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召喚した式が強すぎて僕のやることがない  作者: セパさん
狂気の式と伝説の系譜
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ヒーローリキッド 恐怖の麻薬 ③ ラスト

 時刻は日没、テグレクト兄弟が式を通じて王都にシウン商会の調査報告の概要を説明。自分たちの屋敷も武装集団に狙われこれより総本山へ麻薬カルテルの奇襲殲滅作戦にでることを伝え王の了承を得た。


「王からの許可も出た、あとは相手の戦力を侮らないことだ。私達の屋敷を襲った集団よりも手練れの者達がいるとみて間違いないだろうし魔導具や兵器も桁違いだろう。」


「ふぅん、なんなら私一人で全部焼け野原にしてもいいけどね。ニヒヒ」


「おっとアム君私達も攻撃を受けたんだ、やられたからには魔女に攻撃した恐ろしさをたっぷり味合わせてあげないとねー」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「なんだろう、とても危険なところにいくのはわかってるんだけどこの4人がついてると思うと安心すらするよ」


「わたしも、自分の感覚が麻痺しそう…」


 時刻は日没。これから6人で王国中で猛威を振るっているヒーローリキッド作成の総本山麻薬犯罪組織への殲滅作戦、別名先手必勝電撃奇襲大作戦【命名:ウィーサ】をおこなおうとしていた。


 ウィーサ以外は龍王の皮から作られた、一級品の鎧を身につけている。ウィーサもいつもの紫のつばの広い三角帽子とローブにはイリー=コロンの秘術だという物理耐性の魔導が施されたワラ人形を編み込んでいた。


「では皆油断しないように決行だ!」


 そういってガルーダ・風龍・ほうきで旧フレックス邸を目指す一同。緊張した面持ちのフィリノーゲン、シオン、レイチドとは対称的にウィリアム・ウィーサ・マリーはピクニックにでもいくかのように鼻歌交じりでリラックスしていた。


「あれだな、門は兵士が待機している。レイチドさんたちの報告ではスティンガーなどの兵器も搭載されていると考えて間違いないだろう。」


屋敷の周りは日没を過ぎてかなりたったというのに物々しい数の兵士達が囲んでいた。


「じゃあ見回りの兵士はわたしがー!」


「いや私が殺人蜂の群れで!」


『 私が 恐慌させる 』


「…3人揃ってやったら逆に混乱するクジでも引いて決めてくれ。」


「はい、この手で隠した葉っぱを引いて葉っぱの茎に穴開いているの引いた人がやって」


即席のクジを持ってきたのはシオンだった。3人はクジを引くそして


「よしわたしだな!」


〝あたり〟を引いたのはアムちゃんだった。ウィリアムは無数の殺人蜂とフェアリーを召喚して丘から紫雲のアジトへ向かわせる。


「なんだ?ハチ?いいいいぃぃ!!??」


「おいどうしたぁ!!がぁああ」


 屋敷を囲んでいた兵士達が次々と殺人蜂の毒で倒れていく。ウィリアムはその様子を式の目から見つつ残りが居ないかを確かめる。門から次々兵士が現れるがフェアリーによる魔導や混乱、殺人蜂の毒で次々倒れる。そして門から兵士が出てこなくなった頃…


「よし兄上たち終了だ。もうだれも出て来る気配はない。念のため式は還付せず残しておくがどうやら兵器は今日の昼にウィーサ達に発射したのがすべてだったようだな。屋敷の中にはまだあるだろうが、それは潜入してからだ。」


門を囲み異常を察してでてきた兵士のすべてを倒したウィリアムはそう言った。


「ああ、ジュニアすまないな。ではみんな屋敷に近づくが油断しないように。」


 フィリノーゲンの声で6人は歩を進める。屋敷の門の前兵士達が出てきた門は既に閉じており施錠されていた。


「どれ、私達の屋敷を襲った賊たちに本当のスティンガーの使い方を教えてやろう!」


 ウィリアムがそう言うと屋敷を襲った物の二回りは大きな先の尖った本物の古代兵器スティンガーが姿を現して門に発射される。着弾と共に大きな爆発を起こし爆発によって門はおろか周りの大理石もろとも粉々になり、屋敷には大きな風穴が開いた。


