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召喚した式が強すぎて僕のやることがない  作者: セパさん
狂気の式と伝説の系譜
18/135

レイチド=キャンドネスト 探偵 ①

 けたたましい羽音を鳴らす無数の殺人蜂を還付し終え、アムちゃんは僕たちの元へ戻ってきた。


「あ~スッキリした!これでもう私に決着うんぬん言わないでしょうね。」


今だ痺れ毒によって固まったままの滅びの龍と式と同じように固まるマレインを軽く睨んでそう言う。


『 格好良かった 』


 うふふふふふふふふふふ


 ……どう考えても大人げない喧嘩にしか僕は感じなかったが、マリーはさっきの試合を気に入ったらしい。


「さて、私の用件は済んだんだけど、あなたたちはどうするの?母校で何かやり残したことない?」


「僕は…もう休学手続きもとってるしいいよ。レイチドは?」


「ああ、実はシオンを探しに私も休学したの。それに召喚術師の道じゃなくて別の仕事探そうかと迷ってたけど、シオンやアムちゃんを見て決断したわ、退学することにした!その手続きくらいかしら」


 レイチドはさらっと自分の人生に関わることを言って見せた。そこに口を挟んだのはフィリノーゲンさんだった。


「ふむ、確かに召喚術師としては未熟ではあるがシオンの居場所を突き止め挙げ句ハッタリで来客する度胸…君は探索者や冒険者に向いているのかもしれないな。」


僕も薄々感じていたことをフィリノーゲンさんも言う。


「そう、ありがとう。じゃあ手続きしてくるから待っててね。」


 そう言ってレイチドは学園内に入っていった。…瞬間マリーの銀髪が逆立ち下級生と教員及びマレインや野次馬の3期生100人以上が急に倒れだした。


「ちょっとマリー!?」


『 眠らせた  学内へ意識 及び 神経感覚変性処置完了 』


銀髪を逆立てたままそう僕に伝える。まだ何か呪いや術をかけているようだった。


『 認知機能低下処置 及び 睡眠前酔考状態処置 完了 』


僕もアムちゃんもフィリノーゲンさんも何を言ってるのか判らなかった。



『 テグレクト の名前 知られたく ないんでしょ? 』


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ



「つまりマリーさんは眠らせて記憶を消したのかい?」


『 ちょっと 違う 』


「マリー!私たちにも判るように説明しなさいよ!」


アムちゃんがそう怒ると、アムちゃんの頭を撫でながらこう伝えた


『 全部 夢だった 〝かも〟 と 感じるはず 』


「つまりさっきの出来事を皆、朧気にしか感じていない…という解釈でいいかなマリーさん」


『 大体 合ってる 』


「戻りまし…ってどうしたの皆!?…って、まぁ大体察しは付くわ。シオンの式ね。」


 唯一マリーの術から逃れたレイチドが驚きながら戻ってきた。


うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


『 ご名答 』


「じゃあ、今のうちに帰りましょう。レイチドはどうすの?仕事探しなら見つかるまでテグレクト邸に招いても私はかまわないけど。扱いは客人ほど丁寧じゃないし雑用頼むこともある。」


アムちゃんがそんな提案をする。


「え!?いいんですか?」


「他の生徒達は僕たちが神鳥だの風龍だのの召喚を見て、只者じゃないと気がついたが君は1の情報からたどり着いた。マリーさんが君に術をかけないあたり、なにか訳があるのかもしれない。僕からもお願いするよ。」


「は、はい!ではカリフの町を中心に仕事を探してみます。それまでメイドのように扱って下さい。」


 レイチドはあくまで謙虚にそう言った。


 僕たちの母校への帰還は、アムちゃんの決闘・レイチドの人生の選択という任務を終え、他の生徒達にとっては夢の出来事として終了した。


 テグレクト邸へ帰還した僕たち5人は、学園での話とレイチドの僕とマリー捜しの旅の話を聴ききながら大いに盛り上がった。


 ◇  ◇  ◇


 魔導による強固な鍵が掛けられた金庫。カリフの町の一角にある魔導師同士の闘場、〝カジノ〟その売り上げ金のすべてが入った金庫が、まるで風で開いた扉のように平然と空けられていた。大量の金貨・宝石が入っていた金庫には、魔物の顔の形にくり抜かれたカボチャがありその中に金貨が一枚だけ入っていた。


