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召喚した式が強すぎて僕のやることがない  作者: セパさん
狂気の式と伝説の系譜
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魔女の傷心

 イリー=コロンの膨大な研究資料の全てが焼け焦げ、イリーコロンの亡骸のみを残した洞窟。


 フィリノーゲンは早速報告書をまとめて、カリフの領主に提出した。謎の疾走を遂げたイリー=コロンとその終の棲家の発見は瞬く間に王国中の話題となった。イリー=コロンの亡骸は、英雄にふさわしく弔うべきという意見と終の棲家とした洞窟を保護対象にしてそのままにするべきという意見で対立している。


 洞窟までの獣道は整理され、夜間馬車も走れるほどの立派に整備された道になった。早速と多くの魔導師たちが弔いに訪れて、焼け焦げた洞窟の最深部は花束で一杯になった。



 場所はテグレクト邸、フィリノーゲンは目の前の少女に対していくつかの質問をしていた。


「本当によかったのかい?私達が勝手にみつけたということにして…。ウィーサさんが第一発見者なのだから名前をだすことで魔導師として復帰するならそれなりの待遇をも期待できたのに」


「いいえ、いいんです。本来ならば私もあの洞窟で焼け焦げていなければいけない存在だった。実はサイコシスが討伐なり退治がされれば研究資料は全て白紙になることは知ってました。晩年の後生に託すという記述と共に書かれていたので。実は私、洞窟を出る前だけ最後尾を歩いて皆さんがでるのを待ってからにしました。そして私が出た瞬間に発動したのです。イリー様は私の掛けた稚拙な魔導罠にいたるまでの消去魔法を洞窟内にかけてます。でも私自身は生かしてくれた。イリー様の記した研究資料も頭の中にある。それだけで十分です。」


「ふむ、君はあそこで自分だけ取り残されて燃え尽きることも覚悟していたのか?」


「ええ、私はイリー様が自分の代で終わらせたかった〝魔女〟を継ぐ者でしたから。」


「…今自ら命を絶ちたいなどという気持ちはないか?」


「大丈夫です。ただ…今は心の整理をしたいです。」


「うん、大切な時間だと思う。君は私達の曾祖父の仲間イリー=コロン様の悲願を継いだ者であり、仲間の第一発見者だ。十二分に私たちからも感謝を述べたい。テグレクト邸は召喚術師の館であるが、気にはならないか?」


「ありがとうございます。至らぬ者ですがよろしくお願いします。」


             ◇       ◇        ◇


 サイコシス騒動から1ヶ月、モリー=ウィーサさんはテグレクト邸の客人として招かれている。彼女はどこか虚ろな表情を浮かべて空を眺めているか、自室で読書…魔導と関係のない大衆小説を読んで過ごしている。サイコシス憑依による仕業と判っていても、あの狂気と殺気を宿した姿が嘘だったかのような変貌にはどうしても驚いてしまう。


 それに彼女はイリー=コロンの悲願を継いだ自分が敗れてしまったことに対してどうも自責の念をもっているようだ。サイコシスに憑依された時でも、ワラ人形がなくなりもはやこれまでと一度は自死の呪文まで唱えている少女。僕はやはり心配でしかたがなかった。僕は鍛錬が一通りおわった夕刻に窓からうつろな表情で空を眺める彼女を思わず気にしてしまい。


 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 気になる ? 』


 マリーに突っつかれた。


「うん、なんだか抜け殻みたい…っていったら失礼だけど。心を閉ざしてるようなと言うか、上手くは言えないけど何だろう。一言で言うとなんか心配かなぁ」


『 殺され かけた のに? 』


「全部サイコシスの情報の捻れと誤解から生まれたものだし、今更気にしてもしょうがないよ。それにマリーも覚えてるでしょ?僕たちと戦って頼みの綱のワラ人形が無くなったら、そのまま自殺しようとまでした子なんだよ。なんだかこのまま見てるとそれが不安で…」


『 それは彼女が 決めること 』


「そうかも知れないけどさ。…今から変な事を聞くよ。マリーって人の心を読めたりするの?」


『 ? 』


「いや、マリーの術で混乱したり気分が高揚したり、幻覚をみたり、自分の考えと違うことをさせるわけじゃない。じゃあマリーって人の心まで読めたりするのかなと思って。ごめん変な質問だったね。」


