拳闘場の町ノボラ
僕らの目の前にあったのは2枚のチケット「拳闘場入場券」と書いている。
「ああ、知り合いから兄弟で行ってこいともらったのだが次の安息日には予定があってね。もしよければ二人で行ってみないか?拳闘場のあるノボラの町へ行くならば、僕がガルーダを召喚させよう。そうすれば次の修行までには帰ってこれるだろう?」
チケットをくれた張本人フィリノーゲンさんはそう僕らに説明した。拳闘士の聖地ノボラ、四英雄の一人マーク=アミンがかつて無敗を誇った拳闘場にして、唯一王立学校がない拳闘士・ファイターの登竜門。もちろん興味はある。僕は快諾し、深いお礼を言ってチケットをいただいた。
「マリー、拳闘場っていったことある?」
『 ない 』
「そっか、じゃあ二人とも初めてだね。ちょっと楽しみ!」
『 どちらかと言うと 参加したい 』
「いや、それは……やめておいた方が良いと思う。」
不吉なことを言い出すマリーに僕は一応静止した。相手は己の肉体のみで成り上がりを目指すファイター達だ、そこに謎の女性がやってきて変な幻術で負けたのではあまりにも可愛そうすぎる。
◇ ◇ ◇
安息日前の修行が終わり、ガルーダの背に乗ってひとっ飛び、朝方にはノボラの町へ着いた。英雄の町というだけあってかなり栄えた町だった。
あちこちにマーク=アミンの肖像画や銅像が建てられ、祀られている。軽い朝食を食べようと入った軽食屋では、3人前はあるのではないかという肉にパンという朝からかなり重い過食を強いられた。
「ファイターの町だからね。食事は小盛りでも食べきれないって旅の人がたくさんいるのさ」と店主は笑っていた。
……マリーは外着用のピンクの顔隠し・宝樹の枝の髪飾りという可憐な姿からは考えられないほど軽快に重い朝食を食べきって見せ、僕の残した分まで食べてもらった。
拳闘場は基本的に日の出から日没までの間、試合が行われる。僕たちのもらったチケットは、チャンピオン戦という中でも人気の高い試合のチケットだった。他にもファイター見習いや駆け出しの行う試合は立ち見なら無料、席のあるチケットでも朝の食事ほどの値段で売られている。
「チケットの試合まで時間があるし、折角だから他の試合も見ようよ!」
『 まかせる 』
拳闘場での試合は熱狂とはいかないまでもかなり盛り上がっていた。駆け出しのファイター同士が己の技を出し切っているさまは中々心が踊るものだった。
試合では黒髪の長身が回し蹴りを行う、その隙をついて金髪がカウンター気味にタックルをかます。バランスを崩した黒髪が倒れぬよう地面に手をつき起き上がろうとした最中金髪は後ろから黒髪の首を絞めた。たしかチョークスリーパーとかいう技だ。
〝ギブアップです!勝者は柔術のセロト選手!!〟ナレーションと共に会場から拍手があがる。
「へー、拳闘場って言っても殴り合いだけじゃないんだね。」
『 魔導・武器以外なんでもあり それが ルール 』
そう言ってマリーは、どこで手に入れたか拳闘場のパンフレットを読んでいる。……なにやらそわそわしているのは気のせいだろうか。まさか本当に出場したいなんて言わないよ……ね?
