ワルモノの召喚
【成狼興行】と看板の構えられたビルの一室。怒鳴り散らす男が一人と、正座し悲痛な表情を浮かべる男が一人。
「テメェ!自分が何してんのかわかってるのか?」
「すみません!すみません!!」
木刀で肉体を殴打する音が室内に響き渡る。
「謝って済むとおもってるのか?ああ?」
謝る男の顔面に大きなガラスの灰皿が飛び、顔面や頭部から血が流れる
「おいコラ!森井!?てめぇ上納金未納だけでなく、組から借りた金をかえさねぇとはどういう了見だぁ!?挙げ句シノギの手形を落としたたぁ…何してもクズだなぁ…おい」
「申し訳ありません!このご時世シノギ(仕事)がどうもうまくいかず…」
「だったら内蔵でも売って金作ってこんか!ご時世ご時世言い訳ばっかだなぁ、焼きいれりゃあやる気も出るか?」
木刀を片手に怒鳴っているのは男の兄貴分、そして正座してお沙汰を待っているのはこの森井佑樹というヤクザだ。高校を中退し、カタギで働いていたが長続きせず、ついにはヤクザの道へと進んだのだが落ちぶれ物はどこまでいっても落ちぶれ物。シノギ(仕事)であったカジノは桜田組に摘発され、組に借金をしている状態だ。
その木刀で散々殴打され、灰皿で殴られた森井は、不機嫌なまま自宅へ戻っていった。
「チッ、兄貴分だかなんだかしらねーが偉そうにしやがって。…おー痛てぇ」
昨今取締の厳しい時代、ヤクザをやるのも楽じゃない。しかしヤクザをやめたらヤクザ以下。よくてホームレス、悪ければのたれ死にである。そのためこんな不条理なことがあっても歯を食いしばって耐えるしかないのだ。
……急に男の体全体を淡い光りが包み姿を消したのはその数秒後だった。
◇ ◇ ◇
僕もフィリノーゲンさんも口を開けてポカンと固まっていた。人である、まごう事なき人間が召喚されてしまった。マリーとの憑依の途中あらゆる世界をみていたら、見たこともないおそらく豪華な服装の人間、なぜか顔面を腫らしてかなり傷ついた人を物珍しく眺めていたら間違えて召喚までしてしまったのだ
「ナンダココハ?ドコダ?テメェラナニモノダコラ!」
僕らに全く判らない言語で話す異国の衣装に身を包んだ男…、その男が急に手の平サイズの鉄の塊を僕たちに向けてきた。そして、その筒から爆音と共にマスケットの何十倍もの威力の弾丸が発射された。
『 陶酔傾眠処置 完了』
マリーは憑依を解いて僕を庇い、男に術を掛ける。男は直ぐさま地面に崩れて眠ってしまった。
僕たちは男が持っていた鉄の強力なマスケットと片刃の腕ほどの長さのがある木の柄と鞘に収められた鋭利な刃物を取り上げ、いったん鍛錬場から離れて男をベッドに縛り付け、会議室にウィーサさんとアムちゃんレイチドも呼んだ。
「異世界の魔物でなく人そのものを召喚するなど…前代未聞だな。そもそもよほどの秘術でも使わない限り、魔物ならまだしも異世界言語とはいえ話しができるほど知性ある人間など召喚までたどりつくことは本来できぬのだが…。シオンとマリーはそれをなんとなくでおこなってしまったと…」
「しかしマリーさんとの憑依で召喚された人間だ、還付もできない。何処にいる人間かも判らないしこれは困った」
「この男が人型の魔物、またはそれに準ずる公共の敵である可能性はどうですか?」
「そうだなぁ…人型の魔物である可能性は0に近い。ただこの男が魔物に近い又は魔物ほど恐ろしい存在、その世界で俗に言う〝公共の敵〟であったらならばありえない話しではない」
「この鉄の塊のマスケットすごいねー。研究につかっていい?魔導も感じないし、火薬も入って無くて…いや弾に込めてのかな?マスケットそのものじゃなくて弾に魔導をこめて激鉄で飛ばすのかこれは良い発想だねー」