『 意思と意識と認知と生命力の波長 』


「 ? 」


 今度は僕の頭に?が浮かんだ


『 私の操れるものはそれだけ 心 は読めない 操れない どこにあるかも判らない 』


「…なんだか難しくなってきた。逆にサイコシスは心を荒廃させる疫病神って言ってたけど。」


『 私にも 不明 考えを行動に移すために必要なのが 認識能力 意志能力 判断能力 これを 私は狂わせられる サイコシスの様に魔力の強弱関係無く狂わせられる でも 心を壊す という概念が わからない 』


「ん~、なんだかマリーの方が厄介そうではあるけどね。変な話しをしてごめんね。」


『 でも 』


『 彼女の 心 の治癒は必要 4年のサイコシスの憑依で荒らされている。』


「それって自然によくなる?」


『 何かの切っ掛けでなることもある。 ならないことの方が多い 』


「でもやり方がわからないのに…勿論もちろん癒しの魔力とかで良くなるモノじゃないよね?」


『 専門の技術がいる。 そして覚悟も 』


「そっか…でもフィリノーゲンさんの言ったとおり僕の憧れたイリー=コロンの第一発見者でその悲願を継いだ人なんだ。放って置きたくない。アムちゃんたちにもこの相談してみていい?」


『 主が いいなら 』


  ◇      ◇      ◇


「ふむぅ傷心か……。あの怪物に4年も憑かれていたらそうなるのが当然じゃ。」


「むしろ人格の荒廃がされていないのが奇跡なほどだ。客人としては生涯面倒を見てあげられるほどの功績が、モリー=ウィーサさんにはある。確かに彼女を見ると心配になるときは僕もある。かといって無理に話を聞いたりするのも野暮やぼというものだ。」


「聞くにあのマリーですら〝傷心〟というのは治せないのであろう?それを私達がどうこうするというのも難しい話しとなる。」


「そうですよね…。ありがとうございました」


 僕たち3人はウィーサさんを心配しながらも、その解決策を見いだせなかった……。


  ◇       ◇        ◇


 月が高く上がる夜、テグレクト邸では使用人も寝静まった時間。


 屋上で一人の客人が夜風を浴びていた。虚ろな顔で星空を眺め、カリフの町の明かりに目を落とす。


 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「きゃ!?ああびっくりした。あのシオンさんの式n……マリーさんですよね。こんばんわ。」


『 こんばんわ 』


「……何か御用でしたか?」


『 私のこと まだ 怖い? 』


「いいえ、不思議な魅力のある方だと思っています。」


『 サイコシス は 自分で討伐 したかった? 』


「……ええ、正直言えば。私もまだまだ未熟だったのに。そういえば、あなたたちを殺そうとしたみたいでなんていうか…ごめんなさい。謝って済むことじゃないのはわかってるけど、それしか言えないの。」


『 生きてる 問題ない 』


「ふふふ、不思議な人ですね。ってそもそも人なのかもわからないけど。」


 うふふふふふふふふ


『 あなたの 心 は 私はわからない。 でも傷ついているのはわかる。 』


「あのサイコシスに憑依されていたんですもの、なんなら死んでいないのが奇跡ですよ。」


『 戸惑とまどってる ? 』


「ええ、いきなり11歳から15歳になってるんですもの。」


『 違う 』


「 ? 」


『 頭の中にまだある イリー=コロンの遺した魔導 あなただけが知るということに 』


「 … 」


『 … 』


「すごく…戸惑ってます。彼女がどんな思いで作り上げた魔導かを同時に知っているだけに尚更なおさら、本来は私もろとも灰になれば彼女が残した暗部はすべてなくなるんです。そう思うと…あまり良くない考えも頭に浮かびます。」


『 私には 記憶を消す 力がある 』


「ええ、知っています。第48代目の彼から聞きました。すごいですね、テグレクト一族を相手に勝利するなんて。今回のサイコシス討伐で混沌の呪いを打ち消してくれていたのもマリーさんだと聞きました。」


『 … 記憶を 消したいとは 思わない? あなたごと 消える 必要はない 』


「ううん、この記憶はもう私と一心同体。それだけ消されて生きていくのはイリー様に失礼ですから。」


『 あなたは 一度も 魔力を 使っていない 』


「…そうですね。そう言われれば使っていません。あまり使う気にもならなかった」


『 夜風が寒い 一瞬だけ 火をお願いしてもいい? 』


「ふふふ、一瞬だけですよ」


 ウィーサは両手のひらに魔力を宿す、すると焚き火のような炎が両手に抱えられるように現れた。


『 あったかい 』


「ふふ、ありがとう。もういいかな」


 ウィーサがそう言うと、火は瞬く間に消えてしまった。


『 あなたの 傷を 治したい 』


「サイコシスにやられた傷をですか?」


『 大がかり 覚悟がいる 辛い思いもする。 それでもいいなら 私を 信じてくれるなら 』


「 … 」


『 … 』


「今、皆さんに心配をかけていることは自覚しています。その提案受けます。」


 ◇     ◇       ◇


 場所はテグレクト邸の鍛錬場、本日は鍛錬を休みにして客人の治療を行うことになった。

あつまるのは第48代テグレクト=ウィリアム、シオン、マリーそしてモリー=ウィーサ


「マリー、夜にいつのまに抜け出してたの?それに〝治療〟って本当に大丈夫かな…」


 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「だがマリーよ、本当によいのだな?これで彼女が壊れてしまったら、私は夢見が悪くなるぞ。」


