしき人影は見あたらない。不気味なほど静かな気配と静寂…そこに僕の油断があったのかもしれない、借眼によって分裂した視界の半分、すなわち僕の目の前。まさに僕とマリーの前に突然5体の火龍があらわれた!


慌てて借眼を切り離す、マリーは既に臨戦態勢に入っている。


『 心因反応過剰しんいんはんのうかじょう発作処置 …及び同処置強化 完了 』


 5体の火龍が泡を吹いて倒れ出す。マリーの特技、生命の波長を狂わせる呪いだ。火龍の炎のブレスが口からポッポッと間欠的に漏れ、いびきに似た断末魔をあげて消えていく。


『 なにもの… 』


 魔力から相手を察知する訓練はテグレクト邸で死ぬほどやってきた。この5体の火龍は複数人によるものではない、気配すら感じない一人の召喚術師が姿も見えない遠隔から召喚したものだ、カリフに滞在するかなり高位の召喚術師でもできるかどうかの芸当だ。禍々しい魔力を感じるにも関わらず、どこから漂うものか検討がつかない。同時に僕の元にカラカラドリが戻ってくる。


「カラカラドリ!?」


 カラカラドリの羽根は少し焼け焦げている。ガルーダ以上の速さで飛ぶ僕の式、フィリノーゲンさんをしてこの世界で最速と言ってくれたカラカラドリに致命傷まで行かないまでも炎の魔導を与えたモノがいるのだ。火龍や金色龍王のブレスすら軽々避ける僕の式に一撃を与えるにはウィーサさん並の魔導師でないとできないだろう…


「この山の山賊…普通じゃない。」


 未だにリーダーの騎士の姿も見ていないが周りの召喚術師・魔導師の腕からして並の人間ではない、僕は一度テグレクト邸に帰還した。


    

丁度レイチドが昼食を食べている時間だった。僕はレイチドに意を決して依頼する。


「あら、シオンお帰り。お仕事見つかったの?…なんか表情が険しいわね。」


「レイチド、〝召喚術師〟として〝捜索者〟に依頼をしたいんだ。他をあたったら相場が銀貨50枚だったからウィーサさんと合わせて銀貨100枚。これで捜査をしてほしい、かなり危険な仕事になるかもしれない。」


「え!?ああ…はい、そのご依頼承りますね。」



          ◇     ◇     ◇


 レイチドとウィーサは厚着をしてカリフの町にでていた。依頼内容はマルボ山を根城としている山賊に身をやつした騎士・魔導師・召喚術師について。


「シオン君も成長したねー、今まで情報をあつめるなんてしないで行き当たりばったりでマリーさんに助けてもらってたのに。ってかマリーさんの呪いのごり押しで解決できないのかなー?」


「多分だけど、この山賊自体になにか事情を感じ取ったんだと思うわ。あの子夢見がちなわりに変なところ頑固だから山賊=悪者ってことで退治したくなかったんでしょ。それにこの一件、私もかなり気になる。生け捕りなら金貨50枚の懸賞金、死亡させたら金貨20枚ってのは普通じゃない。それにこれほど莫大な懸賞金なのに斡旋所でのみ紹介してるってのも気になるわ。普通なら賞金首として張り出されてもいい額のはずよ。」


「ふ~ん、カリフの領主に聞くのかい?」


「ろくな情報は集まらないでしょうね。領主直々の依頼でまるで隠し事があるかのように討伐の依頼をだしてるんですもの。それに遠隔からの火龍5体の同時召喚に、あのスピードで飛び回るカラカラドリに火傷を負わせるほどの魔導を扱うなんて並の魔導師や召喚術師じゃないわ。王宮魔導師あたりでもいるかいないかよ。…領主になんらかのミスか隠蔽があった可能性があるわね。」


「でも町ぐるみの隠し事でしょー?どうやって捜索するのさ?」


「地道な聞き込み、近衛は避けましょう。冤罪で牢獄にいれられる恐れもあるわ。あと奥の手だけど…」



 その後レイチドとウィーサは町の人達や冒険者、トレジャーハンターに聞き込みをおこないある程度の情報をあつめてカリフの領主の元へ行った。


客間で待つこと数刻、領主がやってきた。


「この度はお時間をいただいて申し訳ございません。実はお聞きしたいことがございまして。」


「いえいえ、レイチド様にはいつもお世話になっていますから。お待たせして申し訳ない、こちらも仕事が立て込んでおりまして。」


「では用件を先に述べさせていただきます。現在マルボ山を根城にする山賊の情報がこちらに入りまして、その山賊がこのカリフの元近衛騎士・魔導師・召喚術師であるという証言がとれたのですが事実でしょうか?」