「それに…この剣もみたことのない形の刃物ですね。そりのある片刃で…かなり鋭利に磨がれています。」
「異世界の住人か…ウィーサよ意思疎通の魔導などできないか?」
「できるよー。本当は動物と意思疎通を図る魔導なんだけど多分大丈夫だと思う。」
ウィーサさんはアムちゃんの無理難題をあっさりと答えてみせた。
6人は男が縛り付けられているベッドに近づく。
「心に炎を宿したもう…」
ウィーサさんの魔力が爆発的に上がり、男になんらかの魔導をかける。
「よし!これでわたし達の言葉も通じるし男が何をしゃべってるかわかるはず!」
『 じゃあ 起こしましょう 』
パチン
男が少しづつ目を開ける。
「なんだてめぇら!なんで縛り付けてやがる!なにもんだ!」
「初っぱなからえらい後挨拶だなぁ…」
その瞬間マリーの銀髪が逆立った。
『 気分易変性是正処置 完了 』
男の怒りが徐々に収まっていく。マリーの気分変動の呪いだろう。
「…ここは、どこだ?日本じゃないよな。お前らは仮装パーティーでもしてんのか?」
「ここは王国にあるテグレクト邸、召喚術師の館になります。手違いによりそのニホンからこの国に召喚されてしまいました。」
「…は?」
男は険しい顔で僕たちの説明を信じられないといったような返事をした。まぁ当たり前だとは思う…
「お名前はお持ちですか?」
「森井佑樹、27歳だ」
「モリイ=ユウキさんですか、あなたはここに来る前どのような仕事を」
「極道、ヤクザをしていた。通じるか?」
「ゴクドウ?ヤクザ?すみませんわたし達の常識では理解しかねます。」
「あ~なんて言ったらいいんだ…。まぁ簡単に言えば悪者の集団だ、それもかなり大規模なな」
「マフィアのようなものか…それで〝公共の敵〟魔物に近しい存在として召喚されたというわけだな。…それにしても傷が酷い一度治療しよう」
フィリノーゲンさんがそういうと魔物にして神に仕えるという希有な式ビショップ…僕の式であるプリーストンの上位交換を召喚して男の傷を治療した。
「なんだ?どんな魔法だ!?兄貴にやられた傷が……。」
モリイ=ユウキさんはかなり驚いているようだった。
「兄弟喧嘩か?いくら兄とはいえ弟にそこまで傷つけるとは…」
「いや、兄貴といっても本当の兄じゃねぇ。その~ああもう一々説明がめんどくせぇなぁ!」
モイリ=ユウキさん曰く、そのゴクドウという世界では血が繋がっていないにもかかわらず親子・兄弟の契約を交わして服従を誓うという。そしてその傷は兄貴分というユウキさんの上にあたる人から受けたものだそうだ
「俺のチャカとボン刀は?」
「チャカとボン刀?ああ、あのマスケットと剣ですか?危ないので回収させていただきました。」
「回収って…そもそもなんでいきなり仮装パーティに呼ばれて俺は縛られるんだ?それにここは?最初は全然何言ってるかわかんなかったがどんな魔法使いやがった」
「意思疎通の魔導だよ♪それに仮装とは失礼なれっきとした魔女の正装さー!」
「魔女?そういや召喚なんたらの屋敷とも言ってたな…」
「あら!ニホンに魔導とか召喚術とかはのないの?どれじゃあウィーサちゃんがお手本を見せてあげる!」
そういうとウィーサさんは炎・雷・風・水の魔導と浮遊・操作・転移・移動の魔導を次々と披露して最後には不可視魔導で姿を消して見せた。モリイ=ユウキさんはその様子を口をポカンと開けて見ている。
「手品…じゃねぇな。本当にどこなんだよぉ」
