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83話 吟遊詩人

帰り道、街の広場にでるとそこにはちょっとした人だかり。何事かと思って近寄ってみる。


中心にいたのはハープを持ち、旅人のような服を着た人物。どうやらさすらいの吟遊詩人らしい。


ポロロンと耳触りの良い音楽を奏でつつ、各地の伝承や噂話を話していた。元の世界では見ない存在を目にし、つい足を止めてしまう。


「さくらちゃんの世界に吟遊詩人っていないの?」

ひょこんと顔を出すネリーにさくらは頷く。伝統職としてどこかにはいるのだろうが、少なくとも自分はみたことない。彼らを元の世界の職業に当てはめると誰になるんだろう。ラッパーや落語家、弾き語りのギターマンにでもなるのだろうか。



そのまま彼女達は買い物袋を手にしたまま、吟遊詩人の詩を聞いていくことに。丁度新しい詩に入るところのようだ。


♪~~~~~


かの日闇に包まれたゴスタリア

夜闇に沈み込む火山群

誰もが国の崩壊を恐れる中

彼の者は現れた



力なき火山の上に飛び回るは火に包まれた霊竜

まるで命を吹き込むかのように、眠りし力を目覚めさせるかのように

煌々と燃えたぎる巨大な火球を火口へと投げ入れた

その時、奇跡は起きたのだ



高らかに産声をあげたのは火の守り人サラマンド

その声は王国中に響いたという



地にひと粒ずつ種を植えるが如く、幾多の火山に火球を繰り出す霊竜

続々と芽吹くは精霊の命

衆目の気づかぬうちに、役目を果たしたように、奇跡の竜は消えていた

あれは救いの神か、火の精か

誰もが頭を悩ませた



翌日民の前に現れたのは、罪を認めたゴスタリア王

彼が語るに霊竜と時同じくして姿を現したのは偉大なるやイブリート

獄炎の訓戒を受け、心を取り戻した王は涙を溜め、頭を深く垂れた



人々は王の人となりを知っている

彼が私腹を肥やすために民を犠牲にする人でないこと

国のために行った罪だということを

皆は王に続投を望んだ

おぉ優しき民の集いし火山国家ゴスタリア、彼らは安寧を取り戻した


~~~~~~♪


拍手が起こり、吟遊詩人の前に置かれた箱にはお金が投げ入れられる。



「ゴスタリアってこの前新聞に載っていたあそこだよね」


「うん。サラマンドを一斉に暴走させたっていう。そういえばその竜の情報を募集しているらしいよ」


「やっぱり霊竜ってイブリートの使いなのかな。さくらちゃんはどう思う?」


「え!えっと…私もそう思う…」

言えない、その正体が自分なんて。正直言いたいのは山々だが。とはいえこんな風に噂が広がっていたとは…。珍獣ハンター達がそれを狙って至るところから来ているというのはクレアから聞いたが、これなら彼らの心を躍らせるのもわかる。





続けて吟遊詩人はリクエストを募る。一番前で聞いていた子供が「勇者一行」の話をせがんだ。


「かつての大戦、その1幕」

そう前置きをし、吟遊詩人は語り始めた。



♪~~~~~~


勇者一行は我らを守るため、僅か4人で魔王軍に立ちふさがる

相対するは地を埋め尽くすほどのゴーレム、死霊兵士、召喚獣

人界軍を、罪なき村々を蹂躙し、破壊尽くそうと吼え勇む

誰が見ようが不利は確実

皆は目を覆い、死を覚悟した



しかし、勇者は勇者であった

剣を引き抜き、高く掲げる

まるで天が味方しているというように

突如として空は曇り、勇者の元に雷が落ちる



電撃が身を包もうとも不動なるやその身体

存分に力を蓄えた剣は紫に染まる


勇者は構え、力を溜める

恐ろしきはその覇気

周囲は歪み、地鳴りが響く

召喚獣は怯え逃げ出すが、もう遅い

彼女は一息に振り抜いた



まさしく紫電一閃

業火より苛烈、暴風よりも疾きその一撃

土の巨兵、雑兵、獣全てを瞬く間に砕き、塵と化した

後に広がるは骨も草木も残らぬ荒野

たった一振りで戦局を変えた勇者の実力凄まじきかな

高みの見物を決め込んでいた魔王軍は怖じ気づき、一目散に逃げ去った