 支配人は血の気を失っている。近衛魔導師による調査もおこなわれたが、解除の鍵である解錠魔導は支配人しか知らない。支配人とて召喚術と魔導の町カリフでカジノを営む高位の魔導師だ、ましてや自身の店の売り上げを守る金庫に生半可な鍵はかけない。


「これは…オーランタンの手口かもしれません。先日まで王都で被害が続出しておりましたが、カリフの町に現れたとは。」


 オーランタンは王国全土を駆け巡る、一部で怪盗の異名まで持つ正体不明の泥棒。スティンガーが連射されても壊れないような金庫をスポンジのように破ったり、魔導の鍵がかけられた金庫でも簡単にあけられることから、姿や顔どころか剣士なのか拳闘家なのか魔術士なのか召喚術師なのか…それすら不明であった。


「支配人様は大変な目にあられましたね、我々もオーランタンを追ってみます。おい!まずは町に検問を、それから町の聞き込みだ。」


 魔術の盛んなカリフの町で魔術による金庫が空けられたなど町の恥以外のなにものでもない、近衛兵は直ぐさま行動に移し日中夜を通して聞き込みや見張りをおこなった。…それが徒労に終わることも知らずに。


 ◇     ◇     ◇


 テグレクト邸では幼い伝説の召喚術師、第48テグレクト=ウィリアムが、自身でさえ10回に一度しか呼び出すことの叶わない異界の魔道具……。過去を映す鏡を召喚してカジノでの様子を見ていた。周りには依頼をした近衛兵が囲んでいる。


「……だめじゃ、真っ暗闇の中で人影も見えん。金庫はかろうじて見えるが、勝手に開いてるようにしか見えぬ。まるで透明人間の仕業じゃな。」


「……そうですか、ご協力感謝致します。」


 鏡に映されていたのは、暗闇の中かすかに見える金庫がひとりでに開き、中の宝石や金貨がカボチャに変わる映像だけだった。



 コンコン 


「失礼します。お茶をお持ちいたしました。」



 緊迫した空気の中入ってきたのは現在就職活動中、テグレクト邸で即席のメイドをしているレイチドだった。


「ああ、ありがとう。我々は一杯いただいたら町へ戻ります。またご協力をお願いすることがありましたお願いします。」


「うむ、はやく見つけてくれ。我が屋敷に泥棒が入られても困る。」


 近衛兵達はお茶を流し込むように飲み任務へ戻っていった。


「……アムちゃん、さっきのは礼のオーランタン事件がらみですか?」


「そ、過去を映す鏡はわたししか召喚できないしね。見てみたけど何の手がかりも無かった。」


 ジュニアは〝48代テグレクト=ウィリアム〟としての話し方を崩し、お茶をすする。


「過去を映す?そんな異世界の品まで召喚できるの?」


「まぁね。どこにあるかまでは判らないけど、一時的に召喚で借りられるの。私もそういう意味では泥棒ね。ニヒヒ。」


「もしよければ私にもその映像みせてもらってもいい?」


「いいよ、ちょっと待ってて。」


そういってジュニアは魔力を高め世界と通じる。徐々に一つの鏡が姿を現した。


「これがさっきの貴族の犬達に見せた映像、本当に不思議だよね~。わたしでもこんなことできない。そもそも魔法の解除は専門外だし。それにカボチャの置物と金貨一枚だけ残すなんて格好でもつけてるの?」


「…」


レイチドは映された様子を食い入る様に見つめていた。



  ◇     ◇      ◇


 僕は鍛錬場でマリーとの憑依一般の召喚と還付、そして教わったばかりのトップショットの練習でくたくたになっていた。マッドブルを召喚したときなど僕に突進してきてマリーに助けられたほどだった。