「では侵入しよう。ジュニア殺人蜂を先行させて式から情報をみてくれるか?」


「了解!ニヒヒ」


そして無数の殺人蜂と共に6人は屋敷の中へと侵入する。


 ◇    ◇    ◇


「総統フューラー!見回りの兵士及びその助太刀に行った兵士がハチによって全員戦闘不能!門に施錠をしましたが大規模なスティンガーによって破壊されました!」


「テグレクト一族か…本当に忌々しい!2人か?」


「いえ6人の様子です。式ではなく全員人間か人型魔物の類です」


「6人!?テグレクト一族は今兄弟2人しか残っていないはずだし護衛を雇うものたちではない。わたしの知らない間になにがあった…。とにかく一斉掃射で応戦しろ。もしもダメだったら…わたし自ら赴こう。」


「かしこまりました!総統フューラー


そういってカーテン越しの姿がみえない声に従って兵士は走り出した。


「テグレクト一族…本当に忌々しい!!」


 カーテンの内側で総統を名乗る人物が何度も同じ言葉を発していた。その表情をみるものはだれもいなかった。


 ◇  ◇  ◇


「うううあうあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパガガガガガガガガガガガガ ガガガガガガガガガガガガ 「トツゲキシロトツゲキシロトツゲキシロトツゲキシロトツゲキシロトツゲキシロトツゲキシロトツゲキシロ!!!!!」「テグレクトをコロセ!!!!」「テグレクトをコロセ!!!!」




うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「あー混乱の魔導ではやっぱりマリーさんには敵わないなー。てか呪いの類かな?」


「うむぅ。自滅を誘う混乱の式ならいるがわたしはどちらにも敵わん。悔しい」


 僕たちは紫雲という麻薬犯罪組織の総本山である屋敷の内部に乗り込んでいた。それもこれもとあるヒーローリキッドという麻薬に溺れた青年を救う依頼が切っ掛けだったのだが、調査の途中から王国で猛威をふるうこの麻薬の大本にたどり着き、ついにはそのことに気づいた武装集団によってテグレクト邸が襲われたのだ。


 それに怒ったフィリノーゲンさんとアムちゃん、相手が悪人ならば荒事もいとわないウィーサさん、面白そうなことに目がないマリーの多数決で僕とレイチドも危険極まりない、6人での犯罪組織の総本山への奇襲殲滅作戦という手段にでた。


 屋敷の内部ではスティンガーや小型連射式マスケットなど最新兵器や魔導具をもった兵士達が一斉掃射で僕たちを襲ってきたが屋敷の周りの兵士を倒す役目をアムちゃんに奪われ、いつも以上に熱の入るマリーとウィーサさんの力によってほぼ壊滅状態である。




「本当にどちらも味方になると頼もしい…あらかた片づいたかな?それでは総統フューラーと呼ばれている男にあわねばな」


「失礼な、なぜ総統フューラーだから男と決めつけるのです?」



!?



 殲滅された兵士を気にも止めず踏み歩くのは1人の女性だった。


「まさかご本尊から直々にお出ましとは…おまえがこの組織の総統フューラーか?」


 マリーの銀髪が逆立ち、ウィーサさんも魔力を上げている。アムちゃんも殺人蜂では敵わぬ相手と見たのだろうすべてを還付した。


「そうだ、わたしがこの組織を1から改変した総統フューラーだ、忌々しい召喚術師の末裔よ王国の英雄などと称えられて神罰も受けぬ無法者。」


「無法者に無法者っていわれたー。あんた達こそ金のために危険な薬売りさばく無法者じゃない!」


「金のため?それは末端の馬鹿共だけだ。私は生まれついての公共の敵、王国の敵ともいっていい。…そこの銀髪の女なら私の正体くらい見破ってそうだな」


 みんなマリーに視線が行く。マリーが嫌気を帯びた呪いの気配を強めているにも関わらず目の前の女は平然としている。


「マリーさんもしやこの総統フューラーという女は人ではないのか?しゃべれるところをみると悪魔か?」


『 神 マックマミ 』


 皆改めて女の姿を見る。背丈はどうみても普通の女性、言魂や冬の神のように変わった魔力は感じない。ただマリーの呪いすらもはじいているところをみるに只者ではないしただの神でもないだろう。