~~~~~~♪


またも拍手が響き、お金が投げ入れられる。人気のお話らしく、いつの間にか吟遊詩人を囲む人の数は増えていた。



だが、ネリーは少し小馬鹿にした態度をとる。

「この話、何回か聞いたことあるけど嘘くさいよねー」


どうやら彼女は信じていないようだ。


「そう?勇者様ならできると思うけど」

アイナの言葉にチッチッチと指を振るネリー。


「普通に考えて、そんな大群を一撃で消滅させるなんて無理でしょ」


「それは、そうかもしれないけど…」

確かな証拠がないアイナは言い返せない。モカも沈黙している。


そんな彼女達にさくらはとある提案をする。

「じゃあ直接竜崎さんに聞いてみない?」





「その話は真実だね」

―あったなそんなこと―


竜崎はすんなりと答えてくれた。


「ほんとにほんとなんですか?」

ネリーはまだ疑っている。


「勿論吟遊詩人の詩だから脚色は入っているけどね。天から雷を得たわけではないんだ。丁度ソフィア、『発明家』が実験をしててね、彼女が作った武器に私が雷の力を付与して、勇者に使ってもらったんだよ。まあ、あそこまで火力がでるとは思わなかったけど。勇者の服とか髪焦げてたし」


その様子を思い出したのか、目を細める竜崎。やはり本当のことなのであろう。


しかし、ゴーレムが一瞬で消滅するとはどのような火力の高さなのか、そしてそんなものを振るっても髪が焦げる程度の勇者とは…?彼女の実力が気になるさくらだった。






時同じくして、エルフの国。国全体を囲む白壁の外、とある地点に十数人のエルフが集まっていた。その中には勇者アリシャの姿も含まれていた。


「勇者様、お願いします」


「ん。わかった」


今回彼女が受けた依頼は「道を作る」こと。古くから深い森の中にあるエルフの国は外界と繋がる陸路が一本しかない。


その妨げとなっていた巨大な根をある程度切り倒したため、ようやく新しい道を作れることになったのだ。


とはいえその工事はとても大変なもの。深い森、魔獣が大量に潜む中、木を切り倒していく作業は時間も労力も気が遠くなるほど必要になる。


それを勇者に相談したところ、「木を消滅させていいならすぐにできる」と請け合ったのだ。


半信半疑のまま彼女の指示通り、周囲の人を下がらせ、最高品質の剣を渡す。


「危ないから隠れていて」


勇者は剣を構える。彼女の褐色の肌全身に魔術呪文が浮かび上がった。

空間が揺らぎ始める。その場にいたエルフ達は幾重にも張った障壁の中に逃げ込んだ。




と、勇者は武器をおろす。恐る恐るエルフの一人はでてくるが、以前目の前は鬱蒼とした森のまま。

「ど、どうかされましたか勇者様?」


「駄目。武器が保たない」

ポイッと捨てた武器は地面に落ちた瞬間ガラスのように砕け散った。


「なっ!!これは我らエルフの叡智を集めて作った魔導剣ですのに…!壊れるはずが…!」


「キヨトを呼んでくる」


「キヨト?リュウザキ様のことですか?ならば転移魔術をご使用になられても…」


「戻ってくる時使う」


ドンッ!


爆音が響き、土煙が周囲を覆う。視界が晴れると、先程勇者がいた位置には巨大なクレーターが空いていた。


「行ってしまわれた…」

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