「え…いぇそのような事実はございませんがぁ。」



「ではこちらを…こちらは匿名ですが、カリフの近衛兵士から領主様直々にこの一件の口止めをされていることを記録した録音機器になります。お聞きになりますか?」


「 … 」


「無言は肯定とみなしてもいいのですね?」


「できればどの近衛がそのような口止めを破ったかお教えいただければうれしいです。」




「嘘です。」



「はい?」


「今の話しは全部嘘です。この録音機器はなにも記録されていません。あなたの〝できればどの近衛がそのような口止めを破ったかお教えいただければ〟という発言がたった今記録されただけです。」


「な…」


「罠をしかけるようなマネをして申し訳ありません。他言は致しませんので事情をご説明ください。今この瞬間にもあなたの元近衛の犠牲になっている人がいるのです。」


「本当に…敵に回すと恐ろしい方だ…。すべて事実です、今マルボ山で山賊をしている者たちは私の元部下にあたります。」


「何故カリフの領主様ほどの方を裏切るマネを?」


「実はあの山賊は今は3人ですが元は4人の討伐者パーティだったのです。近衛騎士・魔導師・召喚術師ほかにもう一人騎士がおりました。」


「過去形ということは今はお亡くなりに?」


「はい…、元を正せば私の判断ミスでした。カリフの外れにある一階建ての屋敷に入った者達が一人の生存者もなく屍すら発見できないということで当館の精鋭4名で討伐に向かわせたのです…」


「あそこは…私の記憶が正しければ絆の城のはずですが。」


「そうです。4人はそれを知っていたようですが私は気がつかず…。そして騎士一名が死亡して3名は満身創痍で帰還しました。このときから3人はまるで悪魔に取り憑かれたかのように変わってしまい、遂には近衛を辞退して山賊にまで墜ちてしまったのです。私への恨みからなのか悪魔の城で何かがあったのか私にはわかりません。私に出来ることは出来れば穏便に生け捕り…生きて牢獄で罪を償ってほしいということだけでした。しかし実力はカリフでも屈指の3人、だれも討伐できずにいる状態だったのです。」


「テグレクト一族への依頼をしなかったのは?テグレクト一族でしたら生け捕りも可能だったと思うのですが。」


「恥ずかしながら随一の家臣に裏切られたという領主としての見栄です…そのことによって山賊の被害が増えてしまい益々依頼ができにくくなってしまいました。本当に情けない話しです。」


「お気持ちお察しします。この一件、わたしたちで仕切らせていただいてもいいでしょうか?他言はもちろん致しませんし、領主様を責めることも致しません。」


「本当ですか!?…お恥ずかしい、本当に申し訳ございません。」


「では、この情報は持ち帰らせていただきます。改めて罠をしかけるようなマネをして申し訳ございませんでした。」


「いいえ…こちらこそ嘘に嘘を重ねて取り返しの付かなくなるところでした。肩の荷が下りた気分です…」


「では、失礼いたします。3名の山賊はかならず生きて館へ引き渡し致します。」



そういってレイチドとウィーサはカリフの館を無事に出ることが出来た。



「あー心臓に悪いわ。領主相手に罠なんて下手したら首が飛ぶわよ」


「あはははは、結果オーライさー!いざとなったら私が逃がしてあげてたから安心してよ。」


「まぁウィーサがいなかったらあんな大胆な嘘つかないわよ。それにしても召喚と魔導の町カリフの最精鋭の3人が山賊なんて…ゾッとする話しね。」


「どうするん?シオンに伝えてもいいけど、話しが大きくなってるからねー。これはシオンとマリーさんだけに任せるんじゃなくて6人で協力したほうが良いと思うなー」


「私も同意見、シオンは修業で仕事を探して自分で討伐するのにこだわるでしょうけどね。マリーさんでも3人全員生け捕りは難しいかもしれない。シオンの説得はわたしがするわ。」



      ◇     ◇     ◇



 翌朝聞いたレイチドに依頼した調査結果は驚くべきものだった。カリフの元最精鋭の近衛討伐者が山賊に墜ちたというのだ。あれほどの同時召喚もカラカラドリの火傷も納得がいく。むしろ生きて帰れたのが奇跡なほどだ。なによりも絆の城に入り満身創痍ながらも帰還をはたした実力の持ち主だ、僕ではとても相手にならない。レイチドの説得もありこの一件はフィリノーゲンさんやアムちゃんにも相談することにした。


「カリフの領主も愚かな… 始めから我々に相談すればいいものを」


「見栄というのは恐ろしいな。たしかに一番信頼していた討伐のパーティに裏切られたのだ、恥ずかしくて頼めなかったのだろう。」


「しかしマルボ山は今立ち入り禁止区域にまでなっています。冬道で唯一王都への整備された道がある山、早急な対処が必要です。」


「相手は騎士に魔導師、召喚術師かー。シオン君の話を聞く限り火龍の5体同時召喚ってどうなの?カラカラドリ君に火傷追わせるくらいの炎の追跡魔導なら私でも難しいかもだよ」