「では、部下など全部捨て駒だったが一応礼はしないとな…」


 女性がそういうと姿をどんどんと変異させていくそして遂には龍王をも遥かに超える大きさのドラゴンが姿を現した。そして僕たちに牙と爪を立ててくる。マリーとアムちゃんはそれをくらい皮膚から血が流れる。


「なんだ?何故神が犯罪組織のトップになどなっている。どういう神じゃ!?」


アムちゃんはそう言いながらも3体の金色龍王と、防壁の水銀のようなスライムを召喚する。


「…心に炎を宿したもう」


『 後で 生き残ってたら 説明する 弱点 水 』


「「了解!」」


 鋭利な牙と爪をもつ神龍にウィーサさんは網の目のような水魔法を放出する。まわりの石壁は刃物で削られたかのように傷跡を残し、神龍も叫びの咆吼をあげる。


 アムちゃんも4体のほかに海と胎動の女神マナナンを召喚し、強烈な水魔法で対抗する。


『 好機 情動脱力 及び 陶酔傾眠と処置…  』


 マリーの銀髪が真上に逆上がるほど呪いを強める。ドラゴンの動きが徐々に鈍くなっていく。


『 完了 』


そしてドサリと大きなドラゴンは横に倒れ光りを放ちながら女性の姿へ戻った。


「大丈夫か!?」


 未だに血の流れるマリーとアムちゃんにフィリノーゲンさんはビショップを召喚して治療する。みるみる傷口がふさがっていってあとも残らず消えていった。


『 拘束を 紫の呪縛樹が 望ましい 』


「紫?待ってくれ…」


『 冥界 』


「ああ、これか!」


 アムちゃんはしばらく瞑想をして、体から紫色の呪縛樹を放ち出す。そして神を名乗る女…金色龍王キングドラゴン以上のドラゴンにまで変異した犯罪組織の総統フューラーをがんじがらめにした。


「ふぅ、それでマリーよ。この龍女は何者じゃ?ドラゴンにはそこそこ詳しいわたしですら見たことない異質なものだったぞ。そのマックマミとはどういう神だ?」


『 土壌と文明を司る龍に変異する神 天界の使者 』


 みんなマリーの説明に驚愕する。文明を司るとなれば創造の神に近しい存在だ。何故そんな神の中でもトップクラスの高位の神が犯罪組織で総統などと呼ばれ麻薬を蔓延させていたのだろうか。


『 起こす 』


パチン


「ん…、これは呪縛樹!?ハーデスの?何故こんなものが!」


マックマミは呪縛樹を解こうとするが魔力すら上げられない状況だった。


「文明の神よ、何故そなたほどのものがこんなちんけな犯罪組織で総統フューラーなどと呼ばれておる?私達への怒りもあったな。それも聞きたい。」


「魔物を僕しもべのように式する錬金術師・陰陽師は祖父母の代で抹消したはず。ただあなたたちテグレクト一族だけはその強さから残り続けた。更に英雄として奉まつられてからどんどんとその数は増えるばかり。そのことが忌々しかった。それが質問の答えの一つ。」


「…ではもうひとつは?」


「壊したかっただけ、文明の神なんて自力で発展した王国にとってはもう信仰のかけらもない。すでに私達一族の信仰は数千年前から途切れているの。だから文明の神なんて大層な名前がついてるけどずっと前から生まれついて人間の敵であり続けたわ。人間の文明を壊すために、信仰を取り戻すために。私はその先祖の意思を汲んで〝公共の敵〟である道を選んだだけよ。たまたま目にした犯罪の組織がこの紫雲だったってだけ。理由はない。」