『 1回 だけ ダメ? 』
「マリーがケガしたら嫌だよ!それに幻術なんて使うのは高みを志すファイターさんに失礼だし。」
『 術は一切使わない これ 』
マリーが見せたのは 飛び入り参加可 と書かれた、トーナメント式の試合だった。なんでよりにもよって今日開催なのだ。一度やりたいと執着したマリーを止める術を知らない僕は、ケガだけはしないでねと言って送り出した。
マリーの参加によって8名が揃ったトーナメントは即刻開始となった。他の7人はいかにも研磨を積んでいる歴戦のファイターから駆け出しまで。女性はマリーを含めて2人。
〝それでは第3試合!放浪の拳闘士、アリジン選手! そして対戦相手は素性不明!謎の女性マリー選手の対戦です!〟
第1第2試合が終了し、マリーの出番となった。ほかの試合はどちらもレベルの高いものだった。本当にマリーは無傷で帰れるのだろうか……
『 では 楽しみましょう 』
◇ ◇ ◇
アリジンという筋骨隆々で歴戦の傷があちこちに見える拳闘士、目はマリーが女であることなど気にもしない殺気に満ちあふれたものだった。
試合のゴングが鳴る。
アリジンは構えを整え、マリーは至って普段通りに立っている。アリジンが一直線に左ジャブを放つ。マリーはそれを察していたかの様に細腕で払い、返す刀で放った手刀はアリジンのアゴに入り込んだ。その後もアリジンはジャブ・ストレートからフック・アッパーに至るまで拳闘の技を繰り広げるもすべてマリーの細腕でいなされ、ツバメ返しのように急所へマリーの手刀が返ってくる。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
どう考えても挑発にしか聞こえない笑い声をあげて、マリーは息も切らさずに立っている。対戦相手は既に、心が折れているようにも見える。アリジンはほぼタックルに近い、体を丸めての連打に入った。マリーはそれをかわし、パンチで伸びきった腕の関節を取る。
男の丸まった体が立ち上がりそれでもマリーに攻撃を加えようとしたところ、マリーは急にかがんで腕と両足の間に手を掛けた。アリジンの勢いの余った体勢はマリーを中心に半円を描くように回り、顔面を地面に叩き付けられた。それから男はぴくりとも動かない。
試合終了のゴングが鳴る。
〝な、なんと!勝ったのは謎の女性!まるで奇術や魔導でも見ているような鮮やかな技!準決勝進出はマリー選手です!!!〟
僕はマリーの勝利よりもまだ試合が続くのかという不安でいっぱいだった。
◇ ◇ ◇
試合が終わりいつのまにか僕の隣に座っているマリーに少し驚く。
「その、なんだろう……。とりあえずおめでとう。」
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「マリーが素手でも強いのは知ってたけど拳闘場に通じるほどとは思わなかったよ」
『 未熟な人 ばかりだから 』
マリーはあくまで謙虚にそう言った。さっきの対戦相手は少なくとも、未熟には見えなかったが。
そして第4試合、これもまた異常な試合だった。
女性のファイターが逆立ちをして、まるで独楽のように回り始めた。相手は駆け出しのファイターのようでやや動揺している。そして男が恐る恐るローキックを放つとその足をつかみ取り、手で足を登り男の顔面に強烈な蹴りを入れた。
ふらふらとする対戦相手に一瞬の隙も与えず遠心力を目一杯につけた後ろ回し蹴りの一閃で、男は完全に動かなくなった。
〝ノックアウトー!勝者は南方よりやってきた足技使いエドサー氏です!ここにきて準決勝4人の内女性2名!前代未聞のトーナメントです!優勝ははたして誰の手に!〟
「うわぁ、かっこいい!」
僕は思わず口に出して感嘆していた。
『 …… 』
マリーはその試合の様子に沈黙していた。
◇ ◇ ◇
〝それでは準決勝!出場者の紹介です!!
まさに変幻自在!拳から柔術まで幅広い技の使い手、ラジン選手!
愚直に鍛え上げた拳に砕けぬものなし、予選では一撃で相手を倒したキット選手!
未だ正体不明、その細身で可憐な姿のどこに力があるのだ?与えた攻撃が気がつけば自分に返ってくる摩訶不思議な技の使い手、マリー選手!