「うむぅ、この男からは何の魔力も感じない。こんなに縛り付けるほど危険ではないだろう。あの鉄のマスケットと剣を取り上げた以上拘束を解いても問題なかろう。」
アムちゃんがそう言うと男を縛っていた呪縛樹を解いた。
「あーあ、アルマーニの一張羅がくしゃくしゃだ…。」
「しかしどうする。元の世界に戻してやりたいのは山々だがわたし達も未経験のできごとでな…。レイチド君調査をお願いできないか?」
「あ、はい!ご依頼承ります、」
「ではそれまで客人待遇で屋敷にいていただいてもいいかな?元は我々の責任だ。」
「あ、ああ。というかそれ以外考えつかねぇよ。」
そしてモリイ=ユウキさんはテグレクト邸の客人となった。
◇ ◇ ◇
この俺 森井佑樹が王国にあるテグレクト邸とやらに召喚されて3日、俺は客間として紹介された広い部屋で昼食を取っていた。どれもこれも見たこともない野菜や肉、食べたことのない味で改めてここが日本、引いては地球ではないことを実感させられる。
それに魔女を名乗る女子高生くらいに見える女が見せた数々の手品じみた魔法。おとぎ話の世界にでも迷い込んだのではないかと思うほどだった。
にしても何故自分なのだ、日本はおろか地球には星の数ほど人がいるはずなのに何故一介のヤクザたる自分がこんな謎のおとぎ話の世界に呼び出せれないといけない。シオンやレイチドと名乗る若い連中からは俺が悪人だからと言っていた。
たしかにカジノで摘発されたときは刑務所にも入ったし、チンピラの頃は喧嘩三昧で少年院にも入った。それに日本刀や拳銃を持っている時点でたしかに悪人ではあるだろう…。
「やっほー♪モリイさん元気-?」
入ってきたのはその魔女だった。相変わらず鬱陶しいくらいテンションが高い。
「モリイさんの持ってたチャカとかいう武器、私なりに研究して改良してみたのよー!どうかな!?」
笑顔の女の前には俺が持っていたロシア製9発式マカロフに似た鉄ではない何かで作られた拳銃があった。
「弾をさらに魔導銀で小さくして魔導を込めて激鉄で発射するように改造したのさ!弾道を安定させるライフリングの代わりには風の魔導を付加させてみたよ。元々のチャカは9発までだったけどこのチャカは37発まで発射可能だからね♪すごいでしょ!」
女はなんと3日で拳銃の詳細を分析して改良したらしい。魔女という言葉に信憑性がでてきた。
「…そこに飛んでる鳥でも狙ってみな」
俺がイタズラ半分にそういうとウィーサとかいう魔女は狙いを定めた。狙いも体のバランスも滅茶苦茶だ、これは当たらないだろう。…案の定ウィーサとかいう魔女は3発撃ったが一度もあたらなかった。
「どれ貸してみろ、変なことはしないさ。あんな手品見せられた後暴れるほどアホじゃない」
「あいよー、終わったら返してよ。」
「おう。」
射撃には自信があるハワイやマカオ、果ては紛争地域にまで何度も足を運んで専門の訓練を積んだのだ。俺は姿勢を正して両目で拳銃についた標準をあわせてから弾道がぶれないように引き金を絞る様に引く、普通の拳銃よりも反動が少ない。恐らく魔導とかいう謎の現象で作ったモノだからだろう。
「うおおおおお!一発!!すごいねー!」
一発で飛び回る鳥を打ち落とした俺はちょっと格好をつけて煙の上がる銃口にふぅと息を吹いてみた。…格好良い動作として通じるかどうかはわからないが
「あいよ、これは返す。ボン刀は?」
「ああ、剣かい!?あれもすごいね、鋼と鉄を何層にも重ねて作ってるんだね。流石に3日では再現できないさ!専門外だしね。」
「羽振りのいいときに孫六の刀匠に作らせた一級品だ。壊さないでくれよ。」
