召喚術師フィリノーゲンVS魔女モリー=ウィーサ
場所はテグレクト邸鍛錬室、いつも以上に緊迫した空気が流れる。佇むのは真剣な面持ちのフィリノーゲンさん、そしていつもの笑顔を消し真剣な眼差しを向けるウィーサさん。
間にはアムちゃんが審判として入り真剣な表情で二人をみる。
「それではこれより武儀をはじめる。両者位置へ。ルールは相手への殺害及び後遺症の残る可能性のある攻撃は不可とする。以上、開始!」
アムちゃんの口上の後、早速動き出したのはフィリノーゲンさんだった。魔導による攻撃の全てを無効可するジュエルドラゴンを召喚し、その召喚の際の膨大な魔力を同時に使い数十匹のフェアリーとミニドラゴンを同時召喚した。それを見てウィーサさんがニヤリと軽く唇を吊り上げる。
「最初はそうくると思ったさー。…心に炎を宿したもう。」
ジュエルドラゴンがブレスを吐こうと準備する。刹那ジュエルドラゴンの周りが堅い土で覆われた。巨大な土偶のようになったジュエルドラゴンは動くことも出来ずにいる。
「魔法が効かないなら周りから固めればいいのさ♪」
「くっ…」
フィリノーゲンさんに無数の雷玉が飛んでくる。それを素早く避けつつ達人武者を召喚しジュエルドラゴンを還付する。召喚された侍は雷玉を切り捨てウィーサさんに迫る。ウィーサさんがローブ越しに刀の峰打ちをくらいローブからポトリと2,3体のワラ人形がおちる。おそらく物理耐性の秘術を編み込んだものだろう
「ふぇ~速いねー。流石。」
さすがのウィーサさんにも冷や汗がでる。達人武者から操作魔導と浮遊魔導で刀をとりあげようとしたが握りが強く失敗した。操作と浮遊の魔導で飛び回るが達人武者もミニドラゴンやフェアリーを足場として凄まじい速さで迫る。…突然ウィーサさんが姿を消した。僕たちにも1回掛けてもらったシーフの不可視魔導だ。狼狽える達人武者の後ろから雷の一撃が入り、達人武者は気絶し落下した。瞬間フィリノーゲンさんにも電撃が走るが水銀のようなスライムでその攻撃を防いだ、
フィリノーゲンさんは焦ることなく複数の巨大な煙魔を召喚する。おそらくウィーサさんの次の一手を読んでいるのだろう。同時に二人の間に煙幕が張られた、フェアリーは混乱をおこしてあらぬ方向に魔導を連発しミニドラゴンも味方であるフィリノーゲンさんにブレスを吐く。煙幕の中からブレスの様な炎・雷・水・風の多重魔法をかけた一撃がフィリノーゲンさんを襲う。かろうじてその恐ろしいブレスを転がるように避け、再び式の操作に集中する。
混乱したミニドラゴンのブレスなど気にもせず何時飛んでくるか判らない魔導に警戒しつも一点を見つめる。そして…
「きゃあ!」
「よし!とらえたぞ!」
ウィーサさんは煙魔の煙によって居場所を察知され、煙によって拘束された。チャンスを逃さないとばかりにジュエルドラゴンの雛を召喚して体当たりさせ不可視の魔導は消えてしまいウィーサさんは姿を現す。同時にウィーサさんは煙魔の拘束を炎の魔導で打ち消す。
そんな煙の中フィリノーゲンさんは瞬時に赤の呪縛樹を召喚してウィーサさんを拘束をしようとする。ウィーサさんはそれを風を刃物のように操り、呪縛樹をかまいたちで切り裂く。
無数の赤の呪縛樹が切り刻まれ床にボトボトと落ちていく。それでもフィリノーゲンさんは焦らず無数の赤の蔓草をウィーサさんに向ける。かまいたちで対処していたウィーサさんも流石に、無数に襲いかかる蔓草の呪縛樹すべてを切り裂けず左手に呪縛綬が絡まってしまう。
もちろんそれだけではウィーサさんほどの魔力の全てを封じられない、しかし魔力はガクンと落ちる。せめて一太刀とかまいたちをフィリノーゲンさんに向けるが水銀のスライムによって再び防がれた。もう魔力は呪縛樹によって底をつき始めている。
好機とばかりに再びジュエルドラゴンご召喚してウィーサさんにブレスを向けた。
「終了!それまで!勝者はフィリノーゲン。これにて武儀を終了する。」
今にもはき出されそうなブレスの前で座り竦むウィーサさんを見てアムちゃんはそう宣言した。
◇ ◇ ◇
「いやー煙幕作戦までは好調だったのになー。あの剣豪に追い詰められて倒したまではいいけど、まさか煙幕の中煙魔に捕まるとは思わなかったよ。魔導師にとって一番相性良い魔物なのに流石だね。」
「こっちこそジュエルドラゴンをあんな形で対処されるとは思わなかったよ。いきなり冷や汗が出た。それに混乱付加の煙幕でなく致死性の毒ガスなら今頃負けていたのは私だろう。流石はイリー=コロン様を継承するものだ。素晴らしい鍛錬を感じたよ」