「正直兄上に匹敵するな。ましてや遠隔からの召喚など我が一族の秘伝に近い、それを独学で習得したのだ。並の者ではない」


「じゃあリーダーの騎士もそれ以上ってことになるのかな。…本当に全員生け捕りになんてできるかな。」


「とにかく情報は集まった。あとは悪魔の城…絆の城で3人に何が起きたかだな。悪魔に取り憑かれて力をつけたということも考えられる。ただでさえカリフの精鋭だった者達。そうなればかなり厄介だ。」


「とにかくここで話し合っていても仕方がない。装備を調え次第マルボ山へ直行だ。」


 アムちゃんの一声で皆行動に移る。ジュエルドラゴンの皮から作った鎧と金色龍王の皮の籠手、ウィーサさんは魔導対抗・物理対抗の秘術を編み込んだ藁人形を身につけてマルボ山へ向かった。


 

「ふむ、禍々しい魔力を感じる。少なくとも近衛がただ山賊に墜ちただけではなさそうだ。」


「3人が行った場所は静寂の城…音も気配もない悪魔が取り憑いている可能性もある。」


「たしかに火龍が出てきたときは目で見るまで気配すら感じませんでした…」


「ありゃー厄介だねー。どうする?手分けして行く?それとも集合する?」


「各戦力が均等になるように別れよう、ジュニアとシオン、マリーさん 僕とレイチド君とウィーサさんの二手でいこう」


「うむ、それならばお互い式で情報の交換もできる。その手で行こう。」


そして僕たちは二手に分かれ、超弩級の山賊の根城へ向かっていく…


   ◇    ◇    ◇


※アムちゃん・シオン・マリーグループ


僕とアムちゃん、マリーは雪道を転げないよう歩いていく。


「うむぅ、禍々しい魔力は感じるが気配が一切無い。本当に不気味だ、山全体を覆っているかのようだ」


『 … 』


「アムちゃん、悪魔の憑依って解呪できるの?」


「できないことはないがかなり難しい。それに本人に後遺症が残る。仮に山賊を捉えたとしてももはや討伐のパーティには使えぬだろう。」


『 凶兆 』


「「!?」」


ォォォォォオオオオオオオォォォォォオォオオォオォォォオオオオ


「お出ましだ!白龍なんぞ雪山でだしおって!」


立ち昇る吹雪と共に真っ白なドラゴンが姿を現す。アムちゃんが剣豪系モンスターでは最強の6本の腕と剣を持つ阿修羅を召喚する。


『 傾眠陶酔けいみんとうすい処置 … 』


 同時にマリーも銀髪を逆立てる。僕も今この瞬間だけ白龍を二人にまかせてカラカラドリで召喚術師を探す。借眼を切らさず、あせらないように…


「みつけた!山の6合目、洞窟の中。青髪の男だ!」


「でかしたシオン!」


 マリーの呪いで動きが鈍る白龍を阿修羅が切り刻む、そして断末魔をあげて雪山では抜群の強さを誇る白龍が消滅する。アムちゃんは瞬時にガルーダを召喚してカラカラドリの元へ急ぐ。洞窟にはあっという間に到着して、青髪のローブをまとった召喚術師が虚ろな目で僕たちをみつめる。