「へぇーそっちにも色々あるんだねぇ。服はいいのかい?用意はこっちでするってフィリノーゲンさんもいってたけど、パジャマ以外ずっと同じ格好じゃない」
「このスーツ気に入ってるんだ。なにしろアルマーニの一級品だからな。」
「あるまーにのすーつ?変な格好!あはははは」
「俺からみればお前らの方が変だけどな…。」
コンコン とノックの音がする 執事が入ってきて俺とウィーサは呼び出された。
◇ ◇ ◇
「では調査報告を口頭で行わせていただきます。過去召喚によって異世界の人間または魔物でない知性のある生物が現れた事例が古帝国、東王国で2件あります。
一つは古帝国時代にとある女性が1300年前に召喚の魔方陣から現れたとのことです。これは古帝国の記録にありその女性は未知の知識によって帝国に繁栄をもたらせたそうです。今わたし達が使っている時計や〝時間〟〝日にち〟という感覚や概念もこの女性が発案したものです。
そして2件目は東王国、こちらは男性が同じく紋章から現れています。およそ260年前で布や絹の生産に大いに貢献したと報告があります。両名とも召喚はされましたが還付はされずこの王国の地で生涯を終えています。」
「つまり…元の世界に戻るのは絶望的ということか…」
「おいおい、俺そんな大層な貢献できる知識なんてないぞ?言ったろただの悪者!ヤクザなんだよ俺は」
「うむぅ、ユウキ殿は元の世界に戻りたい気持ちはあるか?」
「…どうかな、元々ヤクザやってたが嫌気がさしてた頃だ。第二の人生をここで歩めるならそれもいいかもしれない。ってのがこの3日での俺の考えだ。」
「まぁあれだけボコボコに傷付けられる職場がまともなはずはない。ただ仕事探しとなると難航するな…野盗に墜ちるのだけはさけてもらいたいものだ。」
「でもさー!さっきモリイさんすごかったんだよ!わたしの作ったチャカ…あの奇抜なマスケットで飛ぶ鳥を一撃で撃ち落としたっさー!」
「なんと!?動く的をマスケットで打ち落としたのか?熟練の狩人でも中々できないぞ?」
「ふむ…、そうだな君の力を試してもらっても良いかな?武器は渡そう。相手は…安全をかんがえてジュニアがいいだろう」
◇ ◇ ◇
場所はテグレクト邸の鍛錬場。これから行われるのはモリイ=ユウキさんとアムちゃんの武儀だ、モリイ=ユウキさんの手にはウィーサさんによって改造されたチャカとかいうマスケットと片刃の剣がある。
「それではこれより武儀をはじめる。両者位置へ。ルールは相手への殺害及び後遺症の残る可能性のある攻撃は不可とする。以上、開始!」
アムちゃんが早速金色竜王を召喚する。
「おお!ドラゴンなんているのかよ!」
「まぁ手始めだ。あくまでモリイ殿の実力を試すため…他のモノを出すぞ!」
そしてアムちゃんが召喚したのは落ち武者という下級の魔物。その異形に少し驚いているようだが、モリイさんは片刃の剣を持ち落ち武者へ近づく。大振りな一撃をかわして腹部に向かって体ごと体当たりするように剣を差し込んだ、そして落ち武者を蹴り飛ばすように距離をとり返り血を浴びながらチャカで落ち武者の頭部を打ち抜き消滅させた。
「ほう、なかなかやる。では次だ」
次に召喚されたのはゴブリン。もうモリイさんはモンスターになれたのか襲いかかるゴブリンの頭部をチャカの一撃で撃ち抜いた。
「召喚とやらがされるときに少しロスがあるな、その瞬間に打ち抜けばいい」
「ほう…言ってくれる。」
アムちゃんは少しカチンときたのか、いきなり大物である一角獣を召喚した。
一角獣はモリイさんに向かって突進する。流石のモリイさんも転がりながら突進を避けチャカで腹部を何度も撃ち抜く、痛みに怒り狂った一角獣は更に加速してモリイさんを責める。