「あはは、それを言ったら武儀じゃなきゃもっとヤバイ魔物出してたでしょ?お互い様さー」
「ああ、久々に武儀とはいえ好敵手と戦えて私も大きな学びとなったありがとう。」
「いいえー、こちらこそ!魔導の実践での鍛錬を行わせてくれるなんて感謝だよ。」
二人は汗だくになり最後には握手をしてお互いを讃え合った。…元を正せばこの武儀の原因は僕たちにある。いつもの鍛錬でウィーサさんも混じり僕とレイチドの武儀につきあってくれていた。そんな中マリーが言ったのだ
『 師匠… アムちゃんのお兄さんと ウィーサ どっちが強いの ? 』
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
悪魔の囁きであった。たしかに今までウィーサさんを相手に武儀をしたのは僕たちだけでフィリノーゲンさんは戦ったことがない。師匠という立場上マリーの疑問には答えなければならないだろう。確かにウィーサさんに対し弟子にばかり武儀を行わせるばかりも行かず、師匠を名乗るからには対魔導師の手本を見せなければいけない。
そうしてフィリノーゲンさんとウィーサさんは武儀に挑み、ハイレベルな攻防を繰り返し無事フィリノーゲンさんが勝利した。
「それにしても16歳とは思えない凄まじい魔導の数々だった。流石はイリーコロン様を継ぐ者だな。見事だったよ。」
「えへへーありがとー!イリー=コロン様の仲間の末裔にそう言われるととても嬉しいよ!」
お互い無傷とはいえ凄まじい試合だった。ウィーサさんの強さは武儀や様々な騒動でも感じていたが伝説の召喚術師テグレクト一族であるフィリノーゲンさんをあそこまで手こずらせ、追い詰めるとは思いもしなかった。いや、ウィーサさんも伝説の魔導師英雄イリー=コロンの意思を継承した人物なので当然といえば当然なのかもしれないが…。
「しかし兄上辛勝といったところだな、たしかにウィーサの魔導は凄まじいがより鍛錬を積めば負けるのは兄上かもしれんぞ。」
アムちゃんはそんな辛辣な言葉をフィリノーゲンさんに話す。
「もちろん僕も鍛錬を積むさ、とりあえず師匠としてボロ負けなんて恥がなかっただけよかったよ」
あれほどの戦い、中々お目にかかれるものではない僕はそれだけでかなり満足だった。そして午後は対魔導師の講義となった。
「あれだけ手こずって下手をすれば私が負けていたかもしれない身で話すのは少し複雑だが…、さきほど見たとおり魔導師は混乱などの状態異常の魔導に加えて炎・風・水・雷といった魔導を駆使して戦闘に挑む、ウィーサさんはその全てをマスターしてるが一般の魔導師は精々一つか二つ、高位の魔導師…それこそ王宮の近衛魔導師でも3つが限界だろう。
それに気をつけることとしては先ほどもみた煙幕だこれ自体はどんな魔導師でもつかうことができる。そこから魔導攻撃を食らえばひとたまりもない。そういうときは相手の魔力を察知するのだ。ウィーサさんはその魔導をなにかの秘術で隠していたが、二流程度の魔導師ならば君たちでも察せるだろう。目で見るのではなく魔力から感じ取ること、それが鉄則だ。」
「はい、ありがとうございます。」
「ではウィーサさん、今度は武儀ではなく鍛錬として少し魔力を加減して煙幕をはってもらえないか?」
「あいよーよろこんで!」
その後姿の見えない敵を魔力から察知する鍛錬を積み午後の鍛錬は終了した。
「いやー今日は楽しかった!流石はテグレクト一族。まったく敵わないや」
「そう?大分健闘してたと思うけど。」
「武儀で相手がフィリノーゲンさんって聞いた時点で大分準備してたんだけどねー。あそこまでとは思わなかったよ。」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「あらマリーさん!なんだかこの武儀の提案はマリーさんがしてくれたんだって?ありがとー」
『 私も 楽しかった 』
そして食事も終え寝室にもどっら僕とマリー、マリーは相変わらずの読書・
「いやー今日の鍛錬、武儀はすごかったね。でもウィーサさんに勝つなんてフィリノーゲンさんもすごいね。」
『 五分五では あったけどね 』
「うん、ウィーサさんも凄かったと。でもどうして二人を戦わせたの?」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
『 面白そうだから 』
そんなマリーの一言にあきれ、僕は眠りについた。




