閑話 傭兵の活動記録
場所はテグレクト邸の魔導実験室、そこに駆け出しの期間を抜け出してそこそこ名をあげ始めた傭兵とウィーサがいた。
「やっほー♪凄い活躍だねー、最近二つ名まで着いたんだって?〝ヒットマン〟なんてかっこいいじゃん!」
「俺の世界じゃあんまり良い意味じゃ使われないんだけどな…」
「あらそうなの?どういう意味?」
「鉄砲玉…使い捨ての殺し屋って意味だよ。だいたい末端の人間の仕事だ」
「ふーん、はいこれ!チャカの弾丸ね。300発くらいあれば足りるかな?」
「ああ、十分。」
「いやー、魔導自体の研究も楽しいけど魔導具の作成や研究も中々悪くないね。結構楽しかった!そうだユウキさんから頼まれた魔導具できたよー〝ライフル〟ってこんな感じ?」
ウィーサが取り出したのは身の丈の半分ほどの長さの魔導銀製の銃身、円曲の引き金と高性能スコープを取り付け、それらをカバーするように宝樹の木で纏われた銃であった。弾丸も拳銃の二回りは大きなウィーサの特製品である。
「おお、なんか予想以上だな。ちと俺らの世界のとは形が大分違うが重さもいい、これならそのまま担いでても普通に歩けそうだ。…試し打ちしてもいいか?」
「はいはいー♪窓からどうぞー。」
モリイ=ユウキはまずスコープと弾道の調整のため近くにある木を狙い何度かスコープを微調整する。そしてスコープと弾道の狙いが一致したのを確認して肉眼では点にすら見えないような木の実をスコープ越しに狙いを定めて引き金を絞り…一撃で打ち抜き木の実を炸裂させた。
「おおーお見事!」
「うん、いい銃だ。料金は金貨で8枚だったな、拳銃の弾の料金も合わせてここに置いとくぞ。」
「まいどありー!ライフルの弾はまだ20個しかないから大事に使ってねー。一個作るのに今は大体半日かかったんだけどコツがつかめたからもっと量産できるよ、料金は弾丸一個につき銀貨3枚、30個セットでお得な金貨1枚だ!今度はそうだなー…15日後くらいにきてよ。私もほかの魔導の研究とかあるからさ!」
「おう、なにからなにまですまねぇな。じゃあまたな」
「こっちこそ貴重な情報ありがとう!魔導の研究に役立てるよ!」
「さて、拳銃と刀だけだとあの魔導だのドラゴンだのには対抗できねぇからな。これくらいの武器持ってた方がいいだろ。…にしても未だに慣れねぇな。文字も意味不明だし、こんな物騒な武器持ってても捕まりもしない。カジノも堂々とオープンしてるし…こっちの方が居心地いいかもな」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「おわぁ!ビックリしたぁ。マリーか、相変わらず不気味な女だな。何の用だ?」
『 楽しい? 』
「楽しい?今の生活か?まぁ冴えないヤクザやってるよりよっぽどな。」
『 来た時と 目が違う 邪気が消えてる 』
「…日本にいたときよりもよっぽど物騒なことしてんだがな」
『 傭兵は 危険な仕事 でも 恐怖も感じない 不思議 』
「そりゃあ前の世界でも何時殺されるかわからない仕事してたからな。それに傭兵や戦闘員に憧れてたんだ、ちょっと夢が叶った気分だ」
『 気をつけてね ここは不思議な場所 不思議な世界 』
「十分承知だよ。俺からしたらおめぇの方がよほど不思議だがな。あんたもシオンとかいうガキと仲良くな。」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
◇ ◇ ◇
カリフの町にある商館でモリイ=ユウキは護衛の仕事を依頼されていた。
「ではユウキさん、今回は殺人跳鳥の巣を通ってコトボの町へ向かいます。危険な道ですがよろしくおねがいします。」
「あいよ。そのモンスター…化け物はどんなヤツなんだ?」
「はい、殺人跳鳥は普通の跳鳥と違い好戦的で文字通り草むらから跳ね飛び回り鋭いくちばしで攻撃をしてきます。この道を通れば本来10日かかるコトボまで2日でつけるのです。どうぞ護衛をよろしくお願いします。」
