子供同士の大人げない勝負
本来ならばテグレクト邸から3度は野営が必要な距離にある母校、召喚術師育成校へはガルーダによって半刻で到着した。アムちゃんやレイチド、フィリノーゲンさんを連れて戻った僕たちは、まず下級生にあたる1期生2期生に囲まれ……
「うわぁ、ガルーダに風龍!本物だ!」「本でしか見たことないけどでっけぇ!」「私も来年召喚できるかしら?」「いや無理だよ、あんたならできて跳鳥がいいとこ。」
皆、わいわいがやがやと、テグレクト兄弟の召喚した神鳥とドラゴンにあつまって驚嘆していた。
そうなると2人共還付するのも気が引け、テグレクト兄弟は肩をすくめてそのまま2体を召喚していた。一応授業中なので教師からお叱りもあったが、その教師もアムちゃんと僕に気がつき停学以降姿を消していたことに心配していたようで下級生の群れの中に駆け寄ってきた。
「アムさん、シオン君大丈夫でした!?あの王宮での実習以来召喚術が嫌になってしまったとばっかり思っていたのですが…こんなガルーダまで引き連れて。…3ヶ月なにをしていたの?」
〝レイチドさんにはばれているから今更だが、テグレクトの名前はなるべく出さないでほしい。いらない混乱や弟子志願が学園から殺到されると面倒だ〟
というフィリノーゲンさんの言葉に従い僕は言葉を有耶無耶に誤魔化した。
…レイチドは召喚術師としては良い成績でなかったが探偵や捜索者の才能でもあるのではないだろうか。
そして3期生は自習もしくは宿舎での待機をしているということだったが、いち早く駆けつけた学生がいた。
「アム!突然停学などで逃げやがって、実習では私の能力の方が認められたのが気にくわなかったか?」
……噂のマレインが血相を変えてやってきた。幼児退行の状態で王宮へ実習しにいったのだ、そりゃマレインの方が指導者に好かれるだろう。
「ふぅん、あまり興味ないんだけど何だかあなたに下に思われるのがムカつくの、なんだか〝決着〟を付けたいんだって?」
「ふん、お前のようなガキに本気になるなど大人げないが躾けは必要と思っただけだ」
「あっそ、なら模擬試合でもする?本当の戦いでもいいけど死なれても困るしぃ!」
お互いに挑発しあって険悪な空気が流れる。
「いいだろう。おい、下級生校庭を空けろ!直ぐにだ!このガキに召喚術師のしつけをしてやる」
アムちゃん…第48代テグレクト=ウィリアム相手に啖呵を切ったマレインは直ぐさま式である滅びの龍を召喚した。どうやら自習期間の3ヶ月の間に還付まで身につけていたようだった。
「俺の式、ガイアだ。滅びの龍とまで呼ばれる伝説の魔龍、とくとご覧に入れよう」
「わー、すごいすごーい」パチパチ
アムちゃんは挑発するように棒読みでまるで褒め気のない拍手をした。
そして僕に近づいて一つ耳打ちをした。
「ねぇシオン、あんた兄上から〝トップショット〟教わったんだって?」
「あ、うん。まだ訓練の段階だけど」
「ニヒヒ、じゃあ私が本物のトップショット見せてあげる。よく見てなさいよ!知らない人がみれば本当に召喚術どころか魔法以上に不可思議な現象なんだから」
「うん、勉強させてもらうね」
僕とアムちゃんのヒソヒソ話が終わり、ついにアムちゃんはマレインと対峙する。
「じゃ、私も召喚しちゃうかな。」
…その台詞とどっちが早かったか、魔力も高めず召喚の呪文を唱える事も無くマレインと対峙した瞬間に何千何万という 殺人蜂キラービーの群れが一瞬で姿を現した。
「!!???」
流石のマレインも言葉が出ないようで、ポカンと口を開けている。観客の様に周りを囲んでいた下級生からも感嘆の声が上がる。教員も何が起こったか判らず目と口を開いていた。
自身の魔力でなく調伏している高位の魔物の強い魔力を力を借りて、押し出すように下位の魔物を瞬時に召喚するテグレクト一族の秘伝〝トップショット〟。アムちゃんほどの使い手だとこれほど鮮やかにできるのかと僕も驚愕した。たしかにタネをしらなければ一瞬で何の魔力も召喚の呪文も使わず何千何万という 殺人蜂の群れが現れたように見えるだろう。というかタネを知ってる僕でもそうにしか見えなかった。
下級生の歓声と殺人蜂のけたたましい羽音だけが校庭に響き渡る。既に決着はついているように感じるが、マレインは諦めていないようだった。
「……焼き払え!ガイア!」
その瞬間、滅びの龍は強力なブレスを放つ準備をして…口にポッポッと炎を宿した姿のまま固まった。
「殺人蜂の毒で痺れさせちゃったぁ!それとも即死の毒の方がよかった?ニヒヒヒヒヒ」
滅びの龍にまとわりつく殺人蜂によって滅びの龍は既に戦闘不能になっていた。
「あっ、がぁ……。」
マレインの顔から血の気が失せていく。天狗の鼻を折られたどころか顔面ごと陥没させられた有様だ
「決着でいい?あきらめが悪いなら折角の滅びの龍が死んじゃうよ?」
「……俺の負けでいい、鍛錬を積む。一つ聞かせてくれ。君は何者だ?」
周りの下級生や教員も感じている疑問をマレインが代表して聞く。
「私?私はねぇ、え~と……」
テグレクト=ウィリアム と言うわけにもいかないことはアムちゃんも判っている様だった。
そして試合の様子を笑いながら見ていたマリーを一瞥いちべつしてこんなことを言った
「 わたし は アムちゃん 」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
アムちゃんのジョークにツボったのかマリーが声を上げて笑い出した。
かくしてマレインとアムちゃんの〝決着〟はアムちゃんの圧勝で終わった。