そして女性は一人じゃない!予選では華麗なまでの独特な足技で相手を仕留めたこれまた可憐な女性エドサー選手
以上4名による準決勝を開始いたします!〟
客席から歓声があがる。駆け出したちの試合とは思えないほどの濃い試合内容に、いつの間にか噂となり、予選のときよりも観客が3倍近く増えている。
そして準決勝のクジがはじまり、マリーはキット選手と対戦することになった。キット選手は予選のパフォーマンスで、岩塊を拳で砕くほどの実力者だ。マリーの幻術を封印した奇怪な技はみたが、それでもマリーがケガをするところなんて、僕は間違っても見たくない。
◇ ◇ ◇
・準決勝第一試合 マリーVSキット
そんな僕の心配をよそに、試合のゴングが鳴り響く
キット選手は予選のマリーの奇怪な技を見たのだろう。距離をおいて、マリーの様子を観察してる。マリーは予選と変わらず、町でも歩いてるかのように構える様子すらなく自然体だ。お互いに攻撃がない、というかマリーは対戦相手に自分から仕掛けにいくことはしなかった。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
挑発にしか聞こえない笑い声をあげる。始まってからまったく攻防のない試合に観客からもヤジが飛ぶ。だがキットは気にも止めずマリーから距離を置き自慢の一撃を叩き込む隙を探している。
そしてキットは左の肘鉄をマリーに振り下ろす。マリーはそれを難なくかわす、キット選手から肘鉄と同時と錯覚する速度で素早く右のストレートが放たれた。
マリーは平然と岩塊をも破壊する右ストレートを細腕でいなし、がら空きになったアゴに掌底を入れ、流れるような動作で同時に足払いを行い、キット選手のバランスを崩し転倒させた。
アゴに食らった掌底が効いているのか、フラフラと立ち上がろうとするキットにマリーはトドメとばかりに踵蹴りをアゴに放った。
〝ノックアウトー!!!!なんという番狂わせでしょう!新人にして謎の女性マリー、こいつはいったいなにものなんだー!!!!!決勝進出はマリー選手です。〟
登竜門杯の優勝記念に、チャンピオンとの対戦権があるのを見て流石に辞退してほしいな……と、僕は頭を抱えながら考えていた。
◇ ◇ ◇
・準決勝第二試合 エドサー選手VSラジン選手
エドサー選手の試合……。いままではマリーが心配で試合を楽しむどころではなかったが、拳闘場の熱狂に釣られ僕もかなり心を踊らせて試合を見つめていた。
エドサーは予選と同じようにまるで逆立ちし独楽の様に回り始めたかと思うと、腕の力で宙を飛び着地までに回し蹴り・二段回転蹴り・直蹴り・後ろ回し蹴り・踵落としをしながらの着地という数秒で5回の技を披露してみせた。観客からは喝采が鳴り響き、対戦相手は冷や汗を流している。
対戦開始のゴングが鳴る。
エドサー選手は全身の軸を回転させながら、ラジン選手との距離を文字通り一足飛びで縮める。ラジン選手が打撃戦では勝てないと察したのかタックルの構えにかかるのだが……。エドサー選手はまるで関係ないとばかりに、がら空きになった顔面に体ごと回転するような回し蹴りを食らわせ、ラジンはそのまま倒れ込み、一切動かなくなった。
〝ノ、ノックアウトー なんと可憐な技でしょうか!!試合開始から僅か4秒でのノックアウト!このトーナメントでの最短記録となるでしょう! 決勝進出はエドサー選手です!!〟
ついに決勝、そしてマリーがあのエドサー選手に挑む…… ぼくはとても気が気ではなかった。
◇ ◇ ◇
〝ノボラ杯トーナメント 登竜門杯 ついに決勝です!8名いた参加者の内なんと決勝進出はどちらも女性!
方や、アグレッシブな動きで蹴り技を駆使する南から来た女性エドサー選手!ノボラにきてわずか半月という駆け出しファイターながら、歴戦の男達を叩きのめし決勝の舞台に立ちました!
方や、詳細は一切不明。奇怪な技で攻撃をいなし、気がついたら相手が倒れている!摩訶不思議な謎の女性 マリー選手です
決勝は以上2名によっておこなわれます!〟
拳闘場のナレーションと共に、熱狂した観客が歓声をあげる。マリーのわがままで参加したのだから、どうなっても知ったものか。…と薄情になれるほど僕はマリーが嫌いじゃない。
ただ得意の幻術や精神操作を封印して拳闘場に入ったマリーは猛者を相手に2連勝をしてみせた。だが相手も同じく2試合連続K,O勝ちの見たこともない武術をつかう女性だ。主として気が気ではない。