「さて、まず一人…」


 アムちゃんは神をも縛る冥界に生息する紫の呪縛樹で男を縛り付けた。


「マリー、見立てを教えてくれ。悪魔の気配は感じるが姿形まではわからん。」


マリーが男に手をかざす。


『 心神喪失 呪いでない 魂が 抜き取られている 』


「魂が!?どういうこと?」


『 これはもはや 人じゃない 肉と骨の 人形 』


「悪魔の城でやられた傷か!?なんと……。」



 ◇     ◇     ◇


※フィリノーゲン・ウィーサ・レイチドグループ


「今ジュニアの式から通信があった。やはり悪魔の城で魂を抜き取られたらしい。今僕たちの敵は悪魔に操られた肉と骨の人形だ」


「ひぃ。そんな…」


「魂を抜き取る…!?禁忌の魔導を素でやってのけるなんて!!」


「とにかく召喚術師は退治した。あとは魔導師又は騎士だ。心して掛かろう。」


「イリー=コロン様がどんな思いでこの禁忌の魔導を作ったことか!!ひどすぎるよ!!」


「相手は悪魔だ、何を言っても仕方がない。とにかく哀れな犠牲者をなるべく無傷でつかまえることだ。」


「逆、もう相手は人間じゃない!ただの空っぽの器なんだよ!情け容赦はわたし達が傷つくだけさ!」



「…そうか、では殺さないようにだけ   って」


 突然雪面に舐めるように広域の炎が広がった。大量の油をまいたかのように燃えさかりウィーサの水魔導で消火されるまで炎は上がり続けた。


「あちちちちちちい、レイチド大丈夫!?」


「ちょっと腕火傷したけどなんとか、でも炎の魔導?こんな広域なブレスみたいなこと」


「くそ、姿がみえない。何十匹もの式の目を先ほどから使っているのだがな」


「もう!まどろっこしい!!!ちょっと荒事するよー!殺したらごめん!さがってて!炎は山の上からだから…」


 ウィーサがローブから無数の弾丸を取り出す、〝ライフル弾〟とかいうモリイ=ユウキという傭兵に作成を依頼された特製品を浮遊の魔導で何百個も浮かせる。


「心に炎を宿したもう…」


 そう囁いた瞬間、空中で激鉄が鳴り何百ものライフル弾が一斉に発射される。爆音と共に雪山に弾丸が刺さりウィーサは透視魔導を駆使して雪山を眺める。


「よし!死んでない!お腹に銃弾食らってるから急いで治療しにいこう!」


 現在地の遥か上空、7合目付近のかまくらに腹部から血を流している魔導のつえを持った女性を見つけた。おそらく透視防止の魔導をかけたかまくらだったのだろう。一斉発射までウィーサですら気がつかなかった。急いで風龍と箒で移動して、フィリノーゲンは赤の呪縛樹でがんじがらめにしつつビショップを召喚して腹部の傷を治療する。痕は残ったが死には至らないだろう。


「ジュニア、魔導師を確保した。今は山の7合目付近にいる。そっちは?」


〝兄上か!わたし達も近くだ合流しよう。〟



  ◇   ◇   ◇



 僕たちはアムちゃんの式と通じてフィリノーゲンさんやウィーサさん、レイチドと合流する。ウィーサさんは風船のように浮遊の魔導で呪縛樹にしばられた茶髪の女性魔導師を浮かせている。


「残りはリーダーを名乗る騎士だな。」


「物理耐性か…ジュエルドラゴンの鎧は選択ミスだったかもしれないな。」


「今更言ってもしかたあるまい。6人がかりだ、悪魔の人形を早く拘束しよう」


 雪山の7合目吹雪も強まる中、騎士の捜索を続けるが一向に姿を現さない。まもなく日没も近い、夜の雪山などそれだけで死と隣り合わせになる。幾つもの式の目を通じ、ウィーサさんは透視の魔導を駆使して捜索にあたる。


「みなさんあれ!足跡!!」


 みつけたのはレイチドだった。山の頂上に向かって比較的新しい靴の足跡がついている。つまり最後の敵は山の頂き付近にいる。早速ガルーダ、風龍、箒で一同は足跡を追う。足跡は山頂付近の洞窟に近づいていき、僕たちは愕然とした。予想だにしない光景を目の当たりにしたためだ。


「なんとまぁ。」


「自我が少し残っていたのかそれとも仲間がやられる中で取り戻したのか、…哀れな」




 洞窟でみつけたのは青年の騎士が自らの首に剣を突き立てて自害している光景だった。


 

 僕たち6人は洞窟の中で青年騎士に黙祷を捧げた。



 そして騎士を棺にいれ魔導師・召喚術師の2人と共にカリフの領主の元へと行った。領主の表情はなんともいえない悲痛なものだった。領主との交渉は多数決でレイチドがおこなうことに決められた。内容はみんなで話した通りではあるが。



「以上がマルボ山で起こった全貌と、3人の調査結果です。2名は生け捕りにしてはいますが既に生ける屍と言ってもいいでしょう。解呪は不可能です魂そのものが悪魔の城に吸い込まれています。」


「わかりました。本当にありがとうございます。この度は私のミスによってとんだ被害を…本当に申し訳ございませんでした。」


「次からは恥や外聞など捨てて領主としての自覚を持つよう願います。またこの勇敢なる4名には相応の褒美と栄誉をお願いします。わたし達はこの4名の加害者にあたるので報酬はいりません。」


「わかりました。家族、親族には私から相応の栄誉と感謝そして謝罪をおこないます。」


「では、失礼いたします。」


 そういって僕たちは複雑な心境を抱えながらテグレクト邸に戻った。雪山での疲れとスッキリとしない結末に皆無言で部屋に戻って体を休めた。


「ねぇマリー、〝魂〟ってなんなの?」


『 前頭連合野 脳の判断・認知・感情を司るもの のはず でも違う 』


「え?じゃあどこにあるのさ」


『 不明 私でも魂を抜き取れない 狂わせられない 』


「でも悪魔とやらはそれを抜き取るんでしょ?じゃあどこかにあるんだよね。」


『 どこかには ある 脳でも心臓でもない どこかに 』


「なんだか混乱してきたなぁ」


『 あなたの 魂は どこにあるか わかる? 』


「…全然わかんない」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 わたしも 』

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