「行商も大変なんだなぁ。いいぞもう荷物は積んでるんだろ?さっさと行こうぜ」
「はい、では荷馬車へどうぞ!」
行商の一団はユウキを乗せてコトボの町へ出発する。整備された道から徐々に獣道へと入っていく。
「ここから先が殺人跳鳥の巣になります。どうか気を…って」
早速ユウキが拳銃を取り出し、爆音を発したかと思えば一匹の殺人跳鳥が木の上からぼとりと落ちた。ユウキは煙をあげる銃口にふぅと息を吹いた。
「早くいけ、無駄玉は使いたくない。」
その後も殺人跳鳥は次々拳銃の餌食となり、洞窟をみつけ殺人跳鳥に襲われないよう洞窟の中での野営の時間となった。
「流石ヒットマン…素晴らしい腕前です。ケガの一つや二つは覚悟していたのですがここまでとは。」
「その〝ヒットマン〟ってあだ名止めてくれないかな…。ユウキでいい。お前らは寝てろ、見張りは俺がやる。」
「はい!ありがとうございます!」
月が高く上がり始めた頃、洞窟の入り口で見張りを続けていたユウキはガサガサと大きな魔物が動く不穏な気配を感じ取った。
「…あの鳥じゃねぇな。狼か?」
犬に似た、それでいて凶悪な雄叫びが森に響き渡る。そしてザクザクを音を立てて洞窟に近づく、姿は見えないが足音からしてかなり大きな魔物だろう。ユウキはウィーサから新たに買い取ったライフルを持ちスコープ越しに足音のする方向へ銃口を向ける。
スコープ越しに見えたのは馬鹿でかい真っ白な狼だった。凄まじいスピードで洞窟に近づいている。
「こりゃやべぇな。」
ユウキはスコープで狙いを定める。引き金を絞り爆音と共にライフルから弾丸が発射される。弾丸は狼の脳天を貫いて動かなくなった。ユウキはライフルを背中に担ぎ拳銃を片手に狼に近づく、スコープ越しで見たよりもかなり大きな狼だった。
「魔物の知識はねぇからな。朝になったら行商に聞いてみるか…」
ユウキは蔓草で狼の屍を縛り引きずるように洞窟に持っていった。
そして翌朝、行商たちは目を見開いて驚愕していた。
「ワーウルフ…。まさか殺人跳鳥の巣にこんな大物が…」
「わーうるふ?普通の狼よりでかいけどなんか違うのか?」
「並のドラゴン以上の高位の魔物です!毛皮や肉だけでわたし達が積んでいる荷物の倍以上の価値があります!先生はこれを一人で倒したのですか!?」
「一人…ってかまぁこの武器のお陰だ。それに先生はやめてくれ。ヒットマンより恥ずかしい。まぁ金になるならそれに超したことはない。これも売っちまおうぜ。腐る前にそのコトボとかいう町にいくか」
「わたし達が売ってもいいのですか!?」
「売り方がわからねぇんだよ。別途で金くれるならありがたくもらうけどな。」
「もちろんです!ユウキさんがいなければ我々はこのワーウルフの餌になっていたでしょうから!」
行商の荷馬車は無傷のままコトボの町へ到着して、元々の荷物に加えてワーウルフの毛皮と肉を売り莫大な利益を得た。帰り道は安全なルートをと思っていたが〝ヒットマン〟の腕前を見た行商は再び危険な殺人跳鳥の巣を通って2日でカリフの町についた。
「この度は本当にありがとうございました。本来は銀貨で60枚の予定でしたが、あのワーウルフの件といい帰り道での護衛といい追加で銀貨70枚…いや金貨2枚と銀貨40枚でお支払いします!」
「おお、すまねぇな。また仕事があったら頼むぞ!」
「こちらこそ、よろしくおねがいします!…本当なら専属の護衛になっていただけるとうれしいのですが」
「気持ちだけ受け取るよ。まだこの世界のことを知りたいからな、しばらく放浪の傭兵でいたいんだ。」
「そうですか、ではまた依頼をすると思いますのでよろしくお願いします!」
「おう」
行商のリーダーはユウキに手を差し伸べお互い堅い握手を結んだ。
その後ユウキに〝白服の射手〟〝狼殺し〟など様々な二つ名がついて「恥ずかしいからやめてくれ」と何度も懇願するのは少し先の話である。