「俺は猟師じゃねーっての!!!!」
そんなことをいいながら、一角獣の目に標準を合わせ見事に撃ち抜いて見せた。断末魔をあげて一角獣は消えていく。
「なんと!?私の一角獣が!本当はこの召喚でボコボコにして終わらせる気だったのだが…。私の一角獣を倒すなどそこそこの騎士でもできぬぞ!?」
「なぁアムとやら、もういいか?つかれたし、弾丸も残り少ない。ウィーサ!この弾丸どのくらい作るのに時間かかる?」
「ああこれ?一個作るのに今は5分くらいだけど専門の魔導具で生産できるようになればいくらでも作れるようになると思うよ。そうだなぁ…10日くらいあれば。」
「そりゃあ心強いね。」
「では…これにて武儀を終了とする。」
フィリノーゲンさんの一言で場の緊張は緩んでいく。
「ふむ、ジュニアの一角獣を魔力も持たないものが倒すとは素晴らしい腕だ。どうだろう野盗に墜ちるくらいならば護衛や野盗狩りを仕事にしてみるのも手かも知れない。はじめは危険なのでシオン君とマリーさん、ウィーサさんも同行してくれるか?」
「はい、わかりました。」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「あいよー、モリイさん。今使ったチャカの弾丸のストック持ってくるねー♪」
◇ ◇ ◇
夜も深い森の中、殺気立つ野盗が一人とすでに倒れている男が1名
「なんだテメェ!?なにもんだ!」
「〝有り金だせ〟なんて言われても有り金も糞もここの通貨なんて持ってねぇって言ってんだよ」
仲間をやられ怒る野盗が剣を抜く。目は殺気に満ちているが森井は特に気にしない。
夜盗が剣を片手に大振りに振りかざしたところを森井は握っていた砂を野党の顔面にまぶし目つぶしをする。
「うがああああ」
目つぶしで気が散っている隙に股間に強烈な蹴りを入れる。野盗が悶えている間に剣を取り上げ、野党の喉笛に突きつけた。
「どこの世界にもチンピラっているんだなぁ…。おーいシオンとマリー!ウィーサ!緊急事態だぞ、もう解決したけどな」
◇ ◇ ◇
そして僕たちは日没も近い時間に野盗狩りという任務にでた。おそらくモリイさんの監視も含めてだろう。野盗は主に夜間馬車や旅人を夜中近衛の手の回らない時間に襲う。札付きの野盗ならば懸賞金がもらえるほどだ。
「ああ、やっぱり夜の方が落ち着くってもんだな。」
「ありゃ?ニホンでは夜に活動するのが普通なの?」
「違う違う、俺も野盗みたいなもんだったってことさ」
「モリイさんはヤクザっていってましたけどどんな仕事を?」
「俺?前はカジノを経営してたよ。それで警察…ここでは近衛っていうんだったか?それに摘発されて今は無職だ」
「カジノなのに摘発!?カジノってニホンでは悪いことなの?」
「ああ、どうもそうらしい。おかげで最初見た通り金が無くて兄貴にボコボコにされた。…そういえばこの世界には金ってあるのか?」
「ああ、はい。銅貨と銀貨、高価なものだと金貨ですね。」
「みせてもらっていいか?」
「えーと、ああ全部ある。これです。」
「えらいぐにゃぐにゃだな…。金貨は純金か、すげぇな。これ一つでそうだな…普通の安物の服なら何着買える?」
「金貨でですか?金貨で一般的な服なら…50から70着近く買えます」
「じゃあこれ一枚で日本円にしたら6万から7万ってとこだな。ありがとよこれは返す。…!!?静かに…」
モリイさんの表情が急に険しくなった。みんな静まると森の茂みからガサガサと音がした。瞬間モリイさんは森の茂みに単身入って行ってしまった!