「文明の神が公共の敵でいるとはなんとも…、それに祖父母の代といったが神にも寿命はあるのか?」


「私達は天界から数万年も前に送られた使者。その中で人間と番つがいになった先祖もいて神の力は既に失いかけてる、人よりざっと10倍くらい長生きできるだけの存在よ。わたしだってまだ76歳だもの。龍の爪も牙も昔はもっと凄かったらしいわ。…もういい?牢獄暮らしは御免だからトドメでも刺してくれるとうれしいんだけど。」


「神の殺生などしたくない。公共の敵を自称するなら相応の覚悟を持て。その呪縛樹で縛り部下もろとも近衛に引き渡す。」


アムちゃんの残酷な一言に女神は憂いげな溜息をついた。


 そして朝方、王都より事前に連絡をしていた近衛兵たちが荷馬車を引き連れて〝公共の敵〟もろとも紫雲の組織一同はお縄につき壊滅した。芥子畑もドラゴンのブレスとウィーサさんの炎の魔導によって焼き払われ、文字通り焼け野原となった。


 残されたのは町でヒーローリキッドの供給が絶えたことによっておこる禁断症状に苦しむ人々と、それに耐えかねて本物の麻薬に手を染め牢獄へ行く人たちだけだった。



   ◇      ◇      ◇



『 視覚感覚変性処置 完了 』


「あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!あああああああああああああああ!!!!!!!!」


 テグレクト邸でベッドに縛り付けられている青年は、マリーの〝治療〟を受けていた。今青年が叫んでいるのはマリーが幻覚をみせているのでなく逆、ヒーローリキッドの禁断症状からくる幻覚をマリーが緩めているのだ。ほかにも筋肉の強ばりなども少しずつ和らげている。青年がつれられもう7日経つ。マリーの見立てでは14日ほどで恐ろしい症状は治まるということであったが、その叫びは拷問を受けている者以外の何者でもなかった。栄養を寄生花から注入してマリーの術で症状を和らげることを繰り返し14日が過ぎた。


「俺は?」


 青年が言葉を発した。来た時のような狂気に満ちた瞳や口調でなく純粋なものだった。


「初めまして、私はあなたの治療を受けたまわりましたテグレクト=フィリノーゲンといいます。召喚術師です。…と自己紹介はここまでで今辛い症状はないかい?」


「体が痛い…」


「ヒーローリキッドによる禁断症状だろう。記憶は?」


「すごい…悪夢を見た。恐ろしいものだった。」


「それは端から見てもそう感じたよ。今の気分はどうだ?」


「少し、スッキリするかな…」


「そうか、これから君には治療のプログラムを受けてもらう。拷問のような期間はおわったからな。」


 そして集まったのはテグレクト邸の会議室。マリーが提案した本人曰く『集団心理段階認知治療』だそうだ。中には青年以外にもヒーローリキッドに苦しむ人達があつまっている。


「じゃあ、わたしは席を外す一刻もしたらくるからそれまで話し合っていてくれみんなヒーローリキッドの被害に苦しむ仲間だ。」


 そういって僕たちは青年達をおいて会議室を出た。


「本当にこれで大丈夫なのマリー?」


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「まぁ信じるほかないさ。なにしろ脳がやらえれていて医者も匙をなげた人達それでも止めたいと願う者達だ。」


 一刻後会議室を再び訪れると部屋は大いに盛り上がっていた。自分の弱さ苦しみを分かち合うことで孤独から開放されているかのようだった。その日はそれで終わりになった。


 その日以降、カリフの町で例の青年が中心となりヒーローリキッドを含む薬に溺れ苦しむ人々の会が設立された。もちろん挫折もあり再び薬に手を染めてしまう人もいたがその動きは王国全土に広まり禁断症状と孤独に苦しむ人達の助けとなっている。青年は両親からも独立してその運動にすべてをささげていた。


 薬物依存者による薬物依存症の薬物からの回復と社会復帰支援を目的としたリハビリ施設 その第一人者が生まれた日であった。

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