「いいんです。私が決めたこと、マリーさんを信じてみることにしました。」


『 では 始めましょう 』


「私はもう知らないぞ!」


 そういってウィリアムは式になったばかりのサイコシスを召喚する。


オオオオォォォオオォオォオォオオォォオォォォォォォオオォオオオォォオオオオオオオオオ


 式として厄災は振りまかないようにしているが召喚したウィリアムですら背を向けたくなる禍々しい姿。自分のしっぽを口で囓かじりぐるぐるとまわる目鼻口耳がでたらめについた醜態をさらした犬か豚のような何か。


 ウィーサはそれを見て当然の様に怯え、倒れ込みそうになる。


軽度情動運動安定処置(けいどじょうどううんどうあんていしょち) 完了』



 その言葉の後、ウィーサは軽く椅子に座る。先ほどと違い憎い敵を見る目つきだ。


 パチン


 マリーが術を解く、再びウィーサには禍々しい怯えがやってくる。そして限界とばかりに目を閉じた頃


『 抗不安(こうふあん) 気分易変動是正処置(きぶんいへんどうぜせいしょち) 完了 』


 先ほどと違う術をかける。するとウィーサは今度はまっすぐと見据える様にサイコシスを見つめた。


 そして パチン と術を解く。


 サイコシスを目の前にこの、術を掛けては解き、解いては掛けてを半刻ほど繰り返した。


『 もう いい ありがとう アムちゃん 』


「あ、うむ」


 マリーの合図に背を向けていたウィリアムはサイコシスを還付する。


 そして


「ウィーサ!?汗だくではないか!?それに呼吸も荒い!」


「だ、大丈夫です。そういう〝覚悟〟を決めてきました。」


「 ? 」



 そしてウィーサとマリーは二日に1回この不思議な治療をおよそ30回に渡り行った。


 ……31回目の〝治療〟


「もー よいかー!」


『 ありがとう 』


 ウィリアムは未だに見慣れない自分の式を還付する。そしてウィーサを見つめると。


「ふむぅ?今回は息もきれていない。汗もかいていないのじゃな。」


「…やった!やった!マリーさん!私マリーさんに1回も術使わせなかった!」


 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


「なんと!?あれを半刻椅子に座り見続けていたのか!?わたしでも吐くぞ!」


「平常心…とまではいかなかったけどね。でもなんだろう!一個克服できた気がする。」



   ◇    ◇    ◇



 フィリノーゲンさんの指導の下に行われる僕とレイチドの鍛錬、そこにこの夏から〝お客〟がやってきた。


「はい、シオン君に電撃玉プレゼント!おお良く避けたね!でも折角の召喚が台無しじゃない!あの玉くらいならわたし50個くらい出せるのよー!」


「レイチドちゃんには炎でどうだ!そう風を体に宿して…お見事!じゃあ次は今の2倍くらいの炎でいくよー!」


 マリーがおこなった〝治療〟によってすこしづつ僕たちに心を開いてくれたウィーザさん、一度僕たちの見学をしたときにフィリノーゲンさんが冗談で


 「魔導でからかってくれてもいいよ。」


 と言ったら、目を輝かせて本当に炎・雷・風・水・更には鍛錬用の剣を浮かばせ、それを空中で自在に操る魔導を披露してみせた。前のような禍々しさのないそれでいて洗練された魔法の前に僕たちは勿論フィリノーゲンさんも驚いた。


 そしてなにより、その驚く顔をみてウィーサさんは笑ったのだ、含みのない純粋な笑み。それはとても美しく思えるほどだった。それからは鍛錬の客人としてフィリノーゲンさんの指導の下、魔導攻撃を受けた際の対処法を学ぶ際にはかかせない存在となってくれた。


 9歳という異例の若さで王立学校に入学し9歳で退学、その後はイリー=コロンの晩年を受け継いだ魔女は今日も僕たちと笑って鍛錬をしてくれている。

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