「よし、今日はこんなところかな。大分時間の短縮ができている、実践でも十二分に仕えるまでもう少しといったところだ。今日の課題はマッドブルの扱いとトップショットでの魔力の暴走だ、あとでレポートで反省をしておくといい。お疲れ様」


 現在の師匠、フィリノーゲンさんはそう言って今日の鍛錬は終了した。


「ああ~、今日は一段と辛かったぁ。マッドブルを式にしてから特に!あんな暴れ牛僕の手にはあまるよ」


 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ


そんな僕を慰めるようにマリーが僕の頭を撫でてくれる。それだけで疲れが半減するようだ。


「あれ?レイチド、どうしたの難しい顔して、本?」


 レイチドは僕の声など耳に入らないほど熱中して本を読んでいた。題名は最近ベストセラーになった【怪盗オーランタンの軌跡】と、古帝国時代のボロボロになった【職業斡旋一覧】


「ねぇ!レイチド!」


「え?あぁシオンごめんね。ちょっと考え事してて。」


「仕事探し?でもそれ古帝国時代の……もう1000年以上前のだよ?最新の職業探しの本ならいっぱいあるのに」


「ううん、これは考え事のための本。…そうだシオン、マリーって幻視は得意みたいだけど透視とかできる?」


 僕はマリーを見つめた。マリーは首を横に振った。


「そっか……。」


『 ただ 』


「 ? 」


『 捜し物 が あるなら あるいは 』


   ◇    ◇    ◇


 カリフの町はオーランタン騒動で喧騒の有様だった。近衛兵が絶え間なく闊歩して検問を各自に行っている。


そして僕とマリー、そしてテグレクト兄弟もレイチドに協力をしてくれるということであつまって町へでた。


「レイチドさん、本当にオーランタンの手がかりが見つかるのかい?」


「確定ではないけど、それらしいものを見つけたの。かなり大がかりになるからちょっと緊張しちゃった。」


「わたしはもう準備できておるが…これでなにもなかったら見損なうぞ。レイチド。」


 アムちゃんがそう鋭い目で言う。フィリノーゲンさんはいわく、アムちゃんの言動に統一性がないのは、マリーの〝幼児退行〟の影響らしく、本来は無理に威厳いげんをつけようと古風な話し方をしていたらしい。……そして僕の師匠は、〝どっちも可愛いからまぁいいか〟というブラコンっぷりを見せてくれた。


『 じゃあ 始めましょう 』


 そういってマリーの銀髪が凄まじい嫌気と共に逆立つ。「先の尖ったものは持ってこないで」というレイチドの言葉通り剣やレイピアの類は持ってきていないがそれでも寒気がするほどマリーが呪いを強めている。


『 先端堅忌避認知 及び 不安性侵入思考 半了 』


 マリーの周りが徐々に狂気に陥る。まずは近衛兵が剣を投げ捨てだし、家々から包丁や針が飛ぶ


『 完了 アムちゃん 』


「は~い」


 そしてアムちゃんはバジリスクを召喚し、バジリスクの息吹によって町の半分の人々の時を止めた。


「じゃあ、皆で探して。わたしも急ぐから」


 そういって5人とも別れ、急いでレイチドの言う〝目的のもの〟を探す。何しろ町の半分の時間を止めたのだ、そう長くはいられない。


そして、〝目的のもの〟に出会ったのは僕だった。


「レイチド!みんな!あったよーーー!」


 皆が僕の元に集まる。何処にでも居そうな……それこそ街で会っても数秒で忘れそうなほど特徴がない普通の男。そんな男が投げ捨てたと思われる、あきらかに普通じゃないそれ。


「これよ!ねぇマリーかアムちゃん!この男に何時何処にいるかわかる術掛けられる?」


「じゃあ、私が。」そういってスティグマという魔物を召喚し赤い印を押したあとその印は直ぐに消えた。


「これでこのスティグマが常にこの男を監視している。もういいか?」


 うんじゃあ、これは元あった場所へ。


 レイチドの言った〝目的のもの〟 それは〝ひどく古い姿をしていながら良く手入れされたタガー〟だった。

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