〝それでは決勝戦!選手の入場です!!〟
髪を幾つも束ね、独特な髪型をしている女性らしかぬ筋肉質な体に、褐色肌の女性。エドサーがなにやら。黒色のボールをもって入場した。そして、逆立ちしそのボールを足でまるでジャグリングするように操って見せた。そのパフォーマンスに観客が沸く。そして最後に高く放りあげたボールを後ろ回し蹴りで粉々に粉砕した。
そしてマリーは特にパフォーマンスなどすることなく、庭を散歩でもするかのように平然と入場してきた。
色々な意味で対象的な二人の女性。その二人がこれから戦いに赴く。
僕はマリーのことで頭がいっぱいだった。マリーの強さは知っているし、未だ得体の知れない部分だらけだが、悪戯心が豊富で、結構抜けたところがあるのは、この短い付き合いで知っている。
〝それでは、待望の決勝戦!優勝賞金とチャンピオン戦への出場切符をかけた最後の戦い!勝つのはどちらの女性か!試合スタートです〟
試合を告げる銅鑼が轟く。
エドサーが回転し更に加速しながらマリーに近づく。そして全体重を目一杯にか、け伸びるような回転蹴りを放つ。
……いままですべての攻撃をこの拳闘場でいなしてきたマリーの顔に、その蹴りが当たり盛大に吹き飛ぶ。僕は他の観客の歓声など目もくれずマリーに向かって叫んでしまう。マリーは立ち上がる気配が無い。
〝ノックアウトーーーーーー!!!わずか3秒!エドサー選手準決勝の最短記録をさらに更新!優勝は蹴り技の使い手エドサー選手です!〟
無情にもアナウンスが流れ、マリーは担架で運ばれる。エドサーのどこか苦い顔を片目で流しながらマリーのいるであろう医務室へ走る。
拳闘場の入り組んだ廊下、人づてで医務室の場所を聞いてマリーのいるであろう場所に一直線に…。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
焦り走り回る僕に、いつもの可憐で不気味な笑い声が聞こえる。
「マリー!?大丈夫ケガはない?」
『 楽しかった 』
「楽しかったじゃないよ!どこもケガしてない?顔……はみせてくれないからどうしょうもないけど他は?」
『 チケットの試合 もうすぐでしょ? 』
「そうだけど、それどころじゃ……。」
僕とマリーのやりとりに。凄まじいスピードで走り割って入る女性が現れた。独特な髪型の女性らしかぬ筋肉質な体に褐色肌の女性、決勝でのマリーの対戦相手エドサー選手その人だ。
「見つけた……トロフィーも表彰状もその場で割ってやったよ。」
『 …… 』
「このわたしが、手応えの有無もわからないボンクラな使い手に見えたか?なんであんな試合をした?」
うふふふふふふふふふふふふ
「私の蹴りをいなすなんて流石だよ、ただなんで起きてこなかった。ダメージなんて毛ほどもなかったはずだ。」
『 …… 』
「答えろ!!!」
エドサーさんの怒髪天が宿った蹴りは凄まじく、頑丈な石作りの壁面は陥没し大きなヒビが入った。
「あの、すみません。このマリーは僕の……式なんです。粗相があったのならごめんなさい。」
僕は怒り心頭のエドサーにとりあえず謝ってみた。だがその言葉は華麗に無視された。
『素手では あなたに 勝てない から』
「戦ってまだ3秒だ、何故わかる」
『 あなたは強い 制約された私の力では 勝利は不可能 』
マリーがそう言うくらいだ、目の前の女性はそれくらいの強さを持っているのだろう。
「なるほど、なるほ……ど。じゃあ、なにか?制約がなければこの私に勝てると……そう言いたいわけだ。」
エドサーさんがマリーの言葉で殺気立つ。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
同じくして、マリーの銀髪が逆立った。
「な?」
エドサーさんは驚愕した顔をして、回るような蹴りを廊下中に放ち始めた。蹴りは全てが空を切る、僕には何も見えていない。明らかに異常な光景だった。
「貴様の特技は召喚か?…くぅ、何故倒れない!!アンデット風情が!?」
マリーの幻術だ。エドサーには周りに無数のアンデットが見えているのだろう。そこにマリーがエドサーの目と鼻の先まで近づいて、指を鳴らす。
パチン
正気に戻ったエドサーは一瞬全身を強ばらせて、先ほどとは違う恐ろしい怪物を見るような目でマリーを見る。
『 これが私 私はマリー チャンピオン戦 頑張って 』
「すみません、マリーが無理を言って出た大会で不快な思いをさせてしまい……。」
主として僕も謝罪する。
「幻術?馬鹿な!?私はこれでも魔導への耐性の呪術を受けている…。」
「その……僕もよくわからないのですがマリーの幻術は魔導によるものじゃないらしい……です。」
『 私の記憶 消す? 』
マリーはこれからチャンピオン戦に挑むであろうエドサーにそんな声をかける。
「……いや、やめておく。敗北の苦渋は受け止めて成長するもの。それが我が一族の家訓だ。その力を使わずに決勝までくるとは見事だった。戦っていれば私も無傷ではなかっただろう。エドサー=パーマネンティ、南黒石族出身 私の技は一族伝統の武術だ。君たちは?」
「僕はシオン=セレベックス。召喚術師見習いです!」
『 私 は マリー 』
「なんと、マリーは召喚された従者か。なぜまたこんな……まぁいい。では、また会うかわからないがそれまでに私も技を磨く。」
そういってエドサーさんは去っていった。
「マリー……攻撃受けたように見えて受けてなかったのか」
『 そう 無手で あなたとの約束を守っていたら 勝てない相手 』
「でも試合の間に幻術使わなかっただけよかったよ。それこそ反則だもの。」
『 意識及び神経感覚変性 又は 前頭葉連合神経交叉変性 』
「 ? 」
『 あなたが 幻覚と呼ぶ 私の術 』
マリーのさっぱり判らない説明の後、僕たちはチケットでの試合を見に行った。
◇ ◇ ◇
登竜門杯とは比べものにならないほどの観客で賑わっており、立ち見の観客のため寄りかかる柱すらない状態で、チャンピオン戦は始まった。
挑むのは登竜門杯以外から他の試合で実績を作った3人とシードの現チャンピオン。チャンピオン以外の4人は再びトーナメントで争いその勝者が現チャンピオンとの防衛戦に挑むという内容だ。
〝第二ブロック勝者は唯一の女性!エドサー選手ーーーーーーー!なんという華麗な技でしょうかまさに変幻自在な足技、寝技に持ち込もうとしたラリット選手を地面に伏したまま意識を蹴り落としてしまいました!!!〟
〝決勝勝者は登竜門からのダークホース、エドサー選手ーーーーーーーーーー!この勢いはだれも止められないのか!?空中からの踵落としに流石のビリー選手も為す術無し!チャンピオン戦権獲得はエドガー選手に決定しました!!〟
トーナメントは、エドサーさんの圧勝だった。足にスティンガーでも仕込んでるのではないかと思うほど、どんな姿勢からでも飛び出す蹴り技にどの選手も翻弄され遂にはやられていた。そして現チャンピオン、マークレンとの戦い。
マークレンはマーク=アミンの再来と言われるほどの実力者であり、現在56回の防衛を果たしている猛者だ。僕は無意識にエドサーさんの応援をしていた。
流石のエドガーさんもマークレン相手には苦戦しており、何度も強烈な蹴りや殴打が入る。顔を腫らしながらも目から闘気は失せていない。そしてマークレンの回し蹴りを避け、腹部に強烈な直蹴りを放つ。そしてそのお腹を踏み台にするように膝蹴りを一撃。
酔歩するチャンピオンを踏み台にして宙を舞い、一回転し全体重を掛けた踵落としを後頭部に食らわせた。そして……
〝ノ、ノックアウトーーーーー!なんとなんとマークレン選手がノックアウトです!なんという番狂わせの連続でしょう。登竜門杯のトロフィーをいらぬとばかりに破壊した異国の武道家はついにチャンピオンまで倒してのけました!もはや彼女を駆け出しファイターなどと呼び者はいないでしょう!新チャンピオンの誕生です!!!!!!〟
観客たちから大きな歓声が沸く。ぼくも行儀悪く大声でエドサーコールをしていた。
〝新チャンピオンおめでとうございます!今のご感想は?〟
「まだまだ、私が未熟だとわかりました。いつかどんな敵でも己の技で倒しのける武術家を目指します」
そんな優勝インタビューとは思えない言葉を残し、いつから気がついていたのか僕の横で揚げコーンを食べるマリーを睨んでいた。
チャンピオン戦が終わり帰路につく観客。僕たちもフィリノーゲンさんの召喚してくれたガルーダに乗り、テグレクト邸へ帰還していた。
「マリーってさ、好戦的なのか戦いが嫌いなのかわからないよね。拳闘場にでるなんてただ事じゃないよ。」
『 気分 楽しそうなら なんでも 』
「でもケガがなくてよかった…なんか敵が一人増えた気もするけど。」
うふふ
マリーは笑いながら僕との憑依で無理矢理だした光りの精霊の光りで【世界の武術百科】を読んでいた。