「ちょっと!あぶないですよ!」
「どうする?追わないとだけど」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
『 彼に まかせましょう 』
マリーは笑いながらそう言った。たしかにモリイさんの実力を試すための試験のようなものだ。いざとなったら僕たちでなんとかしよう。
待つこと数分後のことだった。
「おーいシオンとマリー!ウィーサ!緊急事態だぞ、もう解決したけどな」
茂みからモリイさんの声がした。モリイさんの周りには野盗と思われる男が2人、内一人はモリイさんによって剣を喉笛に突き立てられている。
「で、野盗倒したはいいけどどうするんだ?手錠なんてもってないぞ?」
「そこはまかせてよ!」
ウィーサさんが森から長い蔓草をかまいたちで切り賊にかぶせる、そして
「…心に炎を宿したもう」
そう囁いた瞬間、蔓草はあっという間に男達を縛り上げた。
「はい!一件落着!すごいねー剣もった相手に無傷で勝利したところ見ると剣もチャカもつかってないね。」
「ああ、喧嘩は昔から得意だったからな。こんなゴロツキぐらいなら素手で十分だ。」
そして僕たちの夜盗狩り、モリイさんの実力試しはまだ続いた。
騎士とも拳闘士とも違うモリイさんの戦闘は凄まじいものだった。話術を巧みに使い「あの野盗は仲間か?」と嘘をついて野盗が目をそらした隙に攻撃したり、その辺の砂を目つぶしにつかったり奇襲のように油断させ、あえて話しの途中から剣で目にも見えないスピードで攻撃するなど野盗はみるみると倒されていった。
そして僕たちは野盗の根城までたどり着いた。野盗が群れをなして僕たちに襲ってくる。マリーも僕もウィーサさんも臨戦態勢にはいったころだった。それを手で止めたのはモリイさんだった。
「俺の腕だめしだろ?まぁみてな」
そういって野盗の一人の足に躊躇無く弾丸を撃ち込む、悶え苦しむ野盗を周りが囲むそしてその囲んだ野盗もモリイさんによって足を撃たれて悶え苦しみ動けなくなった。そしてウィーサさん特性の銃弾をリロードして再び足を撃ち抜いていく。それを繰り返していた頃だった。
「どうした!なにものだ!」
「ん~、ワルモノ狩り?」
出てきたのは大柄な男で恐らく野盗をまとめる盗頭、手には大きな剣が抜き身で握られている。目は怒りに満ちていた。
「私の部下を…生きて帰れると思うなよ…」
「あ~その台詞聞き飽きた。大抵弱いヤツほどそんなこというんだよな」
モリイさんは盗頭を挑発する。
盗頭は素早い動きで剣を持ち、モリイさんに襲いかかる。しかし
「あああああああああああああああああああああああああああ」
他の部下同様何発も足に銃弾を食らって動かなくなった。
「さて、生け捕りにしてみたけど殺した方がよかった?」
「い、いえ。このまま近衛に渡せばいいと思います。」
その後、野盗の住処からいくつかの宝をモリイさんは拝借して、朝を待ち近衛に全てを引き渡した。モリイさんは野盗の溜め込んだ宝の他に懸賞金も貰い受けた。
「いや~、喧嘩で役に立てるって嬉しいもんだね。ヤクザやってるとそんなものさっぱり役にたたなくてさ。お宝までもらっちゃったし良い日だ!ここで第二の人生も悪くないね!」
テグレクト邸に帰還したモリイさんはそんなことをいった。
「ではモリイ殿よ、今後はどうするつもりだ?」
「しばらく傭兵家業でもするかね。実は紛争地域でそれっぽい仕事に憧れてもいたんだ。」
「そうか、もしお前が野盗や盗賊に墜ちたならば我々自ら処罰するからな。」
「あいよ、それとウィーサちゃん。銃弾たまにとりにくるからよろしく!」
「はーい♪」
「じゃあ世話になったな、ありがとよ!」
そういってモリイさんはテグレクト邸から去っていった。
…その数年後には王国で名を馳せる、真っ白い〝スーツ〟と呼ばれる不思議な格好をした伝説の傭兵、モリイ=ユウキが誕生した瞬